インタビュー

キーパーソン・インタビュー

シェア拡大のために機種を絞るファーウェイの狙い(後編)

(左から)ファーウェイ・コンシューマー・ビジネス・グループ グローバル・プロダクト・マーケティング ヴァイス・プレジデントのクライメント・ウォン氏とPRディレクターのエイダ・シュウ氏

 日本国内でSIMフリースマホを積極的に展開するファーウェイ。最近ではGoogleから「Nexus 6P」の開発を依頼されるなど、競争の激しい市場の中で着実に力を付けて来ている。

 その勢いの源となる中国・深センにあるファーウェイの本社で、ファーウェイ・コンシューマー・ビジネス・グループ PRディレクターのエイダ・シュウ氏と、グローバル・プロダクト・マーケティング ヴァイス・プレジデントのクライメント・ウォン氏にグループインタビューの形でお話を伺った(前編:エイダ・シュウ氏のプレゼンテーション)。

日本向けの独自機能を盛り込んだスマホも作りたい

――プレミアム・スマートフォン・ストラテジーで端末のラインナップを絞り込むと、日本向けの仕様を盛り込んだ端末開発に影響は出ないのでしょうか?

ウォン氏
 弊社のプレミアム・スマートフォン・ストラテジーというのは、アプローチとしては正しい方向に向かっていると思います。しかし、それは各地域に対し、よりよい体験をもたらすことが無いということを意味しているわけではありません。逆によりよい体験をユーザーに提供するために日本向けの独自機能を盛り込んだスマートフォンをぜひ作りたいと考えています。

 例えば、Mate Sというモデルには指紋認証機能が搭載されています。他社でも同じように指紋認証機能があるのですが、それがなかなか理想的ではありません。弊社の指紋認証にはワンタップ・アンロックという機能を取り入れました。ワンタッチするだけでロック解除できます。これは他社には無い技術です。また、ナックルで叩くことでスリープを解除できるような機能も搭載しています。さらに、ナックルを使っていろんな機能を起動することもできます。こういった機能をたくさん取り入れたというも、あくまで消費者の皆さんにこうしたニーズがあるためです。

――日本で格安スマホが注目される中でMate Sのような高付加価値モデルを投入する理由は?

ウォン氏
 弊社としては、あくまで消費者の皆様によりよい選択肢を提供したいと考えています。どの地域においても、よりよい体験ができるスマホが欲しがられるものです。往々にして価格帯の高いスマホでそういった体験を提供できます。オープンマーケット市場においても、こうした製品を提供することで優れた体験を享受いただけるようにしたいと考えています。他社のように格安スマホだけを提供するようなやり方とは違う戦略を持っています。

シュウ氏
 プレミアム・スマートフォン・ストラテジーというのは、ミッドハイに限らず、各価格帯にこの戦略を展開しています。例えば、Honorシリーズにしても、Yシリーズにしても、同じように1~2モデルに絞り込んでリリースするという戦略を取っています。

――最近の端末でいろんな操作方法を追加されていますが、それらをいかに広めて行こうとしているのでしょうか。

ウォン氏
 まず、リテール(小売店)のカバレッジを大きくすることで存在感を高めたいと考えています。やはりリテールは消費者と一番接触できるところです。ここを強化することで、新しく追加した機能のデモを通して消費者に広めることができます。

 シンプルなスマホを作るようなメーカーも、消費者のニーズを取り入れた結果、そうなったのだと思います。しかし、我々はこういう風に見ています。消費者のニーズと言えば、一番はバッテリーの使用時間であると思います。それから、画面が見やすいかどうか。プロセッサーがちゃんとサクサク動くか。最も基本的なニーズとなるような部分に関してはMate7でうまく実現しています。もちろん、消費者の中にも異なる好みがあると思います。ですから、弊社としては異なるシリーズを作ることでそれぞれのニーズに応えています。

――Nexus 6Pが持つ意味について教えてください。

シュウ氏
 今回のNexusは、今Googleとの協業が始まっての成果というわけではなく、これまでも長年Googleと一緒にやらせていただいてきています。例えば、最新のAndroidが発表されると、それを最初に使える数社のうちの1社が弊社です。

 ファーウェイにとってどういった意味を持つのかというと、業界の中で最高水準を誇るメーカーとして認められたということです。NexusというのはGoogleにとって非常に重要なブランドですから、毎回どこに作ってもらうかというのは非常に慎重に選ばれています。弊社の場合、最初から数百名のエンジニアをGoogleに派遣し、一緒に研究し、さらに何回もの試験をクリアして最終的に選ばれたわけですので、最高レベルの品質をクリアしたということになります。

ウォン氏
 消費者にしてみれば、弊社のラインナップの中で、NexusはPure Androidという存在です。我々のラインナップにこれを加えることで、より多くの選択肢を消費者に与えることができます。Pure Androidがいいという方はNexusを選択できるのです。

シュウ氏
 これまでもハイエンド市場に対しては頑張ってきたのですが、Nexus 6Pを通してさらなるハイエンド市場での業績拡大も狙えます。これを投入することで弊社の他のフラッグシップモデルも一緒に広めていけると考えています。

オープンマーケットでの成功が成長のカギ

――地域別でいうと、どの地域のマーケットのウェイトが大きいのでしょうか。

シュウ氏
 地域別の具体的な割合については持ち合わせていませんが、中国市場が一番大きな割合を占めています。今年の第1四半期~第3四半期で伸びたのは中東、ラテンアメリカ、西ヨーロッパになります。社内でも分析していますが、フラッグシップモデルをプッシュしたことが現地のクチコミに対して影響があったことが確認されています。オープンマーケットの発展が早い地域では、弊社の業績の伸びも早いという状況です。

――競争が激化する中、ファーウェイが生き残っていく上で重要視しているのは何でしょうか。

ウォン氏
 戦略の中で何を一番重要視するかというと、それはやはり製品に帰することだと思います。他のメーカーさんが何をどうしようが、弊社はあくまで消費者の好みにあった、消費者のニーズに応えた、よりユーザー体験の優れた製品を提供していきたいと考えています。弊社は長距離ランナーを目指しています。目標はあくまでエンドユーザーのために、よりよい体験を提供できるような製品を提供することになります。

シュウ氏
 弊社では最大のライバルは自身であると考えています。社内でよく言われるのは、チョモランマに登るルートはいくつもあるのですが、弊社は往々にして一番難しいルートを選んでいる、と。それは、あくまで製品がベースであるということです。良い製品づくりを心掛け、さらに細かいところの体験にもちゃんと気をつかって、より優れたものを追い求めていけば、この目標を達成できると考えています。

――独自OSを開発することについてはいかがですか?

シュウ氏
 独自にOSを開発する計画はありません。しかし、OSに関しては長年基礎研究に投資してきています。基本となるところというのは、端末に限らず、ネットワークインフラ、エンタープライズの事業でも共有できる研究成果になりますので。しばらくはAndroidをベースにしたスマートフォンの製造に専念していきます。

ウォン氏
 弊社はオープンなスタンスを心掛けて、製品の特徴、地域の特徴にあわせて関係企業とパートナーシップを築いていきたいと考えています。例えば、弊社で車を作ったりはしないですが、自動車メーカーのために車載モジュールを提供することで、よりよい運転の体験を実現できます。

――他の地域に比べ、北米や日本では苦戦しているように見えますが、その原因は?

シュウ氏
 この2つの市場には共通点があり、どちらも通信事業者主導の市場であるということです。米国市場については、これまでにもいろんな製品を提供してきたのですが、ミッドハイクラスの製品になると長年取り組みがないとなかなか受け入れられないという現状があります。ですから、もうしばらく時間がかかると思います。しかし、成果としては、Mate 2というハイエンド機種を昨年投入し、HUAWEI WatchもAmazonでよく売れています。今回のNexus 6Pを通して、さらなる市場の獲得が実現できるのではないかと考えています。今後、米国市場についてはオープンマーケットへの投資を拡大するとともに、gethuawei.comというeコマースサイトでさまざまな製品を展開していきます。

――セルフィ(自分撮り)や音響エンジンなど、ファーウェイは最近のトレンドをリードしてきました。その次のテーマは何になるのでしょうか。

ウォン氏
 実はカメラの機能に関しては、さらに大きな伸びしろがあるんです。今でもかなり良いですが、我々も他社も、よりよい体験を追及していくと思います。バッテリーもそうです。Mate Sでも実現しましたが、人とスマホのインタラクションにも力を入れて改善していきます。間もなく皆さんに披露できると思います。

 私はこの業界で20年間働いており、初期の携帯電話からエンジニアとして携わってきました。実は消費者にとって何がいいかというのは分からないということが多いのです。ですから弊社としても、たくさんのR&Dセンターやデザインセンターを作っているんです。さまざまな分野で研究に取り組むことでいろんなアイデアが生まれますし、次世代の機種にとって何が一番いいかというニーズを掘り起こしてもらうこともできます。ペン入力についても改善すべきことはたくさんありますし、画面にしても、音響にしても、よりよい体験を求めるために研究しているところです。これが今もなお私がこの業界にいる理由です。

かつてはハワイ、ハウ・アー・ユーと呼ばれたHUAWEI

――ブランド向上のために力を入れているのはどういったことですか?

ウォン氏
 西ヨーロッパでスポーツチームのスポンサーになっていたりしますが、これは第一歩でしかありません。最近ですと、HUAWEI Watchで、イギリスの有名なフォトグラファーやファッションモデルとコラボレーションを行いました。従来のスポンサーシップというより、ちょっと違うアプローチの仕方をしています。業界をまたがったタイアップのような試みを通して、弊社のブランド認知をさらに高めていきたいと考えています。

――ブランド認知させるためにAscendを立ち上げたと思うのですが、すぐにHUAWEIブランドに移行してしまいました。またすぐに変更されたりはしないですよね?(笑)

シュウ氏
 Ascendのブランドがなぜ生まれたかというと、弊社で調査したところ、HUAWEIという社名の発音が難しいという結果が出たからです。ハワイと呼ばれたり、ハウ・アー・ユーと呼ばれたりといった経緯があり(笑)、Ascendであれば誰もが分かる言葉なので、それを使おうということになりました。

 これをなぜ無くしたかというと、HUAWEIというブランドに潜在的な能力があるということが分かってきたからです。ブランドの格付け機関の調査結果などもありますし、グローバル市場でビジネス展開した際に読み方が難しいと言われた日本メーカーさんの歴史もあったかと思います。東芝さんなどもそうですが、今では誰でも東芝と読めます。それでAscendを無くして、HUAWEIで行こうと考えたわけです。今後はHUAWEIとhonorの2つのブランドにフォーカスして展開していくことになります。

――ファーウェイと言えばこれだ、というものは何ですか?

ウォン氏
 それはシリーズによって異なります。Pシリーズは外観のデザインとカメラです。Mateシリーズはビジネスマン向けですから、大画面、大容量バッテリー、サクサク動くプロセッサーになります。我々の希望としては、消費者が各々のニーズに合わせた商品を購入いただければと考えています。

――ありがとうございました。

湯野 康隆