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KDDI、法人向けサービス2種や5G SAのテストを開始――同社の法人ビジネスの強みとは

 KDDIは、法人向けサービス「KDDI ID マネージャー」「KDDI マネージドセキュリティサービス」などの新サービスを発表した。

左=KDDI 森氏 右=KDDI 藤井氏

 KDDI 執行役員 ソリューション事業本部 サービス企画開発本部長の藤井彰人氏はDXをサポートする上で2つの大きなカテゴリーがあると語る。

 ひとつは、社内業務をDXする「コーポレートDX」、もうひとつは環境の変化に応じて事業をどうDXするかを支える「ビジネスDX」という。

コロナ禍で伸びるテレワーク需要

 新型コロナウイルスにより急速にリモートワークが普及。ビデオ会議の申込み数は8倍、クラウド電話の契約数は17倍へと大きく伸長したという。

 社内でやっていた業務をリモートでどう遂行していくかという課題に対して、KDDIでは「マネージドゼロトラスト」というソリューションを導入。ライフスタイルが異なる社員一人ひとりに合わせて6つのコンポーネントを最適に組み合わせることで、多様な働き方を支援するというもの。

 こうしたサービスを提供する中で、「どう管理していけばいいか」といった新しい課題が見えてきたと藤井氏は説明。そこで、発表されたのが「KDDIマネージドセキュリティサービス」だ。

 KDDI独自開発のログ分析基盤やグループ企業LACの自動分析エンジン、KDDI デジタルセキュリティのアナリストによる分析などを利用でき、分散化する業務やサービスを一元的にリモートでの監視を実現する。

5G SAや法人向けサービスを開始

 一方のビジネスDXでは、その一環として5G SAのフィールドテストの開始が発表された。

 5GやIoTでさまざまなモノがつながる時代を迎える中、「ビジネス変革のきっかけはテクノロジー。5Gであらゆるものがつながったあと、どんなビジネスが生まれるかに注目している」と藤井氏は語る。

 5G SAでは、高速・大容量の通信に加えて、IoTの多数接続や用途・ニーズに応じてネットワークスライシングなどの機能が提供される。SAの実証実験の一環として、ソニーと共同で、スライシングを活用した8K映像コンテンツの配信やフジテレビとスマートフォンを活用しての低遅延中継といった内容が実施された。

 サービスとしては、「KDDI ID マネージャー」を提供する。売り切りではなく、継続的な収益の獲得を目指す「リカーリングビジネス」への転換を見据え、サービスのデジタル化を図る企業を支援する。

 3000万超のグループIDを運用してきた同社のノウハウに基づいた仕組みでFIDOによる利便性・セキュリティや運用面でもサポートを受けられる。

 さらに、社会課題解決に向けた取り組みの一環として、富士通とパートナーシップを締結。街全体の施設の最適化や匿名の個人データによるパーソナライゼーションなどau 5Gと富士通のローカル5Gをかけ合わせた形でのサービスを実現していくという。

さらに先の技術も

 藤井氏は、同社の次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」のさらに先を行くテクノロジーも紹介。

 KDDI Accelerate 5.0を牽引するのは、基礎研究を担う、埼玉県ふじみ野市の総合研究所と応用研究を担当する東京都港区のKDDI research atelier。

 KDDI 総合研究所で開発された汎用ハードとソフトで8K映像のライブ伝送を実現する技術は、日本航空やセコムにおいて遠隔作業支援や警備の遠隔監視といったユースケースが想定されるという。

 また、世界最高水準という50msの超低遅延伝送は、複数台の自動運転やロボットの遠隔操作、バーチャル空間での共同作業といったユースケースが見込まれるとしている。

NEXTコア事業で収益伸ばす

 KDDI 取締役 執行役員専務 ソリューション事業本部長の森敬一氏は、同社の法人ビジネスの概況などを説明。

 新型コロナウイルスや地球温暖化、労働人口減少といったさまざまな社会課題に対して、同社の主軸である通信とプラスアルファでDXを加速させ、解決を図るとあらためて姿勢を説明する。

 法人事業の売上高と営業利益については、どちらも2桁成長を目指すとしている。また、全体の3割を「NEXTコア事業」とすると目標を語る。

 NEXTコア事業とは、コーポレートDXやビジネスDX、事業基盤サービスなどの総称。いずれも前年比で安定した成長を保っている。

3つの強み

 森氏は、同社のNEXTコア事業には「DXを実現する多様なケイパビリティ」「IoTのトップランナー」「お客さまとのビジネス共創」の3つの強みがあると語る。

 同社グループは、コンシューマー事業の顧客基盤をはじめ、固定・移動の通信基盤やさまざまな組織・人財、さまざまな専門分野に強みを持つグループ企業各社などのケイパビリティがあると説明。

 さらに同社のIoT累計回線数における、直近3年の年平均成長率は40%超。2022年3月時点で2400万回線を目指す。現在、およそ230の国と地域でサービスを展開しており、ソラコムのプラットフォームとKDDIのグローバルな運用体制をかけ合わせた事業展開を行っている。

 加えてスペースX社のStarlinkと業務提携。離島や山岳地帯でも高速IoT通信を広げる取り組みを進めている。このほか、IoTアプリケーションとして、Station Digital Mediaと資本業務提携を締結。IoTサービス利用者向けのスマートフォンアプリなどの提供に向けて取り組む。APIゲートウェイ、データ分析などさまざまなアプリケーション・サービスプラットフォームを展開し、リカーリングサービスを実現するという。

 KDDI DIGITAL GATEを通じた、ビジネス共創もまた同社の強みのひとつと森氏は語る。

これまでに80件超のDXを実行してきた実績があり、「変革リーダー」を育てる人材育成プログラムである「KDDI DX University」では、これまで250人の育成を完了しており、2023年度目標では500人を育成することを目指す。

地域の課題解決も

 地域社会の課題解決では、渋谷区とともにスマートフォンを持たない高齢者へのスマートフォン無償貸与や使い方教室を実施。

 これに加えて、2020年には40万人が参加したというバーチャルハロウィーンは2021年も開催の予定という。

 このほか、電源開発と共同でスマートドローンを用いた風力発電の点検を実施。作業時間を10分の1に短縮できたという。今後、水力発電や火力発電でもDXを進めていくという。

 地方が抱える課題の解決は現在、168のプロジェクトが推進中。「地方の課題はまだまだたくさんある。努力していきたい」と森氏。

 カーボンニュートラルの取り組みとして、同社ではCO2自社排出量を50%削減することを目標としている。その一環として「液浸冷却装置」によるサーバー冷却の実証実験を進めている。

質疑応答

左から、KDDI 梶川氏、森氏、野口氏。オンラインでKDDI 総合研究所長の中村元氏もリモートで参加した

――法人事業において他社との違いは?

森氏
 固定・移動通信、海外事業など広くカバーできるのがKDDI。DXソリューションに必要な通信とIoT、多様なケイパビリティを積み重ねており、ここが技術的・戦略的な我々の強みだ。

 研究開発において、セキュリティや映像関係など尖ったものがあった。それをビジネスシーンに使っていけるようにKDDI research atelierを設立した。現場で役に立つ技術を開発し、適用していくということができる。

――富士通とのパートナーシップはいつ頃サービス開始になるか? 何社程度どういった用途で導入することを目指しているか?

野口氏
 富士通とのサービスは2021年度中にビジネス実証をする。2022年度以降にサービスを展開していく予定。商用施設などコンシューマー向けサービスを展開している事業者や自治体などの導入を見込んでいる。具体的な導入者数目標などは非開示としたい。

――KDDI ID マネージャーとKDDI Business IDの違いは何か?

藤井氏
 KDDI Business IDは従業員IDをどう管理するか、社内システムの連携に注力している。KDDI ID マネージャーは、ユーザーのサービス提供に向けたサービスといった点で違いがある。

――5G SAのフィールドテストは具体的にどこで何をするのか? 今後のSAの提供時期の目処は?

野口氏
 今回の発表は、商用の5G基地局のソフトウェアを更新、安定したエンドツーエンド通信が可能なことを確認したというもの。複数の地域でフィールドテストを実施中。

 展開スケジュールは2021年度後半のサービス開始に向けて準備中。2021年度にトライアルを実施し、本格スタートは2022年以降になる。

――ネットワークスライシングはどの程度の価格でどんなサービスで提供する予定か?

野口氏
 サービスの実際の形については現在検討中。一般企業では仮想的にネットワークを分けて他の通信と分けてデータを守るというところで注目されている。KDDIでは、さまざまな実証を積み重ねており、その中で適正な価格帯を掴んでいる。

――Starlinkの話などあったが、山間部や郊外など、移動通信の範囲外である程度の価格で通信ができるようになるのはいつ頃と見込んでいるか?

森氏
 StarlinkはKDDIのネットワークのバックホール回線として2022年から使う予定。Starlinkの基地局は常設でも可搬型でも運用可能。周波数によっては広くカバーでき、今はつながりにくい場所でも(通信を)たくさんつかっていけるようになる。