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KDDI、ドローンで赤潮を検知する実証実験

五島の「マグロ養殖基地化」を目指す

 KDDIは、長崎大学大学院工学研究科、システムファイブ、長崎県五島市とともに、「マグロ養殖の基地化」を目指したIoTシステムの実証実験に成功したと発表した。

(左から)システムファイブ 代表取締役社長の佐藤康彦氏、長崎大学大学院工学研究科 教授の山本郁夫氏、KDDI 地方創生支援室 マネージャーの福嶋正義氏

 「近大マグロ」の養殖で知られる五島だが、マグロ養殖の基地化を目指し、クロマグロの養殖に取り組んでいる。クロマグロは赤潮の影響を受けやすく、死滅を防ぐためには赤潮の早期検知が重要だという。ただ、従来は簡易的な計測で赤潮を検知しようとしていたため、精度や時間の面で課題を抱えていた。

 今回の実証実験では、ドローンを活用し、多地点・多深度での採水を行い、ディープラーニングによる画像解析で有害なプランクトンを判別するほか、空撮映像で赤潮の分布状況を確認したり、クラウド経由で漁業者への早期通知を実施。その有効性が確認された。

 五島市 農林水産部 水産課 水産振興班の三井寛之氏によれば、五島では2013年度と2015年度に実際に赤潮が発生し、それぞれ2000万円程度の被害を被った。2016年度、2017年度にも赤潮が発生したが、初期段階で対策を講じることができたため、被害はゼロだった。

 こうした経緯からも、赤潮の発生を早期に発見することが重要になるのだという。実際に赤潮が発生した場合は、餌を止めたり、薬剤を散布したり、生け簀を移動したりすることで、養殖への影響を最小限に止める。

五島市玉之浦湾銭亀崎周辺には複数の生け簀が設置されている

 しかし、従来の赤潮計測には船を使用していたため、採取したサンプルを持ち帰って分析するまでに半日程度を要していた。これをいかに短縮できるか、というのが今回のチャレンジだ。

 そこで、長崎大学大学院工学研究科 教授の山本郁夫氏が、遠隔操作で海水を採取できるドローン「AKABOT」を開発。さらに1メートル、3メートル、5メートルの複数の深度で採水できるように改良を加えた「AKABOT II」を開発。今回の実証実験が行われた。

 AKABOT IIの飛行前には、空撮ドローンで俯瞰撮影し、赤潮発生時に見られる特有の色がないかどうかを調べる。怪しい水域が確認されると、AKABOT IIが現場に急行する。

AKABOT II
AKABOT IIには3つの水深から採水する独自の仕組みが搭載されている
空撮ドローン
初代AKABOT

 AKABOT IIが採取したサンプルは、システムファイブが開発したAIによるプランクトンのリアルタイム判別システムにかけられる。代表取締役社長の佐藤康彦氏によれば、パソコンにUSB接続された顕微鏡にサンプルをセットするのは人間が行っているが、将来的にはこうした工程も自動化したいという。

 顕微鏡で得られた画像データはAIにより解析され、赤潮被害の原因となる5種類の有害プランクトンの数がカウントされる。その数があらかじめ設定された閾値を超えると、警告が発せられる。

 漁業関係者には、計測状況がメールでリアルタイムに通知され、手元のスマートフォンやタブレットのWebブラウザで状況をモニタリングできるようになっている。そこで報告された有害プランクトンの数値と、空撮ドローンによって撮影された海の色から、対策を講じる必要があるかどうかを判断する。

 KDDI 地方創生支援室 マネージャーの福嶋正義氏は、「将来的には、全体を自動化し、ドローンを携帯電話ネットワークに繋ぐことで、さらにリアルタイムに計測・通知できるようにしたい」と語る。

 実証実験は、2018年度総務省IoTサービス創出支援事業の一環として実施されており、4者ではさらなる改良を進め、2019年度以降にAIを活用した「赤潮予報」の提供を目指す。さらに、これと並行する形で自動化を進め、2021年頃にはソリューションとしての実用化を図っていく。

AKABOT II 地上からの映像
AKABOT II 記録用ドローンからの映像
AKABOT IIからの採水映像