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「KDDI research atelier」オープン、次世代ライフスタイルの研究進める

 KDDIは、2030年を見据えた次世代のライフスタイルを提案する研究拠点「KDDI research atelier」(KDDI リサーチアトリエ)を開設した。

 同拠点では、次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」をもとに、KDDI research atelierでは、「KDDI DIGITAL GATE」や「KDDI∞Labo」などのアセットを活用しつつ、ほかの企業や研究機関ともパートナーシップを締結し、社会課題の解決や一人ひとりに最適化されたライフスタイルの実現を目指す。

 また、KDDI Accelerate 5.0で示した7つのテクノロジーの応用研究を推進、実現に向けた取り組みを実施していく。

 施設内は、一種の実験施設になっておりカメラやマイクでアトリエ内のデータを収集(許諾を得た場合のみ)。顔の表情やどこを向いているか、行動の軌跡などを追跡できるようになっている。

家でコンビニの商品を注文できる時代に?

 研究内容の具体例として数えられるのは、まずXR技術を活用したオンデマンド注文である「ライフデリバリー」の研究。スマートフォンから実際のコンビニの棚を眺め、自宅にいながら商品を注文。ロボットで配送されるというもの。社内で模擬店舗をつくり効果検証の比較を行っているという。

 デモでは、店舗で商品をピックアップするロボットも披露された。これは、遠隔地から人がリモート操作できるもので、操縦者はゴーグルを付けてコントロールしていた。また、掌紋照合により手をかざすと商品を手に取るだけで精算できる仕組みも公開された。

生活習慣をAIで管理、メンタルヘルスケアも

 食事の画像解析やXRアバターによる遠隔カウンセリングなど「データヘルス」ではオンライン完結型の生活習慣改善プログラムの提供を目指す。

 住宅に設置したカメラや遠隔問診などで、食事のメニューを自動認識し利用者の負担を軽減。一方、提供者側の抱える負担もアバターを通じた遠隔コミュニケーションなどで軽減につなげられる。

 このほか、ネット依存の研究・メンタルケアの研究も進めており、とくに未だ解明されていない「依存に陥る原因」も追求。ソリューションの実証は、実際の医療機関や自治体などと共同で進めていくという。

自宅で手軽にスポーツ上達

 また、マルチアングル技術を駆使した趣味としてのスポーツの上達に寄与するソリューションも披露された。デモではゴルフを例に紹介され、天井に多数設置されたカメラからスイングのフォームの細かいアドバイスが得られるもの。

 多視点を活かして自分のフォームをタブレットなどから確認もできる。個人が自宅などで使うことを想定しており、個人情報が分からないようにプライバシーに配慮した映像へ加工される機能もある。将来的にはおおがかりなカメラではなく、スマートフォンで完結できることを目指しているという。

「音のVR」を仕事に活用

 生活面のみならず、仕事面でのソリューションもあり、複業を希望する労働者と仕事のマッチングソリューションや、そうした労働者のための環境デザインの一例が紹介された。

「音のVR」集音マイク

 音の方向にフォーカスできる「音のVR」を用いて、会議中などに話者が向いている方向を向くと、あたかも自分がそこにいるかのような音の聞こえ方になるもの。これによりリアルでの話し合いに遠隔で参加しても疎外感を感じにくくなり、クリエイティブな作業につなげるという。

 ただし、こうした機器を揃えればいいというものでもなく、仕事成り立たせるにはその会社や国の文化を知ることも重要な意味を持つ。そこでKDDI総研では、他国にも出向き、ある国での情報行動を知るための調査も実施している。

移住先での安心を

 加えて、新しい街での快適な暮らしを実現する取り組みとして、人流データや個人の好みなどをAIで解析、街のおすすめスポットや人気の場所などを提案するソリューションも登場。

 異なる分野のデータをかけ合わせて予測精度を向上させる「再利用可能AI」を用いている。生活拠点が増えると主要拠点以外でのデータが集まりにくい。そこで同ソリューションでは、Web行動履歴や別の街での履歴から新たな街での行動を提案している。

 今回は好みの情報を入力して、行動の提案を表示したということだが、将来的には普段の行動からAIが学習、提案することを目指すとしている。

 加えて、万が一の災害発生時に混雑する避難所を避けるなどの機能も想定しているという。

2拠点の両輪で研究をすすめる

 KDDI総合研究所 代表取締役所長の中村元氏は、埼玉県ふじみ野市にあるKDDI総合研究所と両輪の取り組みであると説明。ふじみ野での基礎研究の成果を活用するのがKDDI research atelierという。「1953年のふじみ野での研究所設立以来、さまざまな新しい取り組みを行ってきた。今回もその新しい取り組みになる」と語る。

 KDDI 執行役員 技術統括本部 技術企画副本部長の前田大輔氏は「新型コロナ禍でネットのリアルの融合が進んだ」と現況を説明。政府が提唱する「Society 5.0」を5Gを中心とした技術で加速させニューノーマルを作ると意気込む。

 KDDI Accelerate 5.0で注力するテクノロジーについて、IoTは4G時代で進歩してきたものの、サイバー空間から実際の世界にそのデータをどう活用していくかがこれからの課題になってくる。

左からKDDI 前田氏、東大 森川氏、KDDI総研 木村氏、KDDI総研 中村氏
KDDI 代表取締役社長の高橋誠氏もビデオメッセージで登壇

 そうした際にネットワーク、プレットフォーム、ビジネスの3つのレイヤーが普及の鍵になると前田氏。KDDIでは、本業であるネットワークはもちろん、他企業と協力してさまざまな次世代に向けた取り組みを積極的に進めている。

 KDDI総合研究所 取締役試行役員 副所長 兼 KDDI research atelier センター長の木村寛明氏は、2030年を見据えたライフスタイル実現の取り組みとして、先進的な生活者からの課題・ニーズ抽出、ライフスタイルの仮説設定を経て、実現手段の検証を行い、最終的に先進的な生活者との実証を行い、実現を目指すと説明。

 実際の課題の抽出の一例としては、家の中の整理の意向(きれいに整理したい98.1%)という結果に対して、それの解決手段(ロボット配送)の利用に関心を示したユーザーは53%強に上ったという。前述のロボット配送のデモは、これを受けたロボット配送の受容性検証だ。

 社外プロデューサーを務める、東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 教授の森川博之氏は「現状の生活はいろいろと制約があるが、5Gで10年後にはなくなっていくのではないか。1つのサービスにさまざまな業種業界が関わっていくことになり、KDDI research atelierはそのドライバーになってほしい」とコメントした。