インタビュー

「MEDIAS W N-05E」開発者インタビュー

「MEDIAS W N-05E」開発者インタビュー

2画面スマホにかける意気込み――ヒンジ開閉試験も公開

「MEDIAS W N-05E」

 4月18日、海外でも大きな話題となっているNECカシオ製の2画面スマートフォン「MEDIAS W N-05E」が、国内で発売となった。これまでにないスタイルの端末ということもあり、一見すると奇抜な印象を受けがちだが、2画面でありながらコンパクトな筐体サイズに収まっている点、狭額縁、開閉時の精度など、細かい部分を見ていくと物作りにこだわるNECカシオのチャレンジ精神が垣間見えてくる。

 今回はそんなMEDIAS Wの開発に携わった商品企画、ハードウェア開発、ソフトウェア開発の各メンバーにお集まりいただき、同端末に込めた思いを熱く語っていただいた。インタビューに合わせて実施されたヒンジ開閉耐久試験の様子と合わせてお届けしたい。

1台を4つのスタイルで使いこなせる

商品企画部のメンバー。左から黒田正洋氏、石塚由香利氏、石田伸二郎氏

――ついに4月18日に国内販売がスタートします。ここで改めてMEDIAS Wの特徴などを教えていただけますか。

石塚氏
 MEDIAS Wの特徴的なところは、やはり2画面を採用したこの新しい形状です。ヒンジをはじめとする新開発の技術や、従来からのNECカシオの技術を活かすことで実現しています。

 大きなポイントとしては、4つのスタイルを自在に使いこなすことができるところです。閉じた状態で普通のスマートフォンと同じスタイルで使えるというのがまず1点。広げて2画面にして左右に別々の画面を表示させるスタイルと、2画面を1つの画面としてフルスクリーン表示するスタイル、途中まで開いて三角の状態で置いて使うスタイル、これら4つのスタイルを1台で使えるところが注目していただきたい点です。

 ちなみに新しいコンセプトのスマートフォンというところを認めていただき、レッドドット・デザイン賞を受賞したというのがここ最近のいいニュースです。

――端末の使い方について細かく教えていただけますか。

石塚氏
 MEDIAS Wには「ダブルブラウザ」と「ダブルメール」というアプリなど、2画面を活かしたアプリをプリインストールしており、それぞれで別のWebページを閲覧する仕組みを実現したり、メールをPCライクにマルチペインで表示するなど、従来のスマートフォンにはない使い勝手と見やすさを追求しています。

 たとえば「ダブルブラウザ」では、左側のメイン画面でタップしたリンク先を右側のサブ画面で開いたり、1ページを2画面にまたがる形でフルスクリーン表示することが可能です。フリック操作で簡単にブックマーク登録したり、閲覧中のページを保存できるようにもなっています。「ダブルメール」では、片方の画面すべてをキーボードとして使えるなど、より文字入力しやすくなる仕組みも用意しています。

 さらに、サブ画面でさまざまな操作を行えるNECカシオオリジナルアプリ「Utility Apps」を開発しました。「メモ一覧」、「ブラウザ」、「ギャラリー」というサブ画面専用アプリの他に、スクリーンショット撮影機能などが利用可能です。ユーザーがスマートフォンを使う中で、他のアプリと同時にどういった使い方ができるとうれしいのか、ユーザーがどういうものを求めているのか、といったところを考えて、機能を絞り込んでご用意しました。

――「Utility Apps」は、それぞれどんな使い方ができるのでしょうか。

石塚氏
 1つ目の「メモ一覧」は、メイン画面でWebページなどを参照しながらメモを取ったり、逆にメモを見ながらメイン画面でテキスト入力するといった使い方ができます。メイン画面でテキストを範囲選択した状態でサブ画面にドラッグ&ドロップすると、メモにテキストを貼り付けられるというように、画面をまたぐ操作も可能です。

 「メモ一覧」の中には、ワンタッチでスクリーンショットを撮影して画像保存できる機能もあります。これを活用すれば、メイン画面で表示している電車の乗り換え検索の結果をキャプチャーして、あとですぐに再確認するという使い方もできます。

 「ブラウザ」はサブ画面でWebサイトを閲覧できるもので、「ギャラリー」はメイン画面でメールしたりFacebookなどにアクセスしながらサブ画面で写真や動画などを見られるものです。

――カメラ機能についてはいかがでしょう。

石塚氏
 通常のスマートフォンには1つの画面と2つのカメラ(アウトカメラとインカメラ)が付いていますが、今回は画面が2つでカメラが1個という形になるわけです。そのため、カメラをどう使えるようにするか、というところの整理は大変でした。

 アウトカメラでも撮りたいしインカメラでも撮りたい、というニーズに対しては、ディスプレイを切り替えて使うことで、どちらでも810万画素で撮れる独自の機能を実現しています。

 また、外側に折りたたむ形状とすることで、半分開いた状態で置いて画面を見るという使い方もできますので、自分撮りをしたり、ムービーを視聴しやすいというメリットもあります。

半分開いた状態では、両画面に同じ動画を流して2人で向かい合って視聴できる

――半分開いた状態でのムービー視聴は、意外と便利に使えそうですね。

石塚氏
 同じ動画を両方の画面に同時に映して2人で向かい合って見ることができる「Wムービー」も、この形状ならではの使い方だと思います。これは、お客様にどういった新しい価値を提供できるか、といった観点から考えて用意した機能です。また、カメラが1個でディスプレイが2つということで、この形を活かして撮影画像とプレビュー画像を同時に表示させる機能もあります。

 撮るだけではなくて、PCライクなレイアウトでギャラリーの画像一覧と画像詳細を2画面に分けて表示したり、NECカシオが従来から提供している「SNSシェア」という機能で、写真を一覧上で長押しすると他のアプリとすばやく連携できるといった機能も用意しました。画面をまたいだ操作ももちろん可能にしていて、一覧性や操作性を考えて、よりSNS等に共有・投稿しやすくなる工夫を施しています。

――その他に注目してほしい機能などはありますか?

石塚氏
 基本機能として、MEDIAS X N-04Eにも搭載した新機能や、MEDIASで培われた機能などもしっかり踏襲しています。たとえばブルーライトカットモードを備えていますし、最大100Mbpsで通信可能なXi、Bluetooth Low Energyにも対応しています。カシオの腕時計G-SHOCKともしっかり連携できます。

 さらに、新しい形状で新しい使い方になるため、お客様がどのように使ったらよいのか戸惑うところもあるかもしれませんので、今回新たに「使い方ガイド」をプリインストールしています。最初に画面を開いて2画面表示にすると、右側のサブ画面に「Utility Apps」が表示され、その中のメモ一覧に「使い方ガイド」が入っています。MEDIAS Wの基本的な使い方、使い方がわかるようになっていますので、ぜひ見ていただいき、端末を存分に使っていただければと思います。

――2画面対応アプリは誰でも作れますか?

石塚氏
 今、ドコモさんで魅力的な2画面対応アプリを募集する「MEDIAS W アプリ開発コンテスト」を実施していただいていますが、その中で、2画面に対応可能なアプリを開発する際の注意点がわかるガイドラインを公開しています。このガイドラインでは、2画面を活かすアプリを作るための仕様をご紹介しています。

 Androidの基本的な仕様をベースにして開発できますので、特別なことをする必要はありません。端末の解像度変更時における処理をケアしていただければ、簡単に対応可能です。「作ろうスマートフォンコンテンツ」でもこれらの仕様などを公開してくと聞いていますので、今後2画面対応のアプリが増えるとうれしいですね。

2画面だから特殊、という感じは出したくなかった

――2画面にして、しかも外側方向にサバ折り(バックフォールド形状)するタイプにしたのはなぜでしょうか。

石塚氏
 大画面とモビリティーを両立したいという思いがありました。スマートフォンの画面がどんどん大きくなって持ちにくいという声をいただきますし、画面は大きくても持ちやすいものがほしいという要望もあります。ただ、そうするとスマートフォンというよりタブレットに近づいていってしまうので、大画面とモビリティーを両立させるためにはどうしたらいいのか、というのが最初のスタート地点となりました。

 どういう形のハードウェアにするべきか、いろいろ試行錯誤していく中で、商品企画部門としては、やはり閉じた状態でも普通のスマートフォンとして使えるようにしたいと考えました。大画面とモビリティーを両立するにしても、閉じている時は普通のスマートフォンと違う印象にならないようにしたかったのと、持って使うのに必要十分なサイズ感というのも大事にしています。

 ハードウェアの開発スタッフにいろいろ挑戦してもらった結果、外側に折れるサバ折りの形状がいいのではないかと考えました。1画面の時に普通に持って使える感覚というのは、サイズ感もそうですが、少ない動作ですぐに使えるかどうかも重要です。画面が閉じていると必ず開くというアクションが入ってしまうので、その時点ですでに普通のスマートフォンではないと感じられてしまうように思い、外側に折れる形にしてディスプレイが常に見えるようにしました。

ハードウェア開発を担当した商品開発本部のメンバー。左奥から尾崎和也氏、白石充孝氏、左手前から道野僚太氏、川崎康彦氏、北原潤也氏

――ヒンジはMEDIAS Wのために新しく開発されたとのことですが。

川崎氏
 可動域が180度のヒンジというものが今までにないものでして、従来のフィーチャーフォンのような160度までのヒンジとは実は構造がけっこう違うんですよ。動作的には20度しか変わらないんですが、構造はより複雑になっていて、それを細い径で実現しなければいけませんでした。

白石氏
 少なくともヒンジの径で端末の厚みが決まってしまわないようにと考えました。フィーチャーフォンだと、ヒンジをそこそこ小さく作れば他の部分で厚みが決まるため極限まで小さくする必要はなかったのですが、今回は逆で、端末の薄さに合わせてヒンジを小さくしなければならなかった。そういう意味では従来とはスタートラインが違っていましたね。

フィーチャーフォンのヒンジと並べて比較
N502iのヒンジ。モールド幅9.5mmのヒンジを2個使用
N705iμのヒンジ。モールド幅9mmのヒンジを1個使用
MEDIAS Wのヒンジ。モールド幅は4.9mmとなった

川崎氏
 このサバ折りのスタイル(バックフォールド形状)に行き着くまでにいろいろな動きを考えていたんですけども、動きのスムーズさやシンプルさというのが重要であると思っていました。2画面だから特殊だよ、という感じは前面に出したくありませんでした。

尾崎氏
 2枚の液晶の間にヒンジを挟んでいる形状なので、ヒンジを小さく作らない限り薄くならない。ヒンジを小さく作ることと、液晶やバックライトを薄くすること、開いて2枚の画面が隣り合う部分のベゼルを狭く作ること、その3点を成立させるのが非常に難しかった部分です。

――開いたときのカチッという音は狙って出しているものなのですか?

白石氏
 これは、ヒンジのカムが跳ね返るときの音でして、絶妙なクリアランスと材質によって筐体内を反響して出てくるような構造になっています。狙って出しているところと、機構上そうなってしまうのと、半々くらいです。ただ、安っぽい音は出してはいけないと思っていました。クルマのドアと同じですね(笑)。

石塚氏
 ちなみにこの音の出し方については、それが当然でしょ、という感じで開発側から上がってきました(笑)。

右側のスケルトンモデルにあるように、それぞれのディスプレイパネルの下に板金が敷かれている

――MEDIASシリーズは、とにかく薄くというテーマで開発されてきたと思いますが、MEDIAS Wにもその薄くするための技術は活きていますか?

白石氏
 そうですね。硬い板金を弾力性のある樹脂材料で挟んでくっつけるというのがMEDIASシリーズの特徴になっていまして、MEDIAS Wでもディスプレイパネルの下に板金を敷くことで端末の剛性を高めて、かつ薄さにも寄与させています。今までにも使われてきた技術なのですが、今回はこれらを実現した材料に加えてヒンジを連結する事が特徴的な部分になります。

 メイン画面側は厚めの板金ですが、サブ画面の方はバッテリーも入っていて剛性が高いですから、板金を薄くしています。板金の厚みをそれぞれで変えて、両方とも同じ一定の強度になるよう調整を行っています。

――折りたたみ時はディスプレイが両面にくるので、傷付くのが心配なユーザーも多いのではないかと思います。

道野氏
 まず置いたときに傷つくという懸念に関しては、ベゼルの樹脂部分をディスプレイ面よりわずかに出っ張らせることで、画面に傷が付きにくくなるようにしています。Corning Gorilla Glass 2を採用していて、傷自体に強いというのもありますね。端末本体については先ほどお話しした板金などを用いることで、内部構造から高強度を実現しています。

石塚氏
 それと、試供品として液晶保護フィルムを同梱させていただいています。強度や傷つきにくさの面での対策がありますので、フィルムを貼らなくても問題ないようにしていますが、今までにない形状の端末ですので、傷が付きやすそうに思われるお客様に安心感を提供するためにも同梱しました。

――閉じて使うこともあるので、熱がこもりやすそうにも見えます。熱の逃がし方で工夫されている部分はありますか?

北原氏
 それぞれの液晶の熱をそれぞれの板金に逃がす設計をしています。他のスマートフォンより熱が逃げにくいということはありません。閉じているときは熱がこもりやすく見えますが、その場合は1画面のみの表示になっているので発熱は抑えられますし、開いたときは2画面表示で発熱が多くなっても放熱しやすいので、結果的にはどちらの場合でも同じように熱を逃がす事ができます。ユーザーが熱を感じやすい液晶のガラス側ではなく、内部の板金などに広く熱を逃がすのと、板金とは別に熱拡散シートを組み込んでいるのもポイントです。

――国内で要望の多い防水仕様にしなかった理由は?

石塚氏
 もちろん、いろいろな機能や仕様が入っているのが理想ではありますが、社内で話し合いながら、今回はまず閉じた状態で普通のスマートフォンとして使えること、左右対称になっていて、正面から見たときに開くことができるようなデザインに感じない普通の端末感を出す、というコンセプトの実現を目指しました。そのために搭載する機能を吟味した結果、今回のような構成になっています。

白石氏
 防水仕様自体は、すでにあるフィーチャーフォンやスマートフォンの防水技術を応用すれば難なくできると思うんですけども、MEDIAS Wでやろうとすると単純に端末が厚くなってしまいます。防水にしつつ今回と同じような薄さや狭額縁を実現するのが今後の課題ですね。

川崎氏
 厚みが出ないよう、画面表示やタッチパネルの制御に使われる40本の配線をきちんと整列させてヒンジ近くを通しているんですが、防水に対応するには、この配線部の防水処理が一番大きなポイントになってくるかもしれません。実際、防水ではない今回の場合でも配線部の厚みは結構ギリギリなんです。

画面をまたぐ操作を普通に実現するチューニングも

ソフトウェア開発を担当したソフトウェア商品開発本部のメンバー。左から村上東吾氏、北口雅哉氏、田中秀明氏

――画面をまたぐ操作に関する処理は難しかったのではないかと想像しますが。

田中氏
 画面をまたぐ処理では、ソフトウェア的には直線方向の操作はもちろんのこと、斜め方向の操作も考慮しなければなりませんでした。斜め方向にスライドさせたとき、指先が一旦画面の外に出て、すぐにもう一方の画面内に斜めで入射してくるわけで、そういった動作にも対応しないといけません。

 一方の画面から出て、もう一方の画面に入射するまでの時間が何msまでであれば連続した「またぐ」処理だと判断させるなど、チューニングに結構苦労しています。

石塚氏
 地図でフルスクリーン表示したときに、ピンチイン・アウトで画面をまたいで操作できるというのも、ユーザーからしてみれば普通に感じるところかもしれませんが、意外と大変でした。

黒田氏
 新しい商品は、こういうところ作るのが大変なんだろうなっていう部分がユーザー側から見えてしまうことがあると思いますが、そういったところは全部クリアにしていって、ユーザーが気にすることなく普通に使えるところまで仕上げたというのがMEDIAS Wのポイントですね。

――フィーチャーフォンでは通話中に背面側のLEDが光る演出がありましたが、サブ画面側にそういった機能を加える予定はありますか?

石塚氏
 音声着信があった時はサブ画面がアニメーションするようになっているんですけども、通話している間も裏側のディスプレイにイルミネーションを表示する、というのもゆくゆくは考えられるかもしれませんね。

――端末のメイン画面とサブ画面、あるいは表と裏というのを意識せずに使えるようにする、という方向性もあったのでは?

村上氏
 今回は通話用のスピーカーが1つしかありませんので、電話がかかってきたときにサブ画面側で取ってしまうと、相手の声が聞こえない状態になってしまいます。

道野氏
 スピーカーを両面に設ければ実現できるかもしれませんし、センサーで向きを感知して処理するという手もあるかもしれませんが、端末サイズとの戦いになってきそうです。たしかに両面で使えるようにする話が一時上がったりしたものの、その機能の重要性とバッテリー消費量とを天秤にかけて、どちらを優先するのかを検討したうえで今の形に落ち着きました。

――ストラップ取り付け用の穴がほしいと思うユーザーもいそうです。

石塚氏
 今回はグローバルも意識した製品なので設けませんでしたが、今後の端末で検討していきたいとは考えています。ストラップホールを開けるとそれで強度などが変わってきてしまうので簡単ではなさそうですけれども。

北原氏
 MEDIAS Wが4種類のスタイルで使えるということもあって、もし穴を開けるとしても場所がある程度決まってきてしまうでしょうね。たとえば端末を半分だけ開いてムービーを見るようなスタイルでは、端末の左右側面に穴があると座りが悪くなってしまいますので。

開発者一人一人が世界一を意識して作り込んだ端末

――ハードウェア開発を担当された皆さんが、それぞれ特に苦労した点を教えていただけますか。

白石氏
 ディスプレイ周りを狭額縁にしたところですね。額縁の幅は目標値を決めて開発を進めたんです。接着剤を板金の上に乗せる新しい技術を使った場合、接着幅がこのくらいで、そうするとディスプレイ下に敷く板金の幅はこのくらいで、というのが決まっていたので、その寸法ありきで狭額縁にしなければならなかったのが大変でした。

 アンテナの配置場所についても苦労しましたね。イヤホンマイクやUSBの端子、カメラとかの大きなデバイスがどんどん載ってきて、それらの干渉を考えると、必然的に配置する場所が決まってきてしまうんです。

道野氏
 MEDIAS Wは、開発者一人一人がそれぞれの部分で世界一を目指すような気持ちで作り込んできた新しい端末です。端末を開いたときの裏側の、意外とあっさり見えるフラットな段差部分も、なんとなくでこういうデザインになったのではないかと思われるかもしれませんが、各部分で厚みなどをかなり圧縮しています。一方が厚くなったからもう一方は薄くしよう、みたいな妥協はせずに、とにかく全てが薄くなるよう自分たち自身の中で戦いながら作りました。

川崎氏
 私はだいぶ前からこういったスタイルの端末を研究開発していて、最初はヒンジがもっと大きなサイズでした。商品化する製品としてMEDIAS Wを開発するときに、端末の厚さがこれくらいだからヒンジ径はこれくらいであるべき、という風に、急にハードルが上がったんですけれど、その過程でいろいろなヒンジメーカーとやりとりしながらなんとか実現できました。

この画像ではヒンジの左下に見える突起部分が実際には他の部材と連結されており、強度を高めている

 ちなみに、このヒンジは2箇所あるネジだけでなく、突起の方も別の部材に固定して、3点支持みたいにしているんです。2点留めだと、ねじれるような動きが発生してヒンジにも筐体にも負荷がかかってしまうんですが、もう1点でも支持していることによって、引っ張られても折りたたみ部分が離れていかないようになっています。今回は2つあるヒンジの間隔が大きいこともあって、そういった現象が顕著になりがちでしたので、補強のポイントとして当初から取り入れました。

北原氏
 多様な使用スタイルを想定している製品ですので、ハードウェアの置く位置もいろいろな想定をしなければいけませんでした。センサーなど、バータイプのスマートフォンとは違った使い方になるところを、今までになかったようなシチュエーションを想定して設計に落とし込む必要もありました。

 また、製品が発表されたとき、2画面だから電池持ちが半分になりそう、という懸念もあったのではないかと想像しますが、実際にはそうではありません。他のスマートフォンと同等の電池持ちを実現するためにディスプレイ部分で増える電流について、デバイスなどをどう動かせば電流を下げてバッテリーを長持ちできるか、という事前の設計・検討が難しかったですね。

――ソフトウェアの方はいかがでしょう?

村上氏
 私は仕様開発を初めの頃からやっていました。一番最初の形がないような状態で、商品企画から“なんとなくこういうことをやりたい”というモヤッとしたものを聞きながら、具体的にどう実現するかをノートの切れ端を2つ折にして端末に見立てて、それを開閉しながら議論しました。それを実際に仕様書に書き起こして、社内レビューをかけて、それがひっくり返ってまた仕様書を書き直して……というのをいっぱい繰り返した思い出があります。

田中氏
 MEDIAS Wには動作として主に4つのモードがあります。1画面のみ表示するモードと、2つの画面に別々のものを同時に表示するモード、フルスクリーンモードと、それに加えてもう1つ特殊なモードがあって、内側に向けて自分撮りでカメラ撮影するときのモードです。これはソフトウェア的には他の3つと別のモードとなっていまして、Androidの仕組みを踏襲しつつ、4つのモードをソフトウェア的な処理で切り分けるのが難しかったですね。個別のアプリの作りに依存するところもありますし、その切り分けに非常に苦労しました。

北口氏
 実際に動かして評価してみると想定とは違うアプリの動きになっていることがあります。そうやって実際に動かして初めてわかるところや、修正が必要になるということが、開発上のポイントとなるところだったと思います。

 MEDIAS Wでは、Google Play Storeで公開されているメジャーなアプリについて事前にどのように動作するかチェックしていますが、製品を販売した後にもさらに想定していなかったような挙動が発生して、お客様からご指摘をいただくこともあるかもしれませんので、対応も考えていきたいと考えています。

――たとえばGoogleのプリインストールアプリのような重要なアプリで問題が発生してしまった場合、ソフトウェア更新などで対応されるのでしょうか。

北口氏
 1画面のままで使うという形で現象を回避できる場合がありますので、問題が発生した特定のアプリについてはそういった使い方をしてくださいと周知することは考えています。

――今後の予定、目標などがあれば教えていただけますか。

黒田氏
 SDKがないと2画面対応アプリを作れないものと誤解されることが多いんですが、一般的なAndroid SDKを使って解像度や画面切り替えに関わる部分についていくつかの箇所をケアするだけで、普通に画面を閉じたり開いたりして使える2画面対応アプリができあがります。今後はそういった点などを周知するための普及活動を地道にやっていきたいですね。

 また、購入していただいたユーザー様の声を受けて、今後の課題なり目標なり見えてくるものもある考えています。要望が多ければ今回搭載されていない機能なども検討課題になってくると思いますが、どちらにしろMEDIAS Wが売れることが大前提です(笑)。

 新しいカテゴリーの端末で次のスタンダードを作ろう、と思いながら進めており、我々としては奇をてらったものを出しているつもりはありませんので、次回へ向けて点ではなく線でつなげていきたいと考えています。まずは会社を挙げてMEDIAS Wに全力投球しているところですので、ぜひともよろしくお願いいたします。

――本日はありがとうございました。

ヒンジの開閉耐久試験の様子を公開

 今回のインタビューと同時に、NECカシオ本社敷地内にある実験棟にて、MEDIAS Wのヒンジの開閉耐久試験の様子などを見学させていただいた。

 アクリルケースに収められた専用装置を用いてMEDIAS Wをひたすら開閉し、1万回ごとに停止して手作業と目視でヒンジのトルク感をチェックするという内容だ。従来の折りたたみ型フィーチャーフォンの試験で用いられていた機材と仕組み上の大きな差はないが、MEDIAS Wの構造に合わせて180度開閉できるようにしていることと、実機が縦に長いことから試験機1台に実機1台という組み合わせになっている点が異なる。

MEDIAS Wのヒンジ性能を検証するための装置が並ぶ
耐久試験用の装置とともにアクリルケース内に収められたMEDIAS W
モーターから伸びる金属シャフトと実機が糸で連結され、引っ張る形でひたすら開閉の動作を繰り返す
実機と金属シャフトは糸で余裕をもたせて結ばれている。こうすることで端末がもともともっている自然な吸い込み感で開閉でき、想定外の無理な負荷が加わらないようになっている
耐久試験機のモーターを動作させるための制御装置
制御装置のディスプレイでは開閉回数とモーターの温度がリアルタイムに表示
比較できるように従来のフィーチャーフォン用の試験機も稼働させていた。端末が小さいため、1台の試験機内で3台並べて開閉させられる

日沼諭史