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AIとIOWNはどう結びつくのか、NTT式の戦略は「AIコンステレーション」

 LLM(大規模言語モデル)や次世代通信基盤「IOWN」(アイオン)の開発を進めるNTT。同社では2つを活用して社会課題の解決に立ち向かっていくとしている。これらはどのように結びつくのか? NTT 執行役員 研究企画部門長の木下真吾氏が語った。

小型・軽量がメリット

 米OpenAIのChatGPTをはじめ、さまざまな企業から多数のAIが生まれておりその開発競争は加速を続けている。そうしたなかでNTT版LLMとして誕生した「tsuzumi」は、その軽量さに特徴を持つ。

NTT 木下氏

 多くのAIが万能さを目指しているのに対して、tsuzumiは金融や医療といったある特定の分野に特化するという変わったアプローチを取っている。木下氏は、GPT-3が1回学習するには原発1基、1時間分の稼働に相当するほどの電力消費があることを説明し、大規模なAIの課題を指摘する。一方で、tsuzumiのように小規模なLLMは、学習にかかるコストが低くおよそ1/300~1/25にまで低減でき、推論のコストもまた1/70~1/20ほどに下がるという。

 tsuzumiには、軽量版と超軽量版の2種類がある。また、精度やコストなどの要求に応じ、3つのチューニング方法を用意した。木下氏によれば、コストに優れるプロンプトエンジニアリングや精度の高いフルファインチューニングなど、ニーズに応じて選べるメリットがあるという。ほかにも言葉だけではなく画像を提示しての質問や画像のある文章を処理する業務にも利用できるなど視覚的な情報、声から大人・子供を判断するなど聴覚の情報にも対応する。

小さなLLMを連携する「AIコンステレーション」

 木下氏は、そうした小さなLLMの利点を活かし「AIコンステレーション」を構築するとの展望を示す。

 ひとつの大きなLLMですべてを賄うのではなくtsuzumiのような小さなLLMを連携させて社会課題の解決を図るという。そして多数のLLMが連携する基盤となるのがIOWNだ。木下氏は、たとえば人事部長や臨床心理士、トラック運転手、教師などの知識を持つAIが地域の活性化に必要な要素をそれぞれの知見から導き出すといった未来を示す。

 そうした未来に向けての取り組みの一環として、東京に本社をおくsakana.aiとの共同研究が発表された。同社はグーグル出身のCEOデイビッド・ハー氏とライオン・ジョーンズ氏の2人により創業された企業で、ジョーンズ氏はChatGPTでも利用される深層学習モデル「Transformer」を開発したうちの1人。

 今後、両社でAIの発展に向けた取り組みが進められる。両社がどう連携していくかはこれから詰めていくとのことだが、目指す方向性が近く連携に至ったという。

ドライブルートの提案や食事の配膳も

 NTT R&D FORUM 2023では、IOWNのほかtsuzumiに関する取り組みも多数展示している。

 社内でのパワハラを検知する仕組みでは、会話の内容と音声からそのリスクを評価。パワハラの可能性がある会話を教えてくれるだけではなく、どうするべきなのかもAIが教えてくれる。

 また、これまでのAIは何かを尋ねると具体的かつ理論的な解決策を提示してくるのが当たり前だった。tsuzumiでは人の気持ちに寄り添った回答ができる仕組みを備える。展示では「来週見せるデモができていない」と訴えかけると、通常は長文で理路整然とアドバイスを返す。しかしtsuzumiは、まるで友人に悩みを相談したときのように励ましてくれるという芸当が披露された。利用者が希望する際のオプション機能のようなかたちをイメージしているという。

 また、声色から大人・子供を判断することも可能。大人が香川県のおすすめの観光地を聞くと、歴史的建造物などがある栗林公園をあげる。一方で子供が同じことを聞くと子供でも楽しめる場所がある小豆島に回答が変わった。

 さらにカーナビとの連携をイメージした機能も。ユーザーの好み体調のほか、時間などを考慮してtsuzumiがドライブルートを提案する。走行時間が昼食時をまたぐと自動的に昼食がルートに加えられた。安全上の理由でカーナビに表示する情報は限られるため、どのようなかたちになるかはまだ分からないが、トヨタ自動車と協力して開発を進めていく。

 さらに、人の要求に応じて配膳するというデモも披露された。「健康的な食事」と指示を受けたロボットはサラダや焼き魚など、チャーハンやスパゲッティなどが並んでいるのを尻目に、健康に良さそうなメニューを選択し、配膳していく。配膳した理由も説明される。