ニュース

KDDI「DX化による災害復旧迅速化」への取り組みを紹介――マルチレイヤーマップによる情報共有など

 災害列島日本といわれるほど、日本では地震や津波、台風や集中豪雨などで自然災害が多い地域だ。また、山間部や島しょ部も多く、携帯電話の通信エリア確保には多数の基地局を設置/運用しなければならない一方で、自然災害が発生すると停電や伝送路障害などによるサービス停止や土砂崩れなどで基地局の設備自体が利用できない場合がある。

 携帯電話各社では、長年培われた技術で広域災害時でも短時間でサービス再開を目指す取り組みを続けている。ドローンやバルーンによるサービス再開などが注目されているが、KDDIではソフト面で現場の作業スタッフを支援する取り組みを続けているという。

 今回は、KDDIの「災害対応のDX化」について担当者から話を聞いた。

情報の一元化とオフラインでも対応できる仕組み

 広域災害時には、多くの基地局において不具合が発生するが、基地局の場所へ行くための道路が通行止となっていたり、ほかの基地局の障害情報を確認する必要がある場合、これまで別々のデータベースから情報を取得し確認する必要があったという。情報が一元化されておらず、作業員は都度情報を確認するしかなかった。

 また、作業員とセンターとでやりとりする方法が、これまで電話による連絡が多かった。電話によるやりとりでは、作業員が通信エリア圏内にいなければ電話ができないため、作業場所がエリア外となっている場合はエリア内に移動しなければならなかった。また、広域災害時には多数の作業員が同時に動いているため、通話待ちで時間を消費することも多かったという。

 今回の取り組みでは、これらを解消するためベクター方式で地図に情報をまとめる「SVGMap」と「PWA(Progressive Web Apps)による現地連絡手段」を開発した。また、多様化する情報提供へ対応するため、情報提供までにかかる時間を短縮できる「マークダウン言語の独自拡張」への取り組みを実施した。これらの一部は、KDDI以外の他社に向けても技術展開しているという。

「SVGMap」レイヤー表示で情報を確認

 刻々と状況が変化する災害現場で、最新の情報を収集したり、現場の情報を共有したりすることは、復旧活動においても重要な要素となるが、これまでの情報共有の方法には問題点があったという。

 これまでの情報収集と共有は「マッシュアップ方式」をとっていた。これは、さまざまな情報を巨大なデータベースに収集し、利用者に平面的なシングルレイヤーで表示する方法で、表示速度の低下や散在するデータを即時反映させることが難しいといった問題があった。

 今回の取り組みでは、さまざまなデータを参照して3次元的にデータを確認できるマルチレイヤーで表示できる「ハイパーレイヤリング方式」を採用。軽快かつ高速に地図を表示できるだけでなく、散在するさまざまなデータを即時描画できるため、最新の情報をすぐに確認できるようになった。

 レイヤー表示できる内容は、道路情報やauショップの情報、医療機関情報など100以上の内容に対応、必要に応じて順次拡大している。

SVGMapのデモ画面(内容は架空のもの)

 また、マッシュアップ方式と異なり、ハイパーレイヤリング方式では収集するデータベースを持たない非中央集権型の分散アーキテクチャーとなり、冗長化できる。

 このハイパーレイヤリング方式を採用した「SVGMap」レイヤー表示は、早期災害復旧を目指すインフラ事業者に技術情報を2010年に公開しており、アプリケーションへの実装に必要な機能や定型コードをライブラリ化し一般公開している。SVGMapは、2012年にJIS標準となり、現在はW3C(World Wide Web Consortium)標準化に向けて活動している。

PWAによる現地連絡手段

 通信設備に被害が発生し、通信手段がない状況での指示確認手段として、オフラインでもキャッシュに一時保存することで確認できるPWA(Progressive Web Apps)を活用した連絡手段の確保を確立した。

 端末が通信できるエリア内で、センターからの指示内容などをキャッシュに一時保存しておき、もし作業場所で通信ができない状態でも、保存しておいた情報を参照できる。

 また、作業報告時に通信ができない場合、報告内容を一時保存じておくと、端末がオンラインになった場合、自動的にその内容が送信される。

PWAによる現地連絡手段のイメージ

災害ダッシュボードの早期提供

 災害ダッシュボードの早期提供に向けて、KDDIではマークダウン言語の独自拡張を行い、ローコード化による災害ダッシュボードの開発スピード向上を図った。

 ローコード化とは、できるだけソースコードを書いたり編集したりすることなくアプリケーションを開発できるようにすること。今回の取り組みではコンマ「,」で区切られたデータを入力することで、都道府県地域ごとにヒートマップやグラフなどを描写できる。

災害ダッシュボードのイメージ(情報は架空のもの)
ダッシュボード
ヒートマップ表示
グラフの描画
数値テーブル

 これまで、災害ダッシュボードの画面作成に1週間かかっていたものが、今回の取り組みで2~3日に短縮され、災害発生から短時間で情報提供できるようになった。

DX化とシステムの内製化で早期復旧をアシスト

 今回の3つの取り組みは、KDDIの災害対策本部と全国10地区の運用拠点の作業者が利用できるようになっており、災害対応の現場で幅広く活用されている。

 また、システムを内製することで、柔軟でかつアジリティの高い開発ができ、外部環境の変化や現場からの要望に対応できるという。

 KDDIでは、これらのDX化などの取り組みで、さらなる通信インフラの早期復旧を目指すとしている。