特集:5Gでつながる未来
不可能とまで言われた「ミリ波5G」をいかに実現するのか、クアルコムの最新動向
2019年9月27日 06:00
日本でも商用化の前段階となるプレサービスが始まり、さまざまな業界から注目を集めている次世代移動通信「5G」。現行の4Gと比べて、高速大容量(eMBB)、高信頼・低遅延(URLLC)、多数同時接続(mMTC)の通信サービスを提供できる点が大きな特徴となる。
3つの特徴のうち、高速大容量(eMBB)の鍵となる要素のひとつが、これまでの移動通信に使われてきた周波数帯よりもはるかに高い「ミリ波」と呼ばれる周波数帯の活用だ。日本の5G用周波数では28GHz帯がミリ波に該当する。2019年4月に、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に対して各400MHz幅が割り当てられた。
ミリ波はこれまでの移動通信には使われておらず、広い周波数帯域を確保できることに加え、性質上も大容量の無線伝送に適している。たとえば、ターミナル駅やイベント会場など、トラフィックが集中する場所のネットワークを局所的に強化するといった用途が考えられる。
一方で、長距離の伝送に適さないことや直進性が高く回折が起きにくいことなどから、エリア設計が難しく活用が難しい周波数帯でもある。5Gを早期に立ち上げる地域でも、sub-6(6GHz未満の周波数帯)だけでスタートする地域も少なくない。
米クアルコムは9月24日、5Gに関する最新の取り組みを紹介するメディア向けイベント「Future of 5G Workshop」を開催。同イベントの基調講演や技術デモンストレーションでは、不可能と言われたミリ波でのモバイル通信に挑む研究開発の成果も取り上げられた。
ミリ波を扱う上での課題として、直進性の高さゆえに、障害物がなくアンテナを目視できる範囲の直線上(LOS:line-of-sight)でないと電波が届かないと以前は考えられていた。この点に関しては、目的の端末に向けて指向性を高めるビームフォーミング技術と壁などの反射を活かすことで、アンテナの死角となる場所(Non-LOS)でも通信できることを実証している。
今回のイベントでは、クアルコム本社の屋内に設置されたミリ波アンテナと市販の5Gスマートフォンを用いて、反射を使ったミリ波通信の様子が披露された。
吹き抜けの2階部分にアンテナが設置されており、1階からアンテナを見上げる状態、つまり障害物がなくアンテナと端末を直線で結べる好条件での下り通信速度は1.2Gbps前後だった。その後、アンテナの真下にあるガラス扉を通り、死角となる場所に移動。反射波による通信となる2回目の速度計測では下り900Mbps前後をマークしており、LOSの場合と比べれば若干速度は落ちるものの、調整次第ではNon-LOSでも十分に高速通信が可能なことが分かる。
実際の利用環境では通信中のユーザーが決まった場所に留まっているとは限らず、動的な制御が必要になる。試験用の基地局と端末を用いた屋外でのデモでは、ビームステアリング、ビームトラッキングによって端末が移動しても接続が維持される様子が披露された。
デモ画面を見ると、基地局側(画像右下、RRH1)では接続中の端末に向けて集中的に電波を発射しながら、端末の移動を見越して次の角度のビームも候補として待機表示されている。
端末側でのアンテナ制御も重要で、試験用端末には複数の方向にアンテナが搭載されており、より電波強度が強い方向を選び取って使用するアンテナを切り替える仕組みになっている。下の写真の場合、緑色の線が表示されている右側面のアンテナが使われている。基地局は左側にあるが、反射波の方が有利と判断された状況だ。
クアルコムは5G端末向けのアンテナからモデムまでの高周波フロントエンド(RFFE)ソリューションを包括的に提供できる数少ない企業で、製品化されたミリ波アンテナモジュールにも既に同様の機能を搭載している。たとえばSnapdragon X50モデムと組み合わせて利用するQTM052アンテナモジュールでは、最大4つのアンテナを端末の各方向に搭載してビームフォーミング、ビームステアリング、ビームトラッキングによって安定した接続を維持できる。