特集:5Gでつながる未来

5Gは期待大、収益モデルはまだ不透明――エリクソン野崎社長が語る5Gの最新動向

エリクソン・ジャパン 代表取締役社長 野崎哲氏

 エリクソン・ジャパンは都内で「エリクソン・フォーラム2019」を開催し、第5世代(5G)移動通信システムの現状や技術動向、同社の戦略や取り組みについて説明した。

日本における活動範囲は順調に拡大

 エリクソン・ジャパン 代表取締役社長の野崎哲氏によると、同社の設立から30周年となる2015年より開始したエリクソン・フォーラムは2019年で5回目の開催となり、5Gにあわせて節目の年としたいと考えているという。

 過去5年間では日本における活動をさらに拡大したといい、5Gの実現に向けてネットワークの仮想化を推進するほか、IoTに向けた取り組みを本格化。デジタルトランスフォーメーション(改革)のリードに向けて基礎を構築してきたと振り返った。

 日本市場へさらに踏み込んだコミットメントの一環として、新たに仙台市にオフィスを開設したほか、日本およびグローバル市場での事業拡張に向けて富士通との連携を行った。また、社会的責任を担う一端としては2019年に経団連へ加盟した。

 また、モバイルブロードバンド領域にとどまらない新規分野の知見も重要視しているという。国内主要企業と協力し、自動車ビッグデータ向けのネットワーク基盤とコンピューティング基盤の構築を目的としたAECC(Automotive Edge Computing Consortium)を2017年末に設立した。

5Gで新たな収益源も創出

 グローバルで見ると移動体通信の市場と顧客は増加を続けており、今後も拡大するとみられている。また、ICT業界全体の市場規模のうち約39%を通信事業者が占めているという。

 通信事業者においてはデジタル化推進のニーズが高まっているという。効率改善の面では、従来は人手に依存した環境の運用が行われていたが、デジタル化により運用の自動化や簡素化されたIT・ネットワーク環境の構築が可能となる。

 また、収益源としてはこれまで音声、メッセージング、ブロードバンド接続が主となっていたが、5Gの導入によりネットワークスライシング、分散型クラウド、IoTなど新たなサービスの展開による収益も期待できるようになるという。

 5Gとデジタル化により、医療、製造、輸送、エネルギーなど多くの分野で人口減少による人材不足など、社会的課題の解決に向けて変革が期待できるとしている。

5G実現に向けた取り組み

 5Gに対する社会的な期待は非常に高くなっているが、実際には収益性やビジネスモデルはまだ不透明で、モバイルネットワークの複雑化や周波数帯域の振り分けなど、課題もまだ残されているという。

 5Gの実現に向けてエリクソンは「The 5G switch made easy」を掲げ、5Gの導入を大幅にシンプルかつ効率的に実現できるようにしているという。

 エリクソンが2015年以降に導入した基地局設備では、ソフトウェアの更新だけで5Gに対応できるようにしている。同周波数帯域での4Gと5Gの同時効率運用を実現するための「ダイナミックスペクトラムシェアリング」では、4G、5Gそれぞれの加入者数やトラフィックに応じて帯域の割り当てを自動的に変化させることができる。

 2018年12月の世界初の5G商用化以降、世界中で5Gの導入が進められ、2019年10月時点で4大陸、22事業者が5Gの商用ネットワークを展開している。5G市場をリードしているとされる北米では、49都市のうち36都市でエリクソンが5Gベンダーとなっている。

次のステップはインダストリー4.0の実現に向けた産業向け5G

 産業向け5Gを次のステップと位置付け、エリクソンの自社工場をはじめ、世界中で「インダストリー4.0」の実現に向けた取り組みを進めている。メルセデス・ベンツをはじめとした自動車工場においてはローカル5Gなど、エリクソンのネットワークソリューションを活用し、生産効率の向上と生産ラインの柔軟性を大幅に向上したという。また、プライベートネットワークで5Gを完結させることで、低遅延や生産データなどの機密情報の保持も実現するという。

 エリクソンの今後の展望として野崎氏は「日本市場におけるビジネスは拡大が期待されていることから、グローバルでの戦略の一環としても日本市場が重要視されている。日本の産業界の知見を取り込んでいく取り組みを本格化していく」と語った。

デモ展示

 デモ展示会場では、ミニシティモデルを用いてLTEから5Gへの移行などさまざまなケースのネットワークカバレッジ構築方法を示す展示や、AIによるネットワーク最適化の適用例や展望などの最新事例の紹介、無線機器やネットワーク機器の展示やライブデモなどが行われた。

帯域幅をLTEと5Gで効率的に利用できるスペクトラムシェアリングの例がミニモデルで示された。青色の点が基地局の設置場所で緑色で表示されている領域はLTEのカバレッジ
5Gの基地局を設置した後のカバレッジマップ。5Gのエリアは赤い領域
既存の周波数帯域を使いまわしできる5G NRを利用したカバレッジマップ。ダウンリンクとアップリンクのデカップリングによりデータの分割制御が可能
屋内向け無線ユニット「5G Dot」
ライブデモとして実際に電波を発射
スペクトラムアナライザーを介して100MHz幅のNR信号を送信していることが確認できた
エリクソンの無線機(画像上部2台)やベースバンド(画像下部2台)が展示された。アプリケーションサーバなどの実機も展示されていた
AIによるネットワークの品質問題の自動検知・分類はチャイナ・ユニコムにおいて商用稼働中。60の指標から20のカテゴリーに分類する(従来手法での指標は4~8)
AIによる負荷分散最適化
学習データを他都市でも使いまわしできるため、最適化に必要な工数や時間を大幅に効率化できる。AIにより下りスループットは約10%改善したという