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ファーウェイ、スマートフォン製造工場を初公開

最新の通信インフラ、IoT、スマート化の取り組みについても披露

中国・深圳のファーウェイ本社敷地内にあるR&Dセンターの巨大なビル

 ファーウェイは、中国・広東省深圳(シンセン)市にあるスマートフォン製造工場と本社施設を報道関係者向けに公開した。HUAWEI P10/P10 Plusなどの最新スマートフォンを生産する同工場が、日本のメディアに公開されるのは初めて。

 工場敷地内では、写真撮影だけでなく、あらゆる電子機器の持ち込みも禁止されたが、厳格な作業・検査工程のもとスマートフォンが1台ずつ完成していく様子を見学できた。また、同社が手がける通信インフラのほか、IoTによる多様な分野におけるスマート化に向けた技術も紹介された。

最新スマートフォンを一直線に作り上げる、120メートルの生産ライン

 ファーウェイが中国国内に置く工場の1つ「松山湖生産ライン」(広東省東莞市松山湖華為南方工場)は、2009年から稼働を開始した。深圳の本社からおよそ50kmほど離れた場所にあり、約1.4平方kmの敷地に2万人以上の作業員が勤務する。ここでは最新のHUAWEI P10シリーズをはじめとするスマートフォンの生産を行なっている。

ファーウェイのスマートフォン製造工場「松山湖生産ライン」内部(ファーウェイ提供)
左からP10、P10 Plus

 静電気防止のため作業服とサンダル(またはシューズカバー)、帽子を身に付け、専用の機械で静電気が完全に防止されているかを念入りにチェックした後、金属探知機のゲートをくぐって生産ラインのある工場内部へ。

 1フロアは反対側の壁まで見通すのが困難なほど広大。見学したP10の生産ラインの長さはおよそ120メートルで、28人が作業に従事する。この120メートル規模の生産ラインが1フロア内に18ライン設けられており、それぞれの1ラインの端から端までで、基板への部品実装、検証、梱包まで、製造プロセスのほとんどすべてを完結させている。

 15時30分頃に見学した際には、P10の1ラインの日産目標が2400台、その時刻での生産目標1300台に対して生産実績は1369台で、105.31%の達成率で稼働を続けていた。同工場の月産可能台数はトータルで130万台とされ、現在は約28.5秒に1台のペースでスマートフォンが生産されているという。

 生産ラインでは、見た限りでは半分以上の組み立て作業や検査が、ロボットにより自動化されている。最初にトラッキングのため2台分のメインボードへバーコード刻印を行ない、はんだの塗布、はんだ量の検査、メインボードへの部品実装、シリアルナンバー刻印、ソフトウェアのインストール、メインボードの分割といった流れで進む。

メインボードへの部品実装を行なう設備(ファーウェイ提供)
組み立て作業や検査の多くがロボットにより自動化されている(ファーウェイ提供)

 その後カメラモジュールなど比較的大きな部品の組み立てなどは人間の手による作業となるが、ディスプレイパネルの圧着、ディスプレイ、カメラ、音声の検査は機械で行なわれ、その後再び人間の目と耳によるディスプレイ・音声、外装の検査をはさみ、製品の梱包、規程の重量内に収まっているかのチェック、最後の包装まで終えることになる。

1つの生産ラインに28人が作業に従事する(ファーウェイ提供)
完成した端末を梱包する最後のプロセス(ファーウェイ提供)

 全体の流れや個々のプロセスにおける作業内容は、他メーカーの工場と大きく変わるところはないと思われるが、蛇行せずに一直線の生産ラインで最初の微細な部品が組み立てられ、最終的に梱包されていく様子は、やはり圧巻だ。

多様な分野を網羅するファーウェイの技術・ソリューション展示

 深圳のファーウェイ本社は、大きく分けて11の区画に多数のビルが建ち並ぶ、全体で200万平方メートルの敷地面積を誇る“キャンパス”となっている。全世界170カ国以上に約18万人いる従業員のうち、本社で働く人の数は4万人以上。敷地内にはオフィス棟だけでなく、複数の食堂や「ファーウェイ大学」と呼ばれる研修施設や寮なども設けられている。

 以下では主に、R&Dセンターのある「Fビル」内の展示室「The carrier exhibition hall」と、製品センターのある「Gビル」の「Industry Solutions Executive Briefing Center」について、写真で紹介する。

展示室を兼ねるR&Dセンターの「Fビル」。地上21階の巨大な建物だ。ファーウェイの取り組みを展示した「The carrier exhibition hall」は地下にある
キャンパスは広大なため、移動用のバスが複数台循環している
エスカレーターで地下へ降りると展示フロアが広がる
10kmの範囲で10Gbpsの通信を実現するファーウェイ製の無線電波用アンテナなど
海底8000メートルで25年間の使用に耐えるという海底ケーブル用のリピーターの開発も手がける
5Gの高速通信を支えるミリ波のアンテナ(左端)とC-bandのアンテナ(右端)
高信頼性と高速性を実現するファーウェイ独自のストレージシステム「OceanStor 18000 V3」(左)と、ミッションクリティカルサーバーシステム「KunLun」
こうしたサーバーシステムの基幹部品にファーウェイの技術を採用している
ファーウェイの子会社であるハイシリコン製のノードコントローラーチップ
モバイルネットワークのアンテナを設置可能な街灯。サイネージや電気自動車の充電機能を持たせることも可能。左側のものが都市に設置することを前提としており、右側のものが農村部など電力を得にくい場所に設置することを前提としている
ファーウェイ製のホームネットワーク機器
店舗用のネットワークルーター。インターネット通信できるだけでなく、顧客の数や流れを把握する機能ももつ。ショップの雰囲気を損ねないデザイン性の高さも特徴
中国のディスプレイパネルメーカーBOEの8Kモニター。映像のデコードにファーウェイ(ハイシリコン)のチップが用いられている
ファーウェイが推し進める低消費電力通信技術NB-IoTを採用する中国のシェア自転車ofo
QRコードをスマートフォンで読み込み、画面に表示される番号を打ち込めば利用できる。支払いはWeChat Pay
NB-IoTモジュールを組み込んだスマートパーキング用のセンサー(カットモデル)。地磁気センサーにより車両の有無を検知し、ネットワーク経由でその情報をやりとりする
他にNB-IoTを用いたものには水道メーター、土壌センサーなどがある
Fビルを離れ、もう1つの展示室がある「Gビル」の「Industry Solutions Executive Briefing Center」へ
自治体や行政がかかわる公共インフラにも、ファーウェイの通信技術やIoTの技術を応用し始めている。こちらはスマートゴミ箱。センサーによりゴミの量などを検知し、回収作業を効率化するのに役立てられる
マンホールのフタにもIoT技術。マンホールを開閉したタイミング、回数などを遠隔から把握できる
気温、風速、騒音、有害物質濃度などを計測し表示できる電光掲示板。遠隔からこれらの情報を得て、環境保護対策に用いることができる
スマート灌漑システム。天候状況などに応じて遠隔から散水・放水を制御する
スマートな水位計。水位を逐次計測して遠隔からモニタリングすることで、降雨による水位上昇を素早く把握できる
都市の交通・通信トラフィックや環境のモニタリング値をリアルタイムで監視するシステム。渋滞の度合いをアイコンや映像で確認できるだけでなく、事故発生を検知して警察へ通報したり、通信の混雑状況を把握して必要に応じて移動基地局を派遣することができる
警察組織向けのクラウドサービスを提供。市街地各所の人の動きを監視するなどして、犯罪防止や犯人逮捕につながる情報の収集を容易にする
スマートビルディングへの取り組み。電子機器大手の米Honeywellと協業し、ビル内の空調や電力、照明などの制御を最適化する
教育分野でもスマート化は重要になりつつある。国土の広い中国では地方と都市とで教育格差が大きいため、カメラを用いたオンライン授業が有効とされている
スマートガバメント。官公庁における手続きをクラウドサービス化して効率化する取り組み。中国では小学校の入学手続きする際に5つの異なる機関で個別に手続きが必要だが、これによりまとめて手続きが可能になる。実際に導入したある自治体では、年間1000万元のコスト削減効果と80%の手続きスピードの改善が図られたという
ファーウェイは遠隔医療にも取り組む。患者の現在の状況にふさわしい医療機関や医者を案内し、映像と音声によるリアルタイムの遠隔診療を可能にする
鉄道車両・設備で用いられるネットワークについても進化させる。従来はトンネル内における列車の状況監視にWi-Fiを中心とした多数のネットワーク技術が用いられていたが、これをLTEで統合する。電波干渉の可能性が低くなり、安全で安定した列車の運行が可能になる
列車の運行管理を行なう専用ハードウェア。遠隔から車両の走行距離などをモニタリングし、検査のタイミングを最適化。効率的な運行とコスト低減を図ることができる
油田開発にもファーウェイの技術。例えば「Digital Pipeline」では、石油パイプラインの各所の状況をリアルタイムで監視し、振動や破損のようなトラブル発生を即座に検知できるようにしている。また、石油を運ぶトレーラーにGPSを搭載し、目的地以外ではタンクの開閉が不可能になるような仕組みを取り入れている
金融分野でもファーウェイのクラウド技術が活用されている。クレジットカードが他国で不正使用された場合でも、0.05秒以内にその不正使用を検知し、カードを無効化できるという
遠隔で審査などを行うことで、窓口ではなく端末上の操作で銀行口座を開設することが可能に
中国の一部の銀行では今やiPad(と専用デバイス)で口座開設することも可能になっている
エンジニアリング分野では、クラウドサーバーを利用した効率的な設計、シミュレーションを可能にしている
自動車の衝突シミュレーションに用いるクラウドソリューションをフォルクスワーゲンに提供している。サーバー上での計算処理には膨大なエネルギーが必要になるが、液冷システムにより冷却効率を表す指標であるPUE(Power Usage Effectiveness9)は1.1以下を達成しているという
放送スタジオ向けの編集システムもクラウド化。従来、中継現場で撮影後に映像データを転送するため時間がかかっていたが、撮影中からリアルタイムでデータ送信する仕組みとすることで、90%の効率向上が図られたとのこと
動画編集をクラウドで行なうCloud Editing。従来は最大でも4トラックまでしか使用できなかったのが、ファーウェイのシステムでは8トラック使用可能になった
同社がしきりに強調していたのが、他社とのパートナーシップ。先端技術をもつ他社と協力することで自社だけでは生み出せない価値を創造する
展示室の入口にあった同社が取得しているパテントの番号(の一部)。ファーウェイロゴをかたどっている