インタビュー

スマート家電「+Style」近藤氏に聞く、21年の市場動向と22年の展望

 IoT(Internet of Things=モノのインターネット化)により、私たちの生活は日々便利になりつつある。アプリと連動する照明や、日の出の時間に合わせて開くカーテンなど、「スマート家電」「ホームIoT」と呼ばれる商品の普及も進む。

 2021年は、スマート家電業界にとってどのような1年だったのか? そして今後の展望は――?

 今回は、スマート家電を手掛ける「+Style(プラススタイル)」を運営するBBソフトサービスの取締役執行役員 近藤正充氏に、インタビューを実施した。

近藤氏

この1年を振り返る

――2021年を振り返って、スマート家電やホームIoT商品に大きな動きはありましたか?

近藤氏
 +Styleが5周年を迎えた2021年は、市場が成長しつつある印象を強く持った1年でした。売上も2020年と比べて2桁成長を遂げていますし、国内外のメーカーの参入がこれまで以上にあったと思います。

 参入されるメーカーには、LED電球やプラグ、赤外線リモコンなど「スマートホーム」関連のベーシック商品か、家電そのものをスマート化して「スマート家電」を販売するかの2通りがあります。

 まず今年は、「スマートホーム」関連の商品を提供するメーカーがどっと増えました。ただこの分野は海外メーカー、特に中国のメーカーの参入やラインアップ強化が目立っていました。

 Amazon.co.jpで「スマートホーム」「スマート電球」などで商品を検索してもらうとわかりますが、商品の点数は多くあるものの、そのほとんどが中国メーカーです。ここに対して、我々以外の日本メーカーにもっと進出してもらいたいと思っています。

――なるほど。「スマート家電」に関してはどうでしょう。

近藤氏
 「スマート家電」では、機能を自分好みにカスタマイズできる「マイスペック」という商品をパナソニックさんが出してきました。買いやすいスマート家電としては、シャープさんに次ぐ大手の参入です。

 また、パナソニックさんは、サブスクリプションサービスとハードウェアをセットにした商品群「foodable」も打ち出してきました。

 現時点ではスマート家電とのセット商品ではありませんが、アプリを持つスマート家電と各種サービスとのセット商品は、非常に相性のいい組み合わせだと思っています。今後、この動きは加速していくと見ています。

――+Styleにとってはどのような1年になりましたか。

近藤氏
 「スマートホーム」「スマート家電」のどちらもラインアップする+Styleとしては、商品ラインアップの強化に集中した1年でした。カーテンの開閉がスマホでできる「スマートカーテン」や、バッテリー搭載の「スマート扇風機」を登場させました。

 また、カメラのラインアップを一新。レンズを動かして好きな場所が見られる「+Style ホームカメラ」、防水+ソーラーパネル付属の「+Style セキュリティカメラ」も販売開始しています。

 現在販売中の商品だけでも22商品あり、そのすべてが直接Wi-Fiにつながってスマート化されています。このラインアップの多さが+Styleの強みですので、今後も活かしていきたいと考えています。

――自社商品や競合他社の販売状況を見て、2021年の潮流の変化などはありましたか?

近藤氏
 +Styleの自社商品はどちらかというと「実用的」な商品が多いのですが、今年は「エンターテイメントとしても楽しめる」商品がよく売れたと思います。

 +Styleでも販売し、昨年後半から売れ行き好調のプロジェクター付きシーリングライト「popIn Aladdin 2」や、同じくプロジェクターのXGIMI社の商品、スマート望遠鏡の「eVscope」なども想像以上の販売数でした。コロナ禍でおうち時間が増えたことによる影響なのかもしれません。

スマートホーム規格「Matter」など

――アマゾンやグーグル、アップルが主導するスマートホーム規格「Matter」が2021年5月、正式に発表されました。この規格に対する考え方を聞かせてください。

近藤氏
 「Matter」には非常に期待しています。特にスマート商品の課題として挙げられる「接続設定の難しさ」に関しては、Wi-Fiなどのいろいろな通信規格や設定方法があることが、その一因でもあると思っています。

 統一規格によって設定のハードルが下がってくれるのであれば、それは市場にとって非常に良いことだと思います。

 メジャーな方々が参加しているのできれいにまとまるかどうかはわかりませんが、「Matter」の情報は常に入ってくる状態にしていますし、動向は今後も注視しています。

――確かに、「興味はあるけどハードルが高い」と考える人も多そうです。

近藤氏
 接続設定の簡素化という施策としては、我々はAmazonのWi-Fi簡単設定(技術名称:FFS、Frustration-Free Setup)に対応した商品をいくつか出しています。

 Amazon Echoをお持ちで、Amazonで対応商品を購入いただければ、Amazon Echoに話しかけるだけで設定できるという魔法のような機能です。現時点で接続設定が苦手な方は、こちらの対応商品を選んでいただければと思います。

近藤氏による「おすすめ商品3選」

――自社他社を問わず、スマート家電やIoT商品で気になったものを教えてください。

近藤氏
 今年、自分が実際に自腹で購入した商品をご紹介します。

 毎日使っていてQOLが爆上がりした商品は、弊社の「スマートカーテン」です。寝室のカーテンに取り付けて、毎日の日の出時間に自動でカーテンが開くように設定しています。

 これまでは目覚まし時計の騒音で起きていたのですが、カーテンが開くことによる「日の光」で起きることになり、目覚めもスッキリです。在宅勤務だと自堕落になってしまいがちな生活も、これで解決できます。

 また、この時期は気になる乾燥ですが、私自身乾燥がとても苦手で、冬場はいつもカサついています。そのため、室内を一定の湿度に保っておきたいという気持ちがあります。

 これまでいくつもの加湿器を使ってきたのですが、今年買ったSmartmiの「スマート加湿器2」は、コンパクトながら大容量。

 スマホでオン・オフできるだけでなく、湿度が「40%以下になったらオン」「60%以上になったらオフ」という設定が可能なところも便利です。これにより自宅はいつも潤いを保てています。

 最後は、まだスマート化されていませんが、スマート化されたらもっと便利に使えそうだと思っている商品です。

 私は末端冷え性でして、寒くなると床暖房が欠かせません。ですが、床暖房を長時間オンにしていると、湿度や電気料金が気になります。

 そこで導入したのが、サンコー「USBあったかスリッパ」。スリッパの中にヒーターが搭載されている商品で、常に暖かい状態にしてくれるので冷え知らずです。

 さらに私は、モバイルバッテリーを両足スリッパ内に入れて「ケーブルレス」で使っています。これにより電源コードを気にせず家中を動き回れるのです。欲を言えば、スリッパ内温度の“見える化”と、スマホで温度設定ができるといいな、と思っています。

海外マーケットと日本の違いなど

――日本未発売の海外製品で、目を引かれたものはありましたか?

近藤氏
 2021年のCESで発表されたMOENの「スマート蛇口」です。いわゆる水が出てくる“蛇口”なのですが、「温度」と「量」がスマートになっているのです。

 つまり、「80℃のお湯」を「2カップ分」出して、という指示をすることで、蛇口から指定された分量のお湯が出てきます。スマートスピーカーにも対応していているので、声で指示することも可能です。

 料理をする人ならわかっていただけるかと思いますが、これが非常に便利なのです。しかも量が指定できるので、節水にもなりそう。

 お風呂のシャワーなども、使っている人によって自動で温度が変わってくれるといいなと考えていて、給湯器周りはまだまだイノベーションが起きると思います。

――自動で温度を調整してくれるシャワーは、確かに便利だと思います。そのほかの分野はいかがでしょうか。

近藤氏
 大型家電のスマート化にも期待しています。韓国のサムスンやLGなどは、冷蔵庫を自宅のハブにしてドアに情報ウィンドウを取り付けるコンセプトを打ち出し、実際に商品も販売しています。

 買い物に行って帰ってきたら同じものが冷蔵庫にあった、ということは良くあると思います。さらに言えば、冷蔵庫の中をのぞいて献立を考えるのが面倒なこともあります。

 そういったことが解決されると、考える時間の短縮や食品ロスにもつながるのではないでしょうか。

 毎日使うものをスマート化することでその利便性が高くなり、ほかの商品のスマート化にも波及するのではないかということを常々考えています。日本でも、多くの家電製品がスマート化していってくれることを期待しています。

――海外と日本の比較で、ホームIoTやスマート家電の傾向の違いはありますか?

近藤氏
 海外では、ホームカメラやセンサーといったものからスタートし、小型の家電、大型の家電という流れで市場が広がってきています。日本でも同じような傾向だと思いますが、まだ小型の家電でのスマート化の動きがあまり進んでいない印象です。

 特に海外との違いは、我々のような新興メーカーや大手はスマート化を推進しているものの、中堅メーカーの方々が、まったくと言っていいほどスマート化を進めていないことです。

 そこまでの余裕がないのかもしれませんが、中堅メーカーの商品がスマート化されてくると、もっと日本も市場が活性化してくると思います。

 +Styleではこれまで培ってきたノウハウで、中堅メーカーさんのスマート化推進のお手伝いもできると考えています。

――「海外と比較して日本はスマート化が遅れている」というご指摘ですが、2021年の日本の状況は変化したのでしょうか。

近藤氏
 まだまだ遅れています。3年ほど前に「5年は遅れている」という話をさせていただいたことがありますが、その差はまだ埋まっていないのではないかと思うくらいです。

 ただ、停滞しているわけではなく着実に歩みは進めているので、市場は広がってきていると思います。

 10年以上前に登場したLED電球でさえ、まだ市場の半分も取れていない現状を考えると、日本でスマートホームが普及するのはもう少し時間がかかるのでは、と思います。

 ただ、我々はそれを1年でも1日でも1秒でも早くするために、普及活動は進めていきたいと思っています。

今後の展望について

――最後に、2022年の展望をお聞かせください。

近藤氏
 スマート家電、スマートホームの商品を展開する国内メーカーとしては圧倒的No.1のラインアップを誇る+Styleですが、今年もさらに商品の点数を増やしていきたいと考えています。

 「スマート化」することで便利になる商品はまだまだ多いと考えていますので、そのうえで「機器連携」の良さをもっと普及させていけたらと思っています。

――「機器連携」とはどのようなことでしょうか。

近藤氏
 個々の商品だけでも、「スマホで操作可能」という便利さがありますが、2つ以上の商品を連携させることでさらに便利になるということを、もっとアピールしていきたいです。

 また、最近では法人向けの導入も進めています。今後は家を「買ったら」「借りたら」スマートホームだった、という状況があちこちで展開されていくと思います。その中で+Style商品の導入も進んでいます。

 これまで以上にタッチポイントを増やしてさらに多くの方々に知ってもらい、便利に楽しく使っていただけたらと思っています。今後も+Styleにご注目いただきたいです。

――ありがとうございました。