ケータイ用語の基礎知識
第810回:セルラーV2X とは
2017年6月13日 16:01
自動車とインフラ、歩行者が通信しあうシステム
自動運転など、クルマに関する新たな技術への注目が高まっています。そうした中で使われるワードに「V2X」があります。V2Xとは、クルマと他のクルマ、つまりV2V(Vehicle to Vehicle、自動車自動車間を意味する英語)、あるいはクルマと信号機や道路標識などの道路インフラ(V2I、Vehicle to Infrastructure)、はたまた歩行者(V2P、Vehicle to Pedestrian)と、クルマとその周囲にあるさまざまなものを通信で繋ぐシステムを指す言葉です。“V(乗り物)と何か”という意味合いになるわけです。
そして今回紹介する「セルラーV2X(Cellular V2X)」は、LTEや5Gといったモバイル用の通信ネットワークを用いるV2Xです。C-V2Xと略されることもあります。
2016年9月、3GPPが「セルラーV2X」の初期仕様を公開しました。3GPPは、3GやLTEなど携帯電話向け通信規格の標準化を行っている業界団体です。セルラーV2Xも標準化され、機器同士の通信が行われるようになる候補のひとつになったわけです。2017年6月中仕様が定まる予定の「3GPP Release14」、V2Xの最初の規格が含まれるとされています。
「セルラーV2X」が活用されるであろう市場は、とても規模が大きいと見られています。そのため、多くの通信機器メーカー、自動車メーカー、あるいは自動車部品メーカーといった企業が、その実用化に向けて研究開発を進めています。
基本はダイレクト通信、LTE Directがベース
セルラーV2Xの応用用途としては、いわゆる「自動運転」や「高度運転アシスト」技術などが考えられています。それらの機能は、レーダーやカメラをクルマに搭載し、検知した物体を避けたり、あるいは衝突せずに止まったりできるように作られています。
しかし、人の目の死角などと同じく、車載のカメラやレーダーだけであれば、レーダーの影になったり、あるいはカメラからは写らない遮蔽物などによる死角から飛び出してきた人、他のクルマものには対応しきれないということです。
そこで、セルラーV2Xでは、周辺を走るクルマや、道路インフラと情報をやり取りします。もし「そこに歩行者がいる」という情報が飛び込んでくれば、自車からは死角であっても、察知できるようになり、事故のリスクを減らせると期待できるわけです。
もちろん、そうした機能を現実のものとするには、非常に速いスピードで走行するクルマに通信で伝えなければなりません。これまでの携帯電話向けの通信規格も、徐々に進化していますが、それ以上に、通信の遅延を少なくしなくてはなりません。
セルラーV2Xでは、基本的に自車と、他のクルマや道路インフラ、歩行者などが持つ機器とダイクレトに通信するようになっています。これは、LTE Advanced(3GPP Release12)で標準化された「LTE D2D」という端末間通信技術を改良し、クルマの走行に最適化したものになっています。
他にもLTE通信やブロードキャストを使って、クラウド接続や情報を受け取ることもできます。日本の「ETC」のような有料道路での料金自動徴収や、渋滞情報の受信といった機能も、セルラーV2Xを活用するサービスを開発できるようになるでしょう。このようなサービスの一部は、既に実用化されていますが、世界標準の規格ができた影響は大きいでしょう。
なお、セルラーV2Xの他にも、自動車運転の高度化を支える技術としては、たとえば、DSRC(ETC2.0)や、先述のレーダーシステムも存在しています。総務省などでは、このような高度化した自動車を「コネクテッドカー(Connected Car)」と呼び、有識者による「Connected Car社会の実現に向けた研究会」などを開催し、将来像を検討しています。