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「IOWN」の光電融合スイッチ、26年にも市場投入 ブロードコムなどと協力

 NTTが開発する次世代通信基盤技術「IOWN」の光電融合スイッチが2026年にも商用展開する。6日に開催された「NTT PR/IR DAY-Toward the Future with IOWN」で明らかにされた。

ブロードコム、アクトンなどともにデバイス提供

  NTTイノベーティブデバイスでは、2026年にもデータセンターの基盤と基盤をつなぐデバイスの商用展開を目指す。現在、銅線ケーブルを介して電気により接続されている仕組みを光で結ぶ仕組みに置き換える。102.4Tbpsの容量を持ち、スイッチ単体で50%の電力を削減するという。

 同社ではこれを「PEC-2」(PEC+Photonics Electronics Convergence)と呼んでいる。すでに「PEC-1」としてデータセンター間を光接続する仕組みは実用化されている。光電融合スイッチは、従来型の光通信スイッチで30cmほどあった電気配線の距離を30mm程度に短縮。電気配線の距離は長ければ長いほど電力消費が増加するが、光通信はほとんど変化がない。光電融合スイッチでは、配線距離を1/10程度に抑えることで、電力消費量を低下させる。ブロードコムのチップとアクトンのボックスを組み合わせる。

 大阪・関西万博のNTTパビリオンでは、この技術を用いて電力消費量を1/8に低下させたコンピューターを用いて映像のリアルタイム伝送などを行った。NTTイノベーティブデバイス 代表取締役副社長CTOの富澤将人氏は、AIによりコンピューターに求められる処理性能が大きく変わったことを説明する。

 従来のクラウドサービスは、CPUに課される作業の負荷が低く、ひとつのCPUに複数の作業が割り当てられていた。

 しかし、大規模言語モデル(LLM)などのAIの場合、作業負荷が高くひとつの作業に対して複数のCPUが割り当てられる。このときに重要になるのがCPU間の連携で、IOWNの光電融合スイッチデバイスが強みを発揮する。CPUの性能向上も図られているが、従来の延長線上では高性能化が難しくなってきたことも背景にあり、複数のCPU間で処理を行うための連携が欠かせない。富澤氏によると、光電融合スイッチの導入は段階的に進むという。まず、サーバーの台数を増やして処理性能を向上させている「サーバー間」(ラック間)で使われ始め、その後は「ラック内」の接続にも導入。最終的には、さらに大きな括りである「ドメイン間」のスイッチも必要になるとの展望を説明した。

AI需要で高まる消費電力

 AIの普及とともに、課題として持ち上がっているのが「消費電力の増大」。AI市場は今後、2030年には2021年比で20倍に成長するという予測があり、同じころにデータセンターの消費電力は2024年比で2倍に膨れ上がる可能性があるという。

 AIに対するニーズが増加するとともに、増大する消費電力への対応は急務となっている。NTTでは、IOWNにより電気的な通信を光に置き換えることで、電力問題の課題解決を図る。

 NTT常務取締役 常務執行役員 CCXO Co-CAIO 研究開発マーケティング本部長の大西佐知子氏によれば、AIに必要なGPUサーバーの消費電力は従来の約5.9倍。AIのニーズの高まりとともに搭載するGPUの数は年1.8倍に増加しており、このペースが続けば2030年には、データセンターの消費電力が、東京都の年間消費電力(2023年度)を超えるという。「このままでは、たとえば計画停電せざるを得ないなど、AIの利用拡大による消費電力の急増は課題」と警鐘を鳴らす。

 ユーザー側のコスト増加も懸念される。AIが広がるとともに企業のAI活用コストも増えており、企業のAI活用に関する年間の予算が、2025年比で2026年には75%増加する見通しで、企業の投資対効果が減少する可能性がある。

 コストに占める大部分はデータセンターやGPU、ネットワークなどAI利用を支えるインフラ。大西氏は「インフラの効率的な運用」「インフラを構成する消費電力低減」とインフラに求められる要件を示す。IOWNの技術はこうした需要に応えられる。上述の光電融合スイッチは、そのひとつ。ほかにも、分散配置されたGPUを「IOWN APN」(APN=All Photonics Network)で結ぶことで、AIの用途・利用状況に応じてリソースを配分したり、GPU負荷に応じて必要な電力供給が可能な拠点へ割り当て、安定的かつ効率的な運用ができる。

2030年以降にデバイス内にも光

 パネルディスカッションには、ブロードコム Senior Vice President and General Manager, Switch Products Divisionのラム・ベラガ氏とアクトン共同創業者でCEOのファン・アンジェ氏、NTTイノベーティブデバイスの富澤氏が登壇した。

左=ブロードコム ラム・ベラガ氏。右=アクトン ファン・アンジェ氏

 ベラガ氏は、AIのすべてを利用するには今後数年間で124GW(ギガワット)の電力が必要になるという調査結果を紹介。AI需要の拡大とともに拡大するインフラ設備に対して、電気通信を光通信に置き換える必要性を訴えた。同社では100Tbps超のスイッチ「Tomahawk 6」の出荷準備を進めている。

 アンジェ氏は、アクトンが拠点を構える台湾で、IOWNを用いて分散配置された拠点を接続して単一のデータセンターとして運用する実験が始まっていることを紹介。また「オープンアーキテクチャー」が重要で、多数のベンダーが参加できる枠組みが必要とした。

 NTT 代表取締役社長の島田明氏は、NTTの収益構造について「新しい市場なので、売上がどれくらいになるかも言いにくいところがある」としたうえで、将来的に固まってくるとの認識を示した。IOWNの開発自体は順調に進んでおり、PECの部分についてはむしろ動きは早いという。

NTT 島田明氏

 加えて「IOWNの最大のポイントは電力消費をいかに落とせるか。光電融合スイッチはその本丸。まずはPEC-2をしっかり出して2027年~28年につなげて、また新しいデバイスを出していくことが重要。(ブロードコム、アクトンとの発表で)世界で共にするパートナーがいて、前進しているということを示せた」と話した。

 2028年ごろには、PEC-3として半導体のチップのパッケージ間を結ぶ技術が、さらにその先の2032年ごろにはPEC-4として半導体のパッケージ内のダイ間を光で結び、デバイスも光で通信する技術の実用化を目標としている。