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工事現場でもKDDIのStarlink技術、光ファイバーやWi-Fiより優れた性能・理由を北海道新幹線工事現場で取材

左から、鉄道建設・運輸施設整備支援機構 北海道新幹線建設局 八雲建設事務所工事長(土木)の若公雅敏氏、清水建設 北海道支店 土木部 工事長の大坪宏行氏、KDDI 事業創造本部 LXサービス企画部サービス企画3グループリーダーの今村元紀氏、KDDI総合研究所 XR部門 3D空間伝送グループ リーダーの野中敬介氏、清水建設 土木東京支店 生産推進部 ICT推進G 主査の小野澤 龍介氏、生産技術本部 BIM推進部 部長の三戸景資氏

 日本のさまざまな場所で利用できる携帯電話サービス。近年では、県境のトンネルや離島でも利用できる場所が増えてきており、「圏外」の文字を見るシーンが少なくなった。とはいえ、そもそも道路がなく、人が住んでいない山奥では、携帯電話が繋がらない場所が多い。通信キャリアも適切な箇所に適切な投資を進めるため、これは当然の流れだ。

 一方、たとえば新たに道路を建設する際、多くの作業員が長期間滞在する。にもかかわらず、近辺に基地局がなければ、「多くのユーザーがいるのにサービスエリア外」というかたちになってしまう。もちろん、道路が完成し、人の往来が増えれば基地局が新規に設置されたり、電波が増力されたりしてサービスエリアになることもあるが、工事中の現場のためにサービスエリアにすることはなかなか難しい。

 KDDIは、衛星通信Starlinkのソリューション「Satellite Mobile Link」を提供している。衛星通信なので、空が見える場所にアンテナを設置すれば、圏外の場所でも通信を確保できる。

 今回は、実際に「Satellite Mobile Link」を導入している北海道の工事現場を取材。Starlinkの導入で、作業員の満足度や新たなソリューションなど最新の道路工事を見てきた。

北海道新幹線のトンネル工事で活用

 現場は、北海道二海郡八雲町の北海道新幹線の新函館北斗駅から札幌駅方面の間にある渡島トンネルの工事現場。全長32.715kmのトンネルで、複数の工区に分かれて工事が進められている。

 現場に向かっていると、スマートフォンのアンテナピクトがどんどん小さくなっていき、やがて「圏外」の表示になった。複数のキャリア回線を持っているが、いずれの回線も圏外になった。

 ところが、工事ヤードに到着すると、KDDIの回線のアンテナピクトが立ち始めた。Starlinkをバックボーン回線としたKDDIの基地局エリアに入ったのだ。

KDDI以外の回線(上)は圏外だが、KDDI回線(下、povo)はしっかり電波を掴んでいる
auのエリアマップでも飛び地で落ちている

活用法とメリット

 工事現場では、地上にあるヤードと、地下のトンネル掘削現場がエリア化されている。地上のヤード近くに柱を設置し、その上にStarlinkのアンテナとLTEのアンテナが設置されている。地下のエリアでは、仮設の基地局設備をトンネル内に設置し、地上の設備から光ファイバーで分岐されて、通信が提供されている。

 Starlinkのアンテナ1つにつき、最大3ユニットまで利用できる。1ユニットには、半径1km程度をカバーできるアンテナが2つ備わっており、1つのStarlinkアンテナで最大6km程度のエリアをカバーできる。

StarlinkアンテナとLTEアンテナ
トンネル坑内のLTEアンテナ
円形のアンテナがStarlinkアンテナ、最新のアンテナは角型のものが利用されている
トンネル坑内の基地局は、大型車が行き交う丁字路に設置されている

 これまでは、光ファイバーとWi-Fiを利用してトンネル坑内のネットワークを構築していたが、Wi-Fiの電波では1つのアクセスエリアでカバーできる範囲が狭く、発破作業のある場所では破砕石があるためアクセスポイントを設置できなかったり、工事の進捗状況に応じてアクセスポイントを移動させなくてはいけなかったり、課題が多かった。加えて、大型機器が多い場所では遮蔽物が多くWi-Fiの電波が浸透しにくい事情もある。

 LTEの電波は、800MHz帯の電波(いわゆるプラチナバンド)を使用しており、カバーエリアが広くまた遮蔽物があっても電波が浸透しやすい。加えて、auの基地局で利用しているような商用機器を使用しているため、悪天候などにも強く、KDDIが保守管理を担っており万一の際にも専門スタッフが対応する。

 実際の現場では、路面は舗装されておらず、さまざまな大きさの石が転がっており、チリやホコリも多い環境だ。一般的なネットワーク機器では故障が多いという話もうなずける。人が歩くだけでも小石が飛ぶこともあり、大型車が行き交う平時の工事現場では、機器に飛び石が当たることは容易に想像できる。

さまざまな大きさの石がゴロゴロしている路面
auの商用回線で利用されるレベルの機器が使われている

 また、一般のユーザーもauやUQ mobile、povoなどKDDI回線が利用できる端末があれば緊急通報を含めた音声通話やデータ通信が利用できるため、作業員とその家族とのコミュニケーションにも役立っている。最寄りの商用ネットワークから光ファイバーを敷設する必要も無いため、安価で利用できる。

遠隔地から工事の進捗管理を

 また、同じ現場では、KDDI総合研究所が開発した「3D点群のリアルタイム圧縮伝送技術」が使用されている。現場の状況をスキャナーで3D点群データとすることで、遠隔地でも状況を確認できるようになる一方、膨大なデータ量でこれまでは計測から確認まで数日を要することもあった。今回の技術では、このデータ量を大幅に圧縮できるため、先述のStarlink/LTE通信と組み合わせることで遠隔地でもリアルタイムに確認できるようになる。

現場では、スキャナーを4足歩行ロボットに載せて、動きながら3D点群データを収集する
実際の現場(左)と3D点群データ(右)

 たとえば、もう少し細かい部分を計測したい場合でも、現場でスキャナーを設置、操縦している作業員に指示することで、すぐに確認できる。

 今回の工事のように、建設主体となっている鉄道・運輸機構の事務所から現場まで距離がある場合、現場巡回や確認のために片道35km、往復約120分かかっているが、今回の技術を含め遠隔臨場ができるようになれば、移動時間を減らし生産性向上を図ることができるようになる。