インタビュー
auの「povo」本日23日スタート! 担当者が語る「トッピング」が目指す姿
2021年3月23日 00:00
KDDIは、注目を集める新料金プラン「povo(ポヴォ)」を3月23日より提供する。
使いたい機能を使いたいときに選べる「トッピング」が大きな特徴となったその体系について、KDDIパーソナル企画統括本部次世代ビジネス企画部長の長谷川渡氏と、裏側を担うKDDI Digital Life 代表取締役社長の秋山敏郎氏に直撃した。
3つの特徴
――いよいよ3月23日となります。
秋山氏
「povo」の特徴というか、大事なポイントは3つあります。「トッピング」「オンライン」「共創型」です。
自由に料金をカスタマイズとお伝えしてきましたが、カスタマイズ性=トッピングとして今後進めていきます。その中身はどんどん加えていきます。
たとえばトッピングも、ダッシュボード(専用サイト)から選べるようにします。24時間のデータ使い放題や音声定額をご用意し、直感的にご利用いただけるようにします。そして、最初に提供するものを元に、ひっかかるところをきちんと改善します。
そして「共創型」ということで、お客さまの声を取り入れる仕組みを今回設けたいと考え、「povo Lab」を発表しました。
――なるほど。
秋山氏
povoの提供にあたっては、シンガポールに拠点を置くサークルズアジア(Circles Asia)と提携しています。彼らのサービス、プロダクトの設計思想、カルチャーをきちんと取り込もうと。活用できる資産も導入していきます。
日々、サークルズライフとはオンラインでやり取りしています。サービス開始後も、改善のためにそうした取り組みは続けていきます。
――これまでのエントリーはどういった傾向でしょうか。
秋山氏
エントリー件数は非公開なのですが、競合他社さんと比べても、同等といいますか、いいペースで来ていると思っています。
長谷川氏
傾向としては、auのお客さまの申込みが多いです。
オンライン限定ということで、一定のハードルがあるのかなと思っていましたが、年齢層などの偏りはなく、比較的、フラットな形で関心を持っていただいていると見ています。
povo実現に向けたきっかけ
――昨年10月末、KDDI Digital Lifeの設立が案内されましたが、そもそものきっかけから教えてください。
秋山氏
もともとKDDI社内でも、オンライン型のサービスが必要になってくるだろうという話は出ていました。
eSIMの存在もありましたし、「auと異なるものをやってみるべきなんじゃないか」と。
――それっていつ頃のことですか。
長谷川氏
2019年秋ごろだったでしょうか。
紹介を受けてサークルズライフさんのことを知ったんです。「NPS」(ネットプロモータースコア)という指標でも高い満足度を得ていて、SIMの当日配送などニーズを意欲的に取り込み、アジャイルに開発していると。KDDIではできないようなことがいっぱい散りばめられている。
彼らは、KDDIのような通信事業者をレガシーなキャリア、自身をネオキャリアと位置づけているそうなんです。ちゃんと学ばないとね、と2020年から学習初めて。
秋山氏
実際にパートナーシップを締結して日本でやっていこうというところで、私もやりたいと手を挙げて、このプロジェクトに参加する形になりました。
――なるほど
秋山氏
2020年秋の段階では一度、MVNOとしての提供を想定して発表となりました。auでできないこと、オンライン特化型をやろうと。
MVNOといっても、良いところはauでも取り入れることが前提でした。つまり半歩先、一歩先をやっていく存在です。
しかしその後、市場環境の変化があり、ここはauでやるべきではないかと社内で議論が進み「povo on au」というかたちになったのです。
トッピングが生まれた理由
――povoの特徴は「トッピング」「オンライン」「共創型」とのことですが、これはサークルズライフの手掛けていたサービスそのままではないんですよね?
秋山氏
はい、そのままではありません。ただ、トッピングは「オンラインで提供される、わかりやすいサービス」としてひとつの象徴で、彼らの思想が入ったサービスです。
お客さまにもっとパワーを、という思想がサークルズライフにはあるそうなんです。それが日本で私たちが提供するときに、どういうものがいいんだろうと。
トッピングは、そういう意味で、深くサークルズライフ側の思想が組み込まれているものです。
――トッピングはどういう経緯で生み出されたものなんでしょう。サークルズライフの考え方が土台にあるとはいえ、ちょっとジャンプしなければ出てこないような発想のようにも思えます。
秋山氏
これまでの携帯電話会社は、事業者側がご用意したメニューを、ちゃんとご説明して、お客さまに使っていただくという流れでした。
一方で、「povo」の実現にあたってはいかに余計なものをいかに削ぎ落とし、欲しいときに欲しいだけという形を実現するか。
音声通話定額も切り離しました。まるでブロックを積み重ねるように使いたいものを使える。そんな考えが「トッピング」に繋がっていきました。ベースがある、そこに日によって好きなものを付け加えていくと。
どこまでバラバラにしちゃうと、わかりやすいのか、わかりにくくなるのか。そこが重要です。もちろん僕らもそこまではわかりません。
サークルズライフの特徴のひとつは、アジリティ、俊敏さなんです。そこで「いっそのこと中に入ってもらおう」ということで共創型=「povo Lab」になっていったのです。
――なるほど。
長谷川氏
サークルズライフさんのコンセプトをいろいろ聞いていると、日本にもあるようなものはありました。
そのコンセプトはすごく刺激的でした。その刺激で、いろいろ作っていったのです。とはいえ、そのまま取り入れたのではなく、これまでを踏まえて期間拘束だったり、データ定額の付け外しなど、「日本版にするとどうなるか」を詰めていった形です。
ahamoの影響あった?
――1回5分の音声定額を含まない形ですがこれは、NTTドコモの「ahamo」を見てから決められたんでしょうか?
長谷川氏
もともと音声定額をくっつけていなかったんです。MVNOとしての発想のときには。
秋山氏
音声なくてもいいのでは? というアイデアすらあったんです。それはさすがにエッジが立ちすぎるだろう、ということで見送ったんですけども。
――それはアプリを使って音声をやり取りしてね、と。
秋山氏
はい、そこまで割り切る、というアイデアまで出たほどだったのです。
長谷川氏
日本のサービスだと、タブレット向けプランはそういった形態ですが、「スマホ向けの料金プランで(音声通話なしのプランを)ど真ん中で作ろう」といっても、auだとやっぱり難しい。
今のお客さまに受け入れていただきやすいものとして最適化を図っていった結果、音声定額はベースのプランとは一体化しないかたちにしたのです。
「一時的にpovoを契約することも」
――auのオンライン新料金ブランドとして登場することになるわけですが、auにあった制約のようなものは、povoでは切り離されているのでしょうか。たとえば競合他社では端末によって使えるSIMが違う、といった制約がありましたが……。
長谷川氏
対応端末が限られていたり、理解が必要だったりしますが、eSIMにも対応していきます。eSIMになるといろいろ変わるのではないかと思ってます。
たとえばテンポラリー(一時的)に契約することすらある。「今月◯GBだからpovoを契約する」みたいなかたちです。
(auで)過去やっていたことが制約になっている、引きずってきたことは理解しています。ただ、あるお客さまのことを考えたりとか、社内の別のシステムのことを考えると……ということで引きずってきた面もあります。
過去を全部引きずって便利にするのはやはり難しいです。たとえばキャリアメールを提供しないことはひとつの象徴かもしれません。割り切っていくことが、制約がなくなることに繋がるのかなとは思っています。
――しがらみをなくしつつ、新しい世界を創っていく、というイメージでしょうか。
秋山氏
はい、そうです。
長谷川氏
そこは重要なコンセプトですね。
どんなトッピングが出てくる?
――では、これからどんなトッピングが出てくることになりそうでしょうか。
秋山氏
いくつかのカテゴリーというか、パターンがあるんだろうと思っています。
ひとつは通信サービスとして、何を付けられるのか、何を外せるのか。
もうひとつは、「通信でお客さまが何をするのか」です。たとえば、auではNetflixさんとのバンドルプランがあります。このとき通信は手段で、お客さまの目的はNetflixのコンテンツでしょう。
これが、povoですと、がっつりバンドルするものでもないでしょうし、「通信を使う目的」がいろいろある。その目的に「欲しいときに欲しいだけ選べるようにします」ということを実現したいなと。
――今週だけNetflixを観たい、このシーズンだけ、このライブ中継だけ、とか。
秋山氏
エンタメ分野だと、そういうニーズがあるのかなと思います。
とはいえ、オンラインコンテンツだけではないとも思ってます。
私自身もまだわかっていないところはあるのでこれからLabをやるんですが……たとえば「これをSNSで紹介したいから、こういうスマホの使い方をする」みたいなこともあるんでしょう。
それは必ずしもオンラインだけではなく、オフラインでもありえる。食べ物かもしれません。スマホを使ってやりたいことに寄り添うのであれば、オフラインもあり得るんだろうなと。
毎月、カジュアルに(トッピングのメニューが)変わっていってもいいんだろうと思っています。挑戦的、実験的なものを入れていっていいんじゃないかと。
共創の場「povo Lab」の狙い
――「povo Lab」について教えて下さい。ユーザーからアイデアを募り、形にしていくという場で、「共創型」を特徴づけるものですね。
秋山氏
povo Labでは、Power User Programと名付けたお客さま向けのプログラムと、Business Partner Programという企業ととの協力体制です。
お客さまにしっかりサービス改善プロセスに入っていただく、というかたちになります。
――とはいえ、これまでもユーザーインタビューや調査は実施されてきたと思います。従来の手法ではだめだったのでしょうか。
秋山氏
povo Labの実施にあたっては、2つの視点があります。
ひとつは、サービスを作り、商用化に向けて、私たちだけでは事業者目線になりがちですし、スピードが上がりきらない。デザインを含めて参加してもらうことが、「povo」というブランドにふさわしいのではないかと考えました。
もうひとつは、auとの違いとでも言えるところです。auだとなかなかできないことが、povoならできるということがあり得るかと思っています。サークルズアジアとのパートナーシップもそのためにあります。
――どういった方の参加をイメージしているのでしょう?
秋山氏
「povo」のターゲット層は、いわゆるスマホネイティブ、オンラインのサービスを使いこなせる方です。
その中でも、ご自身のライフスタイルに精通し、スマホを使いこなしている方と言えるでしょうか。「こんな使い方があるので、こんなトッピングはどうだろう」とリードしていていただけるような方を探しています。
――なるほど、とはいえ、ですね。
秋山氏
はい、なかなか、いらっしゃらない気はしますよね。
今後、プレエントリーで、どんな方が応募してくださるか楽しみです。もし足りなければ、いろんなコミュニティに出かけて、こちらから呼びかけていくことも必要かなと思います。
――本誌の読者もターゲット層と言えるかと思いますが、いかがでしょうか。
秋山氏
はい、ケータイ Watchをご覧いただいている方もそうですよね。あるいはアウトドアに詳しい方とか、音楽が大好きな方とか。いろんな分野から参加していただければと。
たとえばビジネスパートナーのほうでは、個人店舗とのコラボレーションなどもありえると思っています。
――au PAYでの考え方も参考にされそうな雰囲気もありそうですね。
秋山氏
そうですね。
ドコモの「ahamo」税込2970円はどう受け止めた?
――3月に入って、NTTドコモは「ahamo」の価格を改定し、税込でも3000円以下に仕上げました。このあたり、競争上にどのような影響を与えると見ていますか。
秋山氏
「povo」のベースは、トッピングを含めて、お客さまがスマホを使う上で、トータルかつフェアな、市場競争力のある価格を設定することになります。このあとの動向を踏まえ、今後見直すべきものは、見直すべきだとは思っています。
長谷川氏
流れとしては、我々は音声定額を分け、LINEMOさんも追随されました。
一方、ahamoさんはそうしませんでした。(音声定額が)必要じゃなくても、ご負担いただくという形で、価格を下げられている。使わない人にも一定分、負担してもらって、みんなで支える形です。
バンドルを作る発想は、これまでの競争の文脈でしたら、なくはない。
でもそれって、今回のオンライン専用ブランドでの戦い方ではない、と僕らはもう思ってるんです。僕らは、ベースをシンプルにしてトッピングで戦おうとしています。
(価格で追随するような)競争にしちゃうと、相手もどう下げてくるですとか……スタイルが違うサービスとして存在しているのに、強引にあわせると、複雑になるので避けたいのです。
今後、音声のトッピングも考えていきたいです。「povoはベースがシンプル」、そこに何かを付けていく。トータルで安く、必要なものを付ける。だから今回、変に値段をいじることはしていないのです。
――なるほど、コンセプトを貫いた、という格好ですね。本日はありがとうございました。