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世界初、ドコモが商用基地局に量子計算基盤 ネットワーク最適化で速度アップへ

 技術革新が進む量子コンピューティング技術を、携帯電話の基地局ネットワーク構築に応用する動きが始まっている。NTTドコモは、量子アニーリング技術を活用した量子コンピューティング基盤を使って新たなネットワーク最適化手法を世界で初めて開発し、商用ネットワークに導入した。

 具体的には、携帯電話の通信に必要な「携帯電話の位置を把握するための信号」を効率化し、信号の量を減らして浮いたリソースをデータ通信などに充てることで、通信速度の向上を図れるという。

 都市部では、狭い範囲に数多くの基地局を設置し、膨大なトラフィックを捌いている。たとえば、ユーザーの端末に電話がかかってきた場合、日本全土に広がる膨大な基地局から端末の場所に適した基地局を特定し、通信できるようにするため、ユーザーの端末の位置情報を把握することは、携帯電話の通信では不可欠だ。IoT端末など、人間以上に端末の数が多くなってきており、この「端末の位置を探す」だけで基地局にかなりの負担がかかっている。今回の技術では、この処理を軽くできるため、よりスムーズな通信ができるといったわけだ。

基地局と端末が通信する流れ

 基本的に、携帯電話は地上の基地局と通信するが、常時接続しているわけではない。ただ、ユーザーがごく短時間で一気に長距離を移動することは、まず発生しない。そこで通信事業者では「最後に通信した基地局に近い場所」に端末がいるとシステム上で想定している。

 そこに、ユーザーの端末に着信があると、通信事業者は「最後に通信した基地局のエリア」にあるいくつかの基地局を経由して、ユーザーの端末を呼び出す信号「ページング信号」を送信する。ドコモでは、複数の基地局を「TA」というグループにまとめており、さらにそのTAを複数にまとめて「TA-List」というより大きなグループにまとめている。

 たとえば、着信があった場合、まずはユーザーが最後に通信した基地局が属する「TA」の基地局からページング信号を送信する。端末が見つからなければ、さらに大きいグループ「TA-List」の基地局から信号を送信し、端末からの反応があった基地局と通信する。一方、端末側では、もともといた「TA-List」の外に出た場合(別のTA-Listと通信をした場合)、端末側から“自分はここにいる”という信号「位置登録信号」を送信し、事業者のシステムに場所を通知する。といった具合で、事業者のシステムは端末の位置を把握している。

 簡単に説明すると、事業者のシステムが「あの端末、前にこのあたりにいたかな」と特定の範囲の基地局から、「Aさんの端末ー!」と一斉に呼びかける。反応がなければ、より広い範囲の基地局からさらに一斉に呼びかける。一方、端末側で通信するときに「さっきまで通信していたグループと違う基地局と通信してる」と把握すると、基地局を経由して事業者のシステムに「Aさんの端末は、今ここにいます!」と伝える。システムは、「Aさんの端末は、このエリアにいるのね」と認識するようなイメージだ。

TAとTA-Listの作り方

 このTAとTA-Listを使った位置情報把握の仕組みでは、信号の送出を可能な限り抑えるように設計することで、処理負荷を低減できる。

 たとえば、TAやTA-Listを広い範囲にすると、数多くの基地局からページング信号を送信する必要があり、電力や通信リソースが余計にかかってしまう。逆に狭くすると、端末からの位置登録信号が頻繁に送信されてしまい、処理負荷が増えてしまう。

 近年では、スマートデバイスやIoT機器などが普及してきており、ページング信号のデータ量が増加傾向にあり、基地局設備への処理負荷が増大しているという。このため、これらのグループの作り方を、今まで以上に最適化することが求められている。

これまでの技術と今回の技術

 同社では、通信ネットワークの最適化を図るべく、さまざまな技術の開発と導入を進めている。

 2024年には、TA-List内のTAの配置を最適化する「TA最適化アルゴリズム」を開発。異なるTAへの移動が少なくなると、広い範囲からページング信号を送らなくても済むため、信号の削減を図れる。

 ただし、TA-Listの最適化はできていないため、TA-List間の移動を最適化することはできず、位置登録信号の削減にはつながらなかった。先述の通り、TA-Listの範囲を狭めれば「位置登録信号」が頻繁に発生し、広くすれば着信時の「ページング信号」を広範囲に送信する必要がある。いわゆる、“トレードオフ”の関係となるため、さまざまな組み合わせを考慮しなければならない。当然、日本だけでも膨大な基地局が設置されており、最適なTAやTA-Listの設定の組み合わせは、指数的に増大するため、従来のコンピューターでの処理は難しかったという。

 同社が今回開発した技術は、量子コンピューティングのなかでも組み合わせ最適化問題の解決に特化しているアニーリング技術を活用し、ページング信号と位置登録信号の両方を最適化できるもの。これにより、着信時のページング信号を抑えながら、人が多く移動する動線沿いなどで位置登録信号を抑制するエリア設定を自動で設計できるようになった。鉄道などの重要動線にTA-Listの境目を置かないなど、ネットワーク運用上の制約を守りつつ、全国各地のさまざまな特性も考慮に入れながらTA-Listを形成できるようになり、ネットワークの負荷を抑制できるようになった。

技術の成果

 今回の技術を活用し、特定のエリアでは早くも顕著な改善が見られたという。端末がTA-Listをまたいで移動した場合に発生する位置登録信号数が、1日のピーク時で65.3%削減され、さらに着信時のページング信号もピーク時で7.0%削減されたことが確認された。通常、どちらかが減ると他方が増えてしまうが、今回の技術で最適化することで、両方の信号を削減できた。

 同社は、ページング信号と位置登録信号を削減することで、無線リソースに空きが生まれ、通信速度の改善が期待されるとコメント。また、今後も通信分野を中心に、量子技術を活用した最適化に注力していくとしている。