特集:5Gでつながる未来

キャリア3社の5Gとは――「ワイヤレスジャパン2019」基調講演で示されるビジョンと最新動向

 2019年9月にはドコモとauが5Gのプレサービスを開始、ソフトバンクも年内の開始を予定しており、いよいよ5G時代の到来が近付いてきた。

 5月末に東京ビッグサイトで開催された、無線通信に関する展示会「ワイヤレスジャパン2019」の基調講演には、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が登壇。5G時代に向けた取り組みの最新動向について解説した。

 携帯キャリア各社は既に具体的なユースケースを想定した実証実験などを繰り返しており、このタイミングで新たなニュースが舞い込むことはなかったものの、各社の取り組みが改めて整理され、5Gでどのような社会を目指すのか、そのビジョンが語られた。

パートナー企業との“協創”を重視するドコモ

 ドコモは、3G時代は「iモード」によって携帯電話から情報端末に進化し、4G時代にかけてはスマートフォンの普及で多彩なアプリが利用できるようになったように、5G時代でも通信手段としての進化だけではなく、新たな価値を創出していく必要があると強調。AIによる「ライフスタイル革新」、VRによる「体感革新」、IoTによる「ワークスタイル革新」を目指す。

 その上で、ドコモが重視しているのがパートナー企業との“協創”だ。

 同社は2018年2月に「5Gオープンパートナープログラム」を開始。5月13日時点で約2600の企業・団体が参加し、5Gを活用した新たなビジネスの創出に取り組んできた。サービス業、小売業、運輸・交通業と参加企業の業種は幅広く、自治体なども参加している。

 具体的な事例としては、コマツとの取り組みでは「高速大容量」「低遅延」という5Gの特性を活かした建設機械の遠隔操作システムを開発。地方での人手不足を解消するソリューションであると同時に、「作業現場が頻繁に変わっても、オペレーターは毎日同じ場所で仕事できる」という働き方改革を推進するソリューションでもある。

 パートナー企業と協力して、通信だけではなく5Gを軸にした新たな価値を生み出していくという方針は、個人向けのスマートフォンにおいても同様だ。

 5Gスマートフォンをハブとして、VR/AR/MRデバイスなどの周辺機器やサービスと高度に連携することで、5Gならではの新たな世界を体感してもらおうという「マイネットワーク構想」を掲げる。構想の実現に向けて、4月にはxR分野の先端技術を持つMagic Leapとの資本業務提携も発表している。

社会・個人の課題解決を目指すKDDI

 KDDIは、5Gなどの先端技術を用いて「社会全体の課題」「個人の課題」の両方の解決を目指す。具体的には、社会全体の課題である人口減少や高齢化に備えたソリューションを生み出し、個人に対しては新たなユーザー体験の提案で豊かさの追求に応える。

 講演では、これまでに行ってきた実証実験の中から、法人・個人向けそれぞれの事例を紹介。熟練の杜氏が感覚で行っていた部分を数値化することで効率化とあわせて技術の伝承に役立てられる酒造の遠隔監視システムや、多数の4Kカメラを用いて自由視点映像をリアルタイムで作成する「スタジアムエンターテインメント」などの事例が取り上げられた。

 5Gを活用した法人向けソリューションによる仕事の効率化や働き方改革、自動運転や娯楽などの個人向けサービスの両面で、より豊かで快適な社会を構築していくと5G導入の意義を語った。

 5Gの導入計画については、2019年度は一部エリアでプレサービスを開始する「導入フェーズ」、2020年度は正式サービスの開始に向けてエリアを広げていく「展開フェーズ」、2021年度以降はコアネットワークの移行なども進める「本格化フェーズ」になると説明。本格展開に向けて、従来よりも高い周波数帯を利用することに伴う伝搬特性の検証など、技術課題の解決を図っていく。

 特に、5G時代には従来のスマートフォン・携帯電話だけではなく、「高速大容量+多数同時接続を求めるドローン」「高速大容量+低遅延を求めるファクトリーオートメーション」「高速大容量+低遅延+多数同時接続のすべてを求める自動運転」といったように、要件の異なる様々なサービスが同じネットワークを利用することになるため、無線リソースを適切に分割するためのネットワークスライシング技術の実証を進めている。

ソフトバンク「5Gは『サービス』が主役」

 ソフトバンクは、3G時代には音声通話、4G時代にはデータ通信が多用され発展を遂げてきたように、5G時代には「サービス」が主役になるとアピール。通信サービスももちろん提供していくが、先端技術を活用したサービスを売っていく、そのサービスを実現する手段として5Gを活用していく考えを示した。

 スマートフォンの普及によって「スマートフォンをみんな持っている」という前提で成立したサービスが数多く成立したように、5Gであらゆるものがインターネットに繋がれば、さまざまな“XaaS”を提供できるとして、MONETなどを例に挙げた。

 講演では、5Gの高度化に向けて「低遅延」「多数同時接続」を実現するための取り組みを紹介。たとえば低遅延が求められる用途の1つには自動運転があり、10msの遅延でも自動車は数m進んでしまい、遅延が大きいと送受信した情報が意味を成さないため、実現には必須の技術となる。

 また、携帯電話のネットワークは人口ベースでは99%以上の高いカバー率を達成しているが、基本的に「人がいる場所」を中心に整備していると説明。面積ベースで見れば山間部などカバーされていない部分も少なくなく、トラックの自動隊列走行などを行う場合、空白地帯でも車両間のやり取りを行う必要が生じる。同社は4月、圏外でも車載端末同士での直接通信を行う技術の実験に成功している。

 「携帯電話網は“人がいる場所”に対して構築されている」という課題は、トラックの隊列走行に限った話ではない。5Gのさまざまなユースケースに関係するため、同社は通常のエリアの外でも5Gを活用したサービスを提供するための手段を講じる。

 たとえば商業施設の建設現場のような「今後人が集まるが、今はいない場所」に対しては、一時的にピンポイントな5Gエリアを展開するための「おでかけ5G」を用意。また、航空機型の基地局「HAPS」が実用化されれば、ドローン向けの通信サービスの提供も容易になる。