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サムスンのネットワーク事業部常務が商用化目前の5Gを語る
End to Endのソリューションや28GHz帯での開発実績が強み
2018年2月14日 18:02
平昌オリンピックでは、現地キャリアのKTが5Gの商用化トライアルを実施している。オリンピックパーク内のKTのパビリオンでは、5Gに関連したデモなどが行われているが、これを支えるのがサムスン電子だ。
こうした5G関連のサムスン電子の取り組みについて、ネットワーク事業部 常務のDongSu Shin氏にグループインタビューする機会を得たので、本稿ではその模様をお伝えする。
End to Endでソリューションを提供できるサムスン
DongSu Shin氏
まず最初にサムスンにおける5Gへの取り組みの現状を紹介させていただきます。
5Gは2G/3G/4Gから進化したものです。移動通信技術は時間が過ぎていく中で、より広い帯域で、より高速に、より大きいデータを送れるように進化してきました。5Gでは以前の技術より、狭くは100MHz、広くは数GHzまで、広い周波数を使ってデータを送受信するようになります。
4Gではスマートフォンが主な通信端末として使われていますが、5Gではスマートフォン以外の多くのユースケースが登場することになります。IoTのセンサーを集めて伝達することや、自動運転、デジタルサイネージ、FWA(Fixed Wireless Access)など、多くのユースケースがあります。それらは5Gの3つの特長、高速大容量、多接続、低遅延を活用したものです。
サムスン電子はご存知の通り、家電、端末、ノートパソコン、テレビ、エアコンなど、さまざまな製品を作っています。ネットワーク事業部は、このようないろんな製品を一つに連結する重要なポジションにあります。
サムスンは、4G LTEでも全世界で事業を展開していますが、5Gでも同様に世界のいろんな事業者と一緒に努力しています。5Gでは、米国1位の事業者(ベライゾン)と協力しています。2018年度の商用化を目標にしていますが、5Gを使ってFTTHを無線化することで協力しています。11の都市でトライアルを実施していますが、そのうち7カ所のトライアルをサムスンが担当しています。初の商用化に向けて、サクラメントでもサムスンが準備しています。
韓国でも5Gのリーダーシップ維持のために韓国の事業者、KTやSKテレコムと協力しています。日本でもNTTドコモやKDDIといった事業者と協力しています。東京で5Gのトライアルを実施しています。
ハイスピード・ハンドオーバーや鉄道でのフィールドトライアルも行っています。実際にサーキットで192km/hでハンドオーバーに成功しました。
2018年に入ってからの成果としては、ベライゾンと5Gの契約を結び、大きなスポーツイベントでトライアルを実施しました。ヨーロッパでも国際的な事業者と協力して5Gのトライアルを実施する予定です。
サムスンには、チップ、端末、システムを作る部門がすべてあります。我々は5Gをサービス化するためのEnd to Endのソリューションを持っています。チップ、端末、ネットワーク、網を最適化するソリューションも全部持っています。
日米韓が5Gのトップバッター
――ベライゾンとの商用契約の話がありましたが、世界では何件ぐらいになるのでしょうか。
DongSu Shin氏
今の段階ではベライゾンだけです。なぜなら、今商用のための準備をしている事業者が無いからです。早い準備をしている国では2018年度末~2019年度初頭に商用化を準備しています。多くの国では2020~2021年にかけて商用化を目指しています。ベライゾンが他の国よりも早いのは、3GPPでの5Gの標準化が完了する前に5G技術を利用した独自の規格を使っているからです。サムスンではトライアルを韓国、米国、日本で進行中で、世界で一番早く5Gを導入するのがこの3つの国です。
――平昌で5Gのトライアルを実施して、見えてきた課題はあるのでしょうか。
DongSu Shin氏
平昌ではKTが5Gのトライアルを実施しています。KTとサムスンは韓国内での5Gの商用化で協力していますし、平昌を含めた各地でのトライアルで協力しています。KTとサムスンでは、360度の映像処理や自動運転バスといったパイロットサービスを実施しています。今、我々はKTと一緒に協力してKTがいろんなサービスを提供するために、28GHz帯でシステムを準備しています。このシステムを商用化しても技術的に問題がないかなどをチェックしているところで、問題がある場合はそれを修正していきたいと考えています。
――28GHz帯の高い周波数帯は、雪などの気象の影響を受けやすいと思いますが、平昌では実際どうだったのでしょうか。
DongSu Shin氏
5Gをサービスすることになったら、28GHz帯であれ、3.5GHz帯であれ、関係なく完璧に対応しなければいけません。私たちには山や砂漠など難しい場所でネットワークを構築した実績があります。LTEでも何の問題もなくお客様が満足するネットワークを構築できたので、5Gでも同じように商用化を目指していきます。平昌でのトライアルの技術的な詳細はまだ出てきていませんので、KTがトライアルを終了させた後に一緒に検討していきます。
――サーキットでのトライアルは大きなトラブル無く進んだのでしょうか?
DongSu Shin氏
最初にサーキットでのトライアルを考えたとき、見通しが取れる簡単な場所だと考えていたのですが、フェンスなどで反射の影響が大きいことがわかり、それを技術的に克服する必要がありました。反射波を除去する技術があって初めて実験が成功しました。
――フェンスの影響というのは、やはり28GHz帯だったからでしょうか?
DongSu Shin氏
28GHz帯だけの問題とは言えませんが、高い周波数ではあるので、28GHz帯での影響は大きいものと考えられます。28GHz帯はサムスンが一番早く挑戦した周波数帯です。実験を重ね、実測を重ねる必要がある状況です。
――サーキットのような場所でも難しいとなると、都心でサービスを提供するのはさらに難しいということになるのでは?
DongSu Shin氏
28GHz帯は直進性が強いので、ビル街では大きな影響を受けてしまいます。ただ、28GHz帯の長所も考えなければいけません。28GHz帯の長所は、大きな帯域幅を確保できるので、多くのデータを一度に送信できます。都心部ではスポット単位で大容量の通信を可能にします。スタジアムのように大人数が集まる場所にも適しているでしょう。
28GHz帯での開発実績に自信、高速ハンドオーバーも強みに
――28GHz帯でのトライアルの手応えはいかがでしょうか。
DongSu Shin氏
「Below 6」(6GHz以下)では狭い帯域幅しか確保できませんが、28GHz帯では大きな帯域幅を確保でき、性能を向上させられます。サムスンでは5Gで広帯域の28GHz帯に集中して準備に多くの時間を使ってきたため、商用化をほかの会社よりも早く実現できました。
――ドコモとの提携では28GHz帯の話が先行しているようですが、800MHzについては後回しにしているのでしょうか。
DongSu Shin氏
800MHz帯や3.5GHz帯など、Below 6に向けても準備を進めています。5Gの商用化の準備を進めている国々の事業者たちは、28GHz帯のような高い周波数や3.5GHz帯や800MHz帯のような低い周波数で同じく準備していますから、我々もお客様の要求を明確にし、対応を準備するために、後回しにするとか先取りするといったことはありません。
――競合他社と比べての5G関連でのサムスンのアドバンテージは何になるのでしょうか。28GHz帯での開発実績やEnt to Endのソリューションを持っているということ以外にも強みはありますか?
DongSu Shin氏
ハンドオーバーの機能を具現化しているのは他社よりも競争力がある技術だと考えています。
――5Gの導入によって、デバイスやサービスが登場し、社会が変化することが期待されていますが、新しい商品やサービスが登場してきた場合、サムスンが自ら提供していくのでしょうか、裏方に徹するのでしょうか?
DongSu Shin氏
5Gには高速大容量、多接続、低遅延などの特長があり、それらはVRやAR、UHDTV、スマートファクトリー、スマートシティ、遠隔診療、自動運転などのサービスを実現します。そのような多くのサービスや新しいソリューションをサムスン内でカバーできるように準備しています。しかし、どの会社でもそうですが、弱点となるところは強みを持っているパートナーと協力してやっていこうと考えています。パートナーシップを拡大しながら新しく変化していく環境に対応しようと努力しています。
――ありがとうございました。