インタビュー

「OCN モバイル ONE」木藤氏インタビュー「3Gユーザーを救う、“攻めの”エコノミーMVNO」

「OCN モバイル ONE」プロデューサーの木藤 暢俊氏

 2020年末の大手キャリアの新プラン発表を皮切りに、MNO4社にとどまらずMVNO各社においても料金改定やサービス拡充の動きが広まった。

 ドコモ回線のMVNOサービス「OCN モバイル ONE」もその一つで、2021年3月に1GB月額770円~利用できる新料金プランや、10月にはドコモショップで契約できる「ドコモのエコノミーMVNO」に参加し、データ容量0.5GB+最大10分相当の無料通話で月額550円のコースを提供開始した。

 今回は、「OCN モバイル ONE」プロデューサーの木藤 暢俊氏に、同サービスの近況や「ドコモのエコノミーMVNO」に関する話を聞いた。

プレフィックス番号自動付与が大きなポイント

3月に発表された料金プラン

――今年春に「1GB770円~」の新料金プランに改定されましたが、手応えはいかがでしょうか?

木藤氏
 春の新料金プランでは、「OCN モバイル ONE」の10GB以下のコース料金を、大幅に値下げさせていただきました。また、機能面ではプレフィックス番号の自動付与などに取り組みました。

 料金を低廉化したということが一つ、プレフィックス番号の自動付与でお客様の利便性が向上しました。これまでOCNでんわでかけ放題や30秒10円の通話料金で提供してきましたが、アプリからかけないとOCNでんわの料金が適用されないため、お客様から「めんどくさいね」といった声が聞かれました。今回の取り組みで、その声に応えられたと思ってますので、アプリなしでかけ放題を実現できたことは、4月以降「かけ放題を付けるお客様の比率が増えた」という形で手応えを感じています。

※編集部注

 MVNO事業者の多くは、発信先の電話番号の前にプレフィックス番号を付加することによって、通話料金を安くする通話サービスを提供している。

 端末標準の電話アプリでそのまま発信すると、これまでは通常の通話料金がかかってしまうが、「プレフィックス番号自動付与機能」が導入されると、110番などの特番や対象外通話サービスなどを除き、自動的にMVNOのプレフィックス型通話サービス経由の通話となり、料金を安く抑えられる。

 「OCN モバイル ONE」のかけ放題オプションも、プレフィックス型の通話サービスだが、自動付与機能で通常のかけ方でかけ放題が提供されている。

――4月というと、MVNO他社に先駆けてプレフィックス番号の自動付与を実現されたと思いますが、あのタイミングで対応されたところに驚きました。

木藤氏
 NTTコミュニケーションズとしてもともとプレフィックスの基盤を持っていることや、「OCN モバイル ONE」はドコモとだけ接続しているため、採用しやすかったのかなと思います。

 他社さんだと第三者の企業にお願いするケースや、複数のキャリア回線と接続しているサービスがあると思います。弊社のように、1つのキャリア回線と接続し、プレフィックス番号自動付与を含めた自社設備でサービスを提供している会社は、あまりないと思います。

 契約者皆さんが同じ条件でプレフィックス番号自動付与を実現できているので、店頭でも説明しやすいと聞いています。(編集部注:マルチキャリアを取り扱うMVNOでは、一部回線によってプレフィックス番号自動付与の有無や料金が異なることがある)

――早期にサービスを提供したのは、総務省の会合など影響したのでしょうか?

木藤氏
 シンプルなかけ放題を実現したい想いがありました。

 「OCN モバイル ONE」では、完全かけ放題の前段階で「かけ放題ダブル」というものを提供しておりまして、その中に上位3人の電話番号にかけ放題とそれ以外の10分以内のかけ放題というものを提供していました。

 多くのケースで実質無制限のかけ放題となるのですが、お客様からわかりづらいという声がありましたし、2020年に他社さんが完全かけ放題込みの月額料金のサービスを開始されたことをきっかけに今回のサービスを考えました。

 スマートフォンデビューする方などに訴求したいといった時に、「わかりやすいかけ放題」サービスを提供するべきだと思いました。その中でプレフィックス番号自動付与のお話が出てきたので、ぜひ早く採用したいという思いで動きました。

――導入のコストを考えると、ある程度かけ放題オプションを契約してもらわないと回収できないと思われますが、ユーザーに本当に使ってもらえるかといった話はなかったのでしょうか?

木藤氏
 これまでの「かけ放題ダブル」は、弊社のラインアップ含めしっかりと調べられて、自分にあったものを比較検討いただけるお客様に適したものだと思います。ただ、これからスマートフォンデビューするようなお客様が想定されている「かけ放題」は、やっぱり大手キャリア等で提供されている「完全かけ放題」だと思います。そういったお客様の受け皿となるものを用意しておけば、今後これまでリーチできなかったお客様へアプローチしていくときにも武器になると思います。

――新プランやプレフィックス番号自動付与を含んだ完全かけ放題など、料金も安く攻めた内容だったと思います。今回の新プランの考え方や経緯など教えてください。

木藤氏
 他社さんの料金プランなどを見ながら、まずは(サービス提供に関わる)コストが削減できた分を、お客様に還元したいという想いから、安値水準になるよう価格を設定させていただきました。

――業界では、MVNOに限らず「1GBまで無料の楽天モバイル」やそれに対抗する形で「基本料無料のKDDI『povo2.0』」、ソフトバンクの「LINEMOミニプラン」などが登場してきました。これらMNOの新料金プランについて、「OCN モバイル ONE」の料金プランについて、どのように見られていますか?

木藤氏
 大手キャリアは、大容量を結構安くされていると思います。これを受けて、「OCNモバイルONE」では、データ容量10GB以下を攻めていかざるを得ないのではと感じています。

 そのため、20GB以上のコースは新規での取り扱いを終了しました。

 10GB以下のプランで安価な価格設定と特色を出していければと思います。

 4月以降は、「OCN モバイル ONE」としてやはり「プレフィックス番号自動付与」が響いた部分ではないかなと思います。かけ放題オプションを3つ用意するだけでなく、専用アプリでの発信などをしなくても、普通にストレスなくかけ放題になりますので、そこが他社と差別化されて、多くのお客様に選ばれたのではないかと感じています。

――4月から現在までもその勢いは続いていますか?

木藤氏
 4月は新料金プランの影響で特に端末と回線のセット販売に関しては、多くのお客様にお待たせしてご迷惑をおかけしてしまいましたが、多くのお申し込みをいただきました。5月以降も、2020年と比べるとお客様の純増幅として大きく増えてきております。

木藤氏

――今回の新プランでは、データ容量の区切りとして、1GB、3GB、6GB、10GBを用意されていますが、この区切り方の理由を教えてください。

木藤氏
 2018年の料金改定の際の区切りをそのまま持ってきた形です。

 実際2018年の改定時には、お客様が実際にどれくらい使われているか分析させていただきつつ、他社さんのラインアップなどを参考に、設定しました。

 今回の改定でこの区切りを変えなかった大きな理由として、「既存のお客様の利便性の向上」があります。

 新プランを従来のプランと別にして、既存ユーザーさんに移っていただく方法もありますが、新たに手続きしていただくよりも、(既存プランをそのまま新プランに改定する方が)既存のお客様を大事にできるという部分があったので、そのまま値下げする形にしました。

――既存ユーザーを大事にするという大きな方向性は、料金改定の最初の段階から定まっていたのでしょうか?

木藤氏
 従来のコースを値下げする方法だと、既存のお客様がストレスなく使い続けられ、恩恵も得られるようにしたいという想いがあります。既存のコースをさらにリニューアルすることで、新規のお客様にも選んでいただけると考え、トータルで考えると今回の方法がよいと判断しました。

――プラン改定後、ユーザー層に変化はありましたか?

木藤氏
 お客様の年齢層に顕著な変化はありませんでした。

 ただ、今までよりもかけ放題オプションを選んでいただけるお客様が、相対的に増えたと感じました。新規のお客様も既存のお客様も、どちらも増えてきたところが大きなポイントです。

 事前の想定以上に、選ばれるお客様が増えた印象です。

――かけ放題ユーザーが増えた要因を、どのように分析されていますか?

木藤氏
 やはり、4月以降のプレフィックス番号自動付与の影響が大きいのではと思います。既存のお客様の方でも、たとえば「10分かけ放題」で超過していたお客様が時間を気にせず使える「完全かけ放題」を選ばれたりするケースがあると思います。

 また、今回のかけ放題のオプション変更について、当月分からさかのぼって変更できるようになりました。つまり、今月お話が弾んでしまったお客様が、後出しじゃんけんでかけ放題オプションを切り替えられるようになったので、お客様としてもより便利に利用できるようになりました。

3Gからの移行ユーザーを救う「0.5GBプラン」

木藤氏

――続いて、エコノミーMVNOの料金プランについてお伺いします。まず、今回発表された「データ容量0.5GB、10分間の無料通話で550円」というプランについて、プラン設定の経緯を教えてください。1GBでも十分手を出しやすい価格ではないかと思いますが……

「ドコモのエコノミーMVNO」の料金プラン

木藤氏
 「OCN モバイル ONE」の料金プランでは、スマートフォンを少しずつ使い始めてこられているお客様が1GBを選択されてると思います。0.5GBというデータ容量は、どちらかというと基本は音声メインで利用される方で、これからスマートフォンデビューするにあたり「少しだけLINEを使われる」とか、そういったお客様に向けて設定したプランとなります。

 また、たとえば今フィーチャーフォンを使用されている方で、月1000円程度である程度無料通話がついたプランで利用されている方がいらっしゃると思うので、ここからスマートフォンに乗り換えていただくにあたり、ある程度アグレッシブな料金を付けないと厳しいかなという部分がありました。

――今回のプラン設定にあたり、ドコモ側からアドバイスや情報提供のようなものはありましたか?

木藤氏
 ドコモとエコノミーMVNO参画に向けた打合せをする中で、今後3Gの携帯電話から切り替えるお客様が必ずたくさんやってくるだろうと感じる部分があり、そのユーザーをターゲットとすると、単純にデータ容量1GBだけでは訴求力に欠けるという判断となりました。

 そこで、データ容量を0.5GBにしたうえで、フィーチャーフォンと同じ使い勝手に近づけられるよう最大10分相当の無料通話をつけて550円というギリギリを攻めたプランとなりました。

 我々もこれまで「スマートフォンに移ると、使い方が変わって使用データ容量が増えるんじゃないか」というこれまでの考え方にとらわれていて、0.5GBや1GBでは足りないんじゃないかとつい考えてしまうところではありますが、今まで通り使いたいけど(3Gの停波で)使えなくなる人をどう救うかということで、社会的意義のある料金プランだと思います。

 先述したとおり、データ容量20GBのゾーンでは勝負ができないということで、10GB以下で勝負をしよう。そうなったとき、すでに低容量のプランではある程度リテラシーが高いお客様の奪い合い状態となっていますので、あと新規に獲得できる層は「3G携帯電話から移行するお客様」しかいないということになりました。

 今回、「ドコモのエコノミーMVNO」に参加するにあたり、「全国的なリアルチャネル」を持つことができ、我々としては初めてそこのお客様を狙える状態になれました。

――今までリーチできなかったユーザー層をうまく取り込めたと言うことですね。

木藤氏
 最大10分相当の無料通話を付けるか否かは、最後のギリギリまで悩みました。

 でも、3G携帯電話からのユーザーを獲得するには、やはり最大10分相当の無料通話は大事ということになり、あわせて提供させていただきました。

――本日は、どうもありがとうございました。