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11億人が使う「WeChat」、新トレンドの「ミニプログラム」とは? インバウンド戦略における日本企業の活用事例

 テンセント・ホールディングスは、コミュニケーションアプリ「WeChat」や決済サービス「WeChat Pay」の現状とビジネスにおける活用事例を紹介するイベント「2019 WeChat オープンクラス 東京」を開催した。

リアルとバーチャルの垣根を低くする「ミニプログラム」

 月間アクティブユーザー数(MAU)が11億人を突破したというWeChatは、メッセージングアプリという役割に留まらず、決済などさまざまな機能を取り込んだ複合的なサービスに成長している。

 年々増加している訪日外国人観光客の中でも、人数、旅行消費額ともに中国は高い割合を占める。すなわち、その中国人の多くにとって生活に欠かせないサービスとなっているWeChatもまた、インバウンド需要を狙う各業界にとって無視できない存在だ。

 WeChat Payは、日本を含む42の国・地域で、中国にいる時と同じようにキャッシュレスで支払う「越境決済」が可能。2018年6月~2019年9月の1年間で、日本での決済件数は108%増、加盟店数は665%増と急速に拡大した。大手ドラッグストアやコンビニ、飲食チェーン店でも導入が進む。

 決済サービスの重要性もさることながら、昨今重視されているのが「ミニプログラム」というもの。ひと言でいえば、WeChat上で動く「ダウンロード不要のアプリ」をサードパーティーが提供できる仕組み。ミニプログラムの登場により、あらゆるサービスをWeChatアプリで完結させる流れが加速し、単なるアプリから1つのプラットフォームに近い存在となっている。

 ミニプログラムはネイティブアプリと比較して開発コストを抑えられるだけでなく、多くのユーザーがいるWeChat内で展開できることによる宣伝効果も大きい。ミニプログラムを使ってオンラインでのサービスを展開する事例も多い一方、実店舗のPRにも活用されている。

 自社の公式ミニプログラムを簡単に作成してクーポンの配布などができる仕組みが提供されているほか、来店客とのつながりを保つための仕掛けとしてWeChatを活用し、リピート率や満足度の向上に繋げる取り組みも生まれている。

日本企業の「WeChat」活用事例

 日本企業でもインバウンド需要を取り込むために、WeChat Payへの対応だけでなく集客方法としてのWeChatの活用に力を入れている企業がある。訪日中国人からの認知度も高いドラッグストア「マツモトキヨシ」の公式アカウントには、現地企業と比べても多くのフォロワーがいる。

 WeChatの「モーメンツ」(LINEやFacebookのタイムラインのような機能)で人を集め、公式アカウントでクーポンを配布することで来店につなげ、来店後もWeChatでのコミュニケーションによって顧客との接点を持てる、そして次回以降の訪日時の来店につながるというサイクルで、集客とユーザーの利便性をうまく両立できている事例だとWeChatの担当者は評価する。

 日本と中国の両方に店舗を持つ良品計画は、クロスボーダーでのマーケティングにWeChatを活用している。日本の「無印良品」でのWeChat Pay決済を起点に、上海にある店舗のクーポンを配信する。来日時に無印良品の商品や世界観に触れたユーザーに対して、帰国後の再来店につながるアプローチをしている。

中国以外では初の「WeChat Pay スマート旗艦百貨店」

 阪急阪神百貨店は7月16日、阪急うめだ本店と阪神梅田本店が中国以外では初の「WeChat Pay スマート旗艦百貨店」に認定されたと発表した。

 両店舗は、「WeChat Payで支払える」ということに留まらず、訪日客が買い物をする上で不満を抱えている点をミニプログラムなどの各種サービスで解決し、より快適に利用できる百貨店としてサービス向上を図る。

 たとえば、阪急うめだ本店には「シャネル」の店舗だけでも、1階にはアクセサリー、2階には化粧品、5階にはブティックなどと複数の売場がある。フロアガイドだけでは分かりにくい部分を、ミニプログラムの「AI店内案内」で補う。

 館内のレストランでは中国で浸透しているスマートフォンを使ったQRコードオーダーに対応。コミュニケーションの問題を解消し、注文時の利便性を高める。

 また、訪日客に人気がある化粧品については、ミニプログラムでの事前注文を可能にした。需要が集中する売場のため待ち時間が長くなりやすいという。事前に買う物が決まっていてリストアップしている購入者が多いことから、事前注文と店頭受取の仕組みを作ることで待ち時間を短縮、顧客のストレスを軽減できる。

 年間5000万人が来店する阪急うめだ店では、リピーターとなるVIP会員の訪日客も少なくない。2014年の「海外顧客VIPクラブ」開始以来、財布を持たないキャッシュレス生活に馴染んだ会員にとってカードの携帯が必要な仕組みは改善が必要な点として挙げられていたという。そこで今回、WeChatアプリ内のカードホルダーにVIPカードを入れられるようにした。あわせて、券面だけでなくどのようなサービスを受けられるのかもまとめて表示する。