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日本通信が2026年5月に「ネオキャリア」へ、ドコモとの音声通信の相互接続で独自SIMサービスへ大きく前進

日本通信 代表取締役会長の三田 聖二氏(左)と代表取締役社長の福田 尚久氏(右)

 日本通信は、同社とNTTドコモとの間で、ドコモの音声通信網とSMS網との相互接続に関して13日に合意したと発表した。あわせて、日本通信の創立30周年となる2026年5月24日を目標に、新たなサービスを開始し、「ネオキャリア」を誕生させるとした。

 今回のドコモ網との相互接続により、日本通信は電話番号が割り当てられた独自のSIMを発行してサービスを提供するための課題を1つ解決できたことになる。今回の合意には、日本通信にどのようなメリットがもたらされるのだろうか。

30年近くの取り組みが実を結ぶ形に

 日本通信 代表取締役会長の三田 聖二氏は、「個人的に30年近く取り組んできた話」とし、今回の合意については「独立するキャリアとして商売を立てていくことができるようになる」とした。今後は、世界中のキャリアと相互接続し、「世界中どのキャリアにもつながる」SIMを目指していくとコメントした。

代表取締役会長の三田 聖二氏

 代表取締役社長の福田 尚久氏は、同社として1996年から日本の通信環境について疑問を呈し、法律を含めて環境整備に取り組んできたとし、「2007年からデータ通信を原価ベースで調達できる」ことや「2020年の総務省裁定により音声通信も原価ベースで確保できる」ことなどにより、価格面での公正競争環境は確保されてきたとコメント。

 一方で「やはりそれ(価格)以外の付加価値、価格ではないサービス競争というものを本当はやっていきたい」とし、今回の合意は「ようやくそれができることになり、大変うれしく思う」とした。

代表取締役社長の福田 尚久氏

 なお、日本通信として「ドコモに音声網の相互接続を申し入れ」たことはこれが1度ではなく、2014年7月に1度申し入れを行っていた。その際に課題となったのが「電話番号の割り当てがなかったこと」で、当時は日本通信に直接電話番号が付与を受けられない制度であったため、どうしても課題になってしまっていたと説明する。

 電話番号については、総務省の通信情報審議会において2021年12月に「MVNOにも一定の条件を満たす場合に、携帯電話番号を直接付与すべき」との方針が出され、省令が改正されたことにより、一定条件の下、MVNOにも直接電話番号が付与されるようになった。

 今回の相互接続について福田氏は「日本国内ではじめて行う接続になる」としたうえで、大きな規模感の取り組みになると説明。技術面、制度面で相当な協議を重ね、今回の合意に至ったという。

 なお、合意に至ってから実現するまでも「結構年数がかかるのがこの業界では一般的」としながら、福田氏が想像していた期間よりも遙かに短い“約2年間”で完了させ、2026年5月24日にサービス開始として進めていくとした。

これまでは、SIMカードもMNOから借りていた

 現在の仕組みについて、福田氏によるとデータ通信については、MNOと日本通信が相互接続しており、全国のMNOの基地局を使用し、日本通信がサービスを作ってインターネットサービスを提供している。その一方、音声通信については、日本通信のデータセンターは一切通っておらず、「どのユーザーが“いつ”“どれだけ”“どこに”電話したか」というデータのみが送られそれに基づきユーザーに通話代金を請求している形になっている。

 今回の合意で音声通信の相互接続ができるようになり、音声通話やSMSも日本通信の設備を経由してサービス提供ができるようになるという。将来的には、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルやIP電話事業者など、さまざまな事業者、海外の事業者と接続してサービスを提供できるようになるとしている。

 福田氏は、もう一つのメリットとして「ローカル4G/5G」のネットワークにも接続できるようになるとし、これまでのMVNOには不可能だったさまざまなサービスの可能性が出てくるとした。

今後想定されるサービス

 今後提供できるようになるサービスとして福田氏は、まず「海外ローミング」ができるようになると説明。現在、データ通信は海外ローミングで利用できないが、今回の取り組みでこれが可能になる。

 また、音声の接続料については、現在「発信時にMNOに代金を支払う」ようになっているが、次の段階では「着信時に着信料を受け取れる」ようになるという。これにより、より自由な価格設定ができるようになる。

 次に、1つのSIMで複数の事業者のネットワークを利用できるマルチキャリア機能。災害対策などでも非常に求められているとしたほか、海外でのローミングや、高いセキュリティが求められる金融関係の顧客向けに日本通信のデータセンターから専用線で接続するといったサービスも利用できるようになる。

 これまでのサービスでは「キャリアからSIMを借りる」形となっていたが、同社に電話番号が割り当てられることで、同社が独自にSIMカードを発行できるようになる。これにより、これまでMVNOでは難しかった「APN設定の自動化」や「SIMによるWi-Fi認証」ができるようになる。

 主に法人向けには、世界中で利用できるように遠隔でプロファイルを書き換えるIoTデバイス向けSIMの提供や、1つの電話番号でローカル回線と公衆回線を利用できるSIMなどが提供できる。

ローカル4G/5Gにおける独自SIMの活用例。1つの電話番号で、ローカル回線網のエリアではローカル回線網に、エリア外では公衆回線に接続できる

 先述の通り、これまではMNOのSIMを借りてサービスを提供しており、日本通信がSIMの中身を自由に書き換えられなかった。今回の取り組みでは、このSIM自体を日本通信が独自に作れるようになり、電話番号やIMSIといった認証識別番号が独自のもので利用できる。

 また、世界中のeSIMへアクセスできる電子認証局について国の認定を唯一受けた事業者でもあるといい、世界中のeSIMへアクセスできる点も重要と福田氏は指摘した。

 加えて、日本通信側で認証のコアシステムを持つことができるようになり、「認証識別番号」と「認証媒体」、「認証コアシステム」の3つのレイヤーを同社側で持ち運用できることが、今回の取り組みで実現できることが「最大の肝」とした。

固定網のIP化で「負担軽減」

 この3つの部分については、今後同社が独自に構築していくことになるが、この設備投資にあたっては、緊急通報の部分もしっかりと取り組んでいくと説明。

 この緊急通報の構築に関して福田氏は「固定網の完全IP化」が影響してくるといい、今後約1年間で移行が進む固定網のIP化が終わった段階で緊急通報部分を構築することで「今までに比べるとはるかに負担が軽くなる」という。これらのタイミングなどを踏まえ、システムを構築し、2026年5月24日のサービス開始を目指すとしている。福田氏は、同社の創立30周年の日としたものの、日付にはこだわらず「少しでも1日でも前倒しできるものがあればしていきたい」とした。

設備投資額は? ネオキャリアでどう変わるのか?

 設備投資額について三田氏は「技術が進歩したことで(費用面では)有利になった。(従来は、)十億単位の交換機を置かなければならなかったが、現在はソフトウェア、サーバーで機能するようなもので、数桁億帯の機能を1000万程度の投資で運用できる」と費用感を説明。一方、具体的な費用について福田氏は「全体額は、ドコモとの厳格な秘密保持契約があるので非公開」としながらも「以前に比べると遙かに少ない金額」とした。

 「ネオキャリア」として掲げたことについては「グローバルで自動車などIoTで売っていく。外国企業にも魅力的なサービス展開する」旨を三田氏は説明。

三田氏

 福田氏は「eSIMへのアクセスというのが決め手になると思う。日本国内でeSIMにアクセスできるのは、(日本通信以外では)日本国内で持っている人はいないので、大手メーカー、グローバル企業からは期待いただいている」とコメント(編集部注:国内のMVNOではIIJが法人向けeSIMを手掛けている)。

 一方、格安SIMと呼ばれる市場についても「コストに見合った合意的な料金というニーズは引き続きずっとあるだろう。それをさらに強化し、さらにサービスを付加する形で展開していく」とした。具体的な目標は挙げていないとしながらも「ヨーロッパ、特にドイツではMVNOが市場の半数近くのシェアを取っており、イギリスやフランスでも25~35%を取っている。音声まで含めた“ヨーロッパの定義でいうフルMVNO”では、市場シェアの5~10%の事業者がいる状況。(ネオキャリアでは)市場の数%までいけるようになるだろう」との見通しを示した。

福田氏

 福田氏は、サービス展開のイメージの一つとして「ローカル4G/5G」を挙げる。日本ではまだまだ浸透しておらず「5G戦略として完全に米国に遅れている」という認識もあるといい、これに貢献していきたいと話す。また、認証系での活用なども考えられるという。

 三田氏は、eSIMについても、認証局が国の認定を受けていることで「日本が保証しているキャリア」としての評価をグローバル企業からも受けられるとし、グローバルキャリアとしての展開の加速も考えているとした。

KDDIやソフトバンク、楽天モバイルとの相互接続は?

 ドコモ以外の日本のMNO(KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)との相互接続はなされるのか?

 福田氏は「まずはドコモとの相互接続をきっちりやらないとその先は見えない」とし、今回のドコモとの取り組みにまずは注力していくとした。

 一方で、「マルチキャリアニーズも高い」ことは認識しているとし、技術的には「どのキャリアもVoLTE、5Gとネットワークの構成は同じ。2社目、3社目と繋ぐのは容易になっている」とコメント。ドコモとの相互接続が完了した段階で、3社へ求めていきたいと姿勢を示した。