法林岳之・石川温・石野純也・佐藤文彦のスマホ会議(仮)

新型「Xperia 1 VII」の期待感と「Google I/O」でチラ見えするデバイスの未来

 通信業界を中心に活躍するライター4人による「スマホ会議(仮)」。今回は「Xperia 1 VII」や、「Google I/O」の話題について話し合っていきます。

Xperia 1 VIIは魅力十分だけど価格がネック

石川氏
 Xperia 1 VIIは評判いいですね。正直、見た目は去年とそこまで変わらないし、激的な進化があったかと言われるとそうでもない気がするけど、SNSの反響もいいし、16GBモデルは売り切れが出ている。世間の評価は高いですね。

石川氏

関口
 弊誌の記事に対するSNS上の反応では、「20万円超という価格が高すぎる」という意見も多いですね。

法林氏
 体験会で触った印象としては、「AIカメラワーク」「オートフレーミング」といった機能が面白かった。高画質の方向に進むのではなく、撮影する楽しみにフォーカスしたのはいいと思う。

 ただ、一番安いモデルでも20万円を超えてしまう。12GB+256GBモデルを、19万円台で出せないところがソニーのだめなところ。たかだか4000円程度の値下げで実現するので、もう少し頑張ってほしかった。

法林氏

石野氏
 でも、割引になるクーポンは配っているし、最大3万円が当たるくじみたいなものも開催しています。

石野氏

法林氏
 それも少し変で、まず20万4600円で購入して、後から1万円くらい返ってくる格好になっている。じゃあ、最初から19万円台で出してもよかった。

佐藤

石野氏
 ただ、ソニー銀行のSony Bank WALLETで購入すれば、3%オフで購入できるので6000円以上も安くなりますよ。

法林氏
 今からSony Bank WALLETの契約をしてまで、Xperiaを買う人がいるのかな。

石野氏
 Xperiaを買うソニーのファンは、ソニー銀行の口座を持っていますよ(笑)。

法林氏
 そうだとしても今Xperiaを使ってるユーザーを守るだけではだめで、新しく取りにいかないといけない。今回の端末は、機能的にはよかったと思っていて、ウォークマンとかプラス要素は多いけど、20万円を切れなかったことがどうしても気になる。

関口
 個人的には、Snapdragon 8 Eliteを搭載したのに驚きました。ハイエンドチップセットを搭載するのは今まで通りではありますが、よく貫き通せたなと。

法林氏
 でも、Snapdragon 8 Elite搭載スマートフォンで日本で一番安価なのが、おそらくPOCO F7 Ultraで9万9980円。同じ市場で戦っているとどうしても比べてしまうよね。

石野氏
 Xperia 1 VIIは、オフラインでも販売されていますから。銀座のソニーストアとか。

法林氏
 POCO F7 Ultraも、浦和美園(のXiaomi Store)で販売されている(笑)。

石野氏
 そこは、土地代の違いかも(笑)。

石川氏
 結局、ソニーは収益的に無理ができない。去年、Xperia 5シリーズをスキップしたり、今回もXperia 10シリーズを秋まで見送っている状況です。あと、去年のXperia 1 VIは売り上げが伸びています。Xperia 5シリーズが出なかった影響もあると思うけど。

石野氏
 ソニーの公式見解としては、Xperia 1シリーズのリニューアルが好評だったとされています。昨年、Xperia 5シリーズがスキップされることが発表される前から、初速は伸びたという話でした。

 今回のXperia 1 VIIは、動画にフィーチャーして、超広角カメラをきれいにして、その上でAIを使ってプロが撮影したかのようなカメラワークを実現するとか、結構面白いと思います。

石川氏
 ただ、公式HPに載っている、ダンサーを撮影するようなシーンはそんなにないよね。

法林氏
 ダンサーは撮影しないけど、動き回る子供の動画とかは撮影するでしょう?

石川氏
 だったらHPに載せる写真も、子供を例として使ったほうがよかった。この辺りがソニーのよくないところ。

石野氏
 そういう意味で言うと、AIカメラワークは少しわかりにくい。オートフレーミングは動画を縦画面、横画面で同時に撮影できるのですぐにわかるのですが、AIカメラワークはプロのカメラワークについて知らないと、「何をカメラワークしているのか」がわかりにくい。

関口
 ソニーのメッセージの出し方は、Xperia 1 Vまではプロユーザー向け、クリエイター向けとアピールしていて、Xperia 1 VIでそこからの脱却を図ろうとしているのかと思った一方で、ダンサーの写真を使うとかまだあきらめきれていないようにも見えてしまいますね。

法林氏
 実は、HPにあるダンサーの写真からさらに下にスクロールすると、子供の撮影をしているイメージ画像がある。やっていいのはこれくらいのアピールの仕方だよね。

石川氏
 アピールで言うと、HPに載っているオートフレーミング機能をアピールする動画は、めちゃくちゃいいですよ。

Xperia 1 VII:はじめての似顔絵【ソニー公式】

法林氏
 これはいいね。

石野氏
 そのままCMとして流していいですね。買いたくなる。

法林氏
 要するに、動画撮影でスマートフォンを構えたときに、被写体からフレームがずれてしまうという感覚がある人って、普段から動画を撮影している人に限られる。僕たちはよく動画を撮るけど、一般の人にその感覚はどれくらい浸透しているのかは疑問。

石野氏
 でも、子供を撮影する人は多いですよ。フレームズレももちろんですが、動画撮影をしているとどうしても画面を見てしまって、実際に目で子供を追っていないと言われると、確かにそうだなと反省してしまいます。

石川氏
 動画に夢中になってしまうし、ソニーの動画でもそれがしっかりと説明されていていいと思います。Xperiaは、数世代前まではプロ向けで複雑なUIになっていましたが、カメラのUIも優しくなっているし、かなり軌道修正が入っています。イベントで登壇したのも、若い女性になっていてアピールの仕方が変わってきています。

石野氏
 クリエイターという言葉の定義を広くとらえていると言っていましたね。

法林氏
 以前は“プロ色”が強すぎたよね。今回はほどほどになっている。

石野氏
 キャラクターを出すうえで、最初に振り切ったのはいいと思う。そこから徐々に広い方向に軌道修正をしてきた。

法林氏
 ただ、価格はどうしても気になるかな。

石野氏
 そこは、ウォークマンに使われている金メッキを採用したからという解釈でいいんじゃないですかね。金ですから(笑)。体験会で音を聞いたら、本当に良くなっていました。

法林氏
 それを言い出したら、音質のいいmicroSDカードを買ったほうがいいという話になってしまう。

石川氏
 体験ブースでは、2世代か3世代前のXperiaと比較されていましたからね。

法林氏
 音にフォーカスするのは本当にいいと思うんだけど、やっぱり価格だよ。そこのマイナス要素が個人的には一番大きい。

石川氏
 ソニーとしては、テレビもカメラもお金持ち向けに作っていて、安売りはしない方向なので、Xperiaもそっちに行くのかもしれない。Xperia 10シリーズがどう出るのかはわかりませんけどね。

石野氏
 Xperia 10シリーズも、あの価格帯で比較すると少し高い端末ですからね。

関口
 今の市場を見ると、10万円を切るくらいのバランスのラインナップが欲しいですよね。

法林氏
 もっと安い端末はあるけど、おいしい機能がそこそこ搭載されている中では、10万円前後が一番売れるので、そこは欲しいよね。

石野氏
 Xperia 1 VIIも、バランスがいい機種になっているんですけど、キャリアでの取り扱い価格がすごく高いですよね。ソフトバンク版は24万7680円。

法林氏
 だからこそ、直販モデルは20万円を切らないといけない。

石野氏
 この価格になると、折りたたみスマートフォンが欲しくなってしまいますよね。

 面白いなと思ったのは、シャオミはXiaomi 15 Ultraで望遠カメラを強化して、ソニーはXperia 1 VIIで超広角カメラをきれいにした。今までのスマートフォンは、一般論として超広角カメラの画質がそこまでよくなかったので、そこにフォーカスしたのは面白いですし、イメージセンサーの開発をしているソニーセミコンダクタソリューションズの意思も感じた。普通の広角は十分なので、多眼カメラで収益を上げるのであれば、超広角カメラのセンサーサイズも大きくするという意思が見えます。そういう意味では、ソニーは有利な立場なんですよね。

関口
 密接にできますからね。

石川氏
 ソニーセミコンダクタからすると、数が出るアップルやシャオミが商売相手ですからどうなんでしょうね。

石野氏
 ただ、2層トランジスタ画素はiPhoneよりも半年ほど早く搭載していたりします。

関口
 Xperia 1 VIIのAI機能はカメラ中心の提案になっていますが、メーカーとしてAI機能はどう提案していくべきでしょうか。

石野氏
 ソニーは、「生成AIはできないのでグーグルに任せる」といった趣旨の発言をしていて、カメラ・ディスプレイ・オーディオにはAIを入れていくけど、ほかはやらないと割り切ったのはいいと思います。

石川氏
 そもそも、ソニーはずっと前からカメラでAI機能を使っていましたからね。あまりAIを主張していなかったら、周りのメーカーがAIをアピールし始めて、ようやくこのタイミングで「Xperia Intelligence」と言い出した。

 遅すぎたとも思いますが、アピールし始めたことで追いついてきた感じもする。じゃあ、Xperia Intelligenceとは何かと言われると具体的には表現できないけど。

石野氏
 Apple IntelligenceやGalaxy AIのような、昨今流行りの一般の人がイメージするような生成AIの機能はない。そこはグーグルと被る機能になるのでやらない。現実的にも今からソニーがアップルやサムスンのような規模で実装するのは難しい。ソニーに限らず、日本のメーカー全体に言えることです。

石川氏
 これからのソニーは、クリエイターのためのAIを作っていけばいい。

石野氏
 得意分野に絞っていくのは、限られたリソースを有効活用するうえで正解だと思う。一方で、グーグルのAIが優秀かというと怪しい。AndroidのAIはかなり散らかっています。

 例えばGmailアプリだと、Gemini in Gmailと電源ボタンの長押しで呼び出せるGeminiと、テキストを張り付けられるGeminiアプリがあって、背後で使われているAIモデルが違うので結果も変わってくる。見せ方という意味ではグーグルはあまりうまくない。

 アップルは、AIモデルが微妙なので出力される結果はいまいちですけど、Apple Intelligenceとしてまとめられていて、各アプリにAIのボタンがある。見せ方はやっぱりうまいですよね。

石川氏
 アプリがあるとそれがAI機能を象徴してくれるので、ユーザーの入り口として機能する。一方で、各アプリにAIのボタンがあればそれも入りやすい。Apple Intelligenceは各アプリに統合されていて入り口は用意されているけど、Apple Intelligenceという単独のアプリはない。各メーカーが、どれが正解かを探っているような気がします。

石野氏
 とはいえ、グーグルは散らかりすぎている気もします。

グーグルが提示するAIの未来とは

石野氏
 グーグルのAIの話を延長すると、Google I/Oで紹介されていた「Project Astra」のデモはすごかったですね。スマートフォンのカメラやマイクを使って、自転車を修理している様子を紹介する動画です。今のGeminiのストリーム対応などもすごいんですけど、やはりうまくスマートフォンにインテグレートされていないのが気になる。

石川氏
 GeminiとAndroidで、別の部署がやっているという印象が強い。

石野氏
 しかもGmailやGoogle カレンダー、Google マップの部署が、それぞれ勝手にGeminiを入れていて、誰もコーディネートしていないように見えます。

法林氏
 それぞれのチームがGeminiのAPIにつなぐところまでは作ったという形。プラットフォームとしては統一感があってほしいけど、そもそもグーグルのサービスって、バラバラなところが多いので仕方がないのかもしれない。

石川氏
 Androidはオープンなエコシステムだと言うけど、グーグル自体がオープンすぎてまとまりがない。

石野氏
 結果、Geminiの実力がいまいちわかりにくくなっています。

法林氏
 デモを見るとすごいなと思うけど、どうユーザーがスマートフォンで使っていくのかというところが提案されていない。

石野氏
 例えば、ユーザーとしてはブラウザで記事を読むので、ブラウザアプリ内に要約のボタンが欲しいのに、そこにはない。でも、Geminiを重ねて起動して要約を指示すればやってくれる。こんな使い方、ユーザーにはなかなか理解してもらえませんよ。

石川氏
 単に、Gmailに届いた記者会見の予定をGoogle カレンダーに追加してくれるだけでいいのに。

関口
 ようやく最近できるようになりましたね。

石野氏
 できるようになったけど、途中までは画面に重ねて表示するGeminiにはできて、Gmailに統合されているGeminiではできなかった。機能自体はすごいですし、スマートフォンの使い方が変わる予感はするんですけどね。

関口
 MWCの時にみなさんがおっしゃっていた、AIがアプリを勝手に操作するという路線ですね。

石川氏
 アプリストアも使わなくなって、Geminiに話しかけるとすべてやってくれるという世界。こうなるとOSとは何かという話になるし、AndroidもGeminiと会話さえできればいい。

石野氏
 こういうのができると、スマートグラスでも役に立ちます。スマートグラスこそ、こういうことができるようにならないとなかなか使えません。

石川氏
 スマートグラスは最初はみんな懐疑的だったけど、AIと組み合わせることで使い方が見えてきた。カメラで見たものをAIが判断して教えてくれる。

法林氏
 「Astra」はすごいと思うけど、元のデータが存在するから自転車の直し方がわかる。直し方自体をAIが考えているわけではない。Geminiが自立して考えているわけではないという部分は、理解しておかないといけない。

 「Astra」のやり方は上手だと思うけど、これは過去に同じ自転車を直した人がいてその情報があるからこそ成立している。その部分が置き去りにされている気がしている。

 あと、SF映画とかでよくある空中にディスプレイを表示するようなAIの使い方を目指すのであれば、デバイスはスマートフォンでいいのかという話になる。MRのような半透過のようなタイプのほうが適していると思う。

石野氏
 メガネ型のほうが自然ではありますよね。

法林氏
 ただ、耳からの情報も必要になる。スピーカーで流せばいいのかもしれないけど、イヤホンとメガネは今後のカギになると感じる。

関口
 グーグルがこのタイミングでスマートグラスを提示してきたことには、明確な意図がありますね。

石野氏
 そうですね。

法林氏
 スマートグラスを使って、ナビゲーションを表示する機能とかもそう。

石野氏
 グーグルのスマートグラスを見て思ったのは、NTTコノキューは大丈夫かな。

石川氏
 単にディスプレイを投影するだけの道具にしかなっていないもんね。そこの次元の競争ではなくなっている。

関口
 グーグルの場合は、XREALがGoogle I/Oに合わせて、取り組みを発表していますがコノキューの名前は出ていませんね。

石野氏
 常時身につけるものとして考えると、メガネブランドとのコラボがないことも引っかかるポイント。グーグルは、GENTLE MONSTERとかを引っ張ってきていますからね。

石川氏
 グーグルに話を戻すと、今回からAndroid Showという形で、Google I/Oから独立してOSのアップデート内容が発表されています。とはいえ中身が薄かったよね。デザイン的な変更くらい。

石野氏
 あれで、これまでで最大のアップデートだと主張していましたね。

石川氏
 自分としては、Geminiともっと融合すると思っていたけど全然だった。

関口
 見た目の変更くらいでしたね。

石野氏
 ほぼ見た目の話でしたね。グーグルはそれぞれのサービスごとに部門がはっきりと分かれていて、Android部門はOSだけみたいな状態。アップルは、iOSの中にメールやメモ、電話といった標準OSをひとまとめにやっている。

 Androidは、OSのコアな部分のみなのでGmailとかGoogle カレンダーといった、各アプリの話は出せないんでしょうね。Geminiの進化はGoogle I/Oで語られるので、Android OSの進化として語られるのはデザインやUIくらいになってしまいます。

石川氏
 AndroidとGeminiの融合で言うと、サムスンのほうが進んでいる。Android部門ともGemini部門ともうまく付き合っています。

法林氏
 サムスンはそうだし、シャオミもそうだけど、Geminiを道具としてうまく組み込んでいるよね。一方で、Pixelも含めてほかのAndroidメーカーは、まだしている感が足りない。

石野氏
 特にPixelは、グーグルの中にいるだけに別部門に振り回されている感じがする。PixelチームもGemini Liveの機能が、こんなに早くほかのメーカーにも無料開放されるとは思っていなかったはず。

石川氏
 Pixelの優位性が全然ないですよね。

法林氏
 ボイスレコーダーの文字起こしと、カメラの一緒に写る機能くらい?

石野氏
 あとは、Pixelスクリーンショットと電話のスクリーニング機能はPixelのみの機能ですが、単機能でポンっと乗っているような状態なのでAIスマートフォンという良さがあまりありません。

法林氏
 AIは本来、これからのスマートフォンを変えていく要素であることは間違いないけど、組み込まれていくことが正しい姿だと思う。そう考えると、A社では使えてB社では使えないという形は、美しい方法論ではない。Pixelは早くAI機能に触れるメリットはあるけど、アドバンテージはどんどん薄れている。

関口
 Google I/Oを見ると、検索で使えるAIモードとか、Personal contextも影響が大きそうかなと思ったのですが、これまでのお話を聞くとほかのアプリとか、ほかのインターフェイスとの連携という意味で、毎回検索アプリを使う動線になっていて分断されている印象もありますよね。

石川氏
 グーグルとしては、広告メインのビジネスモデルだったけど、サブスクを意識し始めているよね。YouTubeみたいに無料で使えるけど、有料会員になればより快適に使えるという世界観が、検索にも出てくる。

 グーグルは、AIが情報の質を上げると話しています。AIがふるいをかけて、ユーザーにとって有益なものをトップに表示していく。ユーザーからすると、最初にAIが要約した部分を読んでから、詳細をチェックするためにWebページを開くと話しているので、メディアとしてはそれを信じるしかない。

石野氏
 ちょっと疑わしいですよね。グーグルは、都合の悪い部分だと具体的な数字を出さなかったりします。「よりクリックするようになる」と話しているけど、どれだけ数字が増えているのかは教えてくれません。

 今、日本語でもGoogle検索をすると、AI Overviewといって、AIが生成した要約情報が出てくるんですけど、昨日検索をしたら参照記事が僕らの座談会だった(笑)。

石川氏
 それはあてにならないね(笑)。

石野氏
 要約されていたのは石川さんのコメントだったので、事実として引用しましたが(笑)。

 結果、実際にその座談会の記事を開いてはいないんですよ。事実チェックをするとき、これまでは記事を開いて、前後の話も読んだうえであくまで発言であることを加味して年表とかも確認していたけど、AIでまとめられるとそこだけ見てしまいます。

石川氏
 それをさらに深堀りしていくというのが、グーグルの見解らしい。世間の人がAIで盛り上がっているのは見るけど、記事を書いている身からすると自分の記事が引っかかって、「そうでもないな」と思ってしまう(笑)。

法林氏
 書いていることに対する責任、プレッシャーはあるよね。GeminiもCopilotもそれっぽい要約はしてくれるけど、実際にリンクを見ると、「この内容がこういう要約になるの?」と思うこともある。結局、使う人次第だよね。

石川氏
 AIがより便利になって、要約だけでいい世界になったら媒体もライターもいなくなってしまう。そうすると、AIはどこから情報を引っ張ってくるのか。AI検索とWeb媒体は、本当は持ちつ持たれつの関係になるべき。

石野氏
 良質な情報から駆逐されていって、最後にはとんでもない情報だけが残ってしまいますよね。

法林氏
 だからこそ、元データを作っていることの意義はもう一回ちゃんと考えないといけないよね。

石川氏
 グーグルがサブスクで儲かるのであれば、その一部を元データを掲載している媒体に還元する仕組みがないといけない。

法林氏
 検索でヒットしたニュースで得た収益は、コンテンツ発信者に対して還元するという仕組みがあって、一部の国と地域でやっている。こういう仕組みも含めて考えないといけない。正確な記事かどうかを判断する部分も、AIがやっていいのかという話になる。

 グーグルのこれまでの進化を考えると、広告は別として良質な情報だと判断されたものから、検索結果の上位に来るようになっている。このロジックをAIに当てはめると、本当はもっといい答えになるはずなのに、適当なページが参照元になっていることもある。

関口
 数年前に比べると、「いかがでしたでしょうか」みたいな記事は見かけなくなってきているので、アルゴリズムの変更でより良質なサイトが出やすくなっていますよね。

石野氏
 AIの学習ソースとして使った媒体に、お金を還元する仕組みはもう少し必要です。

法林氏
 AIが記事を参照するときに、「この記事はAI学習に使うことを拒否する」といった設定がなされていた場合、学習には使ってはいけないというルールができたら、本当にそのままでいいのかという疑問も出てくる。

 ネットにあがっている情報は、なんでも学習データにするという状況は果たして本当にいいのか。

石野氏
 いまはそういう形になっていますよね。ソフトバンクは、共同通信と契約してお金を払ったうえで記事を学習させるというリリースを出していました。

 いまだと、会員登録が必要になるような日経新聞などの記事は学習できないけど、ケータイ Watchの記事は学習できる。無料で公開されているものはすべて学習データにするというのは、健全な状態なのか。

法林氏
 言い方は悪いけど、タダ乗りではあるからね。

石野氏
 グーグルに学習させるために記事を書いているわけではないと思いつつ、将来的には記事を読むのが、人間ではなくAIになるのかなとも思ったりしますよね。

石川氏
 ちょっと深い話になってきたので、AI関連で浅い話をすると、楽天の決算に出てきた三木谷浩史社長のAIはひどかったですね。

石野氏
 「Astra」との落差がすごかった。

石川氏
 あきれましたよ。よくこのご時世にあのAIを使ったのかと。

石野氏
 質疑応答でも出ていましたが、三木谷さんのAIがしゃべった内容は三木谷さんのコメントとして使っていいのかと。

石川氏
 会見はAIがやったうえで、楽天のIRページを見るとスクリプト入りの会見資料が出ている。そこまでするならプレゼンをやる意味があるのかという話になるし、スクリプトのコピーが三木谷さんのコメントという意味になる。

石野氏
 スクリプト入りの資料を出すなら、それをNotebookLMに学習させて分析させたら終わりになってしまう。

石川氏
 プレゼンもAIだし、メディアもAIっていう恐ろしい状況になってしまう。メディアがAIで記事を書くなら、しゃべる側もAIを使いたいという気持ちもわかるけど。

石野氏
 AIで記事を書いている人はごく一部ですけどね。

法林氏
 この問題は難しいよね。ルールを決められるのか。

関口
 少し前までは、他人の著作物を侵害するところが生成AIの問題点とされていましたが、すべて自分で生成したものを自分の著作物としていいのかという問題はありますよね。

石野氏
 指示を出しているのは、一応自分になりますからね。

法林氏
 でも、それは著作物と言っていいのか。それを認めると音楽はプロデューサーのものになるし、家は大工のものになる。

石野氏
 ボーカロイドみたいなものだと思えばいいんですかね。指示を出して、一発で完璧なものが仕上がるわけでもないですから。

法林氏
 誤字脱字のチェックとか、表組を作るくらいならいいのかもしれないけど。

 楽天に話を戻すと、読み上げをAIに任せることをどこまで許容するか。NHKの朝のニュースはAIが読み上げることが定着したけど、あれは誰がやってもほとんど変わらない。でも決算会見はちょっと違うよね。

石川氏
 ソフトバンクが以前、ペッパーでやった決算を思い出しました。

石野氏
 AIの三木谷さんはきれいな言葉ばかり使いますけど、それだと三木谷さんの良さが出ないじゃないですか。

法林氏
 すぐに備蓄米を買いに行くところが、三木谷さんらしさなのにね。