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KDDI、バーチャルで洋服を選べる「XRマネキン」――余剰在庫削減で環境に貢献
2022年5月18日 18:18
KDDIは、XRで洋服を再現し、店頭でデジタル展示・販売に利用できる「XRマネキン」を発表した。今後、パートナー企業とともに実証実験を実施し、実店舗への導入を目指す。
XRマネキンは、グーグルクラウドの「Immersive Stream for XR」を活用した仕組み。店頭に設置するサイネージやスマートフォンなどさまざまなデバイスで商品を360度好きな角度から確認可能で、気に入ったらその場で購入もできる。
これにより、商品の実物がなくとも実際に目の前に存在するかのような体験が実現できるため、次世代の購買体験を提供するとともに、アパレル業界で課題となっているサンプルや在庫ロスの削減、環境負荷の軽減につなげる。
ICT技術で在庫ロス削減、環境保護にも
XRマネキンを通じて「サンプルや在庫ロスの削減、本当に欲しいものをどこでも買える世界を実現する」とKDDI パーソナル事業本部 サービス統括本部 5G・xRサービス企画開発部長の上月勝博氏は今回のソリューションを提供する狙いを語る。
同氏は、アパレル業界の市場規模はこの30年間で2/3程度まで縮小したという調査結果を紹介。その一方で衣料品の供給量は2倍近くにまで膨れ上がっているという。この背景には、市場が求めるサイズや色などの多様化があり、アパレル店舗では余剰在庫が多く発生。最終的に半分近くが客の手に渡っていないという実態がある。
新たな中期経営計画の中で、5Gを中心として注力領域の拡大を掲げるKDDI。今回のソリューションは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)と5Gや技術の力で生活体験や行動を革新するというライフ・トランスフォーメーション(LX)に当てはまる。
XRマネキンでは、ボリュメトリックビデオを活用。XRマネキンを導入する店舗が取り扱う服を着用したモデルを専用のスタジオで撮影し、3Dデータ化する。来店者は店頭に設置されたサイネージから、好みの服を選択することで着用イメージを確認できる。上月氏によると、オンラインで購入したものが実際にはイメージと違った、ということが返品につながっているケースがあるとして、こうした部分の解決も図る。
ディスプレイをタッチするなどで画面を回転でき正面、横、背中など好みの角度から鑑賞可能。ズームインもできるため生地の質感など細部も確認できる。在庫として全色を取り揃えることなく、来店者が好みの服を画面上で確かめられ、さらに購入機会の損失を防ぐことにつなげられる。
店頭サイネージのほか、スマートフォンやタブレットなどのデバイスでも利用できる。自宅でXRマネキンをAR空間上に出現させて、じっくりと欲しい洋服を確かめるといった新しい形のショッピングも実現できる。
画面上には、その商品を購入可能なECサイトへのリンクも用意されており、シームレスに商品の確認から購入への導線が構築されている。
このほか、バーチャルヒューマン「coh」(コウ)も活用し、制作前の衣服を3DCGで表すこともできる。
アパレル向けのCADで制作されたデジタル型紙を使い、cohが着用するかたちで、実物がない商品でも表現でき予約販売・需要予測などへも活用できるとアピール。ARで実際の場所にcohを出現させてのイメージも確認できるようになっている。
Webブラウザー上で手軽にアクセス
XRマネキンの実現に用いられている仕組みは、グーグルクラウドが提供する「Immersive Stream for XR」というもの。
グラフィック処理は、クラウド上で行われるためエンドユーザー側は高性能な端末を必要としない。従来のXRソリューションの課題として、そうしたデバイス性能に加えてOS・製造メーカーごとの互換性やソフトウェアの標準化の問題がつきまとっていた。
Immersive Stream for XRは、こうしたこれまでのXRにありがちだった課題を解決していることが特長で、専用のアプリケーションをインストールする必要もなく、Webブラウザー上で手軽にアクセスできる。
データはクラウドサーバーでレンダリング後にKDDIの5G回線を活用し、デバイスへ伝送される仕組みとなっている。
グーグル・クラウド・ジャパン カスタマーエンジニアリング 技術本部長の佐藤聖規氏によるとKDDIのほか、フォードの自動車展示など複数の企業で活用されている。将来的な展望として、現場仕事の作業員のマニュアルや従業員のトレーニング、製造現場におけるオペレーションガイドといった活用法が検討されているという。