インタビュー

「Xperia 5/8」開発者に聞く――Xperiaのこだわりをより多くの人へ届ける2モデルの秘密

 ソニーモバイルが2019年秋冬モデルとして発表した「Xperia 5」と「Xperia 8」。Xperia 5は、Xperia 1の特徴を受け継ぎ、コンパクトに仕上げたハイエンドラインのモデル。Xperia 8は、夏モデルとして発売された「Xperia Ace」に続くミドルレンジモデルとなり、上位モデルの特徴である、21:9のディスプレイを搭載した機種だ。

Xperia 5
Xperia 8

 これまで、国内向けはハイエンドモデルが中心だったXperiaだが、ここにきて、上位モデルの特徴を受け継いだXperia 8を発表した。これまでXperiaブランドの取り扱いがなかったワイモバイル(Y!mobile)とUQ mobileで販売されることになり、ミドルレンジモデルのXperiaが広がろうとしている。

 そんな両モデルの開発コンセプトや、側面のボタン配置の違いなどについて、2モデルの商品企画を担当したソニーモバイルコミュニケーションズソニーモバイルコミュニケーションズ企画部企画2課の川原崎翔太氏に話を聞いた。

川原崎氏

Xperia 1の性能をより多くの人へ、Xperia 5のコンセプト

――Xperia 5は、Xperia 1と同じハイエンドモデルということですが、どのようなコンセプトで開発されたのか教えてください。

川原崎氏

 Xperia 5のコンセプトには、夏モデルとして投入したXperia 1が関係してきます。Xperia 1では、ディスプレイなどにプロフェッショナル向けの技術を採用し、テクノロジーに敏感な方向けに届けられるようなモデルに仕上げました。

 そこで投入されたプロ向けの技術は、必ずしもテクノロジー好きの方だげでなく、より多くのユーザーにとっても有効的だと考えます。そういった人達にソニーの技術力をお届けしたいと思い、それをコンセプトにしたのがXperia 5です。

 たとえば、カメラに搭載された「瞳AF」は、子どもを撮るときなどに便利で、必ずしもテクノロジー好きの方だけに向けた機能とは言えません。そうしたXperia 1の機能をより多くの人達に届けたいと思い、Xperia 5を開発しました。

Xpeia 8は若者をターゲット、他社ユーザーを狙う

――続いて、Xperia 8はどのようなコンセプトで開発されたのでしょうか。

川原崎氏

 Xperia 8は、日本市場を見たときに、ミドルレンジモデルが成長してきていることから、Xperiaでもミドルレンジをラインアップするという当社の方向性にあわせて用意しました。

 ミドルレンジモデルの価格帯を想定していましたので、若者をターゲットにしようと考えていました。Xperiaは、多くの方にご愛顧いただいていますが、特に男性で少し年齢が上の層に支持していただいています。その上で今回、若い方に向けた機種として、いわば「他社から支持を奪い返したい」という思いがあって開発しました。

 Xperia 5と8では、ターゲットの違いからこうしたコンセプトの違いがあります。

――同時期に発売する2機種の商品企画を一人で担当されたのには驚きました。これまでですと、モデルごとに担当者がいるイメージです。

川原崎氏

 タイミングの兼ね合いもあり、今回は2機種を同時に担当することになりました。見た目やサイズ感が似ている両モデルですが、コンセプトが全く違うモデルでしたので、正直言うと苦労したところもります。

 私自身、ソニーモバイルの商品企画に携わっている期間が長く、これまでは「Xperia XZ」「Xperia XZ2」を担当してきました。そうした経験や、コンセプトは異なりますが、(Xperia 1と比べて)どちらもより多くのユーザー層に届けるモデルというところは共通していて、大きな目的は同じなので、この2モデルを担当した形です。

Xperia 5と8をこのタイミング投入した理由

――秋冬モデルとして、ミドルレンジモデルだけをラインアップするということも考えられたと思いますが、夏モデルでのハイエンドの発表に続き、秋冬モデルでもハイエンドを入れて発表しました。このタイミングで2つのモデルが発表された理由はなんでしょうか。

川原崎氏

 夏に投入したXperia 1では、実際の映画撮影現場などに持ち込み、プロの現場でどのように端末か生かせるか模索してきました。そうした中で、冒頭に申し上げたように、プロ向けの技術をより多くの人に広げていきたいという思いがありまして、下期のタイミングで、ユーザー層を広げるためのモデルとして用意した次第です。

――なるほど。Xperia 1を通して、Xperia 5のコンセプトが仕上がってきたということですね。そうすると、Xperia 5のこのサイズ感などは、早い段階で決まった形ですか。

川原崎氏

 半分くらいは固まっていましたね。Xperia 1は、テクノロジー重視層以外の人からは「大きい」「長い」という声があがっていました。

 Xperia 1は、4KHDRのディスプレイや「Cinema Pro」などを搭載するといった、ソニーの技術力視点で生まれたサイズ感です。Xperia 5はより多くの人が手に持ちたくなるようなサイズ感、でも“中身はマッチョ”という端末が作れたら面白いよねというのが始まりです。

 ですので、第一印象となる、サイズやカラーは重視しました。最初からこのサイズが生まれたわけではなく、内部で「黒削り」といったプラスチックの黒い板(サイズのサンプル)をサイズごと何十種類と用意して、それを各国のユーザーに持ってもらい、最終的にこのサイズ感に落ち着きました。

――Xperia 5は、キャリアでの販売価格を見るとXperia 1よりは抑えられている印象です。価格はXperia 1との差別化要因になっていますか。

川原崎氏

 商品企画からの立場から言うと、最終的な価格はキャリアさんにつけていだたくものです。結果として、Xperia 1よりも安くなったので、コンセプト通りに、より多くの人に届けられることになったのはポジティブに受け止めています。

――価格の面でいうと、10月からの法改正により、スマートフォン市場が変わってきています。開発の段階では、市場がどうなるか見通しがしづらかったと思いますが、Xperia 8はどのように企画しましたか。

川原崎氏

 どこまでコストをかければ、どれくらいの体験が届けられるか、そのバランスを考えながら商品企画をしました。Xperia 8の開発の段階ではまだ法改正の見通しがたっていませんでしたが、それによる影響も鑑みながら、競合他社の価格帯や市場を分析して作っていきました。

――Xperia 8と同じミドルレンジモデルには夏モデルのAceがあります。この2台の位置づけに差はありますか。

川原崎氏

 Aceを投入した時期は、国内でミドルレンジが普及し始めたころで、これまでハイエンドを利用していた方からの乗り換えもありました。そこのニーズを戦略的に狙っていました。

 Aceがモデルとして狙っていきたかったところは、フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換える方々です。加えて、中高生といった若年層も狙っていました。

 一方で、Xperia 8では、同じ若年層ですが、10代後半~30代前半までの方を想定しています。この層はスマートフォンを初めて持つというよりは、買い替えて利用することが多いでしょう。こうした方に向けて生まれたのがXperia 8です。

 それぞれのターゲットの違いがミドルレンジモデルでの棲み分けになっていますね。

Xperia 5/8、他社の同クラスと比べた時の強み

――他社でもミドルレンジを始めとして、さまざまなモデルが発売されています。そうした中で、Xperia 5と8の強みや、一押しのポイントがあれば教えてください。

川原崎氏

 Xperia 5の大きな商品の特徴は、Xperia 1での体験をそのままコンパクトモデルにしたところです。今までのXperiaのコンパクトモデルですと、コンパクトなサイズ感を実現するために、フラッグシップと比較してどうしてもパフォーマンスを落とさなくてはいけない側面もありました

 サイズ感が小さくなるので、必然と内部面積も小さくなります。そうした中で、Xperia 1と同じ3眼カメラを搭載することはエンジニアも苦労したと思いますが、Xperiaとして、同じソニーの「α」で実現されているような、被写体に応じてレンズを使い分ける撮影体験は、Xperia 5でも継承していきたいと思い、3眼カメラは死守しました。

 ディスプレイの解像度はフルHDに落ちていますが、これはディスプレイのサイズから最適な解像度として決めたものです。ですので、我々としてはスペックダウンとは思っていません。Xperia 1でのこだわりをなるべく捨てずにXperia 5へ詰め込むことをものすごく注力しましたね。

――一方で、Xperia 8のようなミドルレンジだと、搭載する機能の取捨選択が難しかったと思いますが、どのように企画しましたか。

川原崎氏

 Xperia 5では端的に言いますと、Xperia 1に乗せた機能を詰め込む“足し算”の商品企画でした。Xperia 8では価格を重視するということから、“引き算”の商品企画となりました。ハイエンドに搭載した機能の中から、ミドルレンジモデルユーザーにどの機能が刺さるのか検討しながら、機能を取捨選択していきます。

 具体的に言うと、アスペクト比21:9をディスプレイをXperia 8でも搭載し、日常使いで便利なマルチウィンドウでの使い方を提案しました。動画を見ながら、メッセージアプリを使うといった“ながら操作”はターゲット層に響くものではと思います。あと、国内市場で販売されるので、ニーズの高い防水防塵性能、おサイフケータイはやはりサポートしています。

 カメラについても複眼がトレンドというのもありますが、背景ボケや、遠くのものを撮影できる望遠レンズを搭載し、SNS映えを狙った写真が撮影できるようにしています。

 機能のマイナスをしていきながらも、重要とされている機能に絞って、この価格に仕上げました。

側面ボタンの差、これもターゲットを意識して装備

――同時期の2モデルですが、指紋センサーやシャッターキーの有無といった側面のボタン配置はかなり違います。これには理由がありますか。

同時期に発売された2モデルだが、側面のボダン配置は異なる

川原崎氏

 みなさんが一番気になるのは、電源キーと指紋センサーだと思います。

 Xperia 5は、国内だけでなくグローバルでも販売される端末です。さまざまな国のニーズに合わせて設計したことから、電源キーと指紋センサーが分離しています。

 Xperia 8につきましては、国内モデルですので、国内のニーズに合わせてボタン配置(電源キーと指紋センサーが一体)にしてあります。

 シャッターキーの有無については、Xperia 8では、ターゲットの若年層がデジタルカメラを使ったことがない場合が多いので、シャッターキーを使って横画面で撮影するというよりは、ディスプレイのシャッターボタンで縦画面で撮影することが多いと思います。

 Xperia 5では、カメラに非常にこだわっているので、デジカメのように撮れることを優先して、ソニーとしてあえてこだわってシャッターを搭載しています。

――搭載される、されない機能で言うと最近ではワンセグが挙げられます。Xperia 8ではターゲット層を想定して搭載を見送った形ですか。

川原崎氏

 そうですね。ターゲットユーザーである若者層のお客様の使用状況をデータで見ると、スマートフォンのワンセグを利用してテレビ視聴するユーザーは少ないです。代替となるサービスも出てきていますし、好きな時間に好きなコンテンツを見るといった使い方が多いと思います。

 ターゲットとしているお客様にとってより手の届きやすい価格でお届けするために、こうした機能の取捨選択も必要だと考えています。

気になるモデルのナンバリングの意味、次モデルは

――商品のナンバリングは、ポジションを表すものということですが、それ以上の意味合いはやはりないのでしょうか。

川原崎氏

 実は、商品名のナンバリングは企画と離れたところが担当しております。

 Xperia 1は一から生まれ変わったという意味合いで“1”を付与しています。同時期にミドルレンジの「Xperia 10」も発表しましたが、Xperia 1とXperia 10がある中で、ラインを表す最適なナンバリングを考えたときに、“5”と“8”の数字を付与しました。数字自体には意味はありません。

 個人的には、8は漢字で表すと末広がりな数字なので、多くのお客様に使ってもらえそうかなと思っています。

――そうなると、来年以降のモデルのナンバリングも気になるところです。

川原崎氏

 今まさに、そこを議論しているところです。お話しはできませんが、来年出たときに「そういうことね」となってもらえると思います。期待していてください。

――最後に発表会などで伝えきれなかった、こだわりの部分があれば教えてください。

川原崎氏

 使いこなしや機能的なところではありませんが、とにかく見た目にこだわりました。

 スマートフォンが好きな方は、自分で調べていろいろと比較されると思いますが、今回の2モデルのターゲット層は、店頭で見たときの第1印象で決められるかと思います。

 Xperia 5のカラーを決める際は、量産に向けてカラーを決めなければいけない期限日ぎりぎりまで何十色と検討しました。グローバルで出すモデルですので、トレンドや、さまざまな国と地域の方々の意見を聞きながら選定していきましたね。最終的にデザイナーが出したXperia 5のこの4色の評判がよく、この色でいこう、と決まりました。

Xperia 5のカラーバリエーション

 他社では、光沢の強いカラーを採用しているところもありますが、我々はあえて、毎日使うスマートフォンだからこそ、生活に馴染むカラーにしました。

 Xperia 8もカラーをこだわっています。若年層向けですので、インパクトを与えるソリッドなカラーを用意しました。女性層からの支持を得たかったところもあり、トレンドの淡いブルーを採用しました。その上で、遊びのある色として、もともとはピンクが候補に挙がっていましたが、私の案でオレンジを入れました。

 オレンジを入れることで、スポーティーさがでて、4色を並べたときにスポーツブランドをイメージさせるようなラインアップになったと思います。このバリエーションは若い人に受けるかなと思います。

Xperia 8のカラーバリエーション

 ミドルレンジだからといって、保守的なカラーラインナップではなく、Xperiaとして、ミドルレンジモデルに挑んでいく気持ちを込めたところもあります。

――本日はありがとうございました。

 ※川原崎氏の「崎」は「﨑」(たつさき)