石野純也の「スマホとお金」

スマホ割引の新ルール開始、ソフトバンクの「新トクするサポート(バリュー)」が“実質12円”を実現できたワケ

 12月27日に、電気通信事業法の施行規則が改正され、端末割引のルールが変わりました。キャリア各社は、この対応に追われた格好です。本連載でも取り上げたように、新ルールは割引額が最大で4万4000円に上がるかわりに、回線とのセット販売時には端末単体への値引きもその範囲に含まれるようになりました。割賦の免除や下取りも、一般的な中古業者の買い取り価格を超えると差分が割引と見なされ、ほかの割引と合わせて4万4000円の範囲内に収める必要が出てきます。

 この新ルールに対応するため、一部の端末は実質価格が上がっています。一方で、ソフトバンクは26日に、新たなアップグレードプログラムを発表し“実質価格”を維持する方針を打ち出しました。それが、「新トクするサポート(バリュー)」です。バリューと銘打っているだけに、対象端末の実質価格は従来並みにおさえられています。さすが我らがソフトバンク。では、なぜこのようなことが可能になるのでしょうか。今回はその仕組みを解説していきます。

ソフトバンクは、27日から新トクするサポート(バリュー)を開始する

省令改正に合わせてソフトバンクがトクサポを改定、実質月1円は維持へ

 新トクするサポート(バリュー)は、48回払いの割賦で端末を購入する仕組み。この部分は、従来の新トクするサポートと同じです。ただし、端末の下取りで免除される金額が、24回から36回に上がっています。ここが、バリューのバリューたるゆえん。12回の支払いだけで、残債が免除される仕組みと言えるでしょう。なお、従来型の24回を免除する新トクするサポートは、新トクするサポート(バリュー)の登場に伴い、「新トクするサポート(スタンダード)」に名称をあらためています。

 免除される金額が12回分増えているため、当然ながら実質価格はおさえられます。ここでは分かりやすくするために、本体価格が4万8000円の端末があったと仮定してみましょう。48分割の場合、月々の支払額は1000円です。端末の下取りでこの内の24回が免除された場合、実質価格は2万4000円です。これに対し、36回が免除されると実質価格は1万2000円まで下がります。代償として、実質価格で使うには、1年ごとの機種変更が必要になる点がこれまでとの違いと言えるでしょう。

スタンダードとバリューの比較イメージ。12回で下取りに出すことができ、以降の残債が免除されるため、バリューの方が1年での機種変更を安くおさえられる

 ただし、現状の新トクするサポート(バリュー)に指定されている端末は、本体価格を均等に分割しているわけではありません。従来と同様、前半と後半の支払額を変えることで、端末を下取りに出した際にユーザーの負担感が軽減されるような措置が取られています。新トクするサポート(バリュー)の対象モデルは、「iPhone 14」「Pixel 8(128GB)」「Pixel 8(256GB)」「Xiaomi 13T Pro」「motorola razr 40s」の計4機種、5SKU。ソフトバンクオンラインショップでの価格は以下の通りです。

対称モデルは4機種、5SKU。Pixelのみ、128GB版と256GB版の2つに分かれている

 iPhone 14や128GBのPixel 8、Xiaomi 13T Proは、3機種とも前半12回の支払いが「1円」。1年で下取りに出すと、実質価格は12円。残る256GBのPixel 8やrazr 40sも、前半12回の支払いは826円におさえられており、1年利用時の実質価格は9912円と1万円を下回っています。4機種とも、オンラインショップ独自の割引として、MNPの際に2万1984円の「オンラインショップ割」が適用され、そのうえで分割払いの前半12回分が安価に設定されています。

 たとえば、Xiaomi 13T Proは本体価格が11万1600円。ここに、2万1984円の割引が適用されると、総額は8万9616円まで下がります。この8万9616円を、「1円×12回」と「2489円×36回」の分割払いにします。ユーザーが約1年後に端末を下取りに出すと、「2489円×36回」が免除される格好。支払う額は、12円になります。本体価格は異なりますが、ほか3機種も同様のロジックで実質12円なり、実質9912円なりを実現しています。

対象機種の本体価格と分割金。12回支払って下取りに出した場合の実質価格は、1円か9912円になる

2年利用時の実質価格比較だと割高に、1年サイクルの機種変が正解に

 一方で、同じ毎月1円の端末でも、これまでの仕組みだと24回で24円でしたが、新トクするサポート(バリュー)では、12回で12円と条件が変わっています。新トクするサポート(バリュー)は、後半36回の支払いが高いため、1年間と比較的短期での機種変更が必要。これまでと同じ2年という枠組みで比較すると、実質価格は必然的に上がることになります。

 たとえば、Xiaomi 13T Proは、以前の方式だと、2年利用で実質24円でした。これに対し、新トクするサポート(バリュー)では、2年目の支払額が2489円に上がります。2年間使ったあとに機種変更するなどして、端末を手放すと、12円に加え「2489円×12回」の支払いが必要。その総額は、2万9880円です。ハイエンドモデルとしてはこれでも十分割安ではありますが、24円から2万9880円に値上がりしているのも事実。実に1000倍以上の値上がりです(笑)。

1年利用の場合は実質12円で済むが、以降価格が上がる。2年利用同士の比較だと、新トクするサポート(バリュー)の方が約3万円高い

 2年で実質9840円だったrazr 40sも、新トクするサポート(バリュー)では1年で9912円にわずかながら値上がりしています。さらに、2年利用する場合には、後半36回の分割払い金2494円が12回分かかります。その合計額は、3万9840円。実質9840円だったときより、3万円ほど高くなっています。1年間で機種変更していった方が、端末が割安になる点には注意が必要です。

1年実質9912円のrazr 40sも、理屈は同じ。2年目以降の比較だと新方式の方が高くなり、完済すると同額になる

 1年での機種変更を割安にする方式は、ドコモが先手を打っていました。「いつでもカエドキプログラム+」が、それです。ただ、このプログラムは比較的元値が高い端末に適用されていることが多く、利用する場合には「早期利用料」がかかります。本体価格が比較的安いPixel 8の場合でも、早期利用料は1万2100円でした。

 残価を除いた分割支払金は毎月1482円のため、1年で機種変更しても2万9884円がかかります。また、smartあんしん補償の契約も必須。「5G WELCOME割」の2万ポイントを加味しても、ソフトバンクよりやや割高。しかも現在は、省令改正に合わせ、Pixel 8がいつでもカエドキプログラム+の対象から外れてしまいました。

12月26日時点における、ドコモのPixel 8の価格。1年で機種変更すると実質価格は抑えられるが、早期利用料などがかかるため、ソフトバンクよりは割高に。さらに、27日からはいつでもカエドキプログラム+の対象から外れてしまった

 いつでもカエドキプログラム+にも、シャープの「AQUOS sense8」のように、ミッドレンジモデルが含まれるようになっていますが、どちらかと言えば価格が15万円を超えるハイエンドモデルの割合が高め。これに対し、ソフトバンクの新トクするサポート(バリュー)は、ハイエンドながら、最上位モデルはなく、元々の価格をおさえた端末が取りそろえられています。性能とコストのバランスを取りつつも、実質12円というインパクトを残すために編み出された施策と言えるでしょう。

新方式は割引見なし額を抑えた仕組み、アグレッシブだが規制はクリアか

 なぜこのような仕組みになったかというと、冒頭で述べたように、端末と回線契約をセットにした場合の割引額が4万4000円に規制されたからです。従来の仕組みもあくまで残債を免除するだけで、厳密に言えば割引ではありませんでしたが、市中の下取り額を超えたぶんが割引と見なされていました。MNPに2万2000円近い割引を出しているため、残る“枠”は2万2000円。中古業者の買い取り額より2万2000円高くなってしまうと、アウトになるというわけです。

ガイドラインの39ページには、一般的中古の買い取り価格を超えたぶんが割引と見なされることが明記されている

 ただ、Xiaomi 13T ProやPixel 8、razr 40sなどの場合、以前の仕組みだと端末価格のほとんどが免除されていました。一般的に、中古の買い取り価格は発売から日が経てば経つほど下落していきます。この法則を加味すると、ユーザーにはなるべく早い段階で下取りに出してもらった方が、免除できる額は大きくなります。Xiaomi 13T Proの場合、1年後の残債は8万9604円。オンラインショップ割で2万1984円を出しているため、一般的な中古業者が6万7588円で買い取っているようであれば、ユーザーへの割引は4万4000円ジャストと見なされます。

 これに対し、以前の仕組みだと2年後の免除価格が9万2472円になっていました。オンラインショップ割は変わっていないため、2年後の一般的な買い取り価格が7万456円を下回っていると、ガイドライン違反ということになります。2年後にXiaomi 13T Proを7万456円で買い取る業者はほぼいないと言えますが、1年後に6万7588円であれば、ギリギリで達成できる可能性は上がります。約1年前に発売された1世代前のモデルである「Xiaomi 12T Pro」に4~5万円の買い取り価格がついているからです。

大手中古業者イオシスのサイトでは、端末ごとの買い取り価格を検索できる。1年前に発売されたXiaomi 12T Proは、未使用品で4~5万程度。ただし、中小事業者でより高い買い取り価格を提示しているサイトもあった

 ソフトバンクによると、この免除額は「同系機種の中古市場における買い取り価格の動きを参考に算出した」とのこと。Xiaomi 12T Pro以外の性能が近い端末の買い取り価格の変動や、Xiaomiブランドの認知度向上に伴って買い取り価格が上昇する可能性など、さまざまな要素を加味していると見られます。チャレンジングな免除額ではあるものの、少なくとも、ソフトバンク側はこの水準であれば、省令改正後のガイドラインが規制する割引の水準を超えていないと見ていることがうかがえます。

 ソフトバンクは「転売などの問題から大幅な値引きを是正することの趣旨について賛同している。一方、一般的な利用目的で端末を購入されるお客様の負担が増えてしまうことは本意ではない」としています。分割払いと下取りを併用した仕組みのため、転売目的での購入は防ぐことは可能。あくまで、法の趣旨に則った価格改定というわけです。残念ながら2年利用の場合の実質価格は上がってしまいましたが、規制の範囲内で最大限頑張った結果が新トクするサポート(バリュー)と言えそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya