インタビュー

家電や腕時計、スマホ決済の不正利用までカバーする理由、ドコモの「smartあんしん補償」誕生の背景を訊く

 NTTドコモは9月、新たな機器補償サービス「smartあんしん補償」を発表した。

 以前のケータイ補償サービスから大幅に補償内容が拡張され、スマートフォンのみならず自宅の電子機器やスマホ決済サービスの不正利用までもカバーするなど、かなり手厚い補償内容となっている。

 今回、サービス刷新に至った理由はなんなのか? NTTドコモ アフターマーケットビジネス部 戦略・企画担当 担当部長の和田真澄氏と同 主査の山田貴大氏に訊いた。

左= NTTドコモ 和田氏。右=同 山田氏

値下げに補償内容も手厚く?

――スマホに対する補償は変わらず値下げ、さらに携行品補償など考慮するとユーザーにとってはプラスの部分しかなさそうですね

和田氏
 スマートフォンの補償はこれまで、ハイエンド端末向けで1100円だったものを990円に値下げいたしました。さらにこれまではスマホになかったローエンド端末向けとして300円台の補償プランも出しておりまして、秋冬モデルの中にもいくつか対象機種があります。さらに、値下げしつつ、補償の範囲も広げました。

 一方でマイナスになったところは、あえて言うなら「エクスプレス配送」がなくなったところです。正直あまり(利用)件数もなかったので、今回のリニューアルのタイミングでは用意していません。ほとんどの領域において値段と補償範囲で新サービスのほうが、旧サービスを上回るということになっています。

――メリットのほうが圧倒的に勝るということですね。これまでの利用動向はどうですか?

和田氏
 ケータイ補償サービスは満足度も高く、大半のお客様に入っていただいています。それは今も昔もほとんど変わっていないというのが正直なところです。リフレッシュ品の申請の数については減ってきています。ここ2~3年のコロナ禍で外出機会が減っていることで、外出時に落下させたり失くしたりということが減っているのでしょう。

 裏を返せば、紛失・破損の機会が減ると、我々のリフレッシュ品を翌日に届けるといったユーザー体験を経験する機会が減ってしまいます。そこで「このサービスはもういらないんじゃ?」と思われる前にサービスをブラッシュアップして値段を下げ、自宅の中の品が壊れたときのために補償範囲を広げたという考え方です。

――先手を打っての行動とはすごいですね。こういった改定は利用率低下など顕著な動きが出てからというイメージですが、どうして先回りした動きになったんでしょうか?

和田氏
 ケータイ補償サービスにかぎらず、各サービスで常に「今のサービスのままでいいのか?」といったところをユーザーアンケートの満足度や不満点から、考えをすくい上げてブラッシュアップするという営みを行っています。

 外出も減り「こういう(補償)サービスに入っておくべきなのか」という意見は多くはありませんが(ユーザーの)声として上がってきていました。具体的な契約数は申し上げられませんが、全体として変化は大きくないものの、兆しというか予兆のようなものは感じ取っていました。

――なるほど、しかし外出機会が増えるに従ってまた需要が増えていくとも思えますが、そのあたりはどう捉えていらっしゃるのでしょうか?

和田氏
 外出自粛や緊急事態宣言のときに比べると外出はしているものの、コロナ前と比べるとリモートワークの定着など、外出機会は以前と比べるとずいぶん減るだろうと考えています。しかしおっしゃるとおり、ここ最近は2021年などと比較すれば外出機会が増えているということは認識しています。

――「いつでもカエドキプログラム」の特典利用時に万一端末が破損していた場合も、smartあんしん補償に加入していれば2000円の支払いで済むんですね。こういうときには、ユーザーに別途手続きは発生しないのでしょうか?

山田氏
 返却後にデバイスの内部的な故障が発覚する場合もあります。その際に「故障時利用料」ということでお支払いいただくという流れになりますので、お客様に手間が発生することはありません。

カスタマーファーストなサービスにしたい

――特典を増やすとドコモとしての保険料支払い機会が増えてしまいますが……

和田氏
 ユーザーに「何を提供するともっともお得か」というオプションはいくつかあります。料金を下げることもそうですし、特典を加えるやり方もあります。補償を広げるとコストが増えるというのはおっしゃるとおりです。

 ですので、事前にユーザーアンケートで単に値下げするか、追加の補償をつけるかをABテストのようにいろいろなパターンでユーザーにアンケートに協力してもらい、もっともうれしいと思ってもらえてかつ、ビジネスとしても成り立つように細かく積み上げていった結果、今回のサービスに仕上がったということです。

――携帯電話の補償内容は基本的にこれまでと同じですね。内容を変えようみたいなお話はなかったんでしょうか?

和田氏
 今後検討していきたいという部分では、現在は交換端末が2日内に届くというのが原則です。しかし「今すぐに直したい」というニーズもたくさんあります。今、一部の店舗かつデバイス限定ですが、ドコモショップに行けばその場で直せるという修理の拡大をしています。

 その費用もこの補償に入っていれば、安くなります。すぐに直したいというニーズに応えて、もっと対応店舗を広げるという考え方はあると思っています。メーカーさんとの調整もありますので、簡単にはいきませんが、カスタマーファーストな修理の拡大をしていきたいと思います。

――駅で見かける靴の修理屋さんのように画面割れをその場で修理、なんて面白そうですね。ところでSIMフリーや他社販売の端末への対応はいかがでしょうか?

和田氏
 ここ1年での変化をご説明しますと、2021年の9月にドコモを解約して他キャリアに移行してもケータイ補償サービスを継続できるようにしました。これは出口ですね。今度は入り口として、2022年1月には他キャリアで販売する端末ユーザーが、ドコモ回線を利用する場合も同じく補償サービスにご加入いただけるようになりました。

 加入数としては、端末購入と同時のご加入者よりは少ないですが、一定のユーザーには出口も入り口も入ってもらっています。


――機種ごとの料金設定について教えてください。

和田氏
 Android採用のフィーチャーフォンは従来363円でした。新サービスでは330円となり、廉価機種のスマートフォンにも同じ料金が適用されます。基本的にはドコモが仕入れる価格で(補償の)値段を決めています。

――昨今、円安や物価高騰が叫ばれています。今後、外的要因でも補償サービスの値段も変わるのでしょうか?

和田氏
 可能性としてはあります。しかしできればサービス価格に転嫁したくないというのが我々の想いです。今回も円安を背景とした仕入れ価格となっていますが、それでも値下げを実現できていますので、注目してほしいポイントでもあります。

――1年後にはひょっとしたら値上げしてしまうかも? とも邪推してしまいましたが……

和田氏
 可能性がゼロとは断言できません。しかし、なるべくユーザーへの転嫁はしないように企業努力で頑張っていきたいと思っています。

なぜ家電や腕時計まで補償?

――あらためて、今回の補償対象である「イエナカ機器補償」「携行品補償mini」「不正利用」に決まった背景を教えてください

和田氏
 下敷きとして、ユーザーアンケートを取ったことがあります。もっともユーザーが魅力的だと思ったものと収支のバランスを考えてこの3つとなりました。私自身もそうですが、自宅で過ごす時間が増えました。つまり、家の中にあるものを壊すリスクが高まったというふうに捉えています。今の時代に合っているのかなと思っています。

 決済の不正利用については、なるべく人とダイレクトに接しないようにということでキャッシュレスを推進していくなかで「詐欺にあうんじゃないか」といった不安を解消するという意味で、こちらも今の時代にあった補償だと思います。アンケートから「こういう補償があると安心できる」といった評価をいただいたということもあります。

山田氏
 イエナカ機器補償と不正決済については、「付帯保険」という枠組みを使って提供しています。イメージとしてはクレジットカードにも旅行保険がついていますが、それを参考にしたかたちで携帯電話と親和性が高い2つを提供しています。

 人は携帯電話だけでなく、カバンや腕時計なども一緒に持ち歩いていて「なくすときは一緒に失くす、トラブルにあうときは一緒だよね」ということで携行品も補償をつけたほうがユーザーに喜ばれるのかなと。実際にユーザーアンケートでも 好評いただいていました。

 ただし、(スマートウォッチではない)普通の腕時計などは、直接携帯電話につながるわけではないので、無料の特典ということで個別に申し込むかたちにしました。クレジットカードでも申し込むと後日「がん保険無料申込み」のような案内が来ますが、それと同じイメージです。

――スマホ決済の不正利用については、すでに各サービスで補償の仕組みがありますが、あえてなぜ今回の新サービスに含められているのでしょうか?

山田氏
 決済サービスの不正利用補償は、全ユーザーに使われるということはおそらくないと考えています。大手の各決済事業者は、補償金額が無制限であることが多いです。しかし一部では補償されるのは一定の金額までとされていることもあり、そうしたサービスをご利用のユーザーは不安に思われることもあるのではないかと思います。

 また、補償期間についても基本的に大手事業者であれば60日~90日であることが多いのです。スマホ決済であれば、オートチャージを普段から使っていて不正利用に気づくことが遅れる場合があります。今回のサービスでは365日間補償しますので、ここまでの期間があれば、ほとんどのユーザーをカバーできると思います。

 スマホの操作に不慣れな層が一番、不正利用に不安を感じてスマホ決済を使えないことが多いというのが、調査結果からもわかっています。そういった方々にも、ドコモの決済サービスだけではなく、すべての事業者様の提供するものを安心して使っていただきたい、というコンセプトで提供しています。

――補償額はパソコンなら7万円まで、決済不正利用なら100万円までということですが、額面はどういう経緯で決まったんでしょうか?

和田氏
 「イエナカ機器補償」について言うと、我々はこのサービスとは別に「デジタル機器補償サービス」というものを展開しています。こちらは月額550円、パックで入ると363円というものですが、smartあんしん機器補償ではこちらを無料で利用できるということでお得な特典に仕上がっていると思っています。

 補償上限額については、量販店さんの補償と比べるのが一般的かもしれません。

――今回のサービスには自信はお持ちのようですね

和田氏
 330円~990円のプランの中で、スマホ以外にもパソコン最大7万円の補償があるということなので、自信を持ったプライシングのつもりです。手前味噌ですが「値段も旧サービスと変わらないのにイエナカ(補償)もある」という驚きの声ももらっています。

山田氏
 今回の新サービスでは、制度設計をするにあたり、パートナーである東京海上日動さんとどこまでの上限を設定すればいいのかなど話をしながら設計しましたので、ほとんどのユーザーが満足できるであろうと自信をもって提供させていただいています。

 スマホ決済の不正利用補償については、スマホ決済で貴金属など数百万円のものをQRコード決済などで購入するというのは、レアケースだろうということで100万円までの補償であれば、日常のお買い物や家電を買ったという場合でも大多数のユーザーをカバーできるだろうというところで設定しました。

 また「携行品補償mini」については、品物に限らずすべて1万円までということになります。おそらく1万円では足りないなとは思うのですが、こちらを使ってもらって価値を実感してもらうことで、我々の提供するほかのサービスにも興味を持ってもらえれば申込いただければというかたちです。ですので、携行品補償miniはお試しのようなかたちで少々毛色が違うということがあります。

――だからこその「ミニ」という名前なんですね。便利さを実感できれば「持ち物保険」へ、ということでしょうか?

山田氏
 そのとおりです。

不正利用への対策、手続きオンライン化も検討

――だいぶ手厚い補償と感じました。一方で悪用が怖いとも思うんですがそういった対策への考え方をお聞かせください

和田氏
 スマートフォンもかなり高価格になっていますから、不正利用(対策)はサービス提供のうえで非常に重要なポイントです。すり抜けられる危険性もあり、具体的には申し上げられませんが、対策はしっかりしています。

 仮に不正が多発してコストが上がり、赤字になってしまえばサービス料金を値上げせざるを得ません。善良なユーザーに転嫁されてしまうというかたちになってしまうので、そうならないよう不正利用への対策はしっかりやっていきます。

 しかし、怪しいものをどんどん不正利用と認定してしまえば、善良なユーザーまで弾かれてしまうかもしれません。満足度が下がってしまうことにもつながるので、不正利用(対策)とお客様満足度をどうバランスをとるかコントロールするのがミソです。

――具体的な対策は難しいかと思いますが……。どんな対策をしているのかふんわり教えていただけませんか?

和田氏
 人の目で見極める部分もあり、ビッグデータ解析によるところもあり、両者の合わせ技といった感じです。ドコモはスマートフォンユーザー数ではトップですから、ビッグデータの量という意味では優位と言えるでしょう。

――不正利用などの被害にあった際の手続きは電話なんですね。しかし、コールセンターにつながらないといったこともあると思います。オンライン化は検討されていないのでしょうか?

山田氏
 おっしゃるとおりで、利便性を考えるとオンラインでの受付は目指すべきところだと思っています。まだ詳しくはお伝えできませんが、オンライン対応は検討を進めている状況です。準備ができれば提供できるかとは思っていますが、どのタイミングで提供できるかは検討中です。

――オンライン対応が楽しみですね。本日はありがとうございました。