インタビュー

「arrows NX9」開発者インタビュー

5G普及期における日本メーカーらしいスマートフォン

 富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)は、NTTドコモから5G対応スマートフォン「arrows NX9 F-52A」を12月18日に発売する。5G対応スマートフォンとしては、夏モデルに発売した「arrows 5G」に次ぐ製品となり、arrows NXとしては約3年ぶりの新モデルとなった。

 今回は、FCNTのarrows NX9担当者に話を聞いた。

左からFCNT事業本部プロダクト事業部開発グループの山崎 徹氏と淺野 達哉氏、営業本部デジタルマーケティング企画開発部の森田 博典氏、経営戦略室兼営業本部の外谷 一磨氏

日本メーカーらしく日常に馴染むデザイン

 「arrows NX9」が目指した部分やデザインとはどういったものだろうか。FCNT事業本部プロダクト事業部開発グループの山崎 徹氏と淺野 達哉氏、経営戦略室兼営業本部の外谷 一磨氏に聞いた。

経営戦略室兼営業本部の外谷氏

 外谷氏は、arrows 5Gを踏まえた上での「arrows NX9」という考えを示す。夏に登場したarrows 5Gでは「世界最薄の5G端末」という目標を達成。そしてarrows NX9では、「5Gが普及してきた段階の端末として、どういう端末であるべきか」ということを考えた。そのうえで、コンパクトな本体に5Gやより便利な端末を目指した。

 「72mmの幅にこだわり、手に持ちやすくスタイリッシュなデザインにこだわった」(淺野氏)というarrows NX9では、筐体のフレームを細めており、フレームもアルマイト仕上げでより高級感を演出する。

 また、本体の角部分もなめらかに加工を施し、より手に馴染むデザインに仕上げた。

繊細な背面パネル

デザインを担当した、事業本部プロダクト事業部開発グループの淺野氏

 本体背面のパネル部分は、日本メーカーらしく繊細な仕上がり。落ち着いた色合いながら、光の当たる角度によってグラデーションが変化する。

 「最近のトレンドなどを意識して選んだ」(淺野氏)というカラーバリエーションはホワイト、ゴールド、ネイビーをラインアップ。

 ここ数年、主に海外メーカーのスマートフォンでは、背面パネルもまぶしさを感じさせるほど、キラキラとはっきり輝く仕上げたものが多い。今回、FCNTでは、そうした動きを踏まえつつ、日本のユーザーに向けて、繊細さや四季折々の空気感などを盛り込んでいくコンセプトを掲げた。「日本の市場で受け入れられる品があるデザインに仕上がった」(外谷氏)とデザインへのこだわりと自信の強さを見せる。

事業本部プロダクト事業部開発グループの山崎氏

 山崎氏は、デザインの選定には苦労したといい、何度も試作品を作成しては、光の浮き方などを特に入念に試行錯誤しているとコメント。arrows 5Gでは最先端の端末で切り込んだデザインだが、日常使いするarrows NX9では、主張しすぎないデザインに仕上げたとしている。

光の当て方でグラデーションがしなやかに変化していく

1.5mの高さから落としても割れにくい堅牢性

 arrows NXシリーズの特徴である堅牢性とデザインを両立、さらに72mmのサイズ感を兼ね備えるために、nx9では、表面では現れないさまざまな工夫を凝らしている。

 arrows 5Gで導入されていた熱を効率よく排熱する「ベイパーチャンバー構造」は、arrows NX9でも採用されている。山崎氏によれば、銅の純度をより高めゲーム中なども快適にプレイできるようになっているとのこと。

 また、arrows 5Gと比較して、画面ガラスの厚みを厚くすることで、強靭性を増している。arrows NX9でも5G同様画面内指紋センサーを採用しているが、センサーの種類を超音波式から光学式に変更し、ガラスを厚くしても利便性を損なわないようになっている。

構造面ではarrows 5Gの技術も活用

 arrows 5Gでは、クアルコムのリファレンスモデル「Qualcomm Snapdragon 865 5G Modular Platform」をベースに開発している。今回のarrows NX9においても、特に実装ベースで応用展開していると外谷氏は語る。

 モジュール化して設計することにより、本体の厚みや大きさを抑えつつ、機能の充実を図っている。

本体の厚みは約8.5mm。薄さと強靭性、豊富な機能を兼ね備えている

アルコール消毒液にも対応、評価は手作業で

 arrows NX9について、arrows 5Gを超える強靭性もさることながら、もう一つ注目すべきポイントがある。これまでのarrowsシリーズでも、防水性能やハンドソープで水洗いできる性能を持っていたが、arrows NX9ではアルコール消毒液や次亜塩素酸水による洗浄も新たにサポートした。

 山崎氏によると、新型コロナウイルス感染症が拡大しつつあった2020年2月~3月に検討を始めたという。泡のハンドソープによる洗浄では、せいぜい1日1回程度が限度であるが、アルコール消毒液や除菌シートで“外でも”洗浄できる方がもっとユーザーが安心できるのではとの思いから開発と評価に着手したとのこと。

 本体には、両面テープなど耐性のある素材を採用しているほか、端子の中や接合部にも同社オリジナルの腐食しにくい仕組みが備わっており、デザイン性を損なわず見えない部分にも取り組んでいる。

 手洗い試験やアルコール除菌試験などの評価では、機械を使用できず人間の手で評価した。ほかの開発と並行しながら評価作業が進められた。

 外谷氏は、同社の評価基準について「ほかのメーカーと比べて過剰品質」と思われるかも知れないが、ユーザーの安心のためにこだわって設計したとコメントした。

プロゲーマーやゲーム配信にも応える

ゲームを快適に楽しくプレイするために開発された「ゲームゾーン」

 一方、arrows NX9のソフトウェア面での工夫はどのようなものだろうか。FCNT営業本部デジタルマーケティング企画開発部の森田 博典氏とプロダクト事業部の花田氏、事業本部 ソフトウェア開発統括部 第二開発部の池田氏、第五開発部の張氏が語ったのは、特徴のひとつとして打ち出されたゲーミング機能だ。

営業本部デジタルマーケティング企画開発部の森田氏

 スマートフォンにおけるゲーミング機能はどういった意義があるのだろうか。たとえば森田氏は、パソコンでプレイするようなビッグタイトルもスマートフォンに移行し、eスポーツ化しつつあるという現状を挙げる。そしてまずそれらを快適にプレイできるようになることが重要だと指摘する。

 そのうえで開発チームが取ったアクションは、実際のeスポーツチームのプレイヤーに直接ヒアリングするというもの。

事業本部 ソフトウェア開発統括部 第二開発部の池田氏

 池田氏によると、eスポーツチーム「REJECT」の合宿に開発チームが参加し、プレイヤーの“生の声”を拾っていった。これは、リアルなニーズを調査し、求められる機能を取り入れることに繋がった。そこには「人に寄り添う」というFCNTのモットーが根底にある。

eスポーツチーム「REJECT」とのコミュニケーション

 開発陣とeスポーツチームのプレイヤーが直接、コミュニケーションしたことで、具体的にどんな機能が用意され、どんなチューニングが施されたのだろうか。

 もしスマホでゲームをプレイするとき、横長画面でプレイするのであれば、両手の親指でコントロールすることが多いだろう。だが、eスポーツチームのプレイヤーの場合、ゲーム中に4~6本の指を使ってプレイすることが多い。

 スピーディな操作にも対応できるプレイスタイルだが、スマートフォンの場合、画面の上の方を触ってしまうと、通知が画面上から下へ降りてきてしまうことがある。これではプレイに差し支えてしまう。

 合宿に参加した張氏によれば、当時、開発チームは、「REJECT」メンバーの部屋に何度も訪れて、ゲーム中の様子やヒアリングを重ねた。

 REJECTは当時、FPSを中心でプレイ。すると、戦闘シーンが激しくなれば、あわせて操作が激しくなる。すると端末のエッジ部分に触れてしまい、通知やプレイを妨げる表示が出てきてしまうことがあった。

事業本部 ソフトウェア開発統括部 第五開発部の張氏

 「プロゲーマーは、かなり器用に操作」(張氏)しているにもかかわらず、誤動作がときどき起きた。どうすればこの誤動作を減らせるのか――。

 プロがプレイするゲームもFPSだけではない。さまざまなゲームに対し、多種多様な操作方法がある。

 検証項目が莫大になりそうな印象を受けるが、今回は「REJECT」メンバーからのアドバイスを多数受け、チューニングを重ね、誤った動作がしないように仕上げられた。

 ゲームゾーンで設定できる項目は、開発中、eスポーツチームのプレイヤーからの評価を受けたものでもある。チューニング、そして機能開発では、「REJECT」との間でヒアリング→開発→フィードバックというループが重ねられ、ブラッシュアップが図られたわけだ。

ゲームチューニング機能

ゲーム実況配信

 arrows NX9で実装されたゲーミング機能は、実況配信にまつわるものだ。

 これは、eスポーツの盛り上がりの中にゲームプレイと同時に、ゲームの実況配信が広がっていることを受けたもの。つまり、「ゲームゾーン」で快適に操作する設定に加え、「実況したい!」と思ったときに、すぐに、そして便利に実況できる機能を盛り込んだという。

YouTuberにヒアリング

 池田氏は、実際にYouTubeで配信しているユーザー「すりーぴん」にヒアリングし、機能やボタンのレイアウトなど細かいところまで監修を受けた。

 たとえば、映像とゲームの音声、プレイヤーの音声をわけて記録する機能が「arrows NX9」には用意されている。これは、動画に含むプレイヤーの声を大きくする場面、逆にゲーム音声へ視聴者の意識を集中させる場合などを演出する場合、編集作業の負担を軽くしてくれる。

 スマートフォン用のスクリーンレコーダーはさまざまある。たとえばGoogle Playゲームにも機能として搭載されている。しかし「かゆいところに手が届き、録画したいときにすぐ録画できる機能を搭載している」と森田氏はその特徴を語る。

 たとえば録画中にプレイヤーのマイクをミュートにする機能や、ゲーム配信に集中できるモードなどを備えているのだ。

インカメラの合成は「3つのヘビーな処理」が必要

 また、インカメラからの映像をゲーム画面に合成し、プレイヤーの顔がワイプの形で録画される機能がある。この機能に関し開発に特に苦労したと張氏。

 「ゲームをしながら録画する」ということは、つまり「ゲーム」+「録画」という2つを平行で処理することでもある。

 そこへさらに「プレイヤーの映像を合成して録画する」のであれば、「ゲーム」+「インカメラの処理」+「録画」という3つの処理になる。

 パソコンと異なり、電力やチップセットの性能が限られるスマートフォンであっても、ゲームがスムーズに動くようカメラや録画の解像度の調整など、パラメーターの調整に時間をかけ、解決が図られた。

発熱とゲームプレイのバランス

 そうした処理の負荷のほか、近年のスマホゲームは長時間プレイされる傾向にある。

 つまり長時間のプレイでは、熱問題に直面することになる。

 発熱への対応は、ソフトウェアだけでは解決できない。そこでFCNT内のハード担当の専門家を巻き込んで、「スムーズにプレイできる」処理能力と、発熱を処理するというバランスでチューニングが進められた。

ゲーミングでも「使い勝手に注目を」

 「使い勝手にも注目してほしい」と語る花田氏によれば、録画時のコントローラーやワイプのデフォルトの位置が調整されているという。これにより、デフォルトの表示位置をゲームによって変更できるようにした。ちょっとしたことに思われるかもしれないが、ユーザーに寄り添った機能が開発されていることになる。

 このほか、ゲームゾーンでのさまざまな録画機能の実現には、ソフトとハードの両面で長期間調整を行ったという。ときには担当者間で揉めることもあったということだが、森田氏は「ユーザーの声をいかにキャッチして実現にこぎつけるかが大切で、他社に負けない自負がある」と胸を張る。

Snapdragon765はバランスがいい

 arrows NX9では、クアルコムのチップセット「Snapdragon 765」が採用されている。

 クアルコムのチップセットには、上位の800シリーズが控えているが、森田氏いわく、765はバランスがいいチップセットだという。

 ユーザー視点では、「ゲームをするなら800番台でないと」という声を挙げたくなるかもしれない。

 だが、森田氏はゲームのプレイ時間が長時間化していく中、排熱と性能のバランスを考慮しなければいけないと指摘。実際にeスポーツの大会では、端末が高熱になってしまいプレイの中断が発生するといったことも起きている。長時間プレイするという観点で見ると、「Snapdragon 765はバランスが良いチップセット」なのだという。

 また外谷氏も、価格とスペックのバランスを見極めるユーザーにとって、「必要十分のスペック」を搭載するarrows NX9は満足していただけるモデル、と自信を見せる。

カメラ性能とアドビとの協業

arrows NX9のアウトカメラは、約4850万画素(F値 1.8)+約800万画素(F値 2.4)+約500万画素(F値 2.2)の3眼構成

 イマドキのスマートフォンにとってカメラは引き続き、注目されるポイントだ。

 今夏の「arrows 5G」では、アドビとの協業でAdobe Photoshop Expressをプリインストールし、カメラアプリと連携させることで、撮影と編集を同時に行う撮影体験を提供した。

 arrows NX9でも同様の機能を提供するほか、arrowsならではのAIシーン認識と組み合わせることで、より美しい写真を撮影できると外谷氏はコメント。

 その上で、「arrows 5G」ユーザーからの指摘や反応をみて、「arrows NX9」のカメラ機能をチューニング。暗所でのノイズ軽減やよりSNS映えする写真の撮影ができるようになったという。こうした機能改善は、「arrows 5G」にもソフト更新で反映されている。

 端末メーカーとアドビが、開発実装まで含めて協業することは、業界でもなかなかない。「arrows 5G」では、ユーザーの約半数がAdobe Photoshop Expressを日常的に使用しており、アドビもFCNTとのコラボレーションをポジティブに受け取っているという。

 Adobe Photoshop Expressなどカメラ機能は、 今後も継続して改良し、折を見てアップデートをかけていく とのこと。

 これは、長く端末を使ってもらい、次の端末にも「arrows」シリーズを選んでもらうためにもソフト更新は重要、とFCNTでは考えており、その上で「日本メーカーならでは気配り」を示せるよう努めていく方針だ。

「arrows NX9」を届けたい人たち

 「arrows NX9」はどういったユーザーの利用をイメージして開発されたのだろうか。

 外谷氏は「これまで型落ちハイエンド機種を買っていたユーザーの受け皿を狙った」と表現する。

 これは現在のスマートフォン市場の状況が背景にある。今は端末割引の制限などが課せられるようになり、「ハイエンドとミドルの二極化」が進む。その状況に着目し、夏にハイエンドの「arrows 5G」を投入したことを踏まえ、「arrows NX9」では価格と性能のバランスを重要視したという。

 携帯キャリアにおけるスマートフォンの販売方法が変化し、さらに5Gサービスが本格的に始まり、これからエリアが広がっていくという過渡期の中で、“必要とされるミドルハイエンド”としてラインアップされた格好だ。

 FCNTでは、今後の端末づくりに活かすため、ユーザーと積極的に交流していく考え。

 外谷氏は、ユーザーの取り巻く環境などを調査し、長く使ってもらい、次にまたarrowsシリーズを購入してもらうためにユーザーともっとつながっていく必要があると指摘。

 森田氏も、“誰でも参加できる”eスポーツ大会を開催し、ユーザーと交流していくという。eスポーツのプロリーグがプロ野球とするならば、草野球の大会のようなものを開催したいとコメント。開発チームと共に、ゲームをしながらユーザーからのフィードバックをもらってコミュニケーションをとっていきたいとのこと。

今後のFCNTにも期待してほしい

 インタビューの最後に、開発チームにarrows NX9の注目ポイントを聞いた。

 淺野氏は、やりたいことがすぐにできる「Smart FAST」機能もぜひ試してほしいとコメント。決済アプリなどを指紋認証後すぐに起動させられる「FASTフィンガーランチャー」や、ネットショップの商品の大きさをARでイメージできる「FAST ARサイズチェッカー」など、日常生活に便利な機能を搭載している。

 最後に淺野氏は、「arrows NX9は、丁度いいサイズ感に必要な機能やスペックを入れ込むことができており、良い端末になったと自身を持っている。ぜひ手にとってほしい」とコメント。

 山崎氏は、カメラ機能について「これまで自然な画質を求めてきたが、今回は『顔と料理』といった写真もきれいに撮影できるようにできた」とコメント。arrows NX9のデザインについては「新しいarrowsシリーズのデザインを形作るモデル。今後のarrowsのデザインにも注目してほしい」とした。

 森田氏は、ハイエンドのパソコンや据え置き型ゲーム機でしか遊べなかったゲームが、スマートフォンでもプレイできる環境が増えていくと指摘し、「スマートフォンとしても、eスポーツのプレイ面でも、できるだけハードルを下げ、“みんなが気軽にリッチなゲームを楽しく遊べる”というコンセプトを今後も貫いていきたい」とコメントした。

 花田氏は、arrows NX9の評価について「人の手をかけた」という。前述の手洗い評価やゲーム評価も人力で実施しており、音楽ゲームなど多彩なジャンルがあるゲームを、評価するためにゲームの練習をし、評価に望むことになった。企画から評価まで、チーム一丸となって取り組んだので、ぜひユーザーに楽しんでもらいたいとした。

 外谷氏は、3年ぶりのarrows NXシリーズをリリースできたことに、ユーザーやキャリア(ドコモ)、アドビ、クアルコムに感謝したいとした上で、ユーザーに対しぜひショップで端末を手にとってもらいたいと呼びかけた。

 arrowsスマートフォンは来年で10周年、また富士通からの携帯電話事業30周年を迎える事に触れ、開発している次の機種でも「トレンドチェンジ」「ゲームチェンジ」に取り組んでいきたいとコメントした。

arrows NX9予約キャンペーン

 なお、arrows NX9の予約購入キャンペーンを2021年1月31日まで実施する。発売日前日までに予約と購入したユーザー先着1万人に、「Amazon Fire TV Stick」をプレゼントするほか、1月31日まで購入したユーザー先着2万人にdポイント3000ポイントをプレゼントする。