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Yahoo!×LINE経営統合――質疑で何が語られた? 川邊氏と出澤氏2人のトップの想いとは
2019年11月18日 19:06
18日夕方、ヤフー親会社のZホールディングスとLINEが経営統合に向けた基本合意に関し、緊急記者会見を開催した。両社のトップは「日本発のAIテックカンパニーを目指す」と力強く宣言した。
前半は、同日朝の発表文に基づくプレゼンテーションが行われ、会見後半は質疑応答に費やされた。本稿では、Zホールディングス社長の川邊健太郎氏と、LINE社長の出澤剛氏による質疑応答の内容をレポートする。
質疑応答
――プレゼンテーションで、今回の経緯として「―年に一度会っていたが、思うところがあって提案に至った」とのことだが、「思うところ」とは何だったのか
出澤氏
競合を含めた危機感、AI化する速さへの危機感があった。スーパーアプリ戦略、以前はスマートポータル、最近は「Life on LINE」といってやってきたが、グローバルの強いプレイヤーがいる。国内も激しい競争がある。今、手を打って次のステージに行くべきタイミングだと思った。
――両社には異なる文化があるだろう。足並みが揃わなければ誰が判断するのか。
出澤氏
両社が徹底的にやっていこうと決めている。合意にいたらなければ、CPOという役職が、全てを加味した上で決定する。プロダクト面は、お見合いにならない仕組み。これは重要だと思い、川邊さんと相談して決めた。ただ、今、両社がやっている事業への棲み分け、一緒にするかどうかは、しばらく議論して、そこで決めていく座組にしている。
川邊氏
プロダクト委員会、CPO制度は取締役会の下にある。事業方針は取締役会で決める。社長の私がリードしながら決めていきたい。
――GAFA、BATと呼ばれる海外大手への対抗だが、既存サービスではどこで対抗するのか。スマホ決済の分野では、単なる掛け合わせでシナジーが生まれるのか。
川邊氏
LINEがスーパーアプリ化することが強みになる。共通したユーザー体験で差別化できると思う。
出澤氏
真に重要なのは、一緒に作り上げるまだ見ぬ新しいサービスが、爆発的に広がっていくということ。それを作れるか、チャレンジしていきたい。
――GAFAのどこに脅威を感じたのか。また合従連衡の考え方として、他の国内IT企業へ協力を呼び掛けるのか、競争を続けるのか。
川邊氏
GAFA最大の脅威はユーザーから支持されていること。日本から出て行ってほしいとは思っていません。わたしもYouTubeをよく見るし、Kindleも利用する。研究開発にも投資されていて、本当にすごいことだと思う。
日本、アジアからもうひとつの選択肢を提供したい。GAFA全体では日本にフォーカスすることはあまりないかもしれないが、我々は提供したい。データもきちんと国内法に基づいて管理、対応したい。よりユーザーに支持されるサービスになることが、海外プラットフォーマーとの差別化になる。
他社に対しては、オールジャパンの協業を呼び掛けたい。非IT企業とお付き合いがあるので、ますますご愛顧いただきたい。
出澤氏
繰り返しになるが、ネットサービスは集約されがち。データやお金が集まり、不可逆とまで言って良いか分からないが、どんどん差が開く。他の産業よりも大きい。それが一番のリスク。気づいたタイミングでは何もできなくなっているのが、このビジネスで一番恐ろしいところ。
オールジャパンでやっていくことに加えて、アジアにも拠点があり、いろんなパートナーとさらに大きなことができればいい。
――Yahoo!ニュースとLINEニュースは併存するのか。ニュース配信のメディア状況で、どのような姿を目指すのか。
川邊氏
ニュースをはじめ、全てのサービスは、統合を果たした上で検討していきたい。そのため、現時点で具体的にどうしたいというのはない。個人的にはお互いに切磋琢磨していけばいいんじゃないかと思っている。
Yahoo!ニュースに長く携わった身として日本のジャーナリズムが健全で発展的になるための場として、2つのニュースサイトが日本の報道に貢献するよう、現場に期待したい。
――Yahoo!の検索エンジンがNAVERに変わるのか。PayPayの資本関係はどうなるのか。
川邊氏
検索についても、サービスのことになるため、統合を果たしてから考えていく。グーグルとのパートナーシップは大変良好な状態にある。
PayPayについても、資本の見直しなどは統合後に話し合っていく。
――LINE単独への期待もあった。また幹部3人によるトロイカ体制はどうなるのか。
出澤氏
より迫力ある展開を目指し、今回、精神的にも実体的にも対等でという形になった。やるべき選択肢だろうと結論に至った。非常に我々にとって最高の布陣で新しいフィールドへ挑戦できる。新しいパートナーを得たと。
LINEのトロイカ体制は、LINE側として、シン・ジュンホ(代表取締役CWO)、舛田淳(LINE 取締役CSMO)、出澤というのは変わりない。プロダクト委員会にも入っている。その関係性は変わらない。昨日も3人で、ラーメン食べながら四方山話をしたが、今後もやっていく。
――ソフトバンクグループになる。LINEらしさはどう維持するか。
出澤氏
ソフトバンクの宮内謙社長ともよく話している。全て変わらないことはないし、現実としてたくさん解決しなければいけないが、ライブドア社長としての経験もある。川邊さんも自らが立ち上げた会社をバイアウトしている。
川邊氏
両社ともにマルチキャリアでサービスを提供している。どのキャリアでも基本は同じ。その上で、ソフトバンクユーザーならオトク。それは普遍の形。ソフトバンクも、今後の戦略として携帯電話事業を超える「Beyond Career」としており、その戦略に合致した動きと理解している。
――グローバルの展開についての考えは
川邊氏
グローバル展開も統合後に考える。
出澤氏
チャットアプリだけかというと、そうではないかもしれない。新しいサービスかもしれない。日本、アジア、グローバルと展開したい。1社でできなかったことが、一緒になることでできることは多いのではないか。ただ、統合完了後でないと具体的にはお話できない。
――現在の日韓関係で、審査に影響はでるのか。
川邊氏
特に影響はないと思っている。
――この1年で、なぜ具体的な思いに至ったのか。いつの時点か。
出澤氏
毎年新年会をしていて、今年は双方忙しく、春頃に食事をした。それで2社で大きなことができそうだねと。6月ごろ親会社に相談して、経営統合まで考えていたわけではなかったが、検討を始めた。夏の間、いろいろ議論し、親会社にも相談をしてきた。
出澤氏
1年でこの業界変わる。常にいろんな環境でオプションを考えている中で、良い形で組めるということで、認識としては競争激化はあったけども、全ての良いタイミングだった。まずスタートラインに立てた。フランクな会話からここまで至っている。感慨深い。
――スマホ決済で体力勝負の様相を呈しているが、影響したのか。
出澤氏
個別の事象よりも、大きな流れとして危機感を抱いた。
川邊氏
世界のテックジャイアントに集約されつつある。一方、日本はデジタルトランスフォーメーションが進んでいないことがある。
――全ての個別のサービスは統合後とのことだが、ユーザーからするとどんなメリットがあるか気になる。ドラスティックに変化するのか。方向性を聞かせて欲しい。
川邊氏
ユーザーファーストに尽きる。そうでなければあっという間にダメになる。手前勝手な理由で使い勝手が悪くなることはあってはならない。ユーザーには、わかりやすく提供して、支持するよと言ってもらえるようにしたい。
――ソフトバンクグループの孫正義社長から、今回の件に対して、報告後、話があったのか。
川邊氏
先週から話が出て、ソフトバンク主導とされていたが、かなり両当事者で話をして、親会社である宮内健社長、NAVER幹部に話をした。
孫さんは、今回は関与してこなかったのが真実。
(川邊氏が)ソフトバンク株式会社の取締役でもあるので、9月、統合の検討をしたいとプレゼンをした。孫さん自身、プレゼンはシンプルで、社員にもシンプルな説明を求める。このような趣旨で統合したいと話したら、100%賛成だと、日本のため、アジアのインターネットのためスピーディにやるべきだと言葉をもらった。
――孫さんからのアドバイスはあったのか。どんな役割を果たしたのか。
川邊氏
ユーザーのためのことをしないかぎり、誰からも支持されないということ。繰り返し言っていた。
――ユーザーのメリットは?
川邊氏
統合後、具体的なところは考えるが、それぞれ多くの方に利用されている。でも分断されている。シームレスになることでより便利になると思う。
孫さんには 今までできなかった課題解決ができないと意味がないよとも言われた。そういうチャレンジをしたい。
防災減災で2社でできることはもっとあると思う。少しだけ現在のサービスで役立っていると思うが、世界最先端のサービスを開発して、大きなメリットを提供できるのではないか。課題解決がユーザーのメリットになると考えてもらえれば。
――統合により、審査はどうなるのか。補完部分やスーパーアプリへの考えは。
川邊氏
これから、特に独禁法での審査があると思うが、審査される側として何か予断を持つことはない。審査に協力していく。
出澤氏
LINEにないサービスはたくさんある。ソフトバンクにある素晴らしいサービスもある。どういう形になるのか。
――フィンテックに絡んで、モバイル決済で、最大のシナジーを考えるとPayPay、LINE Payの統合をどう考えるのか。LINE Payではメルペイなどと連携しているがどうなるのか。
川邊氏
繰り返しになるが、統合後が果たされてからになるが、全体感で言うと、政府の後押しでキャッシュレスが進んだ。しかしそれでもキャッシュは7割のまま。キャッシュレスではクレジットカードが大きく、次いでSuicaやWAONなど。コード決済は3~5%程度。
キャッシュレスサービスは、ただの決済のみならず、スーパーアプリ化へのパスポート分野でもあり、まだ伸びないとぜんぜんダメだと思っている。モバイルペイメントの扱い額ももっと大きくならないとダメだと思っている。
出澤氏
そういう意味で有意義な取り組み。基本合意という状況で、(連携する)各社にご説明して、これからとなる。
――対等を強調している。共同CEOでもある。どういう経緯、考えか。
川邊氏
共同CEO制度は、大きな企業同士のため、審査にも1年弱、自走するまでも時間がかかる。まったく同じコミット力で達成しないと無理だと思った。そこでこの制度になった。
お互いのサービスの力として、ユーザー力、開発力、どれをとってもイーブンな発想で、意欲も同じくらい旺盛であると。今夏、都内のホテルで密会して議論してきたが、対等のチームワークを感じて、こちらからも対等でお願いしたいと申し上げた。
NAVER社は、非連結になってでも、日本やアジア発のAIテックカンパニーになると、ある種譲ってくれた。
――実際の統合に至るまでの時間、どんな手を打っていくのか。
川邊氏
今日表明をして、これから各種手続き、審査を経るまであくまで別会社。切磋琢磨する存在。社員には思いっきりLINEと戦え、勝負し続けろと言ってきた。
出澤氏
まったく同じことをLINEでも言ってきた。これからの1年で、成長していこうと。
――NAVERはどんな反応だったのか。どこか譲れないところはあるのか。
出澤氏
非常に大きな決断になるが、NAVERとしてもLINEの将来、日本やアジアの将来を考えている会社。まず検討はしっかりしようというスタンスだったと思う。NAVERもソフトバンクも、大きな決断をしてもらった。4社の思い、高い志が合致した。
川邊氏
NAVER幹部とはお会いしていないが、Zホールディングス社長としては、企業価値を上げて、以前の所有分よりも満足してもらえるようにしたい。両社の株主への使命とも思っている。
――LINEの持つデータは、ヤフーにとってどういう意義があるのか。
川邊氏
メッセージングの会話は、通信の秘密で、LINE自身も活用していない。それ以外では、まさにこれから話し合っていくこと。ただ、多くの方のデータを社会解決に繋げられるよう活用したい。
――社内の宥和、どう進めるのか。
川邊氏
まさに明日がDay1で、協議しなきゃなと思う。第一歩は2人が同じ役職でコミットしていくこと。
出澤氏
座組として良いものだと思うが、働く人々については、本当に大事な部分で、いかに融合してもらうか。
各論で積み上げるものだが、2人でしっかりリードしながら進める。2人とも、かつて率いた企業が買収され、経験がある。新会社から大きなサービスが生まれることが、大きな旗印になる。サービスを創り出すことこそが、シナジーを倍にする。そこにこだわっていきたい。
――独占の問題をどう考えるのか。
川邊氏
両社がまったくやっていないところがあり、そこを補完しあうのが最大のシナジー。シェアが著しくあがる分野はないと思う。規制当局の考え方に対しては、審査される側のため特段の考えはないが、進んで協力したい。
――AIに関する戦略は、ソフトバンクグループの戦略とどう連携していくのか。
川邊氏
協力できるところは協力していきたい。
――いつごろから話があったのか。
川邊氏
私自身、LINEというサービスが大好きでヘビーユーザー。毎日使っている。前から一緒にやりたいと思っていた。幹部の方々と会うたび、毎回、大きなことをやろうとオファーを出し続けてきたが、ほぼ相手にされてこなかったのが過去数年間だった。
今年はちょっと反応が違った。酒を入れない場で話そうと、今年、急にかなり大きく動いた。
出澤氏
その通りです(笑)。
――Zホールディングスへの社名変更、アスクル経営体制の変更、ZOZO買収などがあった。どんな縦串、横串があるのか。
川邊氏
社長就任後、かなり急速にやってきた。自分がやりたいことではなく会社にとってなすべきことをやるべきだと考えている。今、Zホールディングスに必要なことをやってきた。それは株主価値を最大化するために必要なこと。Yahoo! JAPANは国内でかなり長くやってきたが、ライセンスの問題で海外進出できない。
持株化にあたり、ホールディングスの中で、ヤフーはヤフーで頑張るが、なすべきことをやってきた。その一環としてソフトバンクの連結子会社化もあった。Beyond Careerとして、キャリア事業だけだと伸び悩む中で、兄弟会社のヤフーこそが重要ということで、親子関係になろうと宮内社長から熱心に口説かれ、国内事業を固めるために進めた。
そして米中が強いが、アジアからもう一極作ることも社長としてなすべき、最大のことと考えて、取り組んだ。今後、どう発展させられるかは我々次第だが、そう考えてきた。