特集:5Gでつながる未来

“5G元年”に見えてきたミリ波やローカル5Gの未来、クアルコムジャパン須永社長が講演

 11月22日、「ET & IoT Technology 2019」の基調講演にクアルコムジャパンの須永順子代表社長が登壇した。「5Gがもたらすインパクト」をテーマに、世界の5Gの展開状況や同社の取り組み、ローカル5G(自営の5Gネットワーク)などについて語った。

“5G元年”となった2019年、ミリ波の活用に向けても前進

 講演の前半では、端末・通信機器ベンダーにチップセットや技術を提供するビジネスモデルの同社から見た、世界の5Gの展開状況が紹介された。

 以前は5Gの商用サービス開始は世界的に2020年頃というコンセンサスが形成されていたというが、1年前倒しで規格の標準化や開発が加速。実際には2019年が商用サービスにおける“5G元年”となった。世界で30社以上の通信事業者、40社以上の機器メーカーが1年目の時点で5Gに手を出しており、4G初期と比較しても10倍近い社数だという。このほか、日本を含めて近いうちに商用サービスを開始する予定の国・地域も多い。

 そして、5Gの可能性を広げるためにはミリ波帯の有効活用が不可欠だと須永氏。ミリ波普及に向けたクアルコムの取り組みの例としては、スマートフォン向けのミリ波対応薄型アンテナモジュール「QTM525」がある。

 QTM525は厚さ8mm以下の端末にも収まり、端末を大型化させることなくミリ波対応の5G端末を開発できるようサポートしている。また、最大4つまで搭載でき、「端末の持ち方によって電波強度が弱まってしまう」というハンドブロッキングの問題にも対応。デバイスの大型化や通信安定性といった、スマートフォンのミリ波対応において疑問視されていた部分を解決する製品となっている。

 クアルコムは、TDKとの合弁会社であったRF360を買収し、モデムからアンテナまでを含めたRF部品群全般を自社で提供できる体制を整えた。5Gやミリ波への対応でRF設計が複雑さを増すなか、ワンストップで提供できるメリットは大きいと須永氏は語る。

 ミリ波帯には、カバレッジは狭くても従来以上の高速通信を実現できたり、より多くのトラフィックを捌けたりといった利点がある。スモールセルを多数設置することでキャリアの都市部での5G網構築を効果的に進められるだけでなく、ADSLの巻き取りなどを見据えた固定無線アクセス(FWA)サービスの展開、自営網のローカル5G向けとしても活用が期待される。

製造業で高まる「ローカル5G」への期待

 ローカル5Gとは、携帯キャリアが展開する5Gサービスとは別に、企業や自治体などが、自社の敷地内、建物内など限られたエリアで運用する自営の5Gネットワークのこと。世界的にも5Gのユースケースとして注目されている一方、日本のようにローカル5G専用の周波数を割り当てる国は少ないという。

 セキュリティとキャパシティを両立した社内ネットワークとしての利用、XR技術を活用した遠隔での共同作業などさまざまなユースケースが想定されるが、特に期待が大きいのは製造業。工場内でのローカル5Gだ。

 高度化した工場では通信を必要とするさまざまな機器が稼働し、それらを運用するネットワークには異なる性能が要求される。たとえば、製品を組み立てる産業用ロボットの制御では信頼性の高さと遅延の少なさが重視されるが、通信速度はさほど必要としない。一方、作業効率化や教育コストの抑制などのためにヘッドマウントディスプレイを活用するなら、高速大容量の通信回線が求められる。また、工場内に多数のセンサーを設置すれば、レイテンシーでも速度でもなく、省電力性と多数同時接続が必要になる。このような要求を同時に満たすことは4GでもWi-Fiでも難しく、ローカル5Gによる実現が期待されている。