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auの5Gで建機を遠隔操作、災害復旧など危険作業の効率を改善
28GHz帯で4K3Dモニターに映像を伝送、大林組、NECと共同で実証実験
2018年2月15日 17:47
KDDI、大林組、日本電気(NEC)は、5Gの特徴のひとつである「高速・大容量」を活かし、4K解像度の3D映像を利用して建機を遠隔操作する実証実験に成功したと発表した。
災害復旧に代表される「危険現場」や、多量の粉塵が発生するといった「苦渋現場」では、操縦者(オペレーター)が建設機械(建機)に搭乗せず遠隔操作を行う無人運転が求められているが、現在の通信機器で実現できる遠隔操作では、作業効率(速度)が50~60%にまで低下するなど、作業効率の改善が課題になっている。
今回の実証実験では、現場で撮影した3D表示用の4K解像度の映像を5Gの28GHz帯で伝送することで、遠隔操作室において、3D表示用モニターで4K解像度かつ裸眼立体視が可能な映像を表示する。これにより従来の遠隔操作よりも作業効率を改善するのが狙い。4K3D映像だけでなく、建機の周囲を捉えた全天球カメラの映像と、建機の周囲を2方向から捉えた俯瞰カメラの、合計5台分のカメラの映像を5Gの28GHz帯で伝送している。伝送するデータはアップリンクで200Mbpsにもなり、従来の4G LTEでは実現できない、5Gの高速・大容量の特徴を活かしている。
28GHz帯の伝送装置は、NECの400素子からなる多素子アンテナを採用。アナログ変換部分もデジタル処理を行うフルデジタル処理により、デジタル処理のビームフォーミングが可能になっており、将来的には複数台の建機に対して複数のビームを形成することも視野に入れている。
大林組はこれまでも建機の無人運転・遠隔操作に取り組んでおり、1992年の雲仙普賢岳の噴火による災害復旧現場で、すでに遠隔操作を導入していたという。現在は、現場近くにオペレーターが立ち、目視で遠隔操作を行う方法のほか、無線LANの2.4GHz帯を利用し、離れた場所に設置した遠隔操作室から操作を行う方法を確立している。
大林組ではまた、サロゲートと呼ばれる装置を開発、操縦室のレバーに取り付けることで、既存の建機でも遠隔操作に対応できるようにしているほか、サロゲートを取り付けた状態でも操縦者が乗り込めて、操縦できるようにしているのも特徴。
5Gを導入する実証実験では、4K3D映像によりオペレーターの作業効率(作業速度)が改善するかどうかを、50cm角のコンクリートブロックを積み上げるという比較的複雑な施工作業で検証。実際に、無線LANを使用した遠隔操作よりも作業効率が15~25%向上したとしている。
遅延速度についても、NECが構築した無線部分は1.6msと非常に低遅延で、NECでは1msを目指すとしている。一方、実証実験のシステム全体では600ms程度になっているという。これは3D用として2本分が撮影されている4K映像を、伝送前に束ねる処理により遅延が発生しているとのことで、開発の進展で改善を見込む。
また、実証実験では、操作系統のデータは5Gではなく従来システムの無線LANを利用していたが、これも今後は5G側に一本化したいとしている。
大林組では、従来の無線LANによる遠隔操作では、遠隔操作室を現場からおおむね2kmの範囲内に設置しなければいけないといった、制約があったとしている。オペレーターは、建機の実際の操縦と遠隔操作の両方に精通した熟練工を用意する必要があり、現場の比較的近くに設置される仮設の遠隔操作室に熟練工を集めなければいけないという課題が残っていたという。
しかし、超高解像度の3D映像を低遅延でアップロードできる5Gでは、たとえば遠隔操作室を東京に常設し、全国の災害復旧現場を対象に遠隔操作を行うといった取り組みも視野に入ってくるという。一方、労働人口の減少に加えて、労働者自体の老齢化にも悩む建設業界では熟練工の確保も大きな課題で、遠隔操作でも熟練工が必要という部分については、今後の課題としていた。