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IOWNとLLMで実現する未来、NTT島田社長が語る

 NTTのイベント「NTT R&D フォーラム 2023」が開幕した。13日、NTT 島田明代表取締役社長がメディア向けに同社の今後の開発の方針などを示す基調公演を行った。

NTT 島田氏

IOWNやLLM、未来に向けて技術を磨くNTT

 NTTでは、次世代の通信基盤「IOWN」のほか日本語性能の高さを特徴とするLLM(大規模言語モデル)「tsuzumi」などの開発を進めている。島田社長は、現在の世界が直面する社会課題を「環境・エネルギー問題」「労働力不足」「高齢化社会」の3つと定義する。

 技術の発達によりデータ通信量の増加とともに電力消費量も増加。便利さの享受と環境保護の両立が求められるほか、少子高齢化による医療費増大が招く財政圧迫、また労働人口の減少は喫緊の課題といえる。

 島田氏は、こうした諸課題をIOWNや同社が開発したLLMを用いて解決を図る姿勢を示す。IOWNはNTTが開発を進める次世代の通信基盤。すでに「IOWN 1.0」として専用線を活用した通信サービスを法人向けに提供している。今後、100倍の電力効率や伝送容量125倍、エンドツーエンド遅延1/200倍の性能を目指す。

 2025年度には、光エンジンを搭載したスイッチボードを提供する予定。大阪関西万博では「感情をまとう建築」としてパビリオンの布が来場者の盛り上がりに応じて動いたり、風に応じて表情を変えたりという「生きたパビリオン」をオールフォトニクスネットワーク(APN)とIOWNで遠隔でのAI解析により実現していく予定だという。

 あわせて、NTT R&D FORUM 2023に先駆けて発表したLLM「tsuzumi」についても、さまざまな活用の展望を示す。

 英語にも対応する一方、日本語処理能力としては世界トップクラスという特徴を持つtsuzumi。GPT-3と同等の性能を持ちながらも少ない消費電力で動作するほか、学習コストも低い。さらに図表のある文書の読み込みにも対応しており、これは国産のLLMとしては初めてという。

 2024年4月以降には、声色で子供か大人かを判断したり日英以外の言語についても順次リリースしていくとしており、精力的に開発を進める姿勢をあらわした。

社会課題を技術で解決する

 NTTは、IOWNとLLMでどう社会課題の解決を図っていくのか。島田氏は今後の同社が描く展望をいくつかの事例とともに示す。

 島田氏は、一例として建設業界をあげる。人手不足や高齢化、長時間労働などに加えて法令の改正により残業に上限規制が適用されることから効率化が急務という。NTTでは、建機の遠隔操作にAPNを適用することで、現地作業に近い感覚を実現する。現在、EARTHBRAINやジザイエ、竹中工務店と同様の取り組みを進める。

 13日には、ソニーとの協業でリモートプロダクションを推進することも明かされた。従来、イベント会場などには各地で機材や中継者などが必要となっていたが、放送局と会場などをAPNで接続。現地への展開を最小限におさえることでコスト削減や準備時間短縮などが期待されるという。

 tsuzumiの用途として、コンタクトセンターでの業務への道が示された。東京海上日動では、事故対応にあたるオペレーターの通話後の「アフターコールワーク」と呼ばれる事務稼働を50%以上削減することを目指すという。このほか米国の自動運転技術を手掛ける「May Mobility」のシステムをコミュニティバスなどに導入する。

 技術発展により便利なサービスが登場する一方で課題になるのは消費電力。島田氏が示した資料によれば、GPT-3クラスのLLMの学習に必要な電力は1回あたり原発1基を1時間稼働させた際の発電量にも匹敵する。需要増加の一途をたどるデータセンターについても、消費電力が増大していく傾向にあり、環境への影響が懸念される。

 APNでは、光から電気に変換する過程が不要なことから、遠隔地同士でも高速通信が可能なうえ、消費電力もおさえられる。これまでに設置が難しかった郊外にもデータセンター建設が可能になることから「エネルギーの地産地消」が実現するという。

 こうした分散型データセンターを国内のほか米国と英国で試験導入する。100kmほども離れた場所でもひとつの施設として運用できるとして今後、米英国以外の地域でも導入を進める。

医療にも技術を

 医療分野でもLLMの活用を進めていく。国内でも普及率の高い電子カルテだが、同じ症状でも記載方法は医師によってさまざま。

 電子カルテの提供元によってフォーマットも違うが、LLMで構造化することで患者個人に適した効果的かつ効率的な治療が可能になり、医療費の適正化にもつながると島田氏は語る。くわえて薬の効果や副作用など、医療データの分析も容易になることから、医薬品開発の期間短縮、コスト削減にも結びつくとした。

 医療分野ではさらに、体の不自由な人に向けてアバターを介して自己表現をする取り組みや音声合成技術で自分らしい声でかつ多言語でコミュニケーションができるなどの技術が披露された。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながらも技術を駆使し音楽活動を続けるDJ MASA

 NTTでは、こうした未来に向けた技術開発を進めており今後、同社の技術を活用したサービスや製品が市場に登場する見込みだ。