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同じ場所にいるかのように会話できる「空間自在ワークプレイス」――KDDIとJR東が実証実験

 KDDIとJR東日本は、遠隔地にいる人同士でも同じ空間にいるかのような体験ができる「空間自在ワークプレイス」の実証実験を開始した。期間は6月18日まで。

 空間自在ワークプレイスは、大型のスクリーンやディスプレイなどを用いて、離れた場所同士を通信でつなぎ、あたかも全員が同じ場所にいるかのような感覚で会議などを行えるというソリューション。17日、報道陣向けにデモンストレーションが公開された。

臨場感ある会話が可能

 デモで実演されたのは、働き方に関するワークショップの風景。再現された会議室の中には、床面まで映し出せるようなかなり大型のスクリーンがある。そして、進行役のかたわらにはホワイトボード代わりとなるタッチパネル式のディスプレイが並んでいた。

左手奥の白いものがスクリーン。その横のTVディスプレイがホワイトボードとなる
会議室へ入室時の様子。QRコードをスキャンするだけで良い

 ワークプレイスへの入室にはスマートフォンを使用する。QRコードを読み込むことで入室できる仕組みとなっていた。

どちらが書き込んでもどちらにも表示される

 映し出された映像は高精細で、人の表情もわかりやすく、自然な様子で会話は進んでいく。「働く場所」をテーマに参加者各々がホワイトボードに書き込んでいくが、画面の向こう側から質問があっても、間髪入れずに司会者がそれに答えられる。

 たしかに、実際にひとつの会議室で顔を合わせて会話をしているかのように感じられる場面だ。

チームを動かす3つのしかけ

 KDDI ソリューション事業本部 サービス企画開発本部長の藤井彰人氏は「在宅環境では、統一された環境がない」と指摘。ある人はカフェ、ある人は自宅、そしてシェアオフィスと、こうした問題が表面化したことに加えて、リモート時における双方向のミスコミュニケーションがあると語る。

左=JR東 表氏 右=KDDI 藤井氏

 たとえば、ビデオ鍵時に「どうぞどうぞ」とお互いに譲り合いになったり、会話の中に入りづらく話せないまま進んでいってしまったりと、藤井氏は「ささいなことだが、こうしたことで乱れるチームワークというのは重要なものだったと認識した」という。

 チームワークを維持する仕掛けは3つあるという藤井氏。ひとつは「空間を超える仕掛け」。さっと会議室に入ればログイン操作など不要ですぐに仕事に入れる。加えて雑談も重要という。雑談がなくなるがゆえにまたオフィスに人を呼び戻したいと思う会社も少なくなく、リモートでも臨場感ある雑談ができるようになっている。

 KDDI ビジネスインキュベーション推進部長の中馬和彦氏は、この点について「既存のビデオ会議サービスでは、同時に発話するとどちらかにフィルターがかかるようになっている。これにより臨場感を味わうのが難しい」という。

 対して、空間自在ワークプレイスのシステムは、発話者全員の声がクリアに届けられるため、一般的なビデオ会議サービスを使うよりも臨場感ある会話ができるとしている。

 加えて「時間を超える仕掛け」として、前回の書き込みの内容などを保存する機能もあわせ持つ。「ふせんのようなアナログの直感的な良さを失いがち」と藤井氏。もちろん、接続する双方の拠点から書き込むことができる。

 これらの機能が組み合わされることでアイデアや課題を効率よく集約され「思考を広げる仕掛け」となると藤井氏。

 また、実証実験の評価は、KDDI総合研究所が開発する「顔領域適応型表情認識AI」で行う。マスクを着けていても90%以上の精度で表情を分析でき、チームワークにおける感情を把握する。

100年先を見据えた取組み

 JR東日本 執行役員 事業創造本部副本部長の表輝幸氏は、今回のデモが行われた高輪ゲートウェイ駅周辺を「100年先を見据えた心豊かなくらしづくりのための実験の場」と説明する。

 新型コロナウイルスの感染拡大にともない、従来の一極集中的な都市構造から、リモートワークなどの広がりにより分散型の街づくりに変化していく中、表氏は「『タスク処理』的な仕事になりがち」と問題を指摘。仕事上でのコミュニケーション不足に由来するリモートワークの課題が浮き彫りになったと語る。

 コミュニケーション不足により、生産性の向上や新しいアイデアの不足、仕事上のチームの団結力が不足するといった問題があると表氏。

 今回の空間自在ワークプレイスでは、リアルとバーチャルのかけあわせによりそれぞれの良さを活かし、そうしたリモートワーク時の課題解決を狙う。

 JR東日本では、多様な働き方の支援として、駅でのソロワークオフィスや新幹線をオフィスとした移動式のワークなどを実証しており、そうした構想のうちのチームでのワークが今回の実証実験ということになる。

 このほか、JR東日本では「Beyond Stations構想」として、ワーケーションのサポートや駅で学べる「JR東日本カレッジ」(仮)といったアイデアも検討されているという。

 なるべく早い時期での商用化を目指すという今回、公開された空間自在ワークプレイスは、エリア展開としては、JR東日本の管轄地域を見込むが、将来的にはそれ以外の地域でのフランチャイズ展開なども検討されている。

 また、実証実験では用意されている拠点間をつなぐが、商用化の際には従来のオフィスと拠点間をつなぐ、といったことも形も想定しているという。