【MWC19 Barcelona】

ドコモの中村常務に聞く、一般消費者にとっての5Gのメリット

 2020年の商用化を前に、2019年には5Gのプレサービスが国内で始まる予定だ。MWC19 Barcelonaでは、5G対応のスマートフォンが並び、サービスインに向けて期待感が膨らんでいる。

 5Gには大容量、多接続、低遅延という3つの特長があるとされるが、実際のところ、そんな5Gが立ち上がった時、我々、一般の消費者にとってどんなメリットがあるのだろうか。

 NTTドコモ 取締役常務執行役員 R&Dイノベーション本部長の中村寛氏に、そのイメージを伺った。

すでに2200社超のパートナーと100以上のユースケース

――ブースでのデモを拝見すると、5Gの技術の話がサービスとして落とし込まれてきたという印象でした。

中村氏
 ありがとうございます。私が言うのもなんですが、技術だけで5Gを構成するというものではありませんし、ご存知のようにオープンパートナープログラムをはじめ、いろいろなパートナーの皆さんと共創しながら5Gを作っていきたいと考えていまして、お陰様で2200社を超えるまで入っていただきました。考えられ得るいろいろな分野のパートナーの皆さんに入っていただき、ご一緒に考えて、どういう5Gの使い方が皆さんにとってベストであり、またビジネスができるかということの議論が進んできたなと思います。

 実際にユースケースが100以上作れるようになってきました。MWCでは全てをお見せすることはできませんが、いくつかのパートナーにご協力いただき、今回の展示を行っています。例えば、ヤマハさんとの取り組みはオープンハウスではご紹介しましたが、国際的なイベントでは初めて披露しました。医療系もお医者様から結構期待をいただけているという感触を得ましたので、具体的なビジネスにフィールドが移ってきたように思います。

――B2Bのデモが多い印象もありますが、コンシューマー向けはいかがでしょうか。

中村氏
 やはり5G自体で何ができるのかというのは大きな関心事だと思いますし、1オペレーターが全部できるわけではありませんので、いろんな業界の皆さんとコラボしながら作っていかないといけないというのは、まさしく我々も同じ思いです。

 今回、展示は小さいですが、スマートフォンだけでなく周辺デバイスも拡張しながら新しいユーザー体験ができる環境やサービスもあり、コンテンツプロバイダーやデバイスベンダーの皆さんと共に発展させるような構想というのを考えています。

 今、皆さん、便利にスマートフォンをお使いいただいていますが、まだ不便なところもあります。私などいい年ですから、フリックで字が簡単に入らないとか、映像を見ていても小さいスクリーンでは見づらく、もっと迫力が欲しいとか、うるさいところで耳に当ててもなかなか声が聞こえない、スマートフォンの形状になってから、どこにスピーカーがあるか分からないですとか、そういったことはスマートフォン単体ではなく、周りのデバイスと連携することでもっと拡張したり、便利になったりということをできるのではないかと考えています。そういう世界観の中で、サービスの提供、拡大ということを、いろいろな皆さんとご相談を始めているところです。

 一つはAR/VRのグラスを使って、ある意味、イマーシブコミュニケーションですが、超リアリティのような世界を実現できないかとか、イヤホンもうまく使うと、今はAIでアドバイスをもらえるようなエージェントサービスをやっていますが、画面に出るだけだといちいち見なければいけない。実はイヤホンはずっと耳につけていてもそんなに違和感がないというデバイスですから、耳元でささやいてくれれば、それはそれで便利な使い方ができるのではないか、と。

 これは新しくグループでやったものですが、シースルーのデバイスを使い、スマートフォンをわざわざポケットから出さなくても、AR的な体験ができ、例えば、街並みを写すとこれがどういう街ですということをインバウンドの方に教えたり、ビジネスコミュニケーションの世界で、前に座っている方が必ず以前にお会いしているはずだけど誰だったかな、ということがあると思いますが、ちょっとかざすと、顔認証して、いつお会いして、こんなことをやりましたということが分かるですとか、よく言われるように双方向の翻訳みたいなことですとか、そんなことにデバイスが使えると、スマートフォンだけじゃない使い方が今度生まれてくるかなと考え、ユーザーの皆さんへの価値を高めていくということを考えています。

5Gでスポーツの見方が大きく変わる

――2019年にはプレサービスを始めなきゃいけないというスケジュール感ですが。

中村氏
 やらなきゃいけないというか、我々から喜んでやろうと、しっかりやっていきたいと思っていますよ(笑)。

――その時のサービスのイメージとして、一般のコンシューマーは参加できる想定なのでしょうか?

中村氏
 プレサービスの時は残念ながら端末を販売することはたぶんしないと思いますので、こちらからお貸出しという形でお使いいただくことになると思いますが、いろんなイベントの時、ちょうどいいタイミングでラグビーのワールドカップもありますので、そういう機会を使いながら、例えばスタジアムやその周辺で皆さんに5Gを体験いただきたいと考えています。

 コンシューマーの目から見たとき、新しい体験かなと思うのは、スポーツの見方が変わるのではないかと思います。今回もフジテレビさんとジオラマスタジアムと称してデモを披露していますが、よく放送局の方がおっしゃっているのが、スポーツ番組を撮るとき、カメラを設置するのに多大なケーブルを這わせなければいけない、と。場合によっては、何百キロ、何トンにも及ぶようなケーブルを敷設して、カメラと中継車を繋いで、そこから放送局に飛ばすというようなことをされています。

 例えば、ゴルフの中継が最後の3ホールしかないのは、カメラを設置するのが大変だからだと。それを無線に代替すると、何百キロ、何トンというケーブルは全くいらなくなりますから、すごく楽なんです、というようなお話を伺います。

 デモもさせていただいていますが、ユーザーからしても、マルチアングルでいろんな角度からスポーツを見られる、好みの選手のラウンドをずっと追えるような移動カメラみたいなものが出てくれば、ゴルフとかスポーツの見方が変わってくるのではないかと思います。

 ですから、直接お客様に提供しない部分ですが、そういうB2B2Cの形でお客様の新しい体験というものも増えてきます。先ほど申し上げたように、周りのデバイスを使うというB2Cで直接お客様に訴求できるものもあるかもしれませんし、B2B2Cで我々のパートナーの皆さんが5Gを使うと、お客様にサービスとして価値が生まれてくるということも期待できます。

――海外ではラストワンマイルで5Gの活用が始まっていますが、日本ではいきなりモバイルでやろうとしています。なぜラストワンマイルはやらないのでしょう?

中村氏
 そこは誤解があるのかもしれませんが、やらないのではなく、それ以上にやることがいっぱいあるということだと思います。昨年秋から米国、韓国を中心に5Gサービスを世界初という形でスタートされたオペレーターさんがいらっしゃいます。我々もよくその皆さんとはディスカッションしていますが、ご存知のように端末がまだありません。CPEの形の端末が唯一あり、もしくはWi-Fiルーターの形の端末があるという状況であれば、そのサービスで始めるしかないというのも当然あるのだと思います。

 米国のオペレーターさんとも話していますが、彼らもそれで終わりたいわけでは決してなく、早くモバイルをやりたいとおっしゃっています。やはり端末の出荷を待っているようなところがあるのではないかと思いますし、韓国ですとすでにスマートフォンを見せて、これがもうすぐ来るよ、とアナウンスされています。

 今回、バルセロナに来て、端末ベンダー各社が5G端末ということでスマートフォンの形を出してきましたので、これから5Gモバイルスマートフォンの世界がさらに広がっていく、やっとそういうタイミングになってきたのではないかと思います。先行されているオペレーターさんがFWA的なことをされているのは、そのタイミングでできる最大のことをされた、ただそれが全てでは当然ありませんし、ドコモではそれに加えて先ほど申し上げた2200社を超えるパートナープログラムがあり、新しいビジネスの創造をしていますので、FWAをやらないというわけでなく、それ以上にもっとやることがいっぱいあるので、そちらの方が目立っているし、またそちらの方にいろんなビジネスチャンスがあると思いますから、そうしたことをしっかりやっていきたいと考えています。

 我々は9月のプレサービス、来年春の商用化を考えていますから、サービスを始める時には最初から単なるネットワークサービスだけでなく、本当のビジネス、パートナーさんとのB2B2Xのビジネス、我々がご提供できるかもしれないB2Cの部分のビジネス、こういったものを同時に提供したいというのが我々の意志でもありますし、そういった風に市場を持っていきたいと思います。

1G/2Gはビジネス、3G/4Gはコンシューマー、5Gは?

――既存のサービスの延長線上で提供するのは簡単ですが、新しい価値の創造にドコモとして積極的に取り組んでいくことにこそ意義があるということでしょうか。

中村氏
 そうですね。4Gまでの世界というのは、5Gの世界に比べて2つ違うことがあるような気がします。とくに3Gと4Gがそうですが、コンシューマーに向けたサービスが発展した世代だと思います。きっかけは実は2Gから始まっていますけども、iモードが1999年に2Gでスタートし、3Gの時代に大きく花を開いてコンシューマーの皆さんに圧倒的に広がっていきました。それまで2Gの世界は、1Gから自動車電話から始まりエグゼクティブの方がお使いになるステータスとしての電話だったというのが、1Gの最後から2Gの頭でムーバ、デジタルムーバとなってきて、ポケットに入る電話ということで、サラリーマンの方にまで拡大し、ある意味、ビジネスユースが中心の発展でした。3Gに入る寸前にiモードが出て、その前はポケットベルから始まったコンシューマーサービスが一気にiモードにシフトして、それが3Gで発展し、今度、3Gの最後にスマートフォンが出て、現在の4Gでそれが大きく花開く、と。これがまさしく、今はコンシューマーサービスの20年なのかなと思います。

 このトレンドが5Gの時代も変わることなくさらに発展していかなければならないと思っています。それが冒頭で申し上げた、いろいろな周辺デバイスを使いながらスマートフォンの世界観をもっと広げて、ユーザーの皆様に新しい体験をしていただきたいというのが一つの方向性だと思いますし、B2B2Cの形で新しいスポーツの見方とか、クラウドゲーミングとか、5Gで新しくユーザーの皆様が体感できる世界が来ているのかなと思います。それが5Gの世界で一つ変わってくることです。

 もう一つは、1980年代、1990年代と1G/2Gがビジネスで花開き、2000年代、2010年代の3G/4Gがコンシューマーで大きく発展し、5Gはその両方が同時並行的に発展する時代になるのではないか。よく10年ごとに移動通信の技術が発展すると言われますが、マーケット的に見ると私は20年周期だと思っていて、ビジネス、電話という発展から、コンシューマー、モバイルマルチメディアというか、スマートフォン、iモードみたいなものが発展し、第3の波は2020年から始まる5G、その次があるとすれば6G、2020年代、2030年代はその両方がそれぞれ発展していくような世界が生まれてくると考えています。

 そういう意味でも5Gというのは大きなターニングポイントになっていくでしょうし、それを象徴するように、マーケット、とくにビジネスユースの方が非常に期待いただいている。2200社のオープンパートナープログラムと申し上げましたが、まだサービスを始める2年も前から皆さんと協業できるというのは今まで無かったことです。今までは、どちらかというと、ネットワークサービスを始めてしばらくすると、何か使えるんじゃなかとじわじわとサービスが始まってきましたが、今回の5Gは始まる前から皆さんが期待感を持ってプログラムに参加いただいて、今も100以上のユースケースが実際にパートナーの皆さんとの間から生まれてきているというのが、大きな変化だと思います。

――もうすでに6Gに向けての話も出てきているのでしょうか。

中村氏
 これも時代とともにですが、我々は5Gの技術の基礎研究を2010年から始めました。ちょうどLTE(4G)が始まる年です。技術的には10年ごとに進歩が起こっていますので、2014年にはグローバルのプレイヤーの方、装置ベンダーやチップセットのベンダー、端末ベンダー、さらに測定機器のベンダーと、そういう方々と技術の実証実験を行い、技術を高め、それを結果としては3GPPというところでの標準化をすることで、グローバルな技術規定を世界の皆さんと共に作ってきたというのが5Gの流れです。

 実はこれは3G、4G、5Gと同じような10年ぐらいのスパンでの研究開発から始まっているものになります。そうやって考えると、やはり2020年に5Gが始まるタイミングは、ぼちぼち次の世代の基礎研究を始める時期かなとということで、今、その助走を始めたところです。

 5Gは2020年に始まるとはいえ、その後10年間は技術発展が継続しますので、一つはその5Gの技術発展の検討をしっかり加速させていきたいということで、これはすでに始めています。標準化の世界でも、昨年リリース15が最初の5Gのスペックとして確定していますが、今、リリース16という次のバージョンで機能拡張が始まっています。この16は実はそれほど大きな機能拡張は無いのですが、その先の17、18が続いてきますので、そういった中で5Gの技術を拡張していきたいと思っています。さらに延長線上、2030年になるかどうかは今は何も言えませんが、繰り返すなら2030年が一つのターゲットにはなると思いますが、6Gという世界はやっぱり来るだろう、と。それに向けての技術もぼちぼち検討を開始する時期かな、と。グローバルでもぼちぼち6Gを始めるよ、ということをおっしゃっている方もいますので、そういう時代になってきたかなと思います。マーケットは5G、研究は次の世代を、という時期ですね。

有線もチャレンジが続く

――難易度としては、どんどん難しい周波数帯を使いこなさなければいけないということで大変になりそうですが、やはりそこが難しいのでしょうか。

中村氏
 無線の難しさは、やはり有限のリソース、かつ自然界を相手にするような技術の中で、いかに効率を上げるか、容量を上げるか、速度を上げるか、これは同じことを違う言い方をしているだけですが、いかに限られたリソースを最大限使っていくかという技術だと思いますので、今まで割り当てられている周波数帯には限りがありますし、そこには使っている方がいて空きが無いということになれば、自ずと高い周波数に行かざるを得ないというのはしょうがないことだと思います。

 ある意味、西部開拓史で西へ西へと行ったのと似たようなところがあるんだと思いますが、高い周波数を使いこなす技術では、今回のミリ波が一つのエポックになるような気がしますので、それを究めていくことで、またさらに高い周波数にチャレンジしていくのかなと思います。

 周波数が高くなることで、Massive MIMOみたいに、アンテナが小さくなることによって、また新しい使い方なども出てきていますので、そういう特性をうまく使いながら、ユースケースに当てはめていくというのが、これからの技術なのかなと思います。

 実はモバイルネットワークと言えども、無線じゃない部分もいっぱいあります。最後の数キロは無線ですが、残りは全部有線で繋がっていますから、その有線のネットワークをどうするか。遅延に厳しいものについてはエッジコンピューティングみたいな話が始まっていますし、使い方によってはスライシング、ネットワークの仮想的な使い方をしていこうとか、それに則ったようなネットワーク構成に将来的には変えていくべきじゃないかということも標準化では議論が始まっていますので、そういったことをトータルで見ながら5Gの発展、さらに次の世代を考えたいと思っています。

――有線というと光ファイバーですが、こちらもアップグレードのめどはついているのでしょうか。

中村氏
 光ファイバーも我々ですとグループのNTTの研究所が一生懸命技術を検討していますが、光ファイバー技術自体が発展しているのも事実です。今までの芯線が1本しかないものから複数の芯線を使うものとか、ファイバーの中にも逆に無線で培われた技術がどんどん入ってきて、例えば64QAMが入ってきています。自然の中で培ってきた技術が、光ファイバーのより環境の良い中で適用すると、もっと発展するということも考えられますから、そういった技術の融合が進んでいる段階です。ファイバーもまだまだ発展しますし、容量が必要になってくれば、そういうことも技術として必要となりますので、すでに先取りしてやっているというのが現状です。

――この1年、楽しみにしています。ありがとうございました。