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「KDDIとソラコムは共に成長していく」、キーパーソンが語るその狙い

左からKDDIの新居氏、ソラコムの玉川氏、KDDIの藤井氏

 IoT向けの通信サービスや、アプリケーションを手がけるソラコムを、KDDIが子会社化すると発表してから約1週間となる8月8日、両社のキーパーソンによる記者説明会が開催された。

 会場には、ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏、KDDIバリュー事業企画本部本部長の新居眞吾氏、ソリューション事業企画本部副本部長の藤井彰人氏が登場。それぞれの立場から見た、買収の背景とは。

KDDIが評価したのは……

 2014年に設立、翌2015年にMVNOとして、NTTドコモ回線を利用したIoT向けの割安な通信サービス「SORACOM Air」の提供を開始したソラコム。7000以上の顧客アカウントに利用され、ダイドードリンコ自動販売機、東急プラザでのポイント付与情報管理のための閉域網の構築、北米の農場向けのモニタリングなど、さまざまな場面で活用されはじめている。

ソラコムの導入事例

 そんなソラコムに対して、KDDIの新居氏は「ソラコムはIoTベンチャーの雄。7000を超える利用があり、カンファレンスやセミナーも開催している。米国のイベントに参加した際には、日本だけではなくグローバルでも注目を集めていると肌で感じた」とその存在感の大きさを説明。ソラコムがさまざまな企業とコミュニケーションを取り、エコシステムを構築したこと、そして海外でも展開できる体制を整えていることを評価。子会社化によるシナジーのひとつとしてはグローバル展開も視野に入れる。

 もともとKDDIでは、IoTを全社的な取り組みと位置付けている。今回、ソリューション事業とバリュー事業という2つの部署のキーパーソンが登壇したのは、部署の垣根を超えて取り組む姿勢を示すもの。またスタートアップの育成・支援を手がける「KDDI∞Labo」や、ベンチャーファンドを運用しており、新居氏は「ベンチャーを支援するだけではない。ベンチャーの力でKDDI自身が成長していく」と語る。この言葉は、過去、「KDDI∞Labo」の成果発表会(Demoday)などで関係者からいくども紹介されたことがあり、KDDI内でベンチャーやスタートアップとの連携の効果を強く実感していることが垣間見える。

 8月2日のソラコム子会社化発表後、ネット上では批判的な意見が散見されたことを受けて、新居氏は今回、「ソラコムの良さが殺されるということは決してない。サポートすることで、ともに成長していく」と強調した。

新規ビジネスの創出、新たなネットワークの開発も

 既にKDDIでは、アクセンチュアとの合弁会社でデータ分析を行うARISE analytics社(アライズアナリティクス)を設立しているほか、広告配信プラットフォームのSupershipなどのグループ会社が存在しており、ソラコムが加わることで「ニーズに対応する上で、ケイパビリティ(組織的な能力)が揃ってきた」(新居氏)として、データ収集~分析とその応用まで、IoTを舞台にした新たな事業を創出できると意気込む。

 さらなる拡がりが期待される一方で、企業にとっては、IoTとどう向き合っていいか、わかりかねている部分もある。そのため、まずは実証実験(Proof of Concept/PoC、概念実証とも)から、という企業も少なくない。そうした点でソラコムのサービスは導入しやすいのでは、と新居氏。一方で、大規模な導入を検討する企業などには、KDDIの法人部隊が対応するといった形も可能になる。

 IoTだけではなく、2020年を舞台にした5G(第5世代の携帯電話サービス)に向けてもKDDI側のソラコムに対する期待は大きい。これまでソラコムでは、自社で開発した、携帯電話のコアネットワークに相当するソフトウェアをAmazonのクラウドサービス上に展開し、割安かつ柔軟なサービスを提供してきた。KDDIではそうした開発力を高く評価しており、SDN(Software Defined Network)やSDS(Software Defined Storage)といった“SDx”での次世代ネットワークの開発も、ソラコムとともに進める方針。ただし、まだ詳細は未定とのことで、会見ではそれ以上語られることはなかった。

 かつてグーグルで法人向けのクラウド部門を担当していた現KDDIの藤井彰人氏は「モノのインターネットが拡大するなか、通信事業者の役割はますます大きくなる。クラウドの時代、仮想化していくのは一般的。いち早く追従せねばならない」と語る。

 会見後、あらためて新居氏を直撃したところ、時期は先ながら、個人的な展望として、IoTと5Gの先にはVRのようなコンテンツを楽しめる世界もあるのでは、とコメント。現在は低消費電力化にともない、速度も遅いというのがIoT向けの通信技術だが、5G時代ともなれば大容量化も見込め、その先にあるかもしれない……という内容だ。

ソラコムから見た4つの課題

 買収される側となったソラコムは、なぜKDDIの傘下に入ることを選んだのか。プレゼンテーションに臨んだ玉川社長は、少し緊張した面持ち。

 その玉川氏が「チャレンジだと思っていたこと」と挙げたのは4点。ひとつは携帯電話網を使ったIoT向け通信サービスや5Gのサービスを早期に開始できるかという点。またクラウドのコアネットワークサービスの機能拡充、グローバルでの交渉・営業力、さらなる資金調達という3点も挙げられた。

 KDDI傘下になることで、1点目についてはMVNOという立場ではなく、キャリア子会社になることのメリットは明らか。

 2点目はKDDI側からも表明された次世代ネットワークの構築で、3点目はKDDIがすでに培った海外の携帯電話事業者との繋がり、そして4点目の資金調達は子会社化と、いずれも達成できる見通し。

 ブランドはそのまま、ドコモの回線を使った既存サービスも継続し、オフィスやスタッフ、経営陣などこれまでのソラコムはこれまで通りのIoTプラットフォーマーとして活動していくと玉川氏。ここ最近注力してきた、免許不要の周波数帯(アンライセンスドバンド)でのIoT向け通信技術であるLoRaWANやSIGFOXは、それぞれプライベートネットワークの構築に適していたり、低消費電力であったりとメリットがあり引き続き手がけると説明。携帯電話網を使ったIoT向け通信技術は、既存のauのサービスエリアを活用できることからポテンシャルが高いと評価する。

 その玉川氏が好きな言葉として挙げたのが、ソラコム立ち上げ前に勤務していたAmazonの創始者、ジェフ・ベゾス氏の「Still Day One」(日々が初日)。一般的にスタートアップが大企業に買収されれば、イグジット(Exit、出口)と呼ばれるが、玉川氏は「第二の創業期だと思っている。ソラコム創業時に考えた『世界中のヒトとモノを繋げたい』という想いはそのまま。日本初のグローバルプラットフォームを構築する。イグジットではなくエントランス(入口)だ」と手綱をゆるめることなくひた走る姿勢を示していた。