インタビュー

本日発売! 「razr 5G」開発者に聞く、往年の名機が現代に復活した理由とは

 モトローラの往年の名機「razr(レイザー)」を継ぐAndroidスマートフォン「razr 5G」が日本国内で登場した。

 フィーチャーフォンのような折りたたみ機構を採用した「razr 5G」は、2020年にいったん4G版が登場したものの日本では未発売となり、今回、5G対応版が上陸することになった。

 20年以上、モトローラに勤務し、同社主力製品とイノベーティブな製品のジェネラルマネージャーを務めるJeff Snow(ジェフ・スノウ)氏に聞いた。

ジェフ・スノウ氏

なぜ「razr」が復活したのか

――フィーチャーフォン時代のrazrの開発にも携わりましたか?

スノウ氏
 初期の「razr」が開発されていたころ、私はまだキャリアを積む途上で、直接は関わっていません。とはいえ、「razr」自体は、モトローラという会社や、モバイル業界全体にとって大きな存在でした。

 スマートフォン時代を迎え、新たな「razr」の開発にあたり、新技術がありますので、初代に近づけることはあまり考えませんでした。とはいえ、役立ったもの、プラスになっていることはたくさんあります。

 たとえばこのコンパクトなボディへどうやって多くの要素を盛り込めたのか。

 初代の「razr」は、非常に薄く、当時としては非常に画期的で、非常にユニークなものでした。そのことは業界全体に刺激を与えたと思います。

 今回の「razr 5G」では、オリジナルの「razr」から直接デザインのヒントを得たと言えます。

 たとえば、閉じたときに端末下部には「チン(あごの意味)」と呼ばれる部分は、初代のニュアンスを生かしたものです。

端末下部の「チン」(あご)

――率直に、なぜフォルダブル(折りたたみ)タイプの製品を開発することになったのでしょうか。

スノウ氏
 フォルダブルを開発したのは、ニーズがあると考えたからです。それは「コンパクトな携帯電話を持ちたい」というものです。

 近年のスマートフォンは大型化が進みました。また、誰もが「一日中、スマホを触りたい」というわけでもない。

 そこでコンパクトになるフォルダブルを開発することになったんです。従来のサイズのスマホへ折りたためるだけでなく、ポケットに入れて持ち運べるコンパクトな携帯電話というのは、市場では本当に満たされていなかったんです。

――しかし「razr 5G」の価格帯は高額で、ハイエンドの部類に入りますよね。そうした機種を求めるユーザーは、アプリを一日中利用するタイプでもあると言えそうです。どんなターゲットを想定したんでしょうか。

スノウ氏
 確かに「razr 5G」はハイエンドモデルです。とはいえ、それだけではありません。

 コンパクトな形状を実現するために折りたたみの技術を開発するだけでなく、昔の「razr」を思い起こさせるような象徴的なスタイルの開発にも多くの時間を費やしました。

 というのも、多くのスマートフォンが同じような外観、同じような感覚であると感じていたのです。

 今回の製品で、私たちはスマートフォンに新鮮なデザインと外観をもたらすことができ、人々はスマートフォンをファッションの一部として楽しむことができるようになったと思います。

開発の苦労

――かつての「razr」も大きなインパクトがありましたが、今回、開発する上でどのような苦労があったのでしょうか。

スノウ氏
 新しい「razr」はとてもコンパクトですし、そのサイズを実現するのはやはり難しかった。折りたたみ式のディスプレイや前面のセカンドディスプレイだけでなく、現代のスマートフォンとしての魅力を高めるすべてのテクノロジーを内蔵することになりましたから。

 今回はSnapdragon 765Gを採用しています。そしてバッテリーは2つ搭載されています。

 単に5Gデバイスを作るだけでなく、閉じているときも開いているときも同じ性能を発揮できるようにすることは、非常に難しいことだったんです。

開閉は20万回耐えられる

――折りたたみタイプということで、開閉に伴う耐久性を備えるためにどのような課題がありましたか。

スノウ氏
 「razr 5G」は雰囲気ある仕上がりになったと自負しているんですが、この折りたためるディスプレイの設計には、機械的、そして工学的な検討を踏まえて実現したもので、日常の平均的な使用に耐える堅牢性を確保しています。

 開発にあたって、1000人以上のユーザーからデータを得たのですが、平均的なユーザーは1日に約40回も携帯電話を開閉していることがわかりました。99%のユーザーが、1日に100回までになっています。

 私たちは、部品とすべての組み合わせで20万回の折りたたみに耐えることを保証しています。20万回の開閉には5年はかかるでしょう。そのためにディスプレイもイチから設計しました。

 ディスプレイは、閉じた状態では涙型の形をしており、開いたときには引っ張ればまっすぐになります。そうした機構のために、ヒンジを設けています。

 そして、すべての部品がこの折りたたみテストに耐えられるようにしています。

 それだけでなく、私たちは携帯電話に落下や温度・湿度テストなどの標準的なテストも、もちろん実施しています。

――端末を振るようにして、閉じた状態から開く、という操作も許容されていますか?

スノウ氏
 「razr 5G」の上部背面にはガラスを用いています。

 初代「razr」は非常に軽かったのですが、「razr 5G」の上部は開くのに少し重いんですね。勢いをつけて開けることは大丈夫です。端末にダメージを与えることはありません。フリップするときの重さを踏まえると、ほとんどの人はそうやって開けますし、私自身も同じようにオープンさせています。

4G版からの進化

――「razr 5G」の約1年前に、4G対応のスマホ版「razr」も登場しています。内部構造ではどのような違いがありますか?

スノウ氏
 全体の体積を大幅にスリム化しています。15%程度の小型化を実現しました。

 新たな技術によってバッテリーが大容量化し、カメラが増え、曲面をよりスマートに保ち、さらに体積をスリムにしました。これはかなりの挑戦でした。

 ほかにも、機構面での違いがあります。私たちは、ヒンジのデザイン自体に多くの時間を費やしましたが、折りたたみの技術に関しては多くの特許を取得しています。

 4G版と比べ、メカニズムは比較的変わっていません。

 ただ、ディスプレイの動きを最適化する方法は検討しました。つまり、ディスプレイはすべて、ダイナミックなシステムの一部で、ムービングディスプレイになっていますので、ルックアンドフィールはかなり変わってきています。

独特の形状“チン”に込められたもの

――チンの部分は、razrオリジナルのアイコンを踏襲する意味があるとのことでしたが、今回の製品ではスマホとしてどういった意義がありますか?

スノウ氏
 いい質問ですね。「razr 5G」では、非常に機能的な役割を果たしています。

 開いた状態では、ボディ両側にバッテリーがあります。メインだけではなく外側にもディスプレイがあります。

 チンの部分にはスピーカーが入っています。より良い音響のために重要なポイントです。

 また、SIMカードも入っています。SIMフリー版ではeSIM、日本では、ソフトバンク版で物理的なSIMカードを用います。

 そして、おそらく最も重要なことは、アンテナを収容していることです。これで、開閉どちらであっても、良好な通信性能を確保でできました。

ヒンジと使い方の関係

――ヒンジは、完全に閉じるか開くか、という機構で、途中でL字型のような使い方はできません。これには理由がありますか?

スノウ氏
 実は、閉じた状態での体験について、長く時間をかけてデザインを追求しました。

 たとえば、自分撮り用のカメラとして非常に高品質なカメラを採用していますが、これは現在の業界では画期的なことです。また、"Twist to Capture "と呼ばれる機能もあります。つまり、端末をひねるだけでカメラが起動するのです。簡単に自撮りできます。

 外側ディスプレイでは、多くの機能を備えています。さらに、好みのアプリを起動することもできます。

 電話がかかってきたときには、開いたままの状態で閉じると、スピーカーフォンモードで通話を続けられるようにもしています。

 それから、閉じた状態でメールが届いたら、そのままメールを開き、内容をチェックすることもできます。

――ということは、開いたとき、閉じたときによりスムーズに使えるよう作り込んだほうがよいと考えたのでしょうか。

スノウ氏
 はい、「razr 5G」のヒンジは、90度で止まりません。私たちは開いた状態、閉じた状態という2つのモードに焦点を当てていました。そして、(閉じた状態での)ハーフスクリーンで得られる多くの機能を十分に使えるようにしています。今後を見据えて、新しい体験をもたらすためのあらゆる方法を検討していきます。

指紋センサーが背面になった理由

――「razr 5G」の指紋センサーは背面にありますが、その理由は?

スノウ氏
 先代モデルでは、チンの部分に配置されており、人間工学的に改善の余地があると感じていました。ちょっと下過ぎるんじゃないかと。

 背面に設置すれば、携帯電話を閉じたでも便利に使えるということで、配置することになったんです。

――多くの特許を取得したとのことですが、どのようなものがありますか。

スノウ氏

 具体的な特許数については控えますが、特許は、折りたたみ機構やディスプレイの素材だけでなく、外部スクリーンで使用するソフトウェア機能の一部、電気設計やRF設計の一部も対象です。これらすべてを誇りに思っています。

 これは、すべての技術を組み合わせることで、私たちが望むような携帯電話を実現することができるからです。すべてがうまく調和しているのだと思います。

横開きタイプへの考え

――今回は縦開きの折りたたみでしたが、横開きタイプの折りたたみについては、どのように考えているのでしょうか。

スノウ氏
このフリップスタイルのフォームファクターをデザインする前に、縦横含めて、さまざまなものを検討しました。

 あわせてユーザーがどのように感じているのかも調査しました。少なくとも最初の段階では、これが最善の道だと考えたのです。

 また、フォルダブルは非常に新しい分野です。今後、どんどん成長していく分野でしょうし、用途も広がります。

 スタンダードな板型のスマートフォンは、ポケットには簡単に収まらないサイズになりました。あまりコンパクトではなく、持ち運ぶことを考えると、横開きのフォルダブルではニーズを解決できないのです。

――こうしたフォルダブルデバイスが、今後、市場のどの程度を占めると見ているのでしょうか。

スノウ氏
 これは難しい質問ですね……個人的には、現在、まだ、この分野を手掛けるメーカー数は限られています。製品も少なく、比較的高価格です。

 競争が進み、選択肢が増え、価格帯などで異なるセグメントへの挑戦が始まるでしょう。

 また、この分野は、さらなるイノベーションをもたらしてくれるでしょう。

 私たちは、これまで築いてきた技術に自信を持っていますし、将来的にはそれらをさらに発展させていきたいと考えています。

 現在は小さな割合ですが、25%ほど占めるようになるには、現実としては2~3年後くらいにはそうなるでしょうか。

――ありがとうございました。