レビュー
M3チップ搭載のiPad Airは高性能な“生成AI”を備えたお手軽モデル、進化したMagic KeyboardもよりProに近い性能を発揮
2025年3月18日 00:00
アップル(Apple)が12日に発売した新型「iPad Air(M3)」では、M3チップを搭載し、Apple Intelligenceが利用できるなどアップデートがあったものの、価格は先代モデル「iPad Air(M2)」と据え置きで提供される。あわせて発表、発売された「iPad(A16)」でも、次世代プロセッサー(A16)の搭載など機能面が拡充されたが価格は最も安いモデルで据え置き(ストレージ容量が64GB→128GBに増量)、256GBモデルでは8万4800円→7万4800円と安くなっている。
安くなったのはうれしい限りだが、一方でスペックの進化でどのようなことができるようになったのか、スペック表だけ見てもイマイチわかりづらい。
今回は、「iPad Air(M3)」がどう変化し、どういった点で優れているのか、実際に感じた点に触れていこう。
Proモデルのスペックをお手頃価格で
iPad Airは、iPadシリーズの中でもスタンダードな立ち位置のモデル。ハイパフォーマンスの「iPad Pro」と比較すると、1段階前のプロセッサーが使用されていることが多いが(今回のM3チップに関しては、iPad Proに搭載モデルはない)、iPad Proで人気のある性能を買いやすい価格で購入できるのが大きな特徴だ。
価格を比較すると「11インチ iPad Pro(M4)」は16万8800円~、「11インチ iPad Air(M3)」は9万8800円~と、約7万円の価格差がある。カメラ機能やUSB-C端子の性能に違いがあるため、単純に比較できないが、ビジネスユースからコンテンツクリエイターまでさまざまなユーザーに必要な機能を備えている機種だと言えるだろう。
「iPad Air(M3)」では、これまで同様11インチモデルと13インチモデルが用意されている。13インチモデルは11インチモデルよりも約30%、ディスプレイが拡大されているが、実際に見てみるともう一回り大きく感じる。iPad Airで絵を描くことが多かったり家で使うことが多かったりするユーザーは13インチを、逆に外出先で使用することが多ければ11インチの方が使いやすくなると感じた。
Magic Keyboardにファンクションキーが搭載
新しくなったiPad Air用Magic Keyboardも発売された。先代モデルから、タッチパッドが広くなったほか、キーボード上部にはファンクションキーが追加されている。iPad Pro用のMagic Keyboardにも搭載されているもので、機能も同じものが備わっている。
また、ヒンジ部分にはパススルー充電対応のUSB-C端子が備わっており、画面角度も先代モデルよりより細かくスムーズに調整できるようになっている。いわゆるパソコンライクな使い方により近くなった格好だ。
なお、細かな変更点として、従来「英数」表記のキーが「ABC」に、「かな」表記のキーが「あいう」に変更されている。
価格は、11インチモデルが4万6800円、13インチモデルが4万9800円と、先代モデルから3000円安くなっている。
なお、Apple Pencilは「Apple Pencil Pro」と「Apple Pencil(USB-C)」に対応している。先代のM2モデルで使用していたApple Pencilがそのまま利用できる。
生成AIがオンデバイスで利用できる性能
チップの性能を見ると、M1チップを搭載した2世代前の「iPad Air(第5世代)」と比較してマルチスレッドのCPUワークフローが最大35%、グラフィックス性能は最大40%性能が向上している。
また、機械学習を担うNeural Engineは16コアで、60%高速化されている。Neural Engineは生成AI機能の活用に重要な機能で、4月に日本語対応する同社の生成AI「Apple Intelligence」の性能にも直結する数字だ。
生成AIと言うと、Chat-GPTなどクラウドベースのサービスが展開されているが、クリエイターやビジネスユースの世界では、デバイス上で処理する“オンデバイス”であるかが求められる。社内の情報や仕事上の機密情報などは、なかなかクラウドサーバーで処理するAIは活用しづらい。また、3Dモデリングアプリやメイクアップアプリなど、ユーザーの操作がすぐに反映される必要があるアプリでは、処理時間が長いとスムーズに活動できなくなってしまう。
「iPad Air(M3)」では、たとえば画像の切り抜きを作成したい場合もワンタップですぐにレイヤーとして出力される。3Dモデルを作成する際も、なめらかに描画され、AR表示をさせてもラグを感じさせない描写が実現できる。
同じ週に発表されたM4チップ搭載「MacBook Air」や「Mac Studio」も生成AI機能に注目
「iPad Air(M3)」と同じ週に発表されたM4チップ搭載「MacBook Air」とM4 Max、M3 Ultraを搭載した「Mac Studio」も同様に生成AI機能が向上されている。
M4チップ搭載「MacBook Air」では、新しく1200万画素の広角カメラがディスプレイ上部に配置され、被写体を中央に自動で画角が調整される「センターフレーム機能」や手元を写した配信ができる「デスクビュー機能」が搭載された。深度情報も取得するため、スタジオ照明機能などとあわせれば、ユーザーのポートレート写真を簡単に作成できるため、SNS用のアイコンや宣材写真などをよりスムーズに制作できる。
また、強力なM4チップでは、高い負荷の処理にも対応。たとえば、1200万ポリゴンの3Dレンタリングが約20秒で処理できるようになるなど、チップ性能を活かした処理ができる。
そして、生成AI機能では、iPad Air同様にオンデバイスでのAI処理性能に優れている。ビジネスユースが多いノートパソコンでは、とりわけ機密情報をどう取り扱うかが課題となっており、たとえば大企業では社内ネットワーク上にAIサーバーを設置すれば、社内ネットワーク上でのみデータが行き交うため、営業情報などでも利用しやすい。一方、中小企業ではAI用のサーバーを設置することは費用面などで難しい。加えて、人員の少ないスタートアップ企業では、メール1通送ることでさえも効率化が求められる。
M4チップ搭載「MacBook Air」では、こうしたビジネスユースでの生成AI活用も得意としており、オンデバイス処理に必要な性能を備えている。ローカルに保存している営業データなどをAIに分析させてレポートさせたり、レポートしたものを社内外の相手にメールで送付させたりする作業をAIにやってもらうことで、よりクリエイティビティな時間を拡大させられる。
一方、M3 Ultraを搭載した「Mac Studio」ではさらに大規模なAI処理に対応する。
大規模言語モデル(LLM)をローカルにダウンロードして、オンデバイスでそのLLMを使って処理できる「LM Studio」では、LLMをメモリー上で扱うために膨大なメモリー容量を消費する。DeepSeekやSnowflakeなどではその容量が200GBを超えることもあり、M4 Maxモデル(最大128GB)でさえも高い性能を発揮できない。M3 Ultraモデルでは、最大512GBのユニファイドメモリーに対応しているため、本格的な生成AI処理がスムーズにできるようになる。
Apple Intelligence自体はM1チップモデルから対応
これまで、生成AI機能を中心に紹介してきたが、Apple Intelligenceの機能自体は、iPadシリーズなどではM1チップ搭載モデルから利用できる。このため、先代モデル(M2、M1モデル)でもApple Intelligenceは利用できるため、すでに対応モデルを使用しているユーザーは、買い替えなくてもApple Intelligenceは使用できる。
また、M2チップを搭載した「11インチiPad Pro(第4世代)」などを中古ショップやオークションで購入する方法もあり、チップの性能自体は低いがカメラ機能やUSB 4対応のUSB-C端子、スピーカー性能などが上位のものを選ぶ……という選択肢もアリだと感じる。
一方で、生成AI自体の進化も進んでおり、Apple Intelligenceも今後さまざまな機能が導入されることが期待される。「iPad Air(M3)」は、“お手軽で高性能AI機能が搭載されたモデル”と見ることもできるため、ある意味でユーザーの選択肢を広げるモデルになると言えるだろう。