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総務省裁定で値下げ機運が高まる「音声通話」、SNS全盛でも底堅い需要が

 MVNOサービスを提供するためにNTTドコモから回線を借りている日本通信が、そのレンタル料にあたる音声卸料金を引き下げるよう求めていた問題で、総務省は6月30日に裁定を行った。にわかに再注目を集める音声通話の利用状況を取り上げる。

裁定はおおむね日本通信の主張を認めるも、一部は今後の検討課題に

 音声通話の利用状況を整理する前に、裁定にも触れておこう。裁定では、音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金を「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額」とするよう明記された。

 MVNO向けのパケット接続料は年々引き下げられてきたものの、音声の部分については「30秒14円」(回線卸Xi)で据え置かれたままだった。

 一方で、音声通話のコストの1つである、MNO事業者間のアクセスチャージ(着信接続料)は年々減少傾向にある。グラフの通り、3社ともこの10年弱で5割前後も安くなっている。

 音声通話のコストは、このほかに自社網の維持・利用コストも含んだものであり一概には言えないが、少なくとも値下げ余地が全くない状況ではないと推察される。

 NTTドコモ側は「国は、小売業者に商品を卸す際に、法的根拠がないにもかかわらず、適正な原価+適正な利潤で卸料金を決定しろと公定力を持って命ずることはできない」などと強く反論したものの、最終的には日本通信に軍配が上がった。

 一方で、日本通信が求めていた1秒単位の課金への変更は「実現に向け当事者間の協議を進展させること」との裁定にとどまり、現行の30秒単位での課金が継続されることとなった。また、かけ放題プランや通話5分無料オプションの卸提供も不適当と判断された。

底堅い需要がある音声通話、通話時間はこの8年で12%減にとどまる

 裁定を受け、日本通信は「音声定額とデータ通信をセットにして、MNOより4割安いプランを投入する」と発表している。とはいえ、SNSアプリやウェブ会議などが普及した今、音声通話が安くなっても従前ほど魅力を感じないのではないかという素朴な疑問も生じる。

 そこで、音声通話の利用状況を整理してみよう。

 総務省が6月19日に公表した「通信量からみた我が国の音声通話利用状況」によれば、2018年度の携帯・PHS発の通信回数は466.3億回、通信時間は21.3億時間で、いずれも前年度から減少している。

 とりわけ通信回数はほぼ右肩下がりの状態だが、通信時間はそれほど落ち込んでいない。2010年度と2018年度を比べると、通信回数が23%減だったのに対し、通信時間は12%減にとどまっている。NTTドコモのMOU(1契約あたり月間平均通話時間)はここ数年130分台で横ばいというデータもある。

 これらを踏まえれば、音声通話には一定の底堅い需要が持続しているとみて間違いないだろう。

 ただし、これはあくまで全体の傾向であり、音声通話を重用する利用者もいれば、全く使わない利用者も多くいると考えられる。通話に重きを置く利用者であれば、あえてMVNOに移行せずMNOのかけ放題プランを使った方がトータルコストを安くできる場合もあろう。今回の裁定を受け、日本通信は早くも通話かけ放題の新プラン「合理的かけほプラン」を7月15日よりスタートさせた。データについては基本料に含まれる3GBを超えた場合は従量制(250円/1GBのおかわり課金)だが、音声通話は定額制に踏み込んだ。

 ただし、今後他のMVNOに通話定額プランが広がるかは未知数だ。音声卸料金は下がるとはいえ従量制課金が続くため、長時間通話の利用者が殺到するリスクが課題として残ってしまう。

 MVNO他社がどのようなプラン改良を行うのか、またそもそもとして、NTTドコモがどのような音声卸料金を設定してくるのか、今後の競争にも目が離せない。

MCA

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」などクオリティの高いサービス提供を行う。