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楽天が推し進める、欧州初のOpen RANモバイルネットワーク構築

 楽天グループは、同グループ最大級のオンラインイベントとして「Rakuten Optimism 2021」を10月12日と13日の2日間にわたって開催している。

 12日の最終プログラムでは、「ヨーロッパ初のOpen RANモバイルネットワーク構築」と題したトークセッションが開催された。

 トークセッションのコーディネーターは、楽天シンフォニーのCROであるラビー・ダブーシ氏が務めた。

 そして、楽天グループの副社長執行役員兼CTOであり、楽天シンフォニーのCEOでもあるタレック・アミン氏と、独ドリリッシュ・ネッツ AGのCEOであり、1&1社のテレコミュニケーションSEでもあるミハエル・マーティン氏が対談するかたちとなった。

 本記事では、トークセッションの内容をお届けする。

楽天グループと独1&1社の関係について

 8月に本誌でもお伝えしたとおり、楽天グループは独1&1社と、携帯電話ネットワークの構築に関する長期的なパートナーシップを締結することで合意していた。

 楽天は、Open RAN技術に関する知見を活かし、1&1社の完全仮想化モバイルネットワークの構築を支援する。

1&1社のマーティン氏の話

 トークセッションの冒頭でマーティン氏は、1&1社の目標や戦略について語った。なお、1&1社はMVNOからMNOへ移行した企業で、独自ネットワークの構築を推し進めている。

 マーティン氏はMVNOからMNOへの移行について「数年前にすでに決まっていたことであり、今後10年間の持続可能なビジネスモデルを確立するための決定だった」とコメントした。

マーティン氏

これまでの取り組み

 2019年にドイツの5G周波数オークションに参加した1&1社は、3.5GHz帯で50MHz幅、2.1GHz帯と2.6GHz帯の確保に成功し、ネットワーク構築の準備を整えた。

 続いてマーティン氏が「ステップ2」としたのは、1&1社が抱える1000万人以上の顧客のためにネットワークの”本拠地“を構えること。そこで同社は2021年5月、マーティン氏いわく「非常に長く激しい交渉」の末に、スペインのテレフォニカと、ドイツ国内におけるローミング契約を締結することに成功した。

 そして1&1社は、インフラとテクノロジーの提供元となるベンダーを探す中で楽天と出会う。両者は2021年の8月中旬に契約を締結し、日独のパートナーシップが成立した。

 マーティン氏は楽天について、「(すでにOpen RAN 1.0のネットワークを構築した楽天が)日本で経験した苦労などが、ドイツでのOpen RAN 2.0の構築に役立つ」と語る。

今後について

 マーティン氏は今後について「独自のネットワークを構築するための次のステップはまだ決まっていない」としながらも、2022年末までの5G基地局1000カ所設置、2025年までの人口カバー率25%達成、2030年までの人口カバー率50%というエリアカバレッジの達成義務について、「前倒しできる」と自信をのぞかせた。

 同氏が今後におけるポイントとして挙げたのは2つ。

 1つ目はアンテナ(基地局)の設置で、数年間で1万2000という基地局の設置目標を達成するためには、同氏いわく”山のような“設置場所を獲得し、認可申請を出さなければならない。

 2つ目は700MHz、800MHz、900MHzの周波数の確保で、まずは2025年に予定されている800MHzのオークションを見据える。

目標と意気込み

 1&1社の目標に関しては、「ドイツで最も革新的かつ現代的で、市場投入までの時間が最短のネットワークを構築すること」とマーティン氏。

 大きな視点では「ドイツのモバイル市場を本来あるべき姿に戻し、(同国の)5Gを素晴らしいものにすること」が目標だと語り、楽天とのプロジェクトにおける意気込みを見せた。

楽天シンフォニーのアミン氏の話

 楽天シンフォニーのアミン氏は、MWCでの三木谷氏(楽天グループの代表取締役会長兼社長)との出会いについて語り、楽天に加わった理由のひとつとして「テレコム業界全体を転換させる役割を楽天が担えると思えた」ことを挙げた。

アミン氏

 「専用機器や独自のインターフェイスへの依存、あるいは新技術やサービスを導入する手間を考えた場合、レガシーアーキテクチャーに基づくネットワークは間違っていると思った」と語るアミン氏は、「Open RANこそが変革の柱になると信じていた」と強調する。

Open RANのメリットは

 アミン氏がOpen RANのメリットのひとつとして挙げたのは「透明性」。TCO(総保有コスト)の完全な透明性をパートナーに保証するという点で、今回の1&1社との契約が画期的であると語った。

 また、「Open RANは、IT業界が何十年にもわたって恩恵を受けてきた仮想化のメリットを受けられる」とアミン氏。

 ネットワーク自体が修復や管理、最適化を自動で行うことや、VM(仮想マシン)やコンテナ機能の自動割り当てなど、同氏が挙げたメリットは多岐にわたる。

 アミン氏は楽天でのネットワーク構築の道のりを振り返りつつ、「インターネットの閲覧体験を向上させる修正プログラムがあれば、それをネットワークに導入するために、次のリリースサイクルまで半年も待つ必要はない。ユーザーは、iOSやAndroidのソフトウェアアップグレードを楽しむのと同じように、ネットワークのリアルタイムなアップグレードを楽しむべきだ」と語った。

全面的な支援を約束

 アミン氏は、「ネットワークをひとつに統合されたクラウド」としてとらえることを目指す楽天シンフォニーの一員として、パートナーの1&1社に対して全面的な支援を約束した。