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NTT、毎秒1.44テラビットの無線伝送に成功

 日本電信電話(NTT)は、サブテラヘルツ帯の超広帯域幅を利用してOAM多重伝送を実現し、毎秒1.44テラビット(Tb)の無線伝送に成功した。サブテラヘルツ帯で毎秒1テラビットを超える通信速度を記録したのは世界で初という。

 今回の成果は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想における、光を中心としたネットワークに6Gを含む無線ネットワークに拡張に貢献するという。技術の詳細は、5月28日からイタリア ローマで開催される「IEEE ICC 2023」にて発表される。

OAM多重伝送技術のイメージ、および大容量無線伝送の動向

 無線通信の容量を増大するには、空間多重数の増加、伝送帯域幅の拡大、変調多値数の増加の3つの方向性があるが、NTTではサブテラヘルツ帯を用いて伝送帯域幅を拡大し、軌道角運動量(OAM)を持つ電波を用いた新しい原理で空間多重数を増加させることで、無線伝送の大容量化に取り組んだ。

 NTTは、Butler Matrixと呼ばれるアナログ回路を用いて、複数のOAMを多重処理することで、空間多重数を増加させるアプローチをとった。このアプローチでは、1テラビットを超える大容量通信で、異なるらせん構造に対応する電波間の干渉を除去するための膨大な信号処理が低減できるという。

 NTTでは、サブテラヘルツ帯導波路技術の研究開発により、広帯域かつ低損失で動作するアンテナ一体型のButler回路開発に成功した。この回路は、135GHzから170GHzの帯域で8個の異なるOAM波を同時に生成および分離できるように設計されている。この回路を使って8個のデータ信号を多重化させて伝送できる。さらに、異なる2つの偏波でそれぞれOAM多重伝送を行い、互いに干渉することなく2倍の16個のデータ信号を同時に多重化して伝送した。

 NTTが成功した毎秒1.44テラビットの伝送は、4K動画(40Mbps程度)約3万5000本を同時伝送できる速度に相当し、超低遅延が求められるアプリケーションにおける、非圧縮4K動画(10Gbps程度)を140本以上同時伝送可能な速度に相当する。

技術のポイント

 Butler回路により8つのOAM波を同時に伝送するには、電波の位相を極めて高い精度で制御する必要がある。電波の位相の進み方は周波数によって異なるため、アナログ回路で超広帯域にわたって位相を均一に制御することは非常に難しい。そこで、今回の研究では自由空間とは異なる導波路内の電波伝搬を解析し、理論的に広帯域にわたって位相の進み方を均一に揃える相違回路を考案した。

 さらに、性能劣化の要因である回路の平面交差をなくし、すべての経路が電気的に等しい長さになるように、位相回路を含む多層立体経路を設計し、35GHz幅以上にわたって各OAMモードに必要な相違を与えるButler回路の試作に成功した。

 回路は、中空導波回路として設計され、一般的な誘電体基盤回路などと比較して誘電損失や電波の漏洩を防ぐため、高周波回路であるにもかかわらず低損失を実現したという。

今後の展開

 今回の成果は、光伝送に匹敵する広帯域かつ高速な無線伝送を実現するとともに、OAM波の多重処理をアナログ回路が担うため、多重化処理のためのデジタル信号処理が不要となり、シームレスに無線伝送系と光伝送系を接続可能とすることが期待される。

 NTTは、次のステップとして基地局間の無線バックホール/フロントホールや中継伝送など、100mを超える長距離での実証実験に取り組むという。