法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

グローバル市場の勢いを日本市場にも活かすファーウェイ

中国・深センの本社取材レポート

 国内で各携帯電話会社向けさまざまな製品を供給するファーウェイ。最近では国内でSIMフリースマートフォンのシェアでトップ争いをくり広げるなど、着実に国内市場にも浸透しつつある。中国・深センにある同社の本社を訪ね、メインキャンパスを見学しながら、同社のエグゼクティブにもグループインタビューで話をうかがうことができたので、レポートをお送りしよう。

敷地内中央に位置するメインのビルディング
建物内のホールはモダンなデザインが目をひく

200万平方メートルの広大なメインキャンパス

 国内の携帯電話市場において、これまで多くの海外メーカーが事業を展開してきた。古くはモトローラやノキア、エリクソンといったメーカーが端末を販売し、国内メーカーの牙城に挑んできた。ケータイ時代は圧倒的に国内メーカーが強かったが、スマートフォン時代はNECやパナソニックといった業界を牽引してきたメーカーのスマートフォン市場からの撤退もあり、海外メーカーの存在感はグッと増してきている。iPhoneでトップシェアを獲得したアップルをはじめ、Galaxyシリーズを展開するサムスン、au向けのisaiシリーズが好評のLGエレクトロニクスなどがすぐに思い浮かべられるが、ここ数年、SIMフリースマートフォンなどでも着実に存在感を増し、ユーザーの支持を拡げているのがファーウェイだ。

 ファーウェイは元々、国内の携帯電話事業者向けにはデータ通信端末やフォトフレーム、モバイルWi-Fiルーターなどを供給することで、日本の市場に浸透してきたメーカーだ。なかでも旧イー・モバイル向けの供給でスタートした「Pocket WiFi」シリーズはモバイルWi-Fiルーターの定番商品になり、各社のデータ通信製品のラインアップに採用されるきっかけとなった。その後、国内の各携帯電話事業者向けにスマートフォンやタブレットも供給するようになったが、数年前から各社がMVNO事業を本格化させ、SIMフリースマートフォンが注目されるようになったことで、多くのユーザーに「ファーウェイ」のブランドが知られるようになってきている。

 おそらく、多くのユーザーにとってはスマートフォンやタブレットのメーカーとして知られているファーウェイだが、本誌読者ならご存知のように、端末だけでなく、通信事業者向けに基地局やネットワーク機器、関連設備なども供給しており、LTE-Advancedの標準必須特許も数多く保有する。今やファーウェイはモバイル業界に欠かすことができない企業のひとつとして、成長してきたわけだ。

 そんなファーウェイの本社は、中国広東省の深セン市にある。深センは1980年に中国の経済特区に指定されたことで大きく発展し、最近では多くのIT関連企業やスタートアップ企業が存在することから「中国のシリコンバレー」などと呼ばれることもある。

 ファーウェイの本社が位置するのは深セン市の坂田(バンティエン)地区というところで、本社の敷地は東京ディズニーランドの4個分に相当する200平方メートルの、広大なメインキャンパスを構える。メインキャンパス内は製品センターやR&Dセンター、試験センター、ソフトウェアセンターなど、業務部門ごとに大きな区画で区切られており、ここに4万人を超える従業員が働いているという。

 それぞれの区画の間は巡回バスで移動でき、各区画の建物には食堂やカフェ、コンビニエンスストアなどがあり、メインキャンパスの同じ敷地内には社員寮もある。言わば、メインキャンパス全体がひとつの街のように構成されているわけだ。さまざまな国籍の従業員が働いていることから、建物内にはイスラム教の礼拝堂なども設けられていたり、若い世代の従業員が多いことから「合コン」のような交流会も行われているという。

さまざまな製品のデモが見られるセンターのエントランス。ユニークなオブジェが飾られている。
デモコーナーにはさまざまなタイプのアンテナや基地局が展示されている
データセンター向けの製品群も展示されている。同社のデータセンター製品は中国のAlibabaなど、数多くの企業に採用されている
敷地内の試験センターはその外観から俗に『ホワイトハウス』と呼ばれているという
敷地内を循環するバス。AブロックからKブロックまであり、このバスはE/F/Gブロックのみを循環する
敷地内の庭園の近くにある建物はファーウェイのCEOが執務を行なうところだという
イスラム教などに配慮してか、建物内には礼拝のスペースが用意されている
敷地内の各所にはいくつかコンビニエンスストアが出店している

スマートフォンではライカの技術をMateシリーズにも展開

 ファーウェイの本社では同社の最新技術を解説する展示コーナーなどを見学することができたほか、同社の役員に事業の取り組みや方向性などについて、話をうかがうことができた。

 まず、日本のユーザーとして、もっとも気になるのは身近な存在であるスマートフォンの動向だろう。Handset business CBGのVice PresidentであるLi Changzhu氏にグループ形式でインタビューをすることができたので、その内容を踏まえながら、今後の動向を解説しよう。

Handset business CBGのVice PresidentであるLi Changzhu氏

 現在、ファーウェイは国内ではSIMフリースマートフォンの市場でトップ争いをくり広げているが、各携帯電話事業者が扱う端末を含めた、全チャネルを含める国内市場でもアップルやソニー、シャープなどに続く4位につけている。

 グローバルのマーケットでも出荷数で14%のシェアを持ち、業界3位のポジションを得ている。順調にシェアが伸びてきた背景について、Li Changzhu氏は「市場に良い製品を投入していることや、ブランド価値を高めるためのプロモーションができていることもある一方、各携帯電話事業者や販売店など、パートナーとのいい関係が維持できていることも重要なポイントだ。ただ、このシェアで満足しているわけではなく、これからもお客様に良い商品をお届けし、いろいろな面を改善していくことで、自然とシェアが伸びていくように取り組んでいきたい」と語る。

 ファーウェイの端末と言えば、今年はフラッグシップモデルの「P9」もデュアルレンズカメラを搭載し、その後、他社もデュアルカメラを追随してきたことで、注目を集めているが、今後もデュアルカメラ路線を継続するのかという問いに対しては、「スマートフォンのカメラ機能にはまだまだ発展する余地がたくさん残されている。デュアルレンズカメラについては2014年に発売したhonor 6 Plus(国内では楽天モバイルが独占販売)ではじめて搭載し、今年のP9ではじめてフラッグシップモデルに搭載した。デュアルレンズカメラはこれまでのスマートフォンのカメラと比べ、撮影する画像を強化できるうえ、さまざまな撮影効果を加えることができる。特に、P9で採用されたモノクロとカラーを別々のイメージセンサーで撮影し、写真を生成する手法は、プロのカメラマンやカメラに詳しいユーザーにも好まれている」と答えていた。

 デュアルカメラについては、今年9月に発売されたアップルのiPhone 7/7 Plusでも搭載され話題になっているが、実はファーウェイは2年前のモデルで搭載し、被写界深度を変更することで被写体を際立たせた写真が撮影できるワイドアパーチャも当時からサポートされていた。デュアルカメラは今年発売されたP9にも搭載されたが、このモデルではさらに進化を遂げ、モノクロとカラーのイメージセンサーを搭載して、個別に撮影し合成することで、今までのスマートフォンのカメラとはひと味もふた味も違った写真を撮れるようにしている。ライカとの協業とも相まって、同じデュアルカメラでありながら、他製品よりも進化を遂げたカメラを実現しているというわけだ。ファーウェイとしては、スマートフォンのカメラを単純に写真を撮るための機能だけでなく、3Dスキャニングやモデリング、VR/ARなどにも応用していきたいという。

 ところで、P9のデュアルカメラと言えば、老舗メーカーのライカとの協業が話題になったが、この協業はどういう経緯でスタートしたのだろうか。この点について、Li Changzhu氏は次のように答えている。

 「ライカとの協業はスマートフォンのカメラの画質を向上させたいという意向から2014年にスタートしたものだ。ご存知のように、ライカは100年の歴史を持つ優れたメーカーであり、カメラでは世界トップクラスのブランドである。現在、ソーシャルメディアでは1日に数十億枚の写真がアップロードされているが、その内の90%がスマートフォンによって撮影されている。だからこそ、ライカとの協業が必要と判断した。お互いに協力する意欲を持っている」

 また、ライカとの協業による開発については、「ライカ製品は光学レンズのクオリティが高く、撮影した写真のクオリティも高いが、デジタルカメラの写真はレンズから入ってくる光、それを受けるイメージセンサー、プロセッサーによる画像処理などを経て、最終的な画像が生成される。ライカとの協業ではレンズを設計するだけでなく、画像処理などのチューニングも一緒に行ない、ライカの品質を実現している。レンズについてはスマートフォンの場合、非常にサイズが小さいため、開発が難しいと言われているが、これに加え、量産化も考慮しなければならない。生産時に十分な良品率が確保できるようにモジュールを設計することにも苦労した。レンズのクオリティは、色、解像感、中心正確度、周辺部の正確性、コントラストなどについて、主観的基準と客観的基準に基づいて、長時間の評価をくり返すことで、ライカとしてのプレミアムなクオリティを実現することができた」としている。

 これまでもスマートフォンのカメラについては、既存のカメラメーカーなどと共同開発したり、自社のデジタルカメラの開発陣が参加したりした例があるが、やはり、ライカというトップブランドのこだわりは強い上、まったく別の会社であるがゆえに開発には難しい部分があったようだが、その分、これまでのスマートフォンとは違ったクオリティのカメラが実現できたようだ。

 ライカとの協業の今後の展開についても聞いてみたところ、「ライカとの協業は長期的なものと捉えており、これからも継続して、開発を続けていく予定。今後のMateシリーズやPシリーズにも搭載する計画がある」と答えている。

 Pシリーズでは今年、P9が発売されたが、Mateシリーズは昨年12月に国内向けに「Mate S」が発売され、グローバル向けには後継モデルの「Mate 8」が発表されているものの、国内には投入されていない。今後、国内向けにもライカ協業モデルのラインアップ拡大が期待される。

(※編集部注:11月3日にドイツで、ライカとの協業によるデュアルレンズカメラ搭載の「Mate 9」が発表された

 また、ファーウェイの端末としては、PシリーズやMateシリーズのほかに、グローバル向けや中国市場向けにはIFAで発表された「novaシリーズ」、国内では楽天モバイルが独占で扱う「honorシリーズ」が展開されている。これらのモデルはPシリーズやMateシリーズとどのようにすみ分けていくのだろうか。

 この点については、「honorシリーズもハイエンド機種のひとつだが、Pシリーズとは少し内容が異なり、どちらかと言えば、若い世代を狙っている。honor 8もデュアルカメラを搭載しているが、カメラのソフトウェアのアルゴリズムはP9と違い、ファーウェイ独自のものを採用している。novaシリーズは新しいユーザー体験をもたらす製品で、ファッション性を重視したモデルと位置付けている。Pシリーズも近い方向性だが、Pシリーズが少し穏やかなファッション性であるのに対し、novaシリーズはアクティブなファッション性を求めるユーザーを想定している」と答えている。

 今年のIFA 2016で発表されたnovaシリーズについては、国内市場向けに投入されるかどうかがまだ明らかにされていないが、P9 lite発売以来、好調な売れ行きを記録し、P9もカメラ機能などが高い評価を受けていることから、あまりラインアップを拡大せず、市場の動向を見ながら、今後の展開を検討しているようだ。

 ファーウェイのスマートフォンの今後で、もうひとつ気になるのが防水対応だ。今年はサムスンのGalaxy S7/S7 edge、アップルのiPhone 7/7 Plusという業界のトップを走るフラグシップモデルが相次いで防水に対応したが、今後、ファーウェイのフラッグシップモデルは対応していくのだろうか。

 Li Changzhu氏は「実は、今から4年ほど前に、Huawei Ascend D2(国内向けにはNTTドコモから『Ascend D2 HW-03E』として発売)というモデルで防水・防塵に取り組んでおり、防水そのものの技術については、ファーウェイで保持している。ただ、当時はグローバル市場で防水に対する反響があまり大きくなく、最近のモデルでは対応が見送られてきた。現在、市場では徐々にニーズが高まってきていると認識しており、今後はハイエンドモデルやフラッグシップモデルを中心に、防水・防塵対応を導入していくことになるだろう」と答えている。

 前述のPシリーズやMateシリーズの次期モデルに防水・防塵に対応したモデルがラインアップされることになれば、防水・防塵に対するニーズの高い国内市場でも人気が出ることになるかもしれない。

2017年に次期MateBookを投入予定

 ファーウェイと言えば、スマートフォンの他に、モバイルWi-Fiルーターやデータ通信端末、タブレット、ウェアラブル端末などの製品も手がけている。これらのモバイルブロードバンド向け製品やタブレット、ホームデバイスなどを担当する同社のMobile Broadband and Home Device Business CBG PresidentのWan Biao氏にも話をうかがうことができた。

熱心に説明するMobile Broadband and Home Device Business CBG PresidentのWan Biao氏(左)

 まず、日本のユーザーにとって、最近、気になったのは、今年2月に発表され、国内でも販売が開始された初のWindows搭載タブレット「MateBook」の話題だ。

 国内市場に限った話ではないが、全体的に見て、パソコン市場は漸減傾向が続いており、スマートフォンやタブレットの市場は横ばいから微増、ウェアラブルなどの市場は今後の成長が期待されている。こうした市場環境において、どうしてファーウェイはMateBookを世に送り出したのだろうか。

 Wan Biao氏によれば、「消費者はスマートフォンなどに限らず、いろいろなシチュエーションにおいて、さまざまな製品を利用している。そこで、新しいユーザー体験を提供するために、MateBookが企画されている。パソコンという分野については、まだ巨大な発展の余地があり、ユーザーもより良い製品を求めている。ファーウェイがこれまで多くのスマートフォンを開発してきた経験があり、これを活かした製品を開発することができれば、消費者の期待を超える製品を提供することができると考えた」という。

 では、具体的にMateBookのどういうところにスマートフォンのノウハウが活かされているのだろうか。この点については「デバイスでわかりやすいのは側面に備えられた指紋認証センサーだろう。他の多くのパソコンと違い、指紋認証センサーにタッチするだけで、Windowsにログオンすることができる。また、スマートフォンでは軽さやポータビリティが求められてきたが、これを活かすことにより、これまでのパソコンよりも携帯しやすく、持ちやすいサイズと形状に仕上げることができた。たとえば、ボディのサイズなどだけでなく、素材の選択なども含めて、スマートフォンで培ったノウハウが活かされている」と答えた。

 デザインや価格面でも魅力的なMateBookだが、今後もこのシリーズは継続するのだろうか。Wan Biao氏は「2017年に新しいMateBookを発表する予定なので、ご期待いただきたい。まだ詳しいことは説明できないが、よく『パソコンは入力が難しい』という声があり、これを何か違う方法で解決できないかを考え、それに対する答えを提案したいと考えている」とした。ファーウェイは自社イベントのほかに、Mobile World Congress(MWC)やCESといった展示会で新製品を発表するケースが多いが、来年の早いタイミングであれば、この2つのイベントで新しいMateBookがお目見えすることになるのかもしれない。

Wan Biao氏はタブレットやモバイルWi-Fiルーター、ホーム向けルーター、自動車向け製品など、数多くの製品グループを担当する
MateBookはファッション性やポータビリティを重視しながら、新しいパソコンのスタイルを模索した製品だという

ファーウェイの今後に期待

 2007年に、当時のイー・モバイルにデータ通信端末「D02HW」を供給し、日本市場に参入したファーウェイ。当初は筆者自身も含め、今ひとつなじみのないメーカーという印象だったが、冒頭でも触れたように、「Pocket WiFi」をはじめとするモバイルWi-Fiルーター、各携帯電話会社向けに供給されたフォトフレーム、NTTドコモ向けのキッズケータイなど、幅広い製品ラインアップを供給し、ここ数年はSIMフリースマートフォンの市場でもトップ争いをくり広げるなど、着実に日本市場での存在感を増している。

 今回、深セン本社のメインキャンパスを見学し、取材をしてみて、改めて業界内における同社の存在の大きさを認識すると同時に、日本向けを含めた事業への真摯な姿勢についても理解することができた。

 なかでも東京ディズニーランド4つ分という巨大なメインキャンパスでは、中国人のスタッフだけでなく、さまざまな国と地域の人々が働く様子を見ることができ、グローバル企業らしい姿を垣間見ることができた。今回は見かけることがなかったが、おそらく現地で働く日本人の技術者もいるのだろう。また、我々がメインキャンパスを取材中、各国の携帯電話事業者や関係各社と思われる来客が見学に訪れているシーンを何度も見かけたが、それだけ世界中の業界各社から注目され、期待されている企業であることを表わしている一面と言えるかもしれない。

 ファーウェイが今後、どのような技術を開発し、どのような製品を国内市場に投入してくるのかが期待される。

深センでもっとも大きな電脳街のひとつ「華強電子世界」
華強電子世界の正面にあるファーウェイの直営店
店内は明るく、多くの製品を手に取って、試すことができる
スマートフォンだけでなく、ドローンも展示されている
現在はフラッグシップモデルのP9シリーズが積極的にアピールされている。スカーレット・ヨハンソンは同製品のキャラクターに起用されている
HUAWEI Watchもショーケースに入れられて、展示されている。もちろん、その場で購入することが可能だ

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。