ケータイ用語の基礎知識
第912回:フルMVNOとは
2019年7月2日 13:30
顧客原簿HLR/HSSを自前運用するMVNO
MVNOとは、「仮想移動体通信事業者」を意味する英語“Mobile Virtual Network Operator”から来ています。無線設備などを他の事業者から借りて、自社ブランドで携帯電話などの移動体通信サービスを行う事業者のことです。
一般的なMVNOは、無線設備・コアネットワーク・付加価値サービスまでを他の業者から借り受けます(この一般的なMVNOを「ライトMVNO」と呼ぶこともあります)。
特に定義がある訳ではありませんが、一般的に「フルMVNO」とは移動体通信のコアとなるネットワークの一部、具体的には「HLR/HSS(Home Location Register/Home Subscriber Server)連携機能」を、他業者のものを借りずに自前で調達し、運用してサービス提供を行うMVNOのことを言います。
HLR/HSSは、「第731回:HLR/HSSとは」でも解説していますが、簡単に言うと、どちらも携帯電話の通信ネットワークを利用するために必要な、ユーザー情報を管理するデータベースです。SIMカードに紐付けられている「電話番号」「契約内容」「IMSI(SIMの識別番号)」といった情報や、携帯電話の現在地、そこへの通信経路などが扱われており、いわば、利用者の契約内容や現在位置などが記された「原簿」ともいえるものです。
「フルMVNO」は、「ライトMVNO」と異なり、この「原簿」を自前で管理します。IMSI(International Mobile Subscriber Identity・国際モバイル加入者番号。SIMに記録されている)・MNC(Mobile Network Code・電気通信事業者識別番号)もMNOとは異なる独立した通信事業者の物となります。
2019年7月現在、フルMVNOとしてはIIJ、さくらインターネット、ソラコムがすでにサービスを開始しています。また、NTTコミュニケーションズも2020年のサービス開始を目指して開発を進めているとしています。
自前でSIM・eSIMの発行などもできる
フルMVNOの大きなメリットとしては「柔軟に接続できるようになる」ことがあげられます。ライトMVNOは、MNOの運用するHLR/HSSでサービス提供するというその仕組み上、MNOが提供(貸与)するSIMと、MNOの設定したネットワークでの組み合わせでしか使えません。つまり、そのMVNOを使うには、かならずMNOの提供するSIMカードが必要だったわけです。
フルMVNOであれば、ネットワークを使うSIMの情報さえHLR/HSSに登録できれば物理的なSIMは他社のものでも問題ありません。
実際にこれを行っているのが、香港のAir SIM ROAMのローミング先としてのIIJです。Air SIM ROAMのSIMをスマートフォンに挿入し、接続先にIIJを選ぶとIIJmioで(無線ネットワークはNTTドコモ)で通信が可能になります。
このように、海外のモバイル事業者との直接接続なども可能になり、国内外を問わず柔軟性の高いサービスの提供が可能になります。
もうひとつ、大きなメリットとしては「自前でSIMカードを発行することができる」ことがあげられます。ライトMVNOでは、MNOから貸与されたSIMカードしか提供できません。MNOが持っているSIMの範囲の中でしか発行できないわけです。
フルMVNOの場合、独自にSIMベンダーから調達したSIMカードを発行できます。当サービス的にも多様な選択肢を持てるのです。
たとえば、今一番注目を集めているのは、やはり、eSIMでしょう。「第676回:eSIMとは」でも解説したeSIMは、リモート操作でSIMの事業者情報を変更できるSIMなのですが、フルMVNOでは、MNOがeSIMを発行していなくてもMVNOのeSIMを発行する、というようなことも可能でしょう。