石野純也の「スマホとお金」

ソフトバンクの最新スマホがなぜ激安に? そのカラクリを探る

 ソフトバンクが、「Pixel 8」を発売前に価格改定し、実質9840円まで値下げしたことが、話題を集めました。近い時期には、「神ジューデン」対応モデルとして導入されたOPPOの「OPPO Reno10 Pro 5G」も、実質24円で販売している店舗があり、「いきなり投げ売りか!?」と注目を集めています。あくまで、24回支払い後に端末を返却した際の価格ではありますが、2年間お得に端末を使えるのは間違いないでしょう。

 ただ、Pixel 8は本体価格が11万4480円と、当初の案内から今に至るまで変わっていません。Reno10 Pro 5Gはもう少しお手頃な価格が設定されていますが、それでも本体価格は8万640円。いくら端末の返却を組み合わせたとしても、いきなり実質0円に近い価格を実現するのは難しいように見えます。では、ソフトバンクはどのようにこの価格を実現したのでしょうか。ここには、「新トクするサポート」のカラクリがありました。

ソフトバンクは、Pixel 8を3万円台前半で販売。MNPの場合などには1万円以下に下がる
神ジューデン対応モデルとして発売されたOPPOのReno10 Pro 5Gも、発売当初から激安に

Pixel 8が実質3万円台、Reno10 Pro 5Gは2万円台、その仕組みは?

 現在、ソフトバンクのオンラインストアでは、Pixel 8が実質3万1824円、Reno10 Pro 5Gが実質2万2008円で販売されています。これは、機種変更などの場合。新規契約やMNPを利用し、ソフトバンクに移ると、「オンラインショップ割」の対象になり、ここからさらに2万1984円が値引かれます。Pixel 8であれば実質9840円、Reno10 Pro 5Gであれば24円まで価格が下がる計算です。店舗でも同様の割引を実施していることがあり、発売日からの大幅な割引が話題を集めました。

 とは言え、Pixel 8は本体価格が11万4480円、Reno10 Pro 5Gも8万640円もする端末。新トクするサポートを使って端末を返却したとしても、免除されるのは48回中24回分の支払いだけです。新トクするサポートは、元々「半額サポート」というサービスだったことからも分かるように、端末代のおおよそ半分を免除する仕組み。そのままだと、いくら下取りを組み合わせたとはいえ、ここまで価格を下げることはできません。

21年に開始した新トクするサポートは、48回払いの内、24回を免除するプログラム。仕組みそのものは大きく変わっていないが……

 また、ソフトバンクの新トクするサポートは、いわゆる残価設定型のローンとも異なります。ドコモやKDDIの場合、割賦の24回目に残価を設定しており、これを下取りによって免除する仕組み。ソフトバンクの48回割賦とはやや性質が異なり、残価の額によってある程度柔軟に端末の実質価格を設定できるメリットがあります。これに対し、ソフトバンクは一貫して48回割賦を採用してきました。

ドコモやKDDIは、24回目の支払いに残価を設定し、それを免除することで負担額を軽減している。48回割賦のソフトバンクとは、仕組みが大きく異なる

 では、 なぜ2機種の実質価格がここまで低いのか。その答えは、割賦の中身にあります 。Pixel 8やReno10 Pro 5Gのような端末では、最初の24回と後半の24回で、1カ月あたりの支払額が大幅に異なっています。本体価格を均等に48で割ったわけではなく、前半と後半で差がつけられているというわけです。前半24回の支払いを軽くし、後半を重めにすることで、端末返却時の実質価格を抑えることが可能に。48回割賦という仕組みを残しつつも、残価設定型ローンのようなメリットを取り入れたと見ることができます。

前半24回が安い割賦設定、ただし機種は限定

 次に、具体的な価格を見ていきましょう。まず、Pixel 8の場合です。こちらは、1回目から24回目までの価格が1326円に設定されています。これに対し、25回目から48回目までの支払いは、3444円。前半と後半で2000円以上の差がついています。端末を返却した場合、この3444円×後半24回分が免除されるため、実質価格が安くなる――これが、新トクするサポートのカラクリです。

Pixel 8の端末価格の内訳。1回目から24回目の支払いが、25回目から48回目より大幅に抑えられていることが分かる

 一方で、同じPixel 8シリーズでも上位モデルの「Pixel 8 Pro」は、事情が異なります。こちらの本体価格はソフトバンクで17万2080円。実質価格は9万4320円に設定されています。実質価格で半額よりやや高めといったところで、機種変更でも3万円台前半まで下げられているPixel 8とは実質価格の差が大きく開いています。

こちらはPixel 8 Proの価格。25回目以降の方が安くなっている点で、Pixel 8とは価格設定に大きな違いがある

 毎月の支払いの内訳を見ると、1回目から24回目までが3930円、25回目から48回目までが3240円に設定されています。前半24回の方のやや重めになっていると言えるでしょう。Pixel 8とは対照的で、どちらかと言えば、以前のような売り方に近いかもしれません。機能的な差はありますが、新トクするサポートを使う場合、お得度は断然、Pixel 8という格好になります。裏を返せば、これはソフトバンクの“推し”がPixel 8であるという見方もできるでしょう。

 同様の形で、Reno10 Pro 5Gもソフトバンクに“推されて”います。先に言及したとおり、同端末の本体価格は8万640円ですが、実質価格はわずか2万2008円です。それもそのはず、1回目から24回目の支払いが、毎月917円に抑えられています。逆に、25回目から48回目は2443円と一気に額が跳ね上がります。25回目の支払いが発生するまでの間に端末を下取りに出せば、917円×前半24回の支払い済んでしまうというわけです。

Reno10 Pro 5Gも、前半24回のみ917円と割賦の支払いが安く設定されている

 ソフトバンクの端末価格を見ると、ほかにもこのように前半24回だけ、割賦が安く設定されている端末がちらほらと存在します。Pixelの廉価モデルである「Pixel 7a」もその1つ。こちらは、端末価格の総額が7万9920円ですが、前半24回が917円、後半24回が2413円に設定され、2年間の利用であれば実質価格を2万2008円に抑えられます。ソニーの「Xperia 10 V」も、前半24回が917円と割安な設定です。

 一方で、iPhone 15シリーズは4機種ともほぼ1カ月あたりの支払いが均等。多少の差はあるものの、ここでピックアップした端末のように前半後半での大きな支払額の違いはありません。折りたたみモデルの「Pixel Fold」も同様。ザックリ言えば、ミッドレンジモデルや価格が元々安めのハイエンドモデルの実質価格を、意図的に下げているように見えます。こうした価格設定からは、ソフトバンクが売れ筋になりそうな特定の端末をプッシュする狙いが見え隠れすると言えるでしょう。

iPhone 15シリーズは、いずれもほぼ均等に分割された金額が設定されている

3年目に突入すると支払いが割高に、注意したい機種変のタイミング

 見方を変えれば、これは約2年後にソフトバンクが端末を高額で買い取ってくれる仕組みにほかなりません。Pixel 8の場合、その額は8万2656円にもなります。おそらく2年後にここまでの買取額を提示する中古店はないでしょう。ただし、注意したい点もあります。 支払額を安く抑えるには、必ず端末を24回の支払い後に下取りに出さなければならない からです。うっかり忘れて3年程度端末を使ってしまうと実質価格が跳ね上がってしまうのは、この仕組みのトラップです。

 たとえば上記で挙げたPixel 8の場合、24回目まで支払ってから端末を下取りに出せば3万1824円で済みますが、もう12回分の支払いをすると、3444円×12回分が追加でかかります。12回分の金額はなんと4万1328円。前半24回の総額よりも、支払額が高くなってしまいます。2年後に同じ仕組みが継続しているとは限りませんが、これであれば、そのタイミングで機種変更した方がむしろ毎月の支払いを抑えることができます。

Pixel 8の支払額推移。25回目以降、グラフの傾きが急になる

 裏を返せばこの仕組みを知らずに3年目以降も同じ端末を使い続けていると、”損”をしてしまうおそれもあるというわけです。支払いは必ず48回で終わり、本体価格以上に高くなることはありませんが、実質価格と比べると割高な印象に。先に挙げたように、端末によっては48回の支払いがほぼ均等なモデルも多く、前半24回だけが安くなっていることを忘れがちです。

 また、端末の平均利用期間は4年を超えているため、普通にしているとトラップにはまるおそれがあります。ソフトバンクの“推し端末”を購入する際には、こうした点を必ず覚えておくようにしましょう。

内閣府の消費動向調査(3月版)によると、携帯電話の平均利用期間は4年を超えている

 前半24回と後半24回の支払額を大幅に変えることで、実質価格を抑えてきたソフトバンクですが、この仕組みが普及すると、端末の平均利用期間は短くなる可能性があります。2年での定期的な買い替えを促進する仕組みとも言えるでしょう。ユーザーにとっては、毎月の負担額を抑えられるのは明確なメリット。ほしい端末がソフトバンクの“推し端末”と合致しているのであれば、飛びつく価値は高いと言えそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya