俺のケータイ of the Year

MEDIAS W N-05E

MEDIAS W N-05E

法林 岳之編

 2013年の携帯電話業界は、ひとつの節目を迎えた一年だったと言えそうだ。この数年でスマートフォンが一気に拡大し、国内の携帯電話市場は大きく様変わりしたが、スマートフォンの契約数は2013年9月で5000万を超えたと言われており、今まで以上に幅広い層へスマートフォンが普及しようとしている。

 市場の動向もかなりドラスティックなものがあった。NTTドコモは夏モデルでツートップ戦略を打ち出したかと思えば、9月にはついにアップルのiPhone販売に踏み切り、いよいよ3社がiPhoneを販売する状況を生み出した。アップルもiPhoneではじめてiPhone 5sとiPhone 5cの2機種をラインアップし、12月にはついにアップルストアを通じて、SIMフリー版iPhoneの販売にも踏み切っている。わずか数年前、NTTドコモがiPhoneを扱う可能性はほとんどなく、ましてやアップルが携帯電話事業者に遠慮せず、SIMフリー版を販売するなど、到底、想像できなかったことを考えれば、驚くべき変化だ。

 また、国内勢では非常に残念な話題が多かった。日本の携帯電話市場を切り開き、牽引してきた2つのメーカーが事実上、国内のスマートフォンから撤退したからだ。7月にはNECカシオがスマートフォンからの撤退、9月にはパナソニックが個人向けスマートフォンからの撤退をそれぞれ発表し、市場を驚かせた。この2社が撤退したことにより、「N」「CA」「P」という3つの人気ブランドが消えてしまったことになる。いずれもケータイ時代から、さまざまな楽しみや面白さを提案してきたブランドだけに、非常に残念な限りだ。将来的な復活(逆襲?)にも期待を込めつつ、この場を借りて、両社のスマートフォンに携わってきたすべてのみなさんに心から感謝の意を述べたい。

 さて、そんな状況を踏まえ、2013年の端末を振り返り、個人的に印象に残ったモノをピックアップしてみよう。まず、NTTドコモでは『one SONY』を象徴する端末となった「Xperia Z SO-02E」、三代目モデルで熟成の領域に達した「GALAXY Note 3 SC-01F」、『スマチェン!』をキーワードに、ケータイからの乗り換えユーザーにフォーカスした「ELUGA P P-03E」、IGZO搭載液晶の優れた省電力性能を活かした「AQUOS PHONE ZETA SH-01F」、原点からの出直しを謳い、『Re:Born』を果たした「ARROWS NX F-06E」などが挙げられる。

 auではHTCとのコラボレーションを昇華させた「INFOBAR A02 by iida」、HD対応のIGZO搭載液晶でスマートフォンでは過去に例のないロングライフを可能にした「AQUOS PHONE SERIE SHL22」、グローバルに強いメーカーとのコラボレーションで新しいオリジナルを目指した「isai LGL22」などが注目を集めた。

 ソフトバンクはモデル数こそ少ないものの、初のフルセグチューナー搭載を実現した「AQUOS PHONE Xx 206SH」、三辺狭額縁という圧倒的な迫力のディスプレイを可能にした「AQUOS PHONE Xx 302SH」、防水対応ながら、100gを切り、軽量スマートフォンと言う新しいジャンルを提案した「DIGNO R 202K」など、個性のハッキリしたモデルが眼を引いた。
 また、スマートフォン以外の製品にも少し視野を広げると、500gを切る軽さと7.5mmという薄さを実現した「iPad Air」、Androidタブレットの定番に近づいた「Nexus 7(2013)」、タブレットとノートPCの良さを合わせ持った「Surface Pro2」などにより、スマートフォンの影響を受け、流れを継承したジャンルも着実に形成されてきた印象だ。

 ただ、ここまで挙げてきた製品は、正直なところを書いてしまうと、『既定路線』の製品と言わざるを得ない。昨年までの積み上げから進化を遂げると、こういうものが登場するだろうという予想の領域を飛び出すことができていない。もちろん、売れ筋としては正しいのだろうが、スマートフォンが登場したばかりの頃の「イノベーション」や「驚き」が今ひとつ感じられないのだ。

 こうした状況を鑑みて、最終的に筆者が「俺のケータイ of the Year」として選んだのは、NTTドコモのNECカシオ製端末「MEDIAS W N-05E」だ。二枚のディスプレイを搭載し、NECの折りたたみを活かすことで、今までにまったくなかった新しいスマートフォンの方向性を模索したモデルだ。二画面をどう使うか、どう見せるか、どんなアドバンテージを打ち出せるかなど、さまざまな可能性を感じさせたモデルだった。今年2月に行なわれたMobile World Congress 2013では、そのユニークなコンセプトとメカニズムをひと目見ようと、世界中の業界関係者がNECブースを訪れ、人だかりが途切れなかったほどだ。前述のように、残念ながら、NECカシオはスマートフォンから撤退することになったが、その最終章において、「スマートフォンはもっといろんなチャレンジができる!」という可能性を示してくれた。日本のケータイ市場を切り開き、さまざまな驚きや感動を与え続けてきてくれたNECカシオの関係者に感謝の意を込め、『未完の名機』という言葉と共に、「MEDIAS W N-05E」に、2013年の「俺のケータイ of the Year」を贈りたい。

法林岳之