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Yahoo!×LINEは「AIテックカンパニー」を目指す――共有する大きな危機感と未来への志
2019年11月18日 22:13
18日、ヤフー(Yahoo! JAPAN)親会社のZホールディングスとLINEが経営統合に向けた基本合意に至った。Zホールディングス社長の川邊健太郎氏と、LINE社長の出澤剛氏による会見では、両社がなぜ統合するに至ったか「強い危機感と大きな志」が語られた。
質疑応答の詳細は、別記事でご紹介している。
海外勢との大きな差がきっかけ
発表文、そしてプレゼンテーションで示された両社の目標は「AIテックカンパニーになる」というもの。
だが、それぞれ国内で有数のユーザーを抱える大企業。これまで競い合ってきた両社が今回、経営統合を決心したのは、国内外のネット市場の動向が背景にある。
「強いところがもっと強くなる」。出澤氏は、ネット産業の構造をそう説明する。人気が出ればユーザーがさらに集まり、広告や通販など収益・売上も大手へ集中する。それも、GAFAと呼ばれるグーグル、Amazon、Facebook、アップルなど米国企業や、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)という中国企業が中心的な存在。大手企業はプラットフォームとなり、それ以外の企業は、プラットフォーマーの加減ひとつで業績に大きな影響が出かねない状況だ。
「残念ながら、一緒になっても、営業利益、研究開発、全てにおいて桁違いの差がついている。日本の存在はとてもネット産業の中で小さい。
この差が広がるのはネット企業だけではなく、あらゆる産業でデジタル化が進む中で、文化の多様性、国力にまで影響を与える」と出澤氏。
ヤフーとLINEが一緒になれば、ネット分野の企業としては、日本を代表する規模になる。しかし世界的に見ればまだまだ。それでも川邊氏は「日本、アジア発の第三極になりたい」と意気込む。
笑い話が本気になった今年
ヤフーとLINEは、同じ国内でのネット市場でサービスを提供する事業者ながら、その成り立ちや、主軸とする分野は異なる。
日本のネット黎明期から市場をリードし、パソコンユーザーを多く抱えつつスマホシフトを果たしたヤフー。
一方、創業からまだ10年も経っておらず、スマートフォンの拡がりとともに若年層を中心に支持を受けて、メッセージングサービスの国内最大手になったLINE。
そんな両社の幹部は、これまで1年に一度程度、定期的に食事会を催し交流を図ってきた。LINEを毎日使うという川邊社長が、食事会のたび、「大きなことをやろうとオファーを出し続けてきたが、ほぼ相手にされてこなかったのが過去数年間だった」。
しかし、今年は違った。
互いが多忙になり、例年よりも少し遅い、4月の開催となった食事会。そこでもまた例年通りの話をもちかけると、LINE側の反応が例年と違ったと川邊氏。そこで会食ではない場での話し合いを進めることになった。
川邊氏は「今年になって、急に、かなり大きく動いた」と振り返る。LINE側の心を動かした背景には、先述した通り、海外勢との間で開き続ける事業規模の差があった。
もっと社会を変えられる
両社が意気投合した理由は、海外勢の存在だけではない。
もうひとつ、いわゆる日本国内におけるデジタルトランスフォーメーションも理由に挙げられる。
川邊氏は「テクノロジーで解決できる課題がまだまだある」と指摘。少子高齢化で働き手の減少が指摘される中でも、デジタル化を進めることで、さらなる効率化、生産性の向上が図れるという指摘だ。
その具体例のひとつが防災・減災と川邊氏。たとえばヤフーの人気アプリのひとつは「Yahoo!防災アプリ」だ。そしてLINEは、自治体に公式アカウントを作ってもらい、自治体からの情報を配信するプラットフォームにもなっている。
この2つが連携できるようになれば「もっと多くの災害が防げる。(連携していない現在に対して)いたらなさの危機感がある」と川邊氏は訴える。
日本からアジア、そして世界へ
ヤフーは、米国でのサービスからブランドのライセンスを受けて日本国内に限定する形でサービスを提供せざるを得ない状況にある。記者会見の質疑応答終盤にも、川邊氏は「ライセンスの問題で海外進出できない」と率直に語る。
一方、LINEは、台湾やタイ、インドネシアでも広く利用され、さらにアジア諸国を中心にさらなる海外進出を積極的に進めてきた。特に台湾、タイでは、メッセージングサービスだけではなくLINE Payが利用されている。
両社の統合で何らかの新サービスが生まれれば、国内では最大手のユーザー基盤をもとにしつつ、アジア圏への進出もしやすい環境となる。GAFA、BATに続く存在として、アジアから世界への進出を目指すというのが今後の大きな目標だ。
ソフトバンクのグループを含めたシナジー
ニュースやコード決済では競合する両社。しかしLINEの持つメッセージングサービスは「ヤフーにはない」と川邊氏。一方で、LINEよりもヤフーのほうがEコマースなどで強みがあり、互いに弱い分野を補えるとアピールする。
さらにヤフーは、ソフトバンク傘下でもある。携帯電話会社として、今後5Gサービスを手がけていくこと自体が、ヤフーとLINEにとっても大きな味方になる。5Gではあらゆるものが繋がるIoT時代とも目されており、さまざまな行動のデータ化により、ネットと日常の融合がさらに進むと期待されている。
既存の4Gサービスをもとにした状況でも、ヤフーはすでに「ソフトバンクユーザーはポイント10倍」といった施策を展開しており、わかりやすいシナジーを生み出してきた。
その上で、ソフトバンク自身が「Beyond Career」という構想を掲げ、通信事業を超えた事業分野への進出に積極的だ。
ここで川邊氏が、ソフトバンクとのシナジーとして期待できる点として挙げたのがMaaS、つまりクルマやシェアサイクル、AI運行によるバスやタクシーといった分野だ。すでにタクシー配車のDiDiや、トヨタと協力するMONET Technologiesといったグループ会社もいる。
一方、LINE側の親会社であるNAVERは、韓国を代表するポータルサービスを手がけるだけではなく、カメラアプリの「snow」や、3Dアバターの「ZEPETO」など、グローバルで人気のサービスも生み出してきた。さらにAIの「Clova(クローバ)」はLINEとNAVERで共同開発しているとのことで、「AIテックカンパニーを目指す」という今回の経営統合において、その存在も重要になる。
先述した5GのIoT時代で得るさまざまなデータも、AIを駆使することで、他社とは異なる新たな付加価値を提供できると目されている。
孫氏は「ユーザーのために」
今回の件は、あくまでヤフーとLINEの協議によるもので、ソフトバンク側が主導したものではなく、「孫さんは今回、関与してこなかったのが真実」と川邊氏は語る。
その川邊氏が、孫氏にLINEとの経営統合を説明したのは2019年9月。そのとき孫氏は「100%賛成だ。日本のため、アジアのため、スピーディにやるべきだ」と語ったという。
その後も繰り返し、孫氏からは「ユーザーのためのことをしないかぎり、誰からも支持されない」というアドバイスがあった。
さらには大きな存在感を持つ両社がひとつになるからには「今までできなかった課題を解決できなければ意味がない」とも言われたとのことで、川邊氏は、防災・減災のように、社会に役立つ形での新たな取り組みを進める方針を示した。
共同CEOで「殴り合いながら
川邊氏と出澤氏が、交互に説明することになった発表会。18日の発表会で、2人が着用したネクタイは、互いのコーポレートカラーを表わしたもの。ヤフーの川邊氏はLINEカラーの緑、一方の出澤氏は赤という具合だ。
2019年末~2020年初頭にも正式な契約を交わす両社は、対等な立場で統合していく。統合後は、ソフトバンクとNAVERが50%ずつ株式を保有する合弁会社が65%程度、一般株主が35%程度、新生Zホールディングスの株式を保有する。新生Zホールディングスは東証一部への上場を維持し、その傘下にヤフーとLINEが加わる格好だ。
しかし統合までは、どうなるのか。川邊氏も出澤氏も、会見前に社内で行った社員総会で、手続きを完了するまでは互いに競争相手だと説明してきたと語る。
川邊氏
「これから各種手続き、審査を経るまであくまで別会社。切磋琢磨する存在。社員には思いっきりLINEと戦え、勝負し続けろと言ってきた」
シナジーのひとつは両社で2万人におよぶというスタッフ。その「人財」をどう融合させるか。2社がそれぞれの事業を進めつつも、統合に向けて着実に進めていくため、共同CEO制を今回採用。2020年10月を目途にする経営統合の完了では、川邊氏が新Zホールディングスの代表取締役社長 Co-CEO、出澤氏が代表取締役Co-CEOに就任する。
スーパーアプリ、どう目指す?
両社では、データ活用を進め、AIの開発によって、新たなサービス、新たな価値の創造を目指す。そうした中でも、プライバシーの保護、サイバーセキュリティの強化は引き続き重要視されとえり、データは日本国内法に基づき運用される。
互いに補完関係となり、海外への進出も図る両社。GAFAやBATとの差は認めつつも、第三極としての存在への成長を目指す方針だ。
そうした中、1つのアプリでさまざまなサービスを利用できるようにする、いわばプラットフォーム化するという考え方「スーパーアプリ」を、どう目指していくのか。
出澤氏は「LINEは、もともと現在で言うところのスーパーアプリを目指してきた」と説明。メッセージングアプリとして、国内有数の存在であるLINEが目指す姿とする。
では両社の統合で、すぐにでもLINEは「スーパーアプリ」たり得る存在になるのか。
これに川邊氏は「キャッシュレスサービスは、ただの決済のみならず、スーパーアプリ化へのパスポート分野」と両社が進める決済分野への期待を示しつつも、その状況については「まだ伸びないとぜんぜんダメだと思っている。モバイルペイメントの扱い額ももっと大きくならないとダメだと思っている」と説明。
コード決済分野では2000万ダウンロードを記録するまでにいたったPayPayなどを抱えつつも、現金を含めた決済分野でコード決済はまだ3~5%程度の利用しかないため、スーパーアプリとなるためには、決済分野での拡がりがまだ足りないとの見方を示す。
それでも新規サービスの誕生が統合の肝になる。AIテックカンパニーとしての両社による投資は「1000億以上を大胆に実施していく。共通化する部分もあることを考えると、さらに迫力ある投資ができる」(出澤氏)とのこと。国内では有数、しかし海外とは差がある事業規模ながら、ヤフーとLINEは、世界のテックジャイアントへ挑んでいくことになる。