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KDDI、富士山の登山を支援する取り組みを現地で解説

御殿場の登山口

 KDDIは8月11日より、富士山御殿場新五合目にて、登山者向けにモバイルバッテリー(乾電池使用タイプ)の提供や各登山口にいるナビゲーターに他言語翻訳アプリ搭載スマートフォンの提供を開始する。これらのサービスの開始日となる、「山の日」として祝日になった8月11日には、現地で報道陣向けにサービスの説明会が開催された。本稿ではそこで解説されたKDDIによる取り組みの様子をレポートする。

モバイルバッテリー提供で登山届と協力金の普及を促進

 今回の取り組みは、安全で快適な登山をサポートすることを目的としている。富士山の登山者は、初心者や外国人登山者も多く、マナーや事故、災害などの情報提供が重要になっている。

登山届。ポスト提出ではなく、後ろのインフォメーションセンター内で書いて提出することでモバイルバッテリー(乾電池使用タイプ)がもらえる

 とくに初心者は「登山届」を提出しないケースが多い。登山届は登山のルートやスケジュール、登山者のプロフィールや連絡先を記載し、事故や災害の発生時に備えるというもの。提出は強制ではなく任意なので、提出率は決して高くない。

 また、富士山では登山者に対して、「富士山保全協力金」の支払いを求めている。富士山の環境保全や安全対策などの資金源とするもので、通常1000円となっている。こちらも強制ではなく任意で、支払い率は高くない。

モバイルバッテリーをもらうと、協力金の領収書に刻印が押される

 今回の取り組みでは、「登山届」と「富士山保全協力金」の普及を目指しており、富士山御殿場新五合目の登山口にある施設、「Mt.FUJI TRAIL STATION」で登山届を提出した人、もしくは富士山保全協力金(1000円)を支払った人に、乾電池使用タイプのモバイルバッテリーが提供される。このバッテリーは貸出ではなく配布なので、返却の必要はなく、auユーザー以外でも提供される。

 モバイルバッテリーは単3形乾電池4本を使用するもので、再充電はできないが、山小屋などで単三電池を購入し交換すれば再利用できる。モバイルバッテリーと一緒に充電ケーブルも同時に提供され、microUSBケーブルかLightningケーブルかのどちらかを選ぶことができる。

提供されているモバイルバッテリー。auのラベルが貼られている

 ちなみに筆者がモバイルバッテリーと同時に提供を受けたLightningケーブルは、Logitec製で、同等品と推定される製品はAmazon.co.jpでは1166円(簡易パッケージ)で売られている。

 このモバイルバッテリーの提供は、限定1000個で、富士山御殿場口新五合目でしか行なわれない。御殿場口は富士山にある主要な4つの登山口のうち、もっとも標高が低く、頂上との標高差が大きいため、上りルートとしてはやや健脚向けで、利用者も少ない。提供期間は富士山の登山道が開放されている9月10日までなので、1000個はやや余裕を見た数だという。

御殿場ルート。地面は柔らかい砂

 なお、御殿場口からのルートは地面が柔らかい火山灰のところが多く、走って下る「大砂走り」が名物ともなってる。「登山中のスマホ充電に使ってもらう」という本来の趣旨とは離れてしまうが、ほかのルートで登って、帰りは御殿場口ルートを下り、御殿場口でモバイルバッテリーをもらうということも可能だろう。

 登山届の提出の普及については、静岡県は、スマートフォンアプリを使った取り組みも行っている。こちらアプリ「コンパス」で登山届を簡易申請すると、静岡県の観光アプリ「富士山ぐるぐる旅行」と連動して富士山周辺でのクーポンがもらえるようになっている。

多言語翻訳アプリで外国人登山者をサポート

スマホによる翻訳デモンストレーション

 KDDIはまた、各登山口にいるナビゲーターに対し、翻訳アプリがインストールされたスマートフォンを提供する。このナビゲーターは外国人登山者への案内などを行なうもので、元々英語で対応が可能なスタッフだが、ほかの言語への対応にスマートフォンアプリを活用する。

 利用するアプリは国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した「VoiceTra」で、約30の言語に対応し、一部の言語は音声認識・音声出力も可能となっている。

 近年増えている海外からの登山者や観光客への対応に利用する。登山者となると欧米からの人が多いが、五合目まではバスなどで来られるため、中国や韓国、東南アジアからの観光客が登山せずに訪れるケースも多いという。

翻訳画面。音声認識した内容、翻訳文、翻訳文の意味がそれぞれ表示される
対応言語は多い。音声認識・出力できない言語も、手入力による翻訳が可能

登山のライフラインとなったネットワークも整備

御殿場口から一番近い大石茶屋。こちらも富士山 Wi-Fiが設置されている

 今回の取り組みのほかにも、KDDIのグループ会社であるワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)は、今年より富士山の山小屋など49カ所に無料のWi-Fiサービス「富士山 Wi-Fi」を提供している。これは静岡県と山梨県からワイヤ・アンド・ワイヤレスが受託した事業となっている。

 利用にはSNSなどの認証が必要となるが、料金などは発生せず、SNSアカウントさえ持っていれば誰でも利用できる。一度認証すると、3時間、Wi-Fiが利用可能となり、3時間以内であればほかの山小屋のアクセスポイントにつなぐときも、再認証は不要。3時間が経過したあとも、無料で再認証できる。

アクセスポイント。箱には2本の角のようなLTEアンテナが装着されている

 各Wi-Fiアクセスポイントは、auのLTEでインターネットにつながっている。これは富士山では架線の敷設が厳しく制限されていて、通信回線を有線で敷設できないため。このほかにも各山小屋や休憩所などには、リピーター基地局も設置されている。

 Wi-Fiだけでなく、KDDIは富士山において、携帯電話エリアの整備も行なっている。富士山の山中に基地局を設置することが難しいため、基本的に富士山の麓に設置された特殊な指向性アンテナを使って各登山ルートを通信エリア化している。

 ただし山頂に関しては、麓のアンテナからだと死角になるため、山頂に基地局が設置されている。さらに今年から、宝永山のため死角となっていた富士宮ルートと御殿場ルートをつなぐプリンスルートについても、新たに基地局を設置してエリア化しているという。

富士山 Wi-Fiが使える場所には左の「Fujisan Wi-Fi」のステッカーが貼ってある
屋内基地局やWi-Fiアクセスポイントのために外付けの指向性3G/LTEアンテナも使われている
富士山 Wi-Fiについては外国語でも案内がなされている
御殿場口の売店にも富士山 Wi-Fiのアクセスポイントが設置されていた