ニュース

楽天 三木谷社長とクアルコム アモンCEOが対談「5Gがエンパワーする未来」

左からクアルコム社長兼CEOのクリスティアーノ・R・アモン氏と楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷 浩史氏

 楽天グループは、10月12日~13日にビジネスカンファレンス「Rakuten Optimism 2021」をオンラインで開催している。

 13日(DAY 2)では、同社代表取締役会長兼社長の三木谷 浩史氏と、米クアルコム(Qualcomm)社長兼CEOのクリスティアーノ・R・アモン(Cristiano R. Amon)氏との対談が公開された。

 対談では、「5Gがエンパワーする未来」と題され、両者の5Gに関する取り組みや5Gがもたらす未来などが語られた。

5Gでコミュニケーションが進化する

クリスティアーノ・R・アモン氏

 三木谷氏はまず、5Gは、ユーザーにとってどのような意味を持つのか? をアモン氏に問いかけた。

 アモン氏は、「5Gには多くの意味がある」とし、無線技術の業界において「最も重要な変化の一つ」とコメント。

 つづいて、「すべての産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)で重要な要素となる技術。5Gは電気のように当たり前の存在になる」とし、5Gによってほとんどのデバイスがクラウドに接続される未来を見ているという。

 また、「5Gは高速通信だけを実現するものではない」とし、コンシューマーユーザーにも変化が生まれると指摘。

 5Gネットワークの整備により、より高速な通信サービスを無制限に利用できるようになる。そこで、5Gによって映像コンテンツが自由化されるという。

 4Gネットワークの発展により、ユーザーは音楽CDを持ち歩くことなく、ストリーミング配信で楽しめるようになったが、5Gではこれが映像コンテンツの楽しみ方に変化が生まれるとアモン氏は説明。

 これにより、ユーザーが双方向で高画質な映像を好きな場所で楽しめるようになり、ユーザー自身がテレビ局のように映像で発信するようになる。

 アモン氏は、引き続きユーザーの情報発信の変化を取り上げ、「社会的交流の考え方が変わり、SNSの進化にも影響を与える」と指摘。新型コロナウイルスによるパンデミックでは、ビデオ通話が普及し、今やどこにいてもスマートフォン片手にビデオ通話を楽しんでいることに触れ、これがSNSに持ち込まれ「いつでも好きなときに高速通信を利用し、自分自身を動画配信できるようになる」ことが次のステップになると考えを示した。

 また、パソコンがスマートフォンに取って代わられたように、画面サイズに制約があるスマートフォン以外のデバイスが台頭するかもしれないといい、「没入型のARグラスが次世代のスマートフォンになるかも知れない」とコメント。自動車の自動運転なども含め、5Gが与える変化について「驚くほど多くの可能性を秘めている」と説明した。

つながるインテリジェントエッジ

クリスティアーノ・R・アモン氏

 三木谷氏は、アモン氏が提唱している「つながるインテリジェントエッジ」について「半導体をリードするクアルコムが、なぜ今エッジコンピューティングについて語り始めているのか?」と質問した。

 アモン氏は、「スマートフォンが人類が創造したもので最も大規模な開発プラットフォームなっている」と指摘し、強力なコンピューティングプラットフォームであるスマートフォンとクラウドを組み合わせることで、携帯電話産業が大きな可能性を持つことができると説明。「工業用モーターやカメラ、医療機器などにクラウドにつなぐ技術をもつ携帯電話の機能を追加すると、その産業を根本的に変えられる。これが我々(クアルコム)の考える『つながるインテリジェントエッジ』です」と語る。

 4Gネットワークの発展により「コンピューターの性能を手のひらの中に収まるものにした、『つながるインテリジェントエッジ』では、リアルタイムのデータや情報をあらゆるものから取得し、今まで見たことのないAIの発展を実現できる」(アモン氏)とコメント。

 たとえば、製造業では「80~90年代に加工費を最小化するために巨大な工場を建てていた」が、スマートマニュファクチャリングや5Gにつながった工場があれば「どこでも製造でき、クラウド上で制御できる」とし、製造場所の幅も広がるという。5Gはこのような産業の変化を生む素晴らしい機会だと指摘する。

 三木谷氏はこれを受け「ある意味ネットワークそのものが賢くなるAIになるということ」とまとめ、アモン氏も「その可能性がある」とした。

楽天モバイルのネットワーク仮想化

 対談の話題は「楽天モバイルのネットワーク仮想化」に移る。

 アモン氏は「楽天モバイルができる過程に携われた。将来のネットワークのいい見本になる」とコメント。「5Gのユースケースが見えてきたことで、テレコムの黄金時代が始まろうとしている」とし、将来が有望であると語った。

新型コロナのパンデミック

 新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中でライフスタイルやワークスタイルが大きく変化した。

 アモン氏が率いるクアルコムも例外ではなく、「パンデミックでコネクティビティが重要だと学んだ」(アモン氏)とした。

 また、「Zoom(ズーム)」がビデオ通話を指す言葉として使われたことなど「物事はより速く進化しうる」ことがわかったと指摘。オンライン診療も「今後発展する」考えから実際に診療ができることがわかり、「つながる」技術を高め続けることでリモート学習やテレワークもより便利になると説明した。

気候変動問題

 三木谷氏は、「新型コロナウイルス」以外にも「気候変動問題」があると指摘し、5Gは「気候変動問題」に対してどう貢献していくかをアモン氏に質問した。

 アモン氏は「難しい問題」としながらも、コネクティビティが持つ力やデジタル変革を含めると「温室効果ガスの排出量削減」などで貢献できるとコメント。

 たとえば、2025年までに5Gが完全に普及すると、アメリカの温室効果ガスの排出量を「車8100万台分」を削減できるというデータがあるという。また、5GのセルラーV2Xの技術を活用し、インテリジェントな道路交通システムの導入が進めば、排出量を20%削減できるはずと説明。

 アモン氏は「5Gやデジタル変革に関連する技術には、より持続可能な経済を構築するための限りない可能性がある。5Gに関わるすべての将来的な展望が今から楽しみだ」と語った。

デジタルデバイド問題解決への取り組み

 三木谷氏は、デジタル化が進むなかで「一部の人が(デジタル化に)取り残されることを心配する声がある」とし、業界のリーダーとして、デジタルデバイドの問題も解決しなければならないと考えを示した。

 アモン氏も、パンデミックによりデジタルの影響やデジタルデバイドの問題が浮き彫りになったと指摘。ブロードバンドやデジタル機能へのアクセスがないと、コミュニティのつながりや高い生産性、学習を続けることが難しくなったとといい、特に最先端の技術を開発している企業には、社会のデジタルデバイドの問題への取り組みを支援する方法を模索する責任があるという。

 アモン氏は、5G技術で支援できる機会がたくさんあるといい、5Gによる固定無線アクセス(FWA)の活動を目にする機会も増えたとコメント。デジタルデバイドの問題は、先進国でも発展途上国でも世界中で起きており、テクノロジーを手に入れることが難しい人々もいると指摘。

 5G技術により、通信事業者は真の「ワイヤレスファイバー技術」を持つようになったとし、世界中の多くの企業が、5Gを使って学校や図書館、地方の施設を接続し、デジタルデバイドの解消に向けて取り組んでいる。

 また、これまで語られてこなかった5Gのもう一つの機能として「コンピューティングパワーを全員の手に届けられること」とコメント。クラウドに接続し、クラウドのパワーを企業やユーザーに届けられれば、無制限のコンピューティングパワーを仮想的に提供できるという。

 三木谷氏は、「コンシューマーゲームでは1本50GB以上のデータとなってしまい、日本のモバイル回線でダウンロードすると高額になってしまうが、楽天モバイルは日本の携帯電話業界に価格競争を引き起こしており、世界と比較しても低価格でサービスを提供している」とコメント。

 今後について三木谷氏は「音声入力が主流になり、タイピングもフリック入力もなくなること」と「AIによるアシスト機能」で高齢者に優しく便利な社会になると指摘している。

楽天モバイルとの提携について

 楽天モバイルとクアルコムのパートナーシップについて想いが語られた。

 アモン氏は、パートナーシップにおいて「クアルコムの歴史」と「日本における通信業界の歴史」となるとコメント。

 「世界で初めてすべてのMNOがミリ波を導入したのは日本」(アモン氏)とし「ミリ波があってこそ5Gの恩恵を受けることができる。日本ユーザーは感動するだろう」とした。

 楽天との提携については、「クアルコムのテクノロジーを発展させ、インフラに組み込むことがモチベーションになっている。クアルコムはイノベーターやテクノロジーの転換を推進する企業と働く必要がある」としたうえで、「私たちが目指しているのは、パートナー企業だけでなく、世界中の人々がテクノロジーの恩恵を受けられるような手本となること」が楽天と提携した理由の一つと説明した。

5G SAと半導体不足

 ユーザーから「クアルコムのチップセットが採用されたスタンドアローン(SA)方式の5G対応デバイスはいつごろ使えるか?」との質問について、アモン氏は「年内に5G対応デバイスが5億台に達する見込みで2022年には約7億5000台になる。クアルコムはデバイスがノンスタンドアローン(NSA)とSA両方をサポートするよう支援しMNOの柔軟な5G SA開始を可能にしている」とコメント。また、SAにより低遅延を生かした高度なアプリケーションを存分に生かせること、ミリ波なしで5Gの恩恵を享受できないことをあげ、日本のユーザーがミリ波対応の5Gデバイスを購入できるのはよいことだとした。

 また、半導体不足については「頻繁に聞かれいつも頭を悩ませている」としたうえで、「供給不足解消のため、生産能力最大化に向けた製品の設計や、製造パートナー企業と連携し、増強も行っている」とクアルコムの対応を説明。

 半導体不足は「2022年初頭までの解消が見込まれている」とした一方で、半導体の消費レベルが一段と上がっていることもあげ「速く解決することを願っている」とコメントした。

 アモン氏は最後に自動車産業について「自動車はクラウドに接続され、ホイールがついたコンピューターになりつつある。5Gとテクノロジーが重要な役割を果たす大きく変化する産業である。5Gの進化によって大きな恩恵を受ける産業の一つになる」とコメント。

 三木谷氏は「すべての会社がIT企業となっている」と指摘。たとえば、先進的な金融機関のスタッフの半分はエンジニアであることや、モデルナのようなバイオテクノロジー企業がAIを活用していること、農業の分野でもロボット技術でAIが使われるだろうとし、デバイスがすべてクラウドに接続されるようになる近い将来に向けて、楽天グループとクアルコムが連携を深め、「世界中の社会に明るい未来を作っていきたい」とまとめた。

楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷 浩史氏
クアルコム社長兼CEOのクリスティアーノ・R・アモン氏