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7km圏内をカバーする「大ゾーン基地局」やミニバン型基地局など、KDDIの災害対策とは

 KDDIは27日、モバイルネットワークに関する説明会を実施した。同社の災害時やイベント時の臨時基地局などの取り組みが紹介された。

 今回は、KDDIのネットワークの概要と災害時の通信障害への取り組みについてご紹介する。

この記事の内容

携帯電話のつながる仕組み
KDDIの運用保守体制
災害時の通信障害への取り組み
ミニバンタイプの「車載型基地局」
広範囲をカバーする「大ゾーン基地局」
今後の取り組み

携帯電話のつながる仕組み

技術統括本部 運用本部 運用管理部副部長 土生由希子氏

 まず、KDDI 技術統括本部 運用本部運用管理部副部長の土生由希子氏より、携帯電話の繋がる仕組みが簡単に紹介された。

 まず、固定電話の場合、電話機と電話機間で電話をするには、電話線を相互に接続し合えば電話できる。ただし、すべての電話機間相互に電話線を引くことはできないので、電話機と交換機を接続すると、交換機が電話機同士の回線を自動的に接続するため、効率よく通話環境が整う。

 この交換機は、壊れてしまうとサービスに影響が出てくるため、同社では2台構成で冗長化することで、ユーザーへの影響を最小限にしているという。

 また、遠くのユーザー同士が同じ交換機に接続することは難しいので、ユーザーが接続する加入者交換機同士がさらに接続する中継交換機を設置し、「ユーザー」―「加入者交換機」―「中継交換機」―「加入者交換機」―「ユーザー」の流れで接続される。

 携帯電話も、基本的な概念は同じだ。ただし、固定電話ではユーザーが接続している交換機は不変であるのに対し、携帯電話は移動できるため、交換機が固定されていない。また、携帯電話の場合、基地局を経由して交換機に接続されるため、どの基地局と接続しているかを把握する必要があるという。

 電話を接続するために必要な、相手方の交換機や基地局を知るために、ユーザーの位置情報を管理するHLR(Home Location Register)というデータベースで、ユーザー最寄りの基地局の情報を常に管理している。

 ユーザーが発信した場合、着信先の端末の位置をHLRに問い合わせ、特定した中継交換機と加入者交換機、基地局を経由して、ユーザー同士の通話が開通するという仕組みだ。

位置情報の必要性
HLRを用いた携帯電話の通話システム

 端末を利用する上で我々が身近に感じている基地局は、都市部に関わらず、日本全国隈なく設置されている。基地局の種類は主に2種類あり、自立した鉄塔にアンテナを設置する鉄塔設置型と、周辺より高い建物の屋上に設置するビル屋上設置型がある。このほか、電柱に設置するものもあり、これらの基地局を重ね合わせて通信エリアを構築している。

鉄塔設置型
ビル屋上設置型
エリアの作り方

KDDIの運用保守体制

 KDDI運用本部では、日本国内の「au」や「UQコミュニケーションズ」、「沖縄セルラー」などの通信会社や「au PAY」などライフデザイン会社、海外の「テレハウス(TELEHOUSE)」やモンゴルの「モビコム(MobiCom)」、ミャンマー「MPT」などの通信会社といったKDDIの全ての通信サービスを24時間365日守っている。

 日本国内においては、統合監視を行う新宿、バックアップ機能を持つ大阪をはじめ、札幌から福岡、沖縄セルラーまで合計11拠点が連携し日本全土の通信を支えている。

 海外においては、新宿とロンドンが交代で監視と統制を実施しているほか、世界23都市47拠点でデータセンターを提供している。また、ホーチミンでは相互接続するほかの会社の回線調査を行っている。

日本と海外の運用保守体制

災害時の通信障害への取り組み

技術統括本部 運用本部 運用管理部 ネットワーク強靭化推進室長の尾方淳一氏

 近年自然災害による通信設備の被害が広域化かつ長期化する傾向にあると話すのは、KDDI技術統括本部 運用本部 運用管理部 ネットワーク強靭化推進室長の尾方淳一氏。

 令和元年房総半島台風の際は、最大66市区町村で875の基地局において電波が止まってしまった。このとき、約80%が停電が原因、約18%が回線障害による停波だったことが明らかになっている。

 土砂崩れや電柱倒壊などが発生した場合、電力ケーブルと敷設している光回線の断線が発生してしまう。各基地局にはおおむね約3時間稼働する蓄電池が備わっており、停電時は蓄電池を電源として利用するが、停電が長期化した場合使い切ってしまう場合がある。

携帯電話の停波要因

 同社では、停電している基地局に対しては、発電機を備える電源車や手持ちできるポータブル発電機を基地局に手配し、復旧させている。

 光回線の断線した基地局には、車載型基地局や手持ちできる可搬型基地局を設置。通信衛星を利用して基地局とネットワークセンターとの通信手段を確保する。

停電時の復旧対応
光回線断線時の復旧対応
可搬型基地局での復旧事例
ポータブル発電機(左)と可搬型基地局(右)のイメージ

 また、半島や沿岸部など復旧が難しいエリアに対しては、船舶に基地局を設置した船舶型基地局を沿岸部に派遣し、サポートする。

船舶型基地局での対応例

 なお、被災地に対しては、auショップや自治体、避難所に充電サービスや「00000JAPAN」の無料Wi-Fiサービス、通信機器の貸し出しなどで支援する。

避難所などに設置される「00000JAPAN」の無料Wi-Fiサービスと充電スポット。スマートフォン以外にも、auやほかのキャリアのフィーチャーフォンもサポートする

 同社では、有事の際に備え自治体や自衛隊と連携し訓練を重ねている。

 先頃の令和二年7月豪雨では、道路崩壊や土砂崩れ、道路寸断が多発してしまい、auの基地局も103局停波してしまった。

 同社では、全国の拠点から要員が集まり復旧作業に当たったほか、自衛隊協力の下、孤立地域へ復旧機材と要員の運搬を行い復旧活動を行ったという。

ミニバンタイプですぐに立ち上げられる車載型基地局

 ここからは、実際に災害時に活躍する臨時の基地局をご紹介していく。

ミニバンタイプの車載型基地局

 ミニバンタイプの車載型基地局は、山間部など大型の車両が入れないエリアをサポートする基地局。ハイブリッド車両を使用しており、基地局で使用する電源は、自動車のハイブリッドシステムから賄っているという。

 基地局となるアンテナは、360°をカバーする無指向アンテナを採用している。

 ネットワークセンターとは通信衛星を利用して接続する。衛星と接続するパラボラアンテナは、通常折りたたまれて収納している。

 基地局立ち上げの際、機器のスイッチを一度押すだけで、各種アンテナの立ち上げや、通信衛星の測位まで自動で行われる。発電機も不要なのでスタッフ1名でも簡単に立ち上げられるという。実際に筆者も体験してみたが、難しい操作がいらずすぐに立ち上げられた。

 このほか、安定した通信を確保するために、水平を取れるジャッキも備わっている。

内部の機器もコンパクト
展開された無指向アンテナ。携帯電話と通信する
パラボラアンテナをたたんだ状態(左)と展開した状態(右)

KDDIビルに設置された「大ゾーン基地局」

 首都圏直下地震への対応として、周辺の基地局のエリアを丸ごとカバーできる「大ゾーン基地局」が新宿のKDDIビルなど、東京湾沿岸部に10カ所設置されている。

 震度7クラスの地震に耐えられる100mクラスの建物を選定し、ビル上部に設置している。各基地局には24時間利用できる蓄電池を備えている。

 KDDIビル34Fの最上階からさらに上部にアンテナを設置し、半径約7km圏内をカバーできる。通信自体は安否確認など最低限の通信を確保できる程度のものだというが、大規模災害時にいち早く通信できることは非常に心強い。

 また、肝心の通信の断線や停電の場合のバックアップも備えている。光ファイバー回線が断線した場合、屋上に設置している通信アンテナで通信センターや中継局と直接無線で接続できる。停電時は、KDDIビル地下に自家発電装置や蓄電池を備えており、電力網からの電気が途絶えた場合でも、通信機器には常に電気が送られるようになっている。

 今回は、KDDIビル最上部に設置しているアンテナと非常用発電機をご紹介する。

KDDIビル屋上の大ゾーン基地局

KDDIビル屋上の基地局

 KDDIビルの屋上からさらに高い構造物に設置されている、携帯電話と通信するアンテナは、ビルのまわり360°をカバーできるように設置されている。

 光ファイバーが断線した場合には、ネットワークセンターまで無線で接続される。KDDIビルの送受信アンテナは、霞が関や神楽坂、田無と川崎の4方向に向けて設置されている。

 このほか、内閣府の防災無線アンテナが設置されており、第3合同庁舎やJR東日本、NTTやNHKなどを経由して通信されている。

 また、ビルが孤立した場合、携帯電話用の衛星アンテナや連絡用の衛星アンテナを設置している。連絡用の衛星アンテナは、船舶に設置されてるアンテナを採用しており、万一地震で建物が傾いてしまった場合でも、自動で衛星を測位できる。

衛星アンテナは南向きに設置
アンテナ群
ビル最上部
中継アンテナ

KDDIビルの災害時を支える自家発電装置

 KDDIビル地下には、停電時に備え自家発電装置を設置している。

自家発電装置

 通信機器に供給する電源は、UPSシステムを活用している。交流電源のパルス異常や停電が発生した場合、すぐに蓄電池からの電源供給に切り替えて供給できるという。

 ビル全体が停電した場合、40秒以内で自家発電装置が作動し、ビル全体の電源が復旧する。自家発電装置は、航空機のジェットエンジンのように燃料の燃焼で圧縮された空気が発電タービンを回して発電するしくみ。

 これらのバックアップシステムは、1992年を最後に使われたことはないようだが、現在までに定期的に点検を行い、年一回ビル全体を停電にしバックアップシステムの試運転を行っているという。

前回の試運転時のようす。水色が電圧を表しており、30秒弱で自家発電装置から電力が供給されているのがわかる

今後の取り組み

 KDDIでは基地局に設置している蓄電池の容量を24時間~48時間使えるように順次増強を行っている。

 自治体や災害指定病院など、災害時に通信が特に必要なエリアを中心に設置を進めていく。

 また、災害時の臨時基地局にドローンを利用した基地局の開発を進めている。1回につき最大30分間基地局として稼働できるほか、エリア内の端末情報を取得することで、自身で助けを呼べないユーザーの存在を確認できるようにするという。

ドローンを利用した基地局。右の小さいドローンは被災した通信設備を上空から撮影する調査用ドローン