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NTT、数メートル四方の空間の騒音を消す技術を開発 イヤホンなしでノイズキャンセリング

 NTTは、数メートル四方の空間内のさまざまな騒音を打ち消す「空間ノイズキャンセリング技術」を開発した。

イヤホンや耳栓なしで快適な環境を実現

 ノイズを集音するマイクと逆位相の音を発するスピーカーを用いて、変化し続ける騒音を捉え、打ち消す。人間が耳をふさいだり、ノイズキャンセリングヘッドホンを装着したりすることなく、手ぶらで会話などを楽しめる快適な空間を実現できる。

 処理には、GPUを用いており、従来のCPUを利用した仕組みよりも低遅延かつ車載プロセッサー比で1万倍の電力効率を実現。多数の集音用マイクを配置して、実際に発せられた騒音とノイズキャンセル処理のタイムラグを、従来の1ミリ秒程度から2マイクロ秒程度に短縮した。

 変化する音をノイズキャンセルするには「多数の音」の選択に加えて「位置の変化」「音色の変化」「広がり方の変化」を捉える必要がある。GPUの採用や多数のマイクを配置することで、捉える音を選ぶ速度を高めたことで、位置や音色の変化への追従速度を向上させ、数メートル範囲におよぶノイズキャンセルを実現した。

 音は1秒でおよそ340m進むため、1ミリ秒の遅延があるだけでもノイズキャンセルは34cmズレてしまう。これまでの技術では、処理性能、消費電力などの制約から、多数のマイクを使うことは難しく、変化する空間の音を捉えてノイズキャンセルすることは困難だった。

 人間は、空間に広がる音はさほど不快に感じず、発生した直後の音は位置などを容易に認識できるため、不快に感じやすい。今回の技術では、不快に感じない音はあえて過度に追従しないことで演算量を1/30程度に削減。人が不快に感じる発生直後の騒音を狙い撃ちすることで、快適な空間の実現を可能にした。消費電力を削減したことで、車載需要にも対応できるという。

商用化も検討中

 同様に空間をノイズキャンセルする技術はすでに実現しているが、映画館やコンサートホールなど、音の変化が少ない場所でのみの利用に限られていた。今回開発された技術では、自動車や鉄道などのモビリティに加えて、道路や鉄道線路沿いの住宅、宿泊施設での騒音問題解決による快適化などが可能になる。

 騒音を巡っては、世界保健機関(WHO)や国際電気通信連合(ITU)が主に若年層に対して、音楽などを過剰な音量で視聴し、聴覚障害を引き起こすことから保護するガイドラインを発表した。世界的に耳の健康の保護、騒音抑制による生活の質の向上などに注目が集まっており、空間ノイズキャンセリングではそのような過度な騒音の抑制を目標とする。

 NTTによると、商用化については検討を進めており、数年ほどで実際の環境に装置を導入できると見積もる。個々のケースに合わせた調整や実際に導入したうえで見えてくる課題への対処など、実際の使用に耐えうるよう今後も開発を進める。