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KDDIの「povo 2.0」や楽天の“0円プラン”は、適正な料金と言えるか? 総務省のWG

 総務省は7日、「競争ルールの検証に関するWG(第32回)」をオンラインで開催した。本稿では、同WGで開示された資料のうち、「『一部ゼロ円』料金プランと価格圧搾の関係」に焦点を当てて紹介する。

 同WGでは、KDDIの「povo2.0」や楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VI」など、料金体系の一部において0円で提供されるプランについて、「価格圧搾に当たるか否か、検証が必要」という指摘があった。

携帯電話業界における「価格圧搾」とは

 事業者が携帯電話の通信サービスを提供するうえでは、電波を利用することが必須となる。そして、有限な電波の割当を受けたMNO以外の事業者(MVNO)が携帯電話サービスを提供するには、MNOが整備する基地局などのネットワークを借りざるを得ない構造にある。

 こうした構造のもと、MNOがMVNOに対する接続料や卸料金を引き上げるか、自社サービスの小売料金を引き下げることは、MNOとMVNOの差を縮めてMVNOの事業を困難にする、いわゆる「価格圧搾」として問題になる。

 これに対し、「接続料の算定等に関する研究会」においては、接続料等と小売料金との関係について、価格圧搾による不当な競争を防止するための「モバイル・スタックテスト」に関する検討が進められている。

KDDIの「povo2.0」

 KDDIのオンライン専用ブランド「povo2.0」は、月々の基本料金を0円とし、「トッピング」としてさまざまな容量のデータ通信や音声通話を組み合わせる料金体系となっている。

 この料金設定に対し、「モバイル・スタックテストのスキームの中で、必要に応じて、価格圧搾の問題がないか検証・確認を行うことが適当ではないか」という案が出た。

 KDDIはこうした声に対し、「povo2.0は、ユーザーが自身のライフスタイルに合わせて必要なトッピングを購入することを前提としたサービス。auやUQ mobileと同様に、適切な事業構造のもとでサービスを提供している」と回答。

 また、接続料の算定等に関する研究会では、今後、検証方法の詳細や各事業者から報告する実績データの範囲や粒度などについて検討予定であることに対し、「情報提示が必要である実績データについては可能な範囲で協力していく」とした。

楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VI」

 楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT VI」は、一契約者一回線までに限り、データ使用量が月1GBまで0円となる料金プラン。月1GBを超えた場合に980円、続いて3GB~20GBが1980円……というように、段階式で月々の料金が上がっていくしくみとなっている(なお、同社は“0円”の幅がなくなる新プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表済み)。

 同プランに関する価格圧搾については、「現時点で、楽天モバイルのネットワークを借りて携帯電話サービスを提供するMVNOは存在していないことから、価格圧搾の観点で小売料金と接続料などの関係について検証する必要性は乏しいのではないか」という声があった。

 そのうえで、「将来的に同社のネットワークを借りてサービスを提供するMVNOが現れた場合に、必要に応じて両者の関係を検証することが適当では」という案も上がった。

 また、楽天モバイルが“第4のキャリア”として通信事業に参入したことをふまえ、「必ずしもコストを賄えない形で料金設定をすることは、新規事業者としての事業戦略上、通常は想定されるものではないか。新規事業者に対する委縮効果を抑制する観点からは、新規事業者によるこうした料金設定について、直ちに問題視することは控えるべきでは」という声もあった。

 楽天モバイルはこれに対する説明として、「新プラン『Rakuten UN-LIMIT VII』を発表した背景には、4Gの人口カバー率97%などの達成によって、事業基盤が整い認知が浸透したことで、サービスの利用をためらう人が減ったことがある。(楽天モバイルが)チャレンジャーとしての黎明期から成長期へと新たなステージに向かうことで、今後の携帯電話市場への影響力をより増していくことをふまえると、0円で“お試し”いただくフェーズは過ぎつつある」とコメント。

 また、新プランの料金設定については、「この数年で通信の利用スタイルにも変化があり、通信データ利用量は増加傾向にあるため、2980円(税抜)でデータ使い放題というのは据え置いた。また、いくつかの楽天グループのサービスをお得に利用できるなど、データ利用の多いユーザーほどお得になるプランとした」と説明した。

まとめ

 WGにおける結論として、事業者が設定する小売料金については、「それぞれの事業者が、料金体系の一部でコストを賄えない可能性があっても、そのリスクを取って全体としての料金プランを設計することは、一般的には想定し得るものである」とされた。

 そのようなことを考慮したまとめとして、「“0円”が存在する料金体系の一部において、ただちに『価格圧搾』のおそれがあるものとして問題視し、確認・検証作業を行うべきとすることは適当ではないのではないか」「単に料金プランの形式のみで判断するのではなく、競争への影響度合いなどをふまえて総合的・客観的に判断すべきでは」と結論づけられた。

甲南大名誉教授の佐藤氏の意見も

 また、甲南大学名誉教授の佐藤治正氏はこの件について意見し、「一般的に、料金プランの一部分だけ切り出して問題視すること自体に疑問を感じる」とコメント。

 同氏は“食べ放題”にたとえ、「食べ放題のプランで、高齢者が孫をつれてくると黒字でも、若者グループが来ると赤字。ユーザーや使い方(食べ方)で赤字にも黒字にもなる。(モバイルの音声定額プランも同様で)料金プランについては、トータルで赤字か黒字か見ていくことになる」と指摘する。

 そのうえで、楽天モバイルの料金プランについて、「新規参入者として既存企業に挑む事業立ち上げ期の料金戦略として理解できる」とした佐藤氏は、ソフトバンクが固定ブロードバンドサービスへの参入時にとった販売戦略を引き合いに出しながら、「市場全体の競争を維持していく観点からは、新規参入者が、一定の顧客基盤獲得までの間、多少チャレンジングな料金を設定することについて目くじらを立てるべきではないのでは」と意見した。