インタビュー
ドコモ担当者に聞く「ドコモSMTBネット銀行」が目指す”生活に溶け込む銀行”とは
2026年1月22日 06:00
携帯キャリア大手4社の中で唯一、グループ内に銀行を持たなかったNTTドコモが、2025年、住信SBIネット銀行の子会社化を実現した。
買収総額は約4200億円。2026年8月には「ドコモSMTBネット銀行」となり、ドコモ経済圏の中核となる銀行が誕生する。
2025年12月に開催された会見では、ドコモが銀行サービスを軸として、決済や証券など金融サービスの強化を目指すほか、将来的にドコモの各種サービスとの連携を進める構想が語られた。
まもなく「ドコモSMTBネット銀行」となる、現在の住信SBIネット銀行は、生成AIを活用した「NEOBANK ai」を開発中。さらには「インビジブルバンキング(Invisible Banking)」というコンセプトを掲げて、生活のなかに溶け込むことを目指すという。
ドコモでは、私たちの生活にどんな新たな価値をもたらそうとしているのか、キーパーソンのひとりである同社ウォレットサービス部長の田原務氏に聞いた。
キャンペーンの手応えとは
――2025年10月に連結子会社となった住信SBIネット銀行は、「d NEOBANK」というブランドになりました。キャンペーンも実施されましたが、その手応えは?
田原氏
キャンペーンは2025年12月末まで実施しました。ドコモのメディアやd NEOBANKのアプリなどを通じて周知を図りました。
その結果、新規口座の獲得数は、10月~12月の3カ月間で、前年比で約1.5倍となり、成果があったと考えています。
8月に、両社の本格的な協業を開始する予定です。第1弾のキャンペーンは終わりましたが、今後、次のキャンペーンもしっかりと展開して、認知度を上げたいです。
――2025年12月の会見で、新たな銀行名が発表されましたが、個人ユーザーには銀行名とブランド名、どちらがメインになりますか?
田原氏
「d NEOBANK」というサービスブランドをしっかりアピールしていきます。ロゴを示す際には、銀行名を必ず出す必要はありますが、ブランド名を伝えていきます。
ドコモが銀行を始める理由
――あらためてドコモにとっての銀行サービスとは、どういった意味があるのでしょうか。
田原氏
視点は2つあります。まず、ドコモのいろんなサービスを使われているお客様からの視点です。銀行は、生活にすごく密着しているサービスです。通信も生活に密着しており、ある意味、親和性が高い。
でも、通信サービスと親和性が高い銀行は、(これまでドコモには)なかった。でも、今回、ドコモグループに迎え入れることができて、これまでより深いドコモサービスとの連携を実現できるようになります。
少し前に「エンベデッド・ファイナンス」という言葉が広がりました。銀行の機能を、さまざまなサービスに組み込んでいくという考え方です。
ドコモのサービスの中にも銀行サービスを統合・融合させていくことで、お客様にとって使いやすいユーザーインターフェイスや、利用したくなるインセンティブ・おトクさをしっかり設計します。つまり、お得で使いやすい金融サービスを作っていきたい。
一方、事業者目線では、これまでドコモでは三菱UFJ銀行さんと「dスマートバンク」を展開していました。連携としては互いに送客し、手数料をお互い払い合ってるというモデルです。
ただ、事業の規模が大きく成長しない構造でもありました。また、深くドコモのサービスと連携させることも難しい状況でした。
住信SBIネット銀行がドコモグループに入ったことで、銀行自体、ドコモとのシナジーで拡大していけます。銀行事業の収益・利益を取り込める。
サービスも、フレキシブルにドコモのサービスと融合できるよう設計できます。シナジーも見込めますから、事業目線でも、金融事業の拡大において、銀行は非常に重要な機能なのかなというふうに思ってます。
「生活に溶け込む」銀行
――個人的には、銀行というサービスを意識することが減っていました。支払いはクレジットカードやコード決済になり、ATMを利用する機会も減りました。
田原氏
そうですよね。12月19日の説明会のなかでも、住信SBIネット銀行の円山法昭社長が「インビジブルバンキング(Invisible Banking)」を目指すと語っていました。
やっぱり銀行の機能がいろんな生活のいろんなサービスとか機能に溶け込んでいく。手法として、いわゆるBaaS(サービスとしての銀行、Banking as a Service)ですとか、ユーザーインターフェイスで融合するですとか。
お客さまが銀行を意識せずとも、その機能を利用できるわけです。為替、決済、融資といった機能です。
ドコモ自身もやっぱりフィンテックのこれまでの動きを見ていると、エンベデッド・ファイナンスが今後どんどん加速していくだろうと思っています。
5年後、10年後にはそういう世界が広がっているでしょう。銀行自体のプレゼンスが今後広がるというよりも、裏に隠れていくコンセプトは、ドコモも全く同じ世界観を考えているというところです。
一方で、「銀行だけが持ち得る機能」もあります。そのために今回、住信SBIネット銀行をグループに迎えたわけです。
ポイント還元にも好影響?
――事業者側の視点は、たとえば、グループ内の金銭のやり取りにも効果はありますか?
田原氏
たとえばドコモとNTT(持株)といった場面など、グループ間の決済に銀行の機能を活用するというよりも、まずはコンシューマー向けに事業を進めます。
一方で、グループ内でのシナジーでは、いわゆる“債権の流動化”みたいなところで、運用先として面白いのではないかと銀行と話をしているところです。
――サービスの設計がフレキシブルっていうのは、逆に言うと今まで銀行がなかった時のドコモと、現在と比べて、たとえばポイント還元の割合が変わる可能性もありますか。
田原氏
それは、はい、そうです。あとは、同じグループ内なので、商品を互いに融通し合うといったことはあるでしょう。
ドコモのサービスとどう繋がる?
――あらためて、銀行サービスと、ドコモのサービスとの深い連携や統合・融合のイメージを教えてください。
田原氏
ひとつは「NEOBANK ai」です。
今後、お客さまとデジタルサービスの接点は「AIエージェント」が担うという見方がありますよね。
たとえばAIエージェントが、一番お得なサイトで買い物したり、あるいは適切な金融商品に投資するですとか、そういった世界が現実的になってくる可能性があります。
すると銀行機能もやはり必要でしょう。銀行以外の金融サービスとして、たとえばローンなども必要になります。
銀行側のAIエージェントのようなものが今後出てくるだろう……というときに、その裏側でドコモ側とも連携させていくというのが一例になるでしょうか。
――念のための確認なんですが、ショッピングをする際には、dカードやd払いがありますし、投資信託を利用する際にはマネックス証券もある。銀行以外のサービスを現在、利用しているわけです。とはいえ、結局お金を動かす元として銀行が必要……ということですよね?
田原氏
そうですね、はい。
――でも、今は他社の銀行を多くの方が使っている。これを切り替えてドコモSMTBネット銀行へ切り替えてもらうことと、エンベデッド、あるいはインビジブルという形での銀行サービスというものを利用したくなる理由がまだちょっと腑に落ちていないところがあります。
田原氏
そういう意味では、ドコモSMTBネット銀行へ切り替えていただければ、より便利に、お得に使っていただけるという体験価値を提供できるようにしていきます。
たとえばd払いと銀行口座を直接連携して、決済がよりスムーズにできる仕組みですとか、お客様が銀行口座とマネックス証券を紐づけて、適切な保険商品や融資をおすすめするですとか。
繰り返しになりますが、お客様にとっての利便性を設計することがやりやすくなるんです。
銀行のハブにして、連携の設計、あるいはお客様の家計の流れの最適化になるような提案ということを実現させたいです。
――ありがとうございます。8月の段階ではどれぐらい具体的なものになりそうですか?
田原氏
8月ではですね、まずは銀行事業との一番のシナジーとして、ドコモのお客様とのクロスセルです。ドコモの携帯電話を使ってる方や、dカードを持たれてるお客さまに銀行口座を持っていただくとか。そのあたりをしっかり、8月には実現させたいと取り組んでいます。
住信SBIネット銀行には900万口座のご利用があります。そのなかでドコモ回線をお使いの方は1/3程度です。残りの3分の2は、他社回線をお使いです。
銀行サービスとして、住信SBIネット銀行はドコモ回線がない方でも、使いやすく便利です。それはひとつの強みです。
ドコモの会員基盤(dポイントを軸とした会員)の中に、ドコモ回線を持たれてない方もどんどん入ってきていただきたいとも思っています。
今後、銀行がそのフックの役割を果たしていくことになるのかなと思ってます。
たとえばdカードの特典は、今、ドコモ回線のお客さまをターゲットにした設計です。銀行関連の特典をいま、検討しているところですが、たとえば銀行をフックにするとなれば、ドコモ回線がなくともdカードやd払いとドコモSMTBネット銀行の口座をセットでお使いいただくと特典があるですとか。そういう取り組みを、8月に始めたいです。
料金プランも8月に
――料金プランとの連携といった点はいかがでしょうか。
田原氏
料金プランとのバンドルは、8月に向けて考えます。
――あ、今年の8月に。
田原氏
はい、あとは、ドコモのサービスを利用していただくと、住宅ローンの利率が少し安くなるといった取り組みも8月に向けて、今、用意しようとしています。
ドコモショップでも口座開設を
―― 一般的に銀行と言えば、各地に支店があり、何かあれば窓口に行く。一方で、住信SBIネット銀行はそういうものがありません。NTTの島田明社長も「余計なものがない」という表現をしていましたが、ドコモだからこそできるような、これまでと異なる銀行像を住信SBIネット銀行と一緒に作っていくのでしょうか。 田原氏 はい、新しい銀行を作りたい、新しい金融を作りたと思っています。どちらかというと、給与振込先というようなメイン口座は多くのお客さまはすでにお持ちです。 一方で、アンケート調査などを見ると、30歳以上の方は2口座目、3口座目を持つことに抵抗がない。そして20代の方は、銀行の支店や窓口を訪れることはなくアプリで完結させている。 ―― つまり、20代も、30代以上もドコモSMTBネット銀行はひとまず口座を作っていいと考えてもらえると。 田原氏 そうです。最初からメイン口座として利用いただけるような特典設計ですとか、提案の仕方を考えたいです。 ――ちなみにドコモショップでも、いわゆる銀行の窓口としてサービスを利用できるようになるのでしょうか。 田原氏 はい、ドコモショップでの取り組みはぜひ進めたいです。ただ、具体的な点については、SMTB(三井住友信託銀行)や金融庁と協議してるところです。 ただ、基本的にはドコモショップ全店舗で、お客さまが口座を開設できるような取り組みができないか、検討しています。 できればドコモ回線のお客さま皆さんに口座を持っていただきたいです。そのためのチャネルはできるだけ広く準備したいです。AIエージェント
――12月の説明会で、住信SBIネット銀行の株式について、ドコモ側の保有比率が減りました。また、プレゼンテーションも銀行側のほうが、より前向きの姿勢を強く打ち出していたという印象を受けました。
田原氏
「NEOBANK ai」は、住信SBIネット銀行さんが独自で開発されていて、タイミングもあったので、ご一緒しましょうという話になりました。
ただ、「一緒にやる」、つまり協業する背景には、銀行側の保有するデータだけのAIよりも、ドコモ側が持つ情報も加えて、もっと幅広い情報をもとにしたAIエージェントのほうが良いだろうと。
ベータテストが2月から始まります。その段階で、ドコモ側との連携はまだ実現していませんが、2027年8月以降、本格的な連携によってドコモのデータも組み合わせた「NEOBANK ai」を一緒に作っていきたいと話しています。
――AIエージェントの話で行くとドコモ自身も開発を表明していますが、NEOBANK aiとは別の筋ですよね。
田原氏
イメージとしては、ユーザーとやり取りする窓口になるAIエージェントが存在し、その背後で、専門領域へ特化したAIと連携するというものです。
逆に住信SBIネット銀行のお客さまにとっても、いきなりドコモのAIエージェントが出てきても、ちょっと驚かれるでしょう。銀行の利用においては、住信SBIネット銀行側のAIエージェントが対応する。で、お互いのAIが連携するという形を構築できればと考えています。
――8月には商号が「ドコモSMTBネット銀行」になり、お互いのユーザーを送客し合うとのことですが、それ以降のタイムラインはどういうイメージでしょうか。
田原氏
8月には新規口座や預金の獲得を、ドコモの顧客基盤とあわせてしっかり作っていきます。
お客さまの目線からすると、両社の連携によって、銀行と決済、あるいは銀行と回線との連携が非常にしやすくなったりですとか。このあたりは、今年8月に向けた話です。
その後は、BaaSやAIなど、住信SBIネット銀行が保有する先進的な基盤やプロダクトとのシナジーを世に出していきたいです。
BaaSですと、dポイント加盟店さんにBaaSご利用でのポイントや、融資、簡単資産運用といったサービスをまとめて提供できるソリューションをご用意するですとか。
記者会見の中では、住信SBIネット銀行の円山社長が他社が経済圏を作れるという「スマートライフプラットフォーム」に触れていました。
ドコモ側も、dポイントのアライアンスに取り組むチームと一緒に展開していくとか、(法人事業を手掛ける)NTTドコモビジネスの大手のお客さまを中心としたところにアプローチしていくとか、そういった取り組みを、2年目や3年目に向けてしっかりとやっていきたいです。
その先となると、先に触れた「インビジブル バンキング」の実現になるでしょうか。暮らしの中に銀行がそっと溶け込む、エンベデッドしていく取り組みを進めていきたいです。5年後ですとか、ちょっと未来にやっていきたいです。
――2025年に登場した料金プラン「ドコモ MAX」では、「ファンダム戦略」を掲げて、何かしらのファンになっているユーザーへアプローチしています。銀行サービスとも関わりは出てきそうですか?
田原氏
具体的なアイデアがあるわけではないんですが、野球ですと、あのチーム、サッカーですと別のチーム……と推しがいらっしゃる中で、お客さまにとってどう使い心地がよい状態にするのか、ちょっと考えないといけないですね。
――となると、まだ先の話になりますか。
田原氏
いえ、実際に話は始めています。IP(知的財産)をお持ちの企業さんと話し始めたりですとか。
ドコモが直接仲介はしてないんですけど、吉本興業さんと住信SBIネット銀行とで、BaaSとして「FANY BANK」が発表されています。ロイヤリティを高めるためにもBaaSの活用は、多くのニーズがあります。
いくつか今、商談に入っているところもありますし、ドコモ側も連携して進めたいです。
――ありがとうございました。









